初戦闘 飛竜とゴブリン
「止まれ!」
突然の男の声。
なにかあったのだろうか。
「どうしたんだ?」
これは馬車の御者の声。先程の声に対して、とまどいを見せている様子。
「隣村近くの洞窟から『飛竜』が現れたんだ!」
飛竜。俺が受注しようとしてアンジェに止められていた依頼の「凶暴な飛竜」だ。
場所も一致している。
飛竜とは、ワイバーンの中でも上位種。
竜に親しい種族にしか調教は不可能といわれており、可能な帝国には多くの飛竜が飼いならされて、
「竜騎士」の騎竜となっている。王国や共和国などではその極一部が高額で輸入されること以外では飼育下
のものは見られない。
俺が読んだ本の一冊によると、身体能力は高く、飛翔と炎のブレスにより接近は難しい。
異世界に来た日最初に見た生き物もこの飛竜である。
「場所はどこなんだ!回避はできそうか!?」
「ほぼ無理だ。交戦しようにも、あの大きさではとても・・・」
窓の外を覗く。すると200m先くらいに家1軒分ほどもありそうな飛竜が火を口から出したりしている。
なるほど。我々は人生をドロップアウトする危機に立たされているということか。
逃げても死ぬ、戦っても死ぬなら、どちらかを選ぶといえば・・・・・・・戦うことを選ぶ。
「俺が行こう」
二人の男とアンジェ(さっきのは虚勢を張っていると思われていたらしい)がこちらを驚きの視線で振り向く。
「俺があの飛竜を倒す」
「えっ!?いやでも君あれは・・・」
御者が言い終わらないうちに魔力で【身体強化】をして飛竜のところへ向かう。
「グォォォォオオオ!」
あ、無理だこれは。
鱗は一枚一枚が鋼鉄のようで、金属光沢を放っている。
そして圧倒的なまでの存在感。
さっきまでの自分に泣きたい。
【盾】
あまり得意では無いが防御魔術を展開。半透明の盾が俺の前に出現する。
飛竜はその巨大な口から炎の柱を吐いた。
炎は真っ直ぐこちらに向かってくる。
「熱いな・・・」
崩壊を防ぐため盾に魔力を送る。
「【天雷】・・・・いや、【睡眠】」
果たして物理攻撃が効くのか分からなかったので、下級睡眠の魔術をかける。
少し動きは鈍ったようだが、やはり完全には効かない。
「まあ下級だし。【サンダーボール】」
最も初歩的な魔術、しかし魔力を注げば――――
両手に集めていた魔力を放つ。
巨大な球体の弾が高速で飛竜を襲った。
「グアアオアアア!」
飛竜は動きを止めた。
麻痺しているようだ。
死にはしていない。飛竜の中でも上位種のようだからな。
「やったか!?」
その台詞やめてくれ、御者。
「んで、こいつどうすんだ?」
「家で飼うのだ」
「おいおい、このデカブツをか?」
「まあそうだ」
「分かりました。ではそのようにさせます」
御者と会話をしてる最中、通った声が聞こえた。
振り返ると、マリアがいた。
普段のメイド服姿に、違うのはその手に持つ長い武器――ハルバード。
風に長い水色の編まれた髪とメイド服の裾がたなびく。
とても絵になる姿だ。
「付いてきていたのか」
「申し訳ございません。討伐依頼ですので、アレクセイ様のお体になにかあっては大変と・・・」
「いや、いい。助かった」
「アレク!心配したよ!」
アンジェがやや短めの栗色の髪を揺らして駆け寄ってくる。
そしてマリアの方を見上げて、それから俺の方を見た。
「アレクの知ってる人なの?とっても綺麗な人だね」
「俺の従者だ。マリアという」
「ふーん。アンジェっていうの!マリアさんよろしくね!」
「ええ。マリアでございます」
「あの~。依頼の方は・・・」
「む。行くぞアンジェ。ではマリアさらばだ」
「行ってらっしゃいませ、アレクセイ様。いえ、ご主人様。そしてアンジェ様」
「さよならマリアさん!」
こうして不確定ではあるが俺は臨時収入1000万シェル(日本円では約1000万円)を手に入れ、飛竜という新たなる仲間?を迎えたのであった。
__________________
本題のゴブリン討伐受注後。
ゴブリンも仲間にしようかと思ったが、弱いので変に情が沸く前にゲームのようにこの世界から消えていただこう。
正式に依頼を受け、小さい森の中を探索する。
依頼者曰く、ゴブリンはどこにでも出てくる雑魚モンスターだということだが、群れて出ると厄介なのだそうだ。『畑を荒らすゴブリンを倒して!』での依頼討伐数は15。困ったと言っているのだから、群れで出
てくる可能性が大きいだろう。
「あーたぶんゴブリンあれだ」
ゴブリンらしき生物を見つける。
醜悪な顔、大きな耳に緑色の肌、粗末な腰布と小さな棍棒を持っている。
因みにこの棍棒、食器や家具の一部などとして高い強度を誇り、ゴブリン一体につき1個しか取れないので高級建材として取引されている。
祖父の家が金に困っていないことは知っているが、それでも自分の貯金や自由に使える金はなるべく増やしておきたい。
売らない手はない。
「じゃあアンジェからね。【精霊召喚】」
アンジェのペンダントに嵌められた白い半透明の石が昨日のように白く、幻想的に光った。
光が収まったとき、アンジェの前には半分人型をとる精霊が浮かんでいた。
「精霊さん、やっちゃえ!」
精霊は両手から白金の光の束を出して攻撃した。
ゴブリンの頭に当たる。
精霊の攻撃が当たった小さなモンスターは、頭から脳漿と血の混ざりきれていないものを吹き出して死んだ。
「よしよし棍棒セーフ」
棍棒はどうやら死ぬ瞬間に手から離していたようで。
もれなく俺に回収された。
「では次は俺のターンだな。【サンダーボール】」
飛竜戦で出したサンダーボールより更に小さく、遅くして魔力消費を減らす。
これくらいでもゴブリンは倒せるだろう。
動きの鈍いゴブリンは後ろから襲ってきたサンダーボールで大半がその数を減らした。
あと1匹。
「【紫電】」
ついに最後の一匹が倒れる。
今日の収穫:飛竜1頭を仲間に加えた
討伐依頼『畑を荒らすゴブリンを倒して!』を達成