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9.友達

 次の日、ゴールドはミルクを連れて公園に来た。

 人に見られないように姿は消しているが、シルバーもそばにいる。

「昨日、サッカーをしていた小学生というのはあれだな?」

「うん、そうだよ」

 ゴールドは昨日ミルクから聞いたコウタの様子が気にかかっていた。

「あの子供たちなら、コウタの弱点がわかるかもしれないな」

 そう言って、転がってきたボールを手に取った。

 ボールを探しながら小学生たちが近づいてくる。ひとりがミルクを指差した。

「あ、あの人、コウタといっしょにいたお姉さんだ」

「……やっぱり知り合いか。よし、何か聞き出すぞ」

 ぼそりとつぶやいて、ゴールドはボールを持ったまま一歩前に出る。

「きみたち、コウタくんの友達かな?」 

 せいいっぱいおだやかな声で話しかけたが、小学生たちは近づくのをやめてその場で立ち止まり、顔を見合わせた。

「わ、私はあやしい者では……」

 ゴールドはあわててミルクの肩をつかんで、自分の前に立たせる。

「この子、その、コウタの塾の友達の、父親で……」

 あせるゴールドと、きょとんとしているミルクを見て、小学生たちはくすくす笑った。

「コウタの塾の友達?」

「うそだあ」

「コウタに友達なんて、いるわけないよ」

 ゴールドもミルクも、その言葉を聞いてどきりとした。 


「そ、そうなのか? ……ええと、じゃあ、その、どうするかな」

 ゴールドは次の作戦を考えるが、何も思いつかない。

 ふと、ミルクを見ると、いまにも泣きそうな顔をしている。

 ミルクはゴールドの手からボールをうばい取って、突然小学生に投げつけた。

「コウタのこと、悪く言わないで!」

 小学生たちはびっくりしてボールをよける。

「な、なにするんだよ!」

「コウタにも友達いるもん! ミルクが友達だもん!」

「やめろ、やめなさい、くるみ!」

 泣きながら飛びかかろうとするミルクの頭を、ゴールドが帽子ごとおさえこむ。

 小学生たちは走って逃げながら、口々に叫んだ。

「コウタはうそつきだから、みんなに嫌われてるんだ!」

「宇宙人がいるなんて、うそばっかり言うから!」

 

「宇宙人、だと……?」

 ゴールドと、姿は見えないがここにいるシルバーは、一瞬動きが止まる。

「う、宇宙人……って、いったい、なんのことかな?」

 ゴールドはあせる気持ちをおさえながら、何も知らないふりをして、できるだけ落ち着いた声で聞いた。

「あのポスターだよ!」

 ひとりの小学生が公園の掲示板を指差した。

 そこには、印刷された1枚の絵が貼ってある。コウタが描いた、あの交通安全ポスターだった。


 小学生たちが全員逃げ帰って、公園には人影がなくなった。いつのまにか日が暮れている。

 掲示板の前で、ゴールドはずっとポスターを見つめていた。

 ミルクはしゃがんで泣きじゃくっている。

 人がいないので姿を現したシルバーが、ミルクの頭をなでてなぐさめた。


「あいつ、やっぱり言いふらしてたじゃないか」

 ゴールドがぽつりと言った。

「でも、だれも信じなかったんですね」

 シルバーはそう言いながらゴールドを見上げたが、帽子の影にかくれて、その表情は見えない。

「うそつき、か……」

 ひとりごとのようにつぶやくゴールドの声は、どこかさびしそうだった。



* * *



 3人が宇宙船に帰ってきた頃には、もうすっかりあたりが暗くなっていた。

 シルバーは紅茶を用意している。ゴールドはソファに腰かけながら、無理に明るい声で言った。

「ようやくコウタの弱点が見つかったな。これでとりあえずわれわれが一方的におどされることはない。友達がいないくせに、とひとこと言ってやれば、あの生意気な子供もおとなしくなるぞ、うん」

 シルバーがティーカップを差し出しながら、悲しそうにつぶやく。

「でも、コウタさんが友達をなくしたのは、宇宙人の存在を信じてもらえなかったから……ですよね」

 ゴールドはきまり悪そうにだまっている。シルバーはさらに続けた。

「1年前、私たちがコウタさんに見られたせいでそうなったと思うと、なんだか責任を感じませんか」

「……じゃあ、どうしろっていうんだ」

 ゴールドがティーカップをがちゃんとテーブルにたたきつける。

「町から小学生をさらってきて、友達に仕立て上げて、コウタに差し出せとでもいうのか?」


 宇宙船の居間の中が重い空気になった。ゴールドも、シルバーも、だまって考えこんでいる。

 コップで猫用の牛乳を飲んでいたミルクが、急に立ち上がった。

「そんなのいらないよ。コウタはだいじょうぶだもん!」

 ミルクはまた泣きそうになっている。

「コウタは4年生の時に、友達がいなくなったって言ってた。でも、そのかわりにミルクがいるの。今はミルクとお話できるんだから、さびしくないよ」

「4年生の時に……やっぱり、去年のことですね。サッカーをやめたのも、友達がいなくなったからでしょうね」

 シルバーがしんみりとそう言いながらゴールドの顔を見るが、ゴールドは目をそらした。

「ミルクさんを飼うことになったのも、きっと、コウタさんがひとりでさびしいから……」

「そんなのおまえの勝手な想像だろ、シルバー」


「今はもう、さびしくないよ。ママが、コウタは元気になったって言ってたもん! ミルクもそう思うもん! はかせと、シルバーが来てから、コウタはずっと……」

 ミルクはとうとう、テーブルにつっぷして泣き出した。

 シルバーがミルクの背中をぽんぽんとたたいてなだめている。

 ゴールドがふとミルクの肩を見て、何かに気付いた。

「また、ワンピースが破れてるぞ」

 ミルクは泣きやんで顔を上げる。

「はかせ。新しいの買って。これもう小さいよ」

「何着買わせる気だ! まったく……」


 いつものようにのんきな会話が始まったので、シルバーはほっとしてふたりをながめていた。しかし、急にふるえたような声を出す。

「ちょ、ちょっとミルクさん、立ってみてください」

 きょとんとしながらミルクは立ち上がった。

「やっぱり……」

 ミルクを見上げると、シルバーはまるで電池が切れたように動きを止めて、ぼうぜんとしている。ゴールドが声をかけてやっと正気に戻った。

「博士、どうしましょう。ミルクさんが、どんどん大きくなってます」

「そんなの当たり前だろ。生き物はなんだって成長するぞ」

「でも、猫の成長は人間よりずっと早いんです。ミルクさんの体は、この2週間でもう中学生どころじゃなくなってます」

 ゴールドは立ち上がってミルクの横に並んでみる。

 前は首を下げて見下ろしていたミルクの耳が、ゴールドの顔のすぐそばにあった。ミルクの背はいつのまにか高くなっていたのだ。

「た、たしかにそうだが……」

 ゴールドの顔が青ざめる。シルバーがうつむきながら言った。

「たぶん、あと何ヶ月かしたら大人ですよ。このまま人間のふりを続けるのは、もう……」

「え? なあに? どうしたの?」

 ミルクは不思議そうにシルバーの顔をのぞきこむ。

 ゴールドも、シルバーも、しばらく何も言えずにだまりこんでしまった。

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