第2話: 反撃の赤い薔薇
今回戦う敵はバラです。
――― 結構手強いのです。
お楽しみ下さい。
そいつは明らかに、ケンカを売っていた。
「ほほう?」
指先に、プツリと膨れた赤い血の玉を、
忍冬アヤはペロっと舐めた。
「この俺様にケンカ売るとは、
いーい度胸じゃねーか、アアン?!」
アヤが右手に握った物は、
鈍く輝く鋼の刃。
「許さねぇ、ブッた斬る!!」
「にんどーさぁん」
呆れたような声は、アヤの後輩、
馬場しおん。
小柄で働き者。
そのクールな性格と物言いは、
いかにも現代の若者という感じ。
「またバラと戦ってんスかぁ?」
「そーなのよ、しおんちゃん!
このサムライがね、私の指を刺しやがって!」
※サムライとは、深紅のバラの品種名である。
「バラに罪はありませんよ」
しおんは笑い、キャラクターの絆創膏を差し出した。
「使います?」
「いらない。ありがと、しおんちゃん」
花と言えばバラ。花束と言えばバラ。
バラはまさしく、お花界のトップスターだ。
しかし、『綺麗なバラにトゲ』の例え通り、
その性格は、すこぶるキツい。
手を保護するために装着したゴム手袋には、
バラを扱うと、よく見えないほど小さい
穴を開けられてしまう。
水仕事をした時、その穴はいきなり
存在を主張するのだ。
「ひゃあっ!冷てっ!」
見えないほど小さい穴でも、
水は侵入して来る。
そうなればもう、手袋の機能を果たさず、
新調を余儀なくされてしまう。
手袋は支給されない。
自腹で新調するのである。
バラの攻撃により、アヤたちは身体的にも、
経済的にもダメージを受けるコトになる。
「あー、やっぱバラ嫌いだわ、私」
「えー?そーですかぁ?私は好きです」
「トゲ無い品種もあるじゃん?全部そーならいいのに」
「必死感がカワイくないッスか?
身を守ってるんですよ、あのトゲで」
「護身用のレベルじゃないっしょ?
もう凶器だよアレは!」
「たまにスッゴイびっしりトゲのもありますねぇ」
「あるあるー!持つとこ無ぇよ!ってキレそーなヤツ」
そんな時、花屋には必殺の武器が有る。
トゲ取り器である。
正式名称は分からない。
毛抜きの大きいバージョンみたいな外観で、
バラの茎をそっと挟んでトゲを削ぎ落す仕組み。
武闘系花屋のアヤなどは、新米の頃よくコレの
力加減が分からず、茎ごと削いだものだ。
「フッフッフ・・・観念するがよい、サムライ!」
アヤの手に怪しく光るトゲ取り器。
「そのトゲ、すべて俺様が削いでくれるわ!」
「悪代官じゃないですかー、悪そーだなぁ」
「覚悟せい!うりゃあああ!」
ジョリリリッ!
今では慣れたもの。
茎は傷つけず、さっぱりとトゲだけ削ぎ取った。
「ざまをみよ!うははははー!」
悪役気分に酔う、元演劇部部長であった。
しかし、さすがその名も“サムライ”
バラは最後の反撃に出る。
「あうっ!か、隠しトゲとは卑怯なっ!」
バラのトゲは、茎だけではない。
葉の裏側に、猛禽の爪にも似た、
小型の鋭利なトゲを隠し持つ者も多い。
「痛ーい!トゲの先が入ってるかも!」
「大丈夫ですかぁ?」
「うう、ドライアイがヒドくてよく見えん!」
「老眼始まったんじゃないッスかぁ?」
「しおんちゃん!ソレを言っちゃーお終いよ!」
バラは美しく、気高く咲く花である。
サムライと言う名の赤バラは、
見事、敵に一矢報いたのであった。
*** 続く ***
さて、次は誰と戦うのでしょう?
武闘派、アヤさんの活躍に、乞うご期待!
ではまた次回。