04
それからジークの瞳に光が宿りカインを連れて森の散策に行ってしまった。カインはジークを舎弟にでも見ているのだろう。顔色を見ながら森の中をあるく。ティアナは辺りを警戒して見るが人の気配はない。影の1人の声だけがした。
「お嬢様。」
「ん?昨日のことなら叔父様に伝えてもらって構わない。それで何か変わるなら変わるでこっちも対応できるから。」
さっと気配が消えた。変わるなら変わるで良いし、あのアンポンタンが変わろうとしているのを止めようとは思わない。
「・・・甘いなぁ、あの坊ちゃん。」
川に落ちた時に無くしたと思っているのかもしれないが王族が付ける指輪を探しもしないなんて。白金の指輪なのだが細かな細工で表には王家の紋、裏面には持ち主の名前を掘ってある。
「ティーダ!!」
彼はホクホク笑顔、カインは兎をくわえて帰ってきた。大量の草を抱えていた。それと茸をとか木の実・・・
ティアナは街に入る前にジークを待たせて服を買ってきた。着ていた服は捨てると言い切って庶民の服を着せる。
「着れるぞ?まだ。」
「あんた追われてるんでしょーが。貴族の若様が汚れた高そうな服着てたら通報するっての。ほら、いくよ。」
と、街にはあっさり入れた。治安はそんなに良くないのだろう。ティアナは剣を見えるようにはしないが、抜ける状態にはしていた。
「まずは宿の確保」
普通くらいの宿を取り仕方なく同じ部屋に入る。
「旅人さん、悪いことは言わないから早めに移動しなね?」
「どうしました?女将。」
「いやぁね、最近悪い風邪が流行ってるのよ。ただの風邪なんだけど治りが遅いからね。」
「女将も風邪を?」
「いやいや、まぁ、子供がね。それで働けない人間が夜盗紛いの事してるからね。」
ジークがひょっこり顔を出して診ても良いか?と、あっさり聞き出した。
「医者ではないが、薬には詳しいから。」
女将のお子さんを見ることになったのだが、額を冷やすことしか出来ない。裕福でもないから栄養のある食事も与えられない。
「んー・・・女将、食欲はあるのか?」
「熱に魘されて水も飲めてないんだよ。」
「子供がなりやすいのだろうな。熱冷ましを取り敢えず作るか。」
子供を抱き上げて寝かせ、厨房をかりて黙々と薬草を薬にしていく。子供が飲むから木のみで甘味を付けたらいいか。ただの風邪ならこれで効果は出るだろうが・・・流行病の類であれば難しいな。
ジークは薬を作り子供に飲ませる。凄く手慣れているように見えるのは気のせいでは無いのだろう。
「すぐには下がらないと思うから暖かくさせて、部屋に濡らしたタオルを置いてて欲しい。この部屋は乾燥しているから喉に悪い。」
そして翌日には子供の熱が下がっていたらしい。女将に凄く感謝された。
「お薬代を・・・」
ジークは相場が分からないので困っていた。ティアナにいくら受け取れば良いのだ?と、ひそひそと声をかけて見る。
「薬草も森で取ったし、木の実もだ。」
「まぁ、木の実の市場価格と薬草の市場価格は・・・」
重さあたりの金額を伝えると使った分だけの金額に換算してその分、本当に宿代にもならない金額を受け取る。
「こんなにお安く・・・」
「簡単な熱冷ましでどうにかなってよかった。女将、熱冷ましの作り方を教えるから風邪をこじらせたらまた作ってあげてくれ。それとこの街で流行っているなら買い物ついでに教えてやってくれ。」
「薬師様の儲けになりませんよ・・・?」
「私は病が治るならそれで良い。薬師は旅のついでだ。まぁ、他にも少しなら用意はあるから滞在中であれば診るが・・・」
マズイ勝手に決めてしまった・・・ティーダは大丈夫だろうか・・・と恐る恐る振り返るとカインをモフモフとして戯れていた。
「薬の蓄えが無くなったら作り方だけでも伝えるし・・・」
ジークは女将が出ていくとティアナにすまない。と、謝る。
「何が?」
「勝手に決めてしまった・・・」
「別にいいよ、病人見るくらい。私は小銭稼ぎにでも行くから。これ、市場価格。参考にして。」
紙に大体の値段を渡しておいてカインを置いて出ていってしまった。
「・・・お前の主人は優しいな、カイン。」
ティアナは情報収集として街に出る。長い髪を下ろして中性的な出で立ちで街を見て周り、絡んでくるゴロツキは簡単に殴り飛ばして気絶させる。
ぐるっと回って宿屋に戻ると人が溢れかえっていた。しかも騒動ではなく落ち着いた感じであった。
「あ、ティーダどうした?」
「いや、繁盛してるな・・・」
「うむ。森で採取したものは切れたのだが調合だけでもと思ってな。」
なんだろう、この食べ物の山は。
「おにーちゃんこのワンチャン触ってもいい??」
「んーお兄ちゃんのワンチャンではないのだ。ワンチャンに触ってもいいか聞いてからだぞ?嫌がったら止めないと怒るからの。」
カインは子供には噛みつかないわよ。ティーダは薬はそれで作れるが、貰い物ですまないが君たちが食べて元気になってくれた方が嬉しい。と、貰った食料を渡していた。子供は皮膚に問題はあるようだけど、狼には関係ないものだろう。カインは仕方ないと言った感じで触られていた。
「薬師様、ありがとうございます、ありがとうございます。」
「街の者たちと薬剤の情報は共有してくれ。綺麗にまとめて各家に書物としておけば皆困らぬであろうし。」
人も居なくなり、ティアナは自分たちが食事を撮り、カインに与える。アンポンタンではないかもしれないけれど、優しすぎる。
「風呂入ってくる。出るまで入るなよ。」
ティアナは着替えて風呂に入る。また侍女泣かせな身体に戻るなぁ。せっかく整えて貰ってたのに。仕方ない。
風呂から出てシャツ1枚で髪を乾かしながら出るとカインが撫でろと擦り寄ってくる。
「カイン、お前は偉いな。」
「ティーダ・・・お前・・・」
「あ?」
風呂上がりだからか体のラインが浮き出て性別がバレた。声を挙げずに口をパクパクとさせていた。
「落ち着けって。」
「あ、いや、だって・・・最低だ、私は最低だ。」
「はいはい、説明すっから。取り敢えず人の話聴ける体勢になってくれ。」
ティーダでいることも疲れたしまぁいいや。
「?そなたがティアナ・キルシュタインなのか。」
「そーですが、殿下って本当におバカさんというか・・・最初のうちに気付くでしょ。」
「あ、えと、すまぬ。細身の少年かと思っていた・・・だが、行方不明と・・・」
「それは嘘です。キルシュタイン公爵家は敢えて隠してます。王位争いで面倒事が起きるのは分かっていたから。私は諜報員みたいなものです。あなたを拾ったのも叔父の指示ですし。あ、あとこれ返すんで。無くさんでください。」
指輪を返すとジークは受け取るが指に嵌めなかった。サイズが合わない訳では無いだろう。
「私はまだこれを嵌めるには能わぬから・・・そうか、キルシュタイン公爵家は全部知ってたのか・・・ティアナ、ありがとう。生かしてくれて、見捨てても良いとも言われたのではないのか?」
「・・・まぁ、見捨てる用意は何時でもしてましたが。で、どーしたいんです?私はあなたの臣下でもないんで命令なんて聞きませんけど。」
「・・・無理ならそれで構わぬ。キルシュタイン公爵領での保護を受けたい。私は国のことを知らなさすぎるようだから・・・学びたい。自分の目で見て回りたいが、それでは弟に好き勝手にされてしまう・・・あいつにはあの王冠は渡したくないのだ・・・」
「言うのもなんだけど、ウチ厳しいよ?」
「仕方ない。助けてもらえる分身体を動かすしかない・・・」
「ふーん。聞いた?」
天井に声を書けると気配がわかりやすく伝えてくる。
「早馬で叔父へ伝言を。殿下を保護した、至急領地に戻る。一から鍛え直してほしいようなのでリヒト兄様の帰還を求める。」
「応」
「な、なんだ??護衛か?」
「そんな所ですね。殿下の情けない所行全て叔父に筒抜けなんで。」
帰りは馬での早駆けなのだが、ジークはそのスピードと揺れに気絶をしたので荷物のように括りつけて走り抜ける。カインがいるから狼に合わせているがそれでも速い。夜を明かすために宿を取るが気絶していたジークは気持ち悪そうだった。
「雑魚い。」
「自慢にはならんが馬車しかのったことないのだから・・・」
「るさい。ベッド詰めて。シングルしかなかったんだから。」
「へ?あ、床で寝る・・・道中はティアナに負担かけたから。私は床でいい。」
ティアナはカインなら抱いていいわよ?と、狼を貸し出す。ジークはそれなら寒くない。と、抱きついて眠ってしまった。床で寝る事にはもう抵抗ないわけ。
森の中で野営したし、生肉口に押し込んだし。