表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

ロア(2)



 ちらっと見た視線の先で、男はロッテを強い眼差しで見つめながらも、疲れきった顔をしていた。


 ちゃんとロッテの踊りを見ているのか、いや、そもそも、公演を楽しむ気があるのだろうか。


 ロッテはむっと顔をしかめた。


 わざわざ公演を見に来るんだったら、少しくらい楽しそうにしたらどうなの・・・・・・。


 ロッテは軽やかにターンしたあとで、もう一度男に視線を向けた。


 ――いない。


 そんなばかな、とロッテは目を見開いた。


 たった数秒のあいだに、ロッテに背中もみせずに立ち去ることは、不可能だ。あの男の後ろにも、立ち見席の客が並んでいたし、ロッテが男から目を離したのは、ほんの一瞬のことなのだ。


 わからない。


 もういいわ、考えるのはあと。


 これ以上気を散らしていたら、あとで団長に叱られてしまう。ロッテは意識して、思考を遮断した。


 しかし、あの男の、人を射るような灰色の目から受けた印象は、そう簡単に忘れられるものではなかった。冷たい目なのに、見つめてくる視線の力強さは情熱的だなんてーー。



 公演が終わると、ロッテは改めて、突然消えたあの不思議な男について考えた。


 もちろん、あれは幻覚なんかじゃなかった。男は確かにあの席に座っていて、こちらをじっと見つめていたのだ。


 ロッテは不審に思うのと同時に、ある種の緊張を感じていた。


 観客がみんな帰ったあとで、ロッテは銀色に縁取られた幕をくぐり、舞台から客席へととびおりた。


 男が座っていた席まで歩いていくと、いつからいたのか、一匹の黒猫が席を占領していた。黒猫はちらっとロッテを見ただけで、あとは石像のように動かなくなった。


 ひっかきませんように、と心のなかでつぶやいてから、ロッテはそうっと黒猫の頭をなでた。動物には目がないのだ。


 大丈夫そうだ。


 そうとわかると、ロッテは猫を抱き上げた。猫が嫌がらなかったので、ロッテはちょっと嬉しくなった。


「お前、いつからいたの?」


 猫が顔をあげて、ロッテを見た。まだ客席を照らしていたいくつかの照明の光を受けて、藍色の瞳がきらりと光った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ