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8.コウタの弱点

 コウタがゴールドとシルバーに出会ってから、2週間が過ぎた。

 ミルクはほぼ毎日のようにコウタの部屋に通っている。

 こっそりベランダから出入りすることがほとんどだったが、たまに、中学生の女の子『くるみ』として堂々と玄関から遊びに来た。

 コウタの母はいつも喜んでくるみを出むかえていて、正体にはまったく気付いていない。

「今日もミルクの姿を見ないけど、外で遊んでるの?」

 たまにコウタにそう聞くが、キャットフードのかんづめやトイレの砂がいつもどおりに使われているので、あまり気にしていないようだった。


 ある日の午後、コウタはミルクに呼び出されてマンションの屋上に向かった。

 マンションの階段から屋上に出る扉は、ふだんはカギがかかっている。

 しかし今日はなぜか扉が開いていた。ゴールドたちが何かの力で開けて、そのままになっているのだろう。


 何もない屋上で、コウタはあたりを見回す。宇宙船のような大きなものはどこにも見あたらない。

 ふいに、何かがきらりとまぶしく光って、コウタは目をつぶった。

 目を開けてよく見ると、屋上の中央で何かが太陽の光をあびてぴかぴか光っている。

 近くまで行ってようやく、そこにガラスのように透明な何かがあることがわかった。

 小さな家くらいの大きさで、丸くて、円盤のような形――コウタははっとして、思わず声に出す。

「UFOだ!」

 その時、透明な宇宙船の扉が開いて、シルバーが出てきた。

「よくわかりましたね、コウタさん。ああ、去年見てますもんね」

「あの時は、透明じゃなかったよ。すごい、どうして?」

 コウタは不思議そうに宇宙船の壁をさわっている。

「ふだんは見つからないようにこうしているんですが、飛ぶ時は飛行にエネルギーを使うので、透明化にエネルギーを使えないんですよ。なのでルミナスパウダーで光らせて、流れ星に見せかけているというわけです」

 とくいげに説明するシルバーの後ろで、カツン、カツン、と何かの音がする。

 シルバーが振り返ると、ゴールドがいらいらしながらステッキで屋上の床を打ち鳴らしていた。

「そんな説明してどうする。子供にはどうせわからないだろう。何しに来た? 子供が屋上でうろうろするんじゃない」

 その言葉にコウタはむっとしてゴールドをにらむ。

「ミルクに呼ばれて来たんだよ! ……自分だって、勝手に屋上に住んでうろうろしてるくせに」

 にらみあうふたりの間で、シルバーがおろおろしている。

 そこに突然ミルクが現れて、コウタの手をつかんだ。

「コウタ、来てくれたの! さあ、入って入って」

 そう言って、コウタを宇宙船の中に引っぱっていく。

 ゴールドとシルバーだけが、外に取り残されてぼうぜんとしていた。

「あいつ、まるで自分の家みたいに……ずうずうしい」

「ミルクさん、今の生活に慣れてくれてよかったですね」

 シルバーがごまかすように笑った。


 宇宙船の居間で、ミルクは新しい服を着てみせた。

「これ、コウタに見せたかったの!」

 すそがふわりと広がった長いワンピースで、しっぽはうまくかくれている。頭には新品の麦わら帽子をかぶっていた。

「前のはベランダをよじのぼった時に破れちゃったから、またはかせに買ってもらったんだ」

 ゴールドはミルクの服を何枚も買わされているらしい。

 コウタは、ゴールドが中学生の父親のふりをして買い物に行っているところを思い浮かべて、ふきだしてしまった。

「あの暑苦しい服で、よく買い物になんか行けるなあ。まず自分の服を買えばいいのに」

 ミルクと笑っていると、居間の入り口から不機嫌な声が聞こえる。

「地球の服なんかだれが着るか。暑いくらいがまんできる。故郷の正装だからな」

 いつのまにかゴールドとシルバーも宇宙船の中に戻ってきていた。

「でも地球では、あんな昔の服もうだれも着てないよ」

 コウタがぼそりと言うと、シルバーがまたとくいげに説明し始めた。

「わたしたちの故郷の星と地球はとても似ていますが、文化の流れは少しちがうようです。博士の服はわが星では最新ですよ」

「ふうん、宇宙人って、あんなすごいUFOが作れるのに、服は古いままなんだ」

「コウタさん、興味あります? よかったら宇宙船の技術についてもっと教えましょうか」

 シルバーが棚から本を取り出すと、コウタのとなりでうれしそうにページをめくる。

 コウタがページをのぞきこむと、本の上にぴしゃりと何かが振り下ろされた。ゴールドのステッキだ。

「よせ。地球人は、宇宙人には興味がないんだろう?」

 そう言うと、ゴールドはぷいと後ろを向き、居間から出て行く。

 コウタはうつむいて、じっと考えていたが、何も言い返さない。しばらくして顔を上げると、何もなかったようにひとこと言った。

「帰る」

「え、もう?」

 心配そうに声をかけるミルクに手を振って、コウタは出口に向かう。 

「新学期に使う新しいノートを買いに行くんだ」

「じゃあ、ミルクもいっしょに行く!」

 シルバーに見送られて、コウタとミルクは宇宙船を出た。



* * *



「新しいお洋服で、コウタとおでかけ、うれしいな!」

 買い物をしている間も、ミルクはずっとはしゃいでいる。

(新しい服がうれしいなんて、まるでふつうの女の子みたいだな)

 ミルクを見ながら、コウタはそう思った。

 シルバーに教えられたのか、ミルクのしぐさや言葉はだいぶ人間らしくなっていたからだ。


 ふたりが公園の前の道を歩いていると、運動場のほうからサッカーボールが転がってきた。

 小学生たちがボールを探している。

 ミルクが足もとのボールを拾い、コウタに手わたした。

「はい、コウタ!」

 しかし、コウタはボールを持ったまま、ぼんやり立っている。

「コウタ、どうしたの……?」

 ミルクが声をかけても何も答えず、むずかしい顔をして、ボールを地面に置いた。

「先に帰るから」

 小さな声でそう言うと、ひとりでさっさと歩いていってしまった。

 ミルクはどうしたらいいかわからず、コウタのほうと、小学生たちのほうをきょろきょろ見回す。

 少し考えたあと、ボールを小学生たちのほうにそっと手で転がした。

「コウタ、まって」

 すぐにコウタを追いかけようと前を見たが、もう姿が見えなくなっていた。


「なるほど、コウタはサッカーが苦手なんだな?」

 ひとりで宇宙船に帰ってきたミルクがさっきのことを話すと、勝ちほこったようにゴールドが言った。

「そんなことないよ。コウタは4年生まではサッカークラブに入ってたって言ってたもん」

 ミルクは麦わら帽子を脱いで、猫の耳をぴんと立てながら怒っている。

「じゃああいつの弱点はいったいなんなんだ。勉強も運動もできるなんて、生意気な……」

 ゴールドはソファに座りながら考えこむ。シルバーがぽつりとつけ加えた。

「それに、絵も上手でしたよね」

「うん、そうだよ。コウタはなんでもできて、かんぺきなの」

 ミルクの声はうれしそうにはずんでいる。

 ゴールドはほおづえをつきながらつまらなそうに言った。

「完璧だと? ……ああ、大人をばかにしていて性格が悪いところ以外はな」

「博士、コウタさんの弱点を探してどうするんですか」

 シルバーが不思議そうに聞くと、ゴールドは立ち上がってこぶしをにぎった。

「いいか、ミルクを元に戻さないかぎり、われわれはいつあいつに通報されるかわからない、弱い立場なのだ。だからこちらもコウタの弱みをにぎって、立場を対等にする必要がある」

「弱みをにぎるなんて、大人が子供をおどすみたいで、なんだか嫌ですねえ……」

「嫌だなんて言ってる場合じゃないだろ! おまえはとにかく、ミルクを元に戻す方法を早く探すんだ」

 ゴールドにけしかけられて、シルバーはしぶしぶテーブルの上につみあげられている本の山に向かった。

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