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公爵令嬢行方不明になる  作者: 悠月
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02

出立する時の服装は男装をして軽い剣を持っておく。お金は必要最低限。持ち物も最低限。お金はその辺りにいる賊を締め上げて役所に突き出せば報奨金が貰えるのでそれで食い扶持を繋ぐ。

そういう賊が毎回出るとは限らないので日雇いの仕事をすることも視野に入れている。花街でも下男くらいならするつもりである。


「叔父様、火急の要件があればエクスを寄越してくださいな。」


腕に乗る隼を撫でながら叔父を見上げる。ティアナが育てた隼は優秀でキルシュタイン家では人を寄越すのではなく隼を使う。


「使わない方が良いだろうが、あぁ、影は付けているが定期報告用だから使っても使わなくてもいいよ。」


「分かりました。早駆けはしないつもりなので。」


叔父の笑顔が固まった。ティアナは天賦の才能が武芸に振り切られている。馬の扱い、剣、弓をとっても右に出る者はいない。男であればどれだけの武功を挙げれたのだろうかと悔やまれるほどに。


フードを被りキルシュタイン家とは無縁の服装をして少年の出で立ちになる。


「偽名という訳でもないですが、街中ではティーダとでも名乗っておきます。」


馬に跨り公爵家を出る。これからは取り敢えず公爵領を目指したいけれど、迂回して向かうのが上策・・・かな?ティアナ・キルシュタイン公爵令嬢は行方不明のままにして公爵家が隠しているとか思われているかもしれないし。偽造の身分証もキルシュタイン公爵家のものは使っていないし。王都のそれっぽい住所の貴族の子弟にしているし。







ティアナはティーダとして流浪の旅人として様々な領地を回りながら情報を拾ったり賊を壊滅させたりしていた。


「いやー名乗る程ではありませんが、生活費に困ってるので報奨金だけ頂ければ自分はそれだけで満足です。」


無名の凄腕剣士が通った後には賊が壊滅し、平和が訪れるらしい。

ティアナは宿を取り、風呂に入る。人がいない時間にしているが、一応見張りとして影を配置している。


「じゃあお風呂の間警戒宜しく。」


独り言にしては少し大きめの声で言うと浴槽に入る。お風呂最高・・・

ティアナは貴族の令嬢というよりは庶民派。料理や掃除など全て自分でする。武芸を修めるにあたって自分でしろと叩き込まれてきた所以でもある。

本人も自分の事だし。と、思って納得してしているのでやらされているとは思っていないが、学園ではそれが浮いていた。



「ティアナ様!?何をなさってるの!?」


「掃除ですが?」


学園では掃除するものを雇っている。校舎がデカイシ、日中は生徒が好き勝手にしているので全てに手が行き届くわけでもない。気になったところは空き時間を使って掃除をする。せめて自分の身の回りくらいは自分でする。

烏の雛が落ちて親も助けなかったので拾って育てたり自由にはしていたが、それが気に食わなかったのだろうか。


「使用人のすることですよ!?」


「その人の職を奪うというならそうかもしれませんが、此処は学舎。自分の・・・親の爵位等の管轄外の場所、自分の面倒は自分で見なければ・・・赤子でもあるまいし、駄々をこねる理由にもなりませんし。洗濯、火熨斗、ベッドメイクくらいはご自分の部屋でなさらないのですか?」


普通しないだろうけれど、それで小馬鹿にされたと誤解をされるのも違う気がする。小馬鹿にはしてない。よくそれで生きてきたなと感心はしたのだ。


楽だ。ベッドもあるし、食事もある・・・人の目も気にする必要が無い。一月が経過するし、そろそろキルシュタイン公爵領に向かってもいい頃合かな。関所通らずとも入れるといえば入れる。裏道でもなんでもないが、山岳地帯が周りにあるので山道を行けば関所を通らずとも領地へ入れる。そうする必要も無いから関所を通過して公爵家の館に入る。


「あらあら、ティアナ?」


出迎えは叔母であるマリア・キルシュタイン公爵夫人。ティアナはフードを取り、お久しぶりです。と、頭を下げる。


「話は聞いてるわ、今晩は身体を休めなさいな。旦那様からの報告書なら貴方の部屋に整理して置いてあるから自由に見てしまって。要らなければ燃やしてもいいし。」


叔母は伯爵家の末の姫で領地の運営というよりは商人気質で自分で店を開いたりしていたのを叔父が惚れて嫁にしたとか・・・叔母の才覚を殺していた伯爵家とは違って嫁いでからしたい事を申し訳なさそうに提案したらしい。


「好きにしたらいい。悪い事でもないんだし。」


それから領地と公爵家の財布を明確に分けて公爵家の維持費は我が家が展開している商会の利益により運営、領地にある鉱山、塩湖の利益は領地の財布に入れている。独断ではなく叔父と協議し、叔父の決定として行っているし叔母も好きに事業展開や視察なども精力的に行っている。《社交界の高嶺の花》と影響力は絶大ではあるが滅多に上記の理由により現れない。


「ティアナ、新作のシャンプーどうかしら??」


お風呂にあったシャンプーの事だろう。メイドが是非!!!と、渡されたので使ってみたのだが、すごいサラサラになった。髪に艶があり、髪が櫛に引っかからない。


「凄いです・・・櫛にも秘密が?」


「流石、ティアナ。櫛にね椿油を染み込ませてるの。木材もキチンと拘っているし、華美な装飾はやめてみたの。」


「叔母様のセンスは凄いです・・・お茶も品種改良を?」


「お茶もなんだけど、このオイルかしら。薔薇やベルガモット、リンゴ、苺数滴垂らすだけでお茶の風味が変わるのよ。」


叔母の凄いところは発想力と経営手腕。全て黒字。遊び心満載なのに貴族の奥様方に大人気。嫁いでからの方が好きな商売を好きな風に出来て楽しいらしい。


「今旦那様にお願いしてるのが学舎の建設なの。」


「?何を学ばせるのでしょうか。王都のようなつまらない学園ではないとは思いますが。」


「我領は治安はいい方だけど、官吏の輩出が貴族の子弟だけでしょ?だから所謂庶民と言われる人達に文字と算術を。後は試験を受けて官吏になりたい子が現れたら官僚試験対策も良いわね。有能な領官がいる事はいい事だもの。武官育成と文官育成の二つかしら。それから医者も増やしたいわね・・・」


生き生きと話す叔母の言葉に耳を傾け、羨ましいと思えた。こんな幸せな婚姻が出来たらと。


「そうそう、ティアナ。」


「はい。」


「今回の件、私大分頭に来ていますので王都への物流というより関税を引き上げて王都から入ってくる荷馬車の検閲は時間をかけるようにしますから。」


おうふ。それはそれは・・・


「可愛い姪っ子が行方不明でその荷馬車に紛れ込んでたら大変だもの。旦那様から許可は頂いてますので。」


文句は王都及び学園へ。それが関所での対応らしい。


「それでは輸入での利益が・・・」


「出る分は税を掛けてないわ。我が領民の為なのだから。貴方が行方不明と領に報せが来てから領民も心配してるわ、王都からの商人に強くあたるのも仕方ないわね。」


ティアナは笑うしかなかった。やりたい放題すぎる。暫く領地で叔母の仕事を手伝おうと決めたのであった。

それよりも叔母がティアナに合うドレスのイメージが膨らんだらしく暫く着せ替え人形が確定しているので、従うしかなかった。





「ティアナは男装もいけるというのが良いわ。感想もじゃんじゃん頂戴。」


ドレスではなくパンツスタイル。馬に乗れるようにした出で立ちで剣を持つことを前提とした作りなのはありがたいし、形式に囚われていない。ティアナはこうして欲しいと案を出して着替えているとメイドがお嬢様へ!!と、文を持ってきた。


「エクス!!」


下着姿で隼を腕に乗せてご満悦なティアナはそのまま叔父からの手紙を読む。内容は拾得物取得のお願いだった。早駆けでとある場所まで駆け抜けてほしいとのことだった。


「急ぎみたいね、ウチに寄る?」


「えぇ、一応。」


ティアナは旅装束の男装をして叔父に言われた場所に向かう。キルシュタイン家で育てていた狼を1頭連れて。関所なんて構わず山を馬で越える。キルシュタイン公爵領は山岳地帯が近くにある為山を越えれる馬が名産だ。ティアナも王都の馬よりはこちらの馬が乗りやすく、早駆けで馬を潰さずにそれっぽい場所に到着した。


「カイン、索敵と探索。血の匂い優先で。」


銀色の巨大、成体の狼は血の匂いを探り、とことこと歩き出す。辺境、荒地となっている他の貴族の領地ではあるけれど、川沿いに歩いているとカインが走り出し川岸で吠えた。何かを咥えて川から上がってきた。


「ちょ、カイン・・・人じゃない・・・」


馬から降りてティアナはカインを褒めてから心臓が動いているか確認する。

出血は多くないけど水を飲んだのか、頭を打ったのか・・・心肺蘇生法を行う。これが拾い物に違いないけれど、川に捨てられていたとは聞いていない。


「生きなさいよヘタレ!!!!」


ゴホッ・・・水を吐き出した。耳を口元に持っていくと微かに呼吸音もしていた。着ているものはそれなりに金は掛けてるわね・・・

肩に担いで起こして濡れているが馬に乗せる。うつ伏せにして乗せて落ちないように拘束する。ティアナ自身はカインに跨る。


「取り敢えず森で夜営するかな。カイン、歩きで良いから。」


てくてくと、森に入り、カインが見つけたのはかつて人が住んでいたであろう小さな小屋。放棄されて何年も経過しているようだった。


「カイン偉い!!!呼ぶまで好きにしてていいよ。」


馬も狼も放して自由にさせる。近くにいれば呼べば来る。馬と狼は一緒に暮らしているから何だかんだと一緒にいるだろう。指笛でカインが馬を連れてきてくれる。

ティアナは荷物にある火打石を使い、火を起こし、自身も濡れたので身体を乾かし、青年の身包みを剥いで下着姿にして乾かす。


「あ、鍋ある。牧も残ってる。毛布!!」


家探しをしていると宝物がザクザクと現れる。カインが帰ってきた。兎と鳥を加えていた。


「あら、カイン大量ね。」


撫でているとまた森に言ってしまった。狼の彼からしたら自分は〈狩りの下手な親分〉だから世話を焼いてくれているのだろう。馬は小屋の近くでもしゃもしゃと草を食べていた。これだけ草が沢山あれば問題ないでしょう。水は煮立たせたら飲めるかな。鍋持って水汲みに行くのもありかな。


取り敢えず夕食を作る。カインが持ってきてくれた鳥と兎を捌いて干しておく。それまでにこの青年が目を覚ましたら食べられそうだし、カインを留守番で置いておけばいいかな?


ティアナは防犯も含めてカインを呼び戻すと鹿を引き摺っていた。


「・・・有能過ぎる・・・」


鹿も血抜きと皮を剥いで簡単に捌いて干し肉にするために火の近くに置く。


「カイン、待て。」


ティアナが水汲みに出かけている間、狼は火の近くで身体を乾かしながら目の前で横になっている人間を一瞥するが、命令で何もせず丸くなり暖を取っていた。

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