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6.ミルク

 宇宙船の居間の壁で、時計がカチカチと音を立てている。

 時計の針は夜12時を指していた。

 ゴールドたちがコウタを宇宙船に連れてきて、ミルクが人間に変身してしまってから、もう1時間以上経つ。

 うす暗い部屋の中で、ゴールドがひとり、ソファに座ってうつむいていた。


 部屋の明かりがついて、扉が開く音がした。

 シルバーと、猫の耳としっぽが生えた女の子が中に入る。

「ただいま戻りました、博士」

 シルバーの声を聞いて、ゴールドはゆっくり顔を上げた。

「無事にコウタさんを家まで送ってきました。でも、すごく怒ってましたよ」

「そうだろうなあ」

 ゴールドはぼうっとしながらひとごとのように聞いている。

「ミルクさんを元に戻さないと、わたしたちのことを警察に知らせるって言ってました」

「な、なんだって。宇宙人にはだれも興味がないんじゃなかったのか?」

 驚いてゴールドが振り向くと、シルバーが悲しそうに言った。

「いえ、宇宙人としてじゃなくて、猫の誘拐犯としてだそうです……」

「誘拐なんてしてないだろ! 猫ならそこにいるじゃないか!」

 ゴールドは立ち上がって、人間になったミルクのほうを指差す。

シルバーがため息をついた。

「猫のミルクさんは、もういないんです。言い訳できませんよ……」

 シルバーもゴールドも、がっくりと肩を落とした。


「とりあえず、元に戻す方法を調べるので、しばらく時間をください、とコウタさんに言っておきました」

「そ、そうか。じゃあ早く調べろ、シルバー」

 ゴールドはシルバーの手を引っぱって、本棚の前まで連れていく。

「ええと、実は、そんな方法、まったく見当もつかなくて。何から調べたらいいのやら……」

 シルバーが頭をかいた。ゴールドはソファにくずれ落ちるように座り、頭を抱える。

「使えないやつめ……。どうするんだ。やっとあの子供と縁が切れて、帰れると思ったのに!」

 シルバーはしかたなくてきとうに本を1冊取り出して、あてもなくページをめくり始める。


 その時、居間の入り口から高い声がした。

「ねえ!」

 人間になったミルクが、きょろきょろと部屋を見回している。

「ミルク、ここに住むの?」

 本を棚に戻し、シルバーはミルクのもとに駆け寄った。

「しばらくは、そうです。さっきコウタさんを家まで送りながら、何回も説明したでしょう?」

「なんでコウタのおうちに帰っちゃいけないの?」

「そんな姿をコウタさんのご家族が見たらびっくりしますから……」

「せっかくコウタとお話できるようになったのにー」

 ミルクはその場でぴょんぴょん飛びはねたが、ゴールドの上着が重いのか、バランスをくずして転んだ。

 床に倒れ込んだまま、猫の耳をぴんと立てて叫ぶ。

「ミルク、コウタといっしょがいい! コウタのおうちに帰る!」


「騒がしい、静かにしろ! もう夜中だぞ」

 ゴールドがソファから身を乗り出し、ミルクに向かって怒鳴った。

「そもそもおまえがエサでもない物を口に入れるのが悪いんだろう? まったく、しつけがなってない猫だ!」

 ミルクは起き上がると、しゅんとなって下を向く。

「だって、あれ、粉ミルクだと思ったんだもん……。おこられちゃった。くすん。うわあああん」

 ぼろぼろと大つぶの涙をこぼしながら、顔を上げて大声で泣き出した。

「こ、この猫、まるで子供じゃないか」

「ミルクさんはまだ1才にもなってないみたいですから、しょうがないですよ」

 ゴールドがあたふたしている間に、シルバーは猫の飼い方の本を調べていた。

「でも本によると産まれて10ヶ月くらいの猫は、人間だと中学生くらいだそうです。あ、だから体だけはコウタさんより大きいんですね」

 シルバーは本を見ながらのんきに説明している。

 その間もミルクの泣く声はおさまらず、ずっと居間の中で鳴りひびいていた。

 ゴールドは耳をふさぎながら、ちらりと壁の時計を見た。もう12時半を過ぎている。 

「……世話はまかせる。私は自分の部屋で休むぞ。今日は疲れた」

 そう言うとゴールドは、シルバーと泣いているミルクをほっておいたまま、居間から逃げるように出て行ってしまった。



* * *



 コウタは毎朝7時に起きている。

 今日もいつも通り目がさめたが、ベッドの中でしばらくぼんやりしていた。

(ああ、そうだ、ミルクはいないんだった)

 いつもなら、ミルクがコウタを起こそうとふとんの上に乗ってくる。

 コウタはもうとっくに目がさめていても、起き上がっていつもミルクにこう言うのだ。

(起こしてくれてありがとう、ミルク)

 コウタは心の中で、今日もそう言ってみた。

 でも、ふとんの上にはだれもいない。

 がっかりして、またふとんの中にもぐった、その瞬間――。

「おはよう、コウタ!」

 女の子の声がした。

 そして、急にふとんの上に重いものが落ちてきて、コウタの体はつぶれそうになった。

 あわててふとんから飛び出して、ベッドの上を見る。

 そこには、ぶかぶかの白いワイシャツを着た女の子がいた。ふわふわした黒い髪の間に、白い猫の耳がのぞいている。

 人間になったミルクだった。

「ミルク? どうしてここに」

「ねえコウタ、ミルクおなかすいたよー」

 ミルクはコウタの部屋の中をうろうろして、キャットフードのかんづめを探し始めた。

「やっぱり、ここでしたか……」

 突然、ベランダから声がして、コウタが振り向く。

 そこには、疲れ切った様子のシルバーが立っていた。



* * *



 ミルクのエサ皿はコウタの部屋のすみに置いてあった。

 コウタがキャットフードを入れると、ミルクが飛びつく。

 お皿に顔をつっこんで、あっという間に朝食を食べ終わってしまった。

「ぎょうぎが悪いなあ……でも、猫だからしかたがないか」

 食べこぼしがいっぱいついているミルクの顔を、コウタがタオルでふく。

 ミルクはうれしそうに笑った。

「えへへ……おなかいっぱい!」


「朝になったらミルクさんがいなくなってたので、あわてて探してたんですよ」

 シルバーはミルクを見ながら、ほっとしたような声で言った。

「どこから部屋に入ってきたんだろう」

 不思議そうにしているコウタに、ミルクがベランダを指差して答える。

「あそこから」

 ミルクは窓を開けてベランダに出る。

 ひょい、と猫のようにかるがるとジャンプすると、ベランダのさくの上に飛び乗ってみせた。

「コウタのおうちの上から、ここに飛びおりて入ってきたの」

 とくいげにそう言うミルクの手を、コウタはあわてて引っぱる。

「あぶないよ、ミルク! 今は猫じゃないんだから……」

 シルバーはミルクを見ながらため息をついた。

「どうやらミルクさんは、姿は人間でも中身は猫のままみたいですね」


 部屋に入ったミルクとコウタに、シルバーが説明する。

「猫の飼い方の本に書いてあったんですが、猫は急にエサが変わったり、トイレが変わったりすると、しばらくはストレスを感じるそうです」

 ミルクは話を聞かずに、猫の時のようにコウタのベッドの上でごろごろしている。

 今はコウタより体は大きくても、本当は小さな子猫なのだ。

「だから帰ってきちゃったんだね。かわいそうに。でも、ママに見つかったらたいへんだから……」

 コウタがそう言い終わる前に、部屋のドアをたたく音がした。

「コウタ、いつまで寝てるのー?」

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