03
水汲み完了。これで飲み水は大丈夫かな。食べ物は肉があるし、この草食べれる、果物、木の実も大量。ティアナは森を散策しながら戻ると、情けない男の声がした。
「目が覚めたのか・・・」
ティアナは馬から降りて山小屋に入るとカインが威嚇をしているし、青年は壁際に逃げて震えている。
「カイン、大丈夫?」
「だ、誰だ貴様!!」
青年の手に木材があったからカインが怪我していないか確認したが何も無かった。
「あんた、この子にお礼言いなさいよ。冷たい川から引き上げてくれたのはこの子なんだから。」
「か、川!?わ、私は移送されて橋から飛び込んで・・・その狼が私を・・・?」
「その手の木を下ろさないとこの子の晩御飯にするけど。」
青年は木材を置くと狼は威嚇をやめて主人であるティアナに擦り寄る。
「うん、ご飯にしようか。」
じっくり炙っていた肉は半生ではあるが、ティアナは少し削いでそのまま食べて飲み込む。そして、拾い物の青年にも取り敢えず渡す。
「殆ど生ではないか!!!」
「うるさい。狼に噛まれて追いかけ回されたくなかったら食べろ。この子の中での序列で下になったら噛まれるし肉も恵んでくれないから。食べろ。」
無理やり口に押し込んで飲み込ませる。ティアナはそれから必要分を取ると狼に残りをそのままあげる。鳥なんだからまだ生でも食べれるでしょうが。兎は鍋の具材かな。食べかすの骨だけ貰って水を入れた鍋に放り込み、木の実、兎の肉を適当に切って放り込む。鹿の肉は適度な大きさに切って干し肉にする。
「・・・感謝する。助けてくれて・・・」
「移送されてって言ってたけど、あんた虜囚?」
「違う!!冤罪だ!!冤罪で流刑にされたんだ・・・」
流刑に?流刑になるような事って殺人とかそういうのではない気がする。国家反逆とか?謀反?そんな事出来なさそうな顔をしてるけど。肉のモツで顔を青くしているんだし。
「わ、私はジーク・レオンハルト。」
「ティーダ。」
って拾い物第一王子じゃない。叔父様!!!!!こんなの拾ってどうしろってんのよ!!!!!ティアナは頭を抱えた。まぁ、知らないってことにしておこう。王族の名を知ってる庶民なんていないし。
「お貴族様が移送から逃げて川に落ちてどーすんの。こっちは死にかけたから拾っただけだ。」
「王都に帰らねばならない。家督相続で嵌められたんだ・・・」
嵌めたのもあるでしょうが、奥手奥手の貴方が悪い。というかなにかしてたの?その家督相続争いで。長男だからって胡座書いてたら寝首かかれただけでしょうが、自業自得。
「へぇー。ハメられて前科者にされたのにノコノコ帰ったところでお貴族様の居場所はないと思うけど。」
「う、だが、王都に協力しゃが・・・」
「私ならその辺の人も口裏合わせて冤罪かけるかな。負けたんだから諦めて第二の人生歩んだら?」
面倒事をしないというなら領地で叔母様の雑用係として使える。監視は付くけれど。これ持ち帰るのはマズイ。
「ティーダはこの辺の者か?」
「いんや?旅人。根無し草。馬1頭と狼1頭だけであちこち行ってるかな。」
「王都にいくことは・・・」
「ないね、狼は悪魔の使いとかで怖がられる。」
私がそこまで彼を助ける理由が全くないのだ。助けたくないというのもあるけれど。彼の意思をまだ聞いていない。
「私は・・・暫くティーダに着いて行きたい・・・良いだろうか?」
「は?」
「私は家督争いにまだ負けたつもりは無い。それに家督を譲るほど諦めも良くない・・・」
「いや、私に利益がないし。」
「ひ、拾ったのであれば拾い主は責任を持つべきだ!!!頼む!!!私にはまだ諦められないんだ!!!家督を継げなくとも礼はする!!!」
謝礼なんて出来ないでしょうが。自分で金稼ぎもしたことないくせに。
ジークは後払いしか出来ないが・・・と声は小さくなった。拾っといてなんだけど、今すごく捨てたい。
「じゃあ、いくつかの条件を飲むこと。1つ、口答え禁止。2つ私の指示に従う事。3つ護れないなら私は君を憲兵に突き出す。」
「わ、わかった。」
本当か?ティアナは分かったら、と、頷いて干してある服の乾き具合を見るが、まだ乾いてなかったので毛布を分けてベッドを一応ジークに譲る。
「良いのか?」
「ジークの服が乾いてないし、私にはこの子がいるし。」
ホコリ臭いベッドを譲りティアナは狼に抱きついてそのまま眠りについた。王子様を拾ったことは伝わっているだろうから指示が来るかこのままとりあえず放置か・・・この王子様が暴走しなかったらまだ護れなくはないか・・・
翌日には森を出ようとしたが兵士が川の付近をうろちょろしていた。
「ジーク、移送していた人達はジークの顔を見てるんだよね。」
「あぁ。あんなに兵士が・・・」
「随分熱心に探してるが、犬を連れてないあたり巻けるな。行くぞ。見つかる。」
ティアナは森の中を簡単に足を進めるが、ジークは慣れないのか遅い。
体力無さすぎる。
「ま、待ってくれ」
「死にたくなければ付いてこい。」
甘やかしません。ティアナは遅いとは言わないし、ちゃんと待っている。先を歩いた時に影から叔父からの文を渡され、懐に入れる。
「ティーダ、休け・・・」
「こんな所で休むわけないだろ。いくぞ。」
野営が出来る場所で休憩と野営準備を行う。
「ベッドは?」
「鹿の毛皮やっただろ。それ以上文句あるなら自分で取ってこい。ナイフくらいなら貸してやるから。」
ナイフを1本護身用も含めて渡す。ティアナはマントを自分の上着と狼で暖を取る。食事は干し肉。水も自分で用意しろと甘やかさない。火は起こすが小さいもので暖を取る、肉を焼くことには問題がない。
「う、カインと狩りに行ってくる。だから貸してくれ!!」
ここまで見捨てまくったら自分でしないとダメだと気付くよな。流石に。ティアナはカインを軽く撫でて狩りにジークと行っておいで。と、命令した。ジークだけだと不安要素しかないけどカイン連れていくなら、まだいいかな。予想も何もなくともジークは坊主でカインが何か持って帰るだろう。
その間にティアナは影から受け取った叔父からの手紙を見る。
《暫く腐った性根を叩き直す為に連れ回してほしい。遠慮はいらん。》
燃やしてため息を吐くしかなかった。血縁だなぁ。考えが一緒。
王都では報告を聞いた宰相は声を殺して笑っていた。これほど愉快なことは無い。
「父上、悪人顔になってます。」
「ふっ。流石兄上と義姉上の娘だ・・・」
リヒトはそれだけで充分伝わった。不快だと表情では訴えていた。
「あの馬鹿若様拾われましたか。」
「あぁ、リヒト、ティアナの捜索はどうなっている?」
「王太后様が心配されているのでもし残念な結果であろうと死体を見るまで諦めません。と、」
いけしゃあしゃあとよく言える。と、影からの報告も燃やしてまう。
「まぁ、冤罪を晴らすのは後でいいかな。帰還かクーデターか・・・」
アルバートは姪っ子が根性叩き直している間に王宮をある程度整えなければと思った。
ジークはやはり坊主でカインが鳩仕留めてきた。
「カイン偉いねー。」
捌いて取り敢えず自分が最初の1口、ジークにも食べさせる。木の枝に肉を刺して焼いてから食べた。残りはカインに上げる。
「ティーダはどこに向かうんだ?」
「気の向くまま。街に入ったら賃仕事やらして金を稼いだり賊捕縛して賞金貰ったり。」
「街に入れるのか!?」
「そりゃ、入るよ。ずっと森の中で野営なんて誰がするか。」
「そうか・・・はぁーー何でこうなったのだろうか・・・私が悪いのは百も承知だがムカつく。父上が変な占い師の薬ばかり信用して飲むから医学を修めていたら毒殺疑惑!?巫山戯るな・・・薬は使い方によってはそりゃ毒にもなる・・・何故弟が連れてきた見てくれから怪しい占い師が重用されて研究成果の論文を書いた私が放逐されるんだ!!!」
「へぇ、ジーク薬作れるんだ。」
「?あぁ。母上が毒殺されたからな。自室の近くに温室を作って薬草を育てていた。だからこの森で茸を見つけたが毒キノコやらトリカブトはカインが触らぬようにしたぞ?煎じるだけで使えるものは取ってきた。」
王子様が表に出ないのはただの研究馬鹿か。
「薬か・・・いいな、それ。」
「何がだ?」
「この森を歩きながら薬草を多めに、全て取りきらないようにするんだよ。で、街で流浪の薬師として治療する。」
「?医者がいるだろう?」
「このお坊ちゃんが。いいか、この国では医者や薬師ってのは貴族が抱え込んでいて庶民が手を伸ばせるものじゃない。一月以上の稼ぎを持っていかれた上に似非薬師の効かない薬を渡されるのが常だ。だから森で薬草を集めて薬の作り方と薬草を渡すんだ。ジークが放れても自活出来るように。」
医者が一家に1名いると思っていた脳味噌は解けたようだ。ジークは鹿の毛皮を羽織って森を見渡す。
「ティーダ、何時頃街に向かう?」
「適当に。」
「ティーダ、街ではどんな病が多い?」
「へ?風邪やら痛み止め?奥方は垢切れやヒビ割れが多いかな。整腸剤とか熱冷まし。子供向けがあれば喜ばれるかな。」
ジークはそうかそうか。と、ニコニコとし始めた。
「何。」
「ティーダ、2日くれないか?材料を集めてくる。調合はどこでも出来るからな。」
ティアナは分かったよ。と、仕方なく頷き、おやすみー。と、カインに抱きついて眠りについた。