1.流れ星
それは、コウタが4年生の頃の、夏休みの出来事だった。
「早く寝なさい、コウタ。明日サッカーの練習あるんでしょ?」
コウタの母がドアを開けて部屋をのぞく。
コウタは自分の机に向かって、考えこんでいた。
机の上には白い画用紙が広げられている。
「宿題やってからにするよ」
「夏休みの宿題は、もう終わったんじゃなかったの?」
不思議そうにしている母をちらりと見て、コウタは不機嫌な声で答えた。
「ポスターだけ、まだなんだよ」
「夏休みはまだたくさん残ってるんだから、明日でもいいでしょう? いつも夜ふかしばっかりして!」
お説教が始まりそうになったので、コウタはあわてて立ち上がると、だまって部屋のドアを閉めた。
「つまらないなあ、夏休みなんて……」
窓の外を見ながら、コウタはぽつりとひとりごとを言った。
机の上の画用紙を、ベッドの上に放り投げる。
窓を開けて、パジャマのままベランダに出た。
コウタの家は15階建てマンションの一番上にある。ベランダからは星がよく見えた。
もう夜の12時を過ぎているせいか、マンションの周りの家には明かりがほとんどない。
コウタはぼんやりと上を見た。真っ暗な夜空が広がっている。
その時、星がひとつ、大きく光った。
光はぐんぐんこちらに近づいてくる。
「流れ星だ!」
コウタは思わず声に出した。
「そうだ、願い事しないと。ええと、ええと……」
光はもっと強くなっていく。
まぶしくてぎゅっと目を閉じた。
(流れ星はもう、落ちたのかな……?)
そっと目を開けると、夜なのにあたりは明るくて、白い光に照らされている。
目の前で光っているのは、大きな流れ星――ではなさそうだった。
「これって……UFO……?」
コウタがそう思ったとたん、光は消えた。
そこにはさっきまでと同じように、真っ暗な夜空が広がっている。
(今のは、本で見たUFOにそっくりだ。それに、UFOの窓の中に……)
コウタは何かを思い出し、急いで部屋に戻った。
本棚から1冊の本を取り出してページをめくる。
「これだ! さっき、一瞬だけ見えたのは……」
広げた本には、小さな灰色の宇宙人の絵が載っていた。