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ヘルメスの鳥  作者: アラヤ識
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(8)

なんとか少年をなだめることに成功した狩人は、現状と文句をインカムの向こうに投げつけているというわけである。

「まぁいいわ。思わぬ掘り出し物が見つかったし。・・・・・・・・・・・・本当だって!この子が持ってるのは間違いないわ。起動もしてる。もう一度言うわ。この子が持ってるのは間違いなくヘルメスの書。その管理者であるこの子は私の命と引き換えでもいいから助けなさい!・・・・・・えぇ。いい返事を待ってるわ」

通信を終えると、狩人はフードを脱ぎ少年と向き合った。


・・・・・・綺麗だな、と少年は思った。


イメージは炎。強い意志を持った瞳はどこか人を惹きつける。肩までの長さの赤い髪は緩やかにウェーブしており、イメージをさらに強めていた。

年は・・・・・・少年の一回りほど上だろうか、自然と”おねーちゃん”と呼んでしまいそうだ。

恋心もわからない少年が見とれていると、彼女は一言こう言い放った。

「君、名前は?」

それが、彼女との最初の会話だった。


思えば、この時から終わりが加速を始めたのだろう。


彼女はシヴァと名乗り、錬金術の世界にくることを少年に勧めた。その後、ヴラドの親にいきなり会うと言い出し、矢継ぎ早に説得を始めた。

この少年には才能があり専門の学校にいくべきであるいやむしろ行かなくては危険だ少年もその道に興味がありそうで子供の意志は尊重すべきだウンヌンカンヌン・・・・・・。

両親は大いに戸惑い、勝手な訪問者に憤りを隠さなかった。しかし、同時にこの数年自分の息子が何かに夢中になっていることも知っていた。

それが危険な遊びでなく、知識を得るためのものであったとき、どこにそれを止める親がいるだろうか。


結局、ヴラド本人の願いであることを確認した両親は月の終わりに、彼女に息子を託したのだった。



少年の噂は瞬く間もなく゛その世界゛に広まり、それは少年にとって救いとも邪魔ともなった。

しかし彼の保護者となったシヴァの後ろ盾が余程強力だったのか、彼の生活は悪意に脅かされることはなかった。

この頃のことをシヴァを知る人間に聞くと、皆同じ反応を返す。


曰わく、”自分の門下には厳しく何度も言い聞かせたさ。彼女に関係する人間に手を出す位なら、悪魔と対峙したほうが生きられる”と。


そうして、瞬く間に13年の月日が過ぎた。


もはや青年となったヴラドは保護者兼師であるシヴァの想像を遥かに超える成長を見せ、20を過ぎた今年、ネクロマンサーの資格を取るとともに学園の教授という役職を与えられたのだった。

「まさか私より先に教授になっちゃうとはね~・・・・・・立派になったもんだ!」

バシバシと背中を叩きながらシヴァは感慨深く感想を述べた。

元より薔薇のように美しかった彼女は、大人の色香が相まってどこか甘く危険な罠の香りがした。

「イテテテ・・・・・・本当にあなたのお陰ですよ。少しは恩返ししないとね」

すっかり大人になったヴラドは、むせながらも師の暖かい祝福に感謝した。

「あと、こいつにも感謝しないと」

そう言ってヴラドは手にした本を優しく撫でた。あの日以来、片時も手放したことはない。

「フフフ・・・・・・まだ使い切れてないんだから、一層励みなさい」

それは・・・・・・とても優しく穏やかな、夢のような時間だった。



ヴラド教授には秘密がある。

そんな噂が立ったのは、ヴラドが教授になって2年目のことだった。

そのどれもがおもしろ半分のただの噂だったが、一つだけ見過ごせない噂がたった。


───ヴラド教授は、パンの錬成ができない。


普通ならば一蹴されるべき与太話。事実ほとんどの人間は信じていなかった。

しかし、当の本人は、その焦りを隠しきれないでいた。

「クソッ!なんでなんだ!」

長年積もった不満が、ここにきて歯止めの効かない濁流のようにヴラドを飲み込んだ。

「いつまで気にしてるのよ。誰も本当だとは思ってないのに。・・・・・・例え真実でもね」

なだめるようにシヴァが言う。彼女は、ヴラドがパンの錬成が出来ないことを知る唯一の人物だった。

「大体今更パンが作れないからってなにさ。誰もが認めるワラキア皇国トップレベルの教授サマにもなって」

からかうようなセリフでも、あくまで口調は優しい。どこまでいっても彼女は彼の味方だった。

「ダメだ・・・・・・ダメなんだ・・・・・・。こんな初歩が出来ないなんて・・・・・・自分が許せないんだ・・・・・・」

しかし師の優しい言葉も耳に入らず、ヴラドは何かに怯えるように訴える。

「何千回と・・・・・・試したんだ・・・・・・なのに・・・・・・どうやってもできない・・・・・・。不安なんだ・・・・・・。全部この本の力で、僕には何一つ出来やしないんじゃないのかって・・・・・・」

頭を抱えて泣き叫ぶように震えるヴラドを、シヴァはそっと抱きしめた。

「大丈夫。あなたがどれだけ努力してきたかは私がちゃんとわかってるから。あの時ほとんど無理矢理連れてきたあなたがここまで立派になったのは、単なるその本の力でも、ただの才能でもない。あなた自身が積み上げたものがあるからなのよ。それは、誰にも汚せない本物なのよ」

優しく、どこまでも柔らかい言葉はヴラドの胸に深く染み込んだ。


しかし数日後、問題は思わぬ大事となって二人に襲いかかった。

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