(5)
電子音声は抑揚なく結果を伝えた。
「出力不足につき選択できる型はピクシーのみ、推定寿命は40時間です」
電子音声の声が止むと、背けていた顔をゆっくり戻した。そしてさらにゆっくりと開かれた目は、己の成したことを見つけた。
何かが、素材の置かれていた床にいる。
それはとてもとても小さい、人形のように見えた。
慎重に近づきよく見てみると、それはゆっくりと体を起こした。
それは大人の小指程度、子どもの手のひらにちょうど納まるくらい小さなヒトガタ。背中にはほぼ透明な薄空色の羽が生えていた。
――ピクシー。
割とよく見られる妖精のなかでもケット・シーやドワーフに並ぶ有名な妖精だが、それによく似ていた。
体の動きを確かめるように伸びをしたピクシーもどきは、その小さな顔をこちらに向けてじっと見つめてきた。
「……………………………………………………………………………………」
羽が動き、ふわっと浮き上がる。愛くるしい容姿からか、少なくとも怖い感じなかったためにそのまま何をするかと見ていると、フラフラしながらヴラドに近づき……、
ポフッと頬に体当たりをしてきた。
特に痛みはなく、それどころかくすぐったくさえあったその行為が、小さなピクシーの精一杯の口付けだったと気づいたのは、彼が錬金術で数多の生物錬成を行うたび、皆必ず体のどこかに口付けしたことで思い出したときだった。
ピクシーは何もすることなく、ただ彼と共にいた。
常に肩に留まり、時より思だしたかのようにふわりと浮かんでは、また肩に戻った。
そして、あっという間の40時間が経つ頃、再びヴラドの頬に口付けをし、そのつかの間の命を終えた。
本来の妖精であるピクシーならば自然と同化するため、死後は何も残らない。
しかし本当の妖精でないピクシーだったものは、錬金術の基本である等価交換の概念により、光と砂に形を変えた。
少年は、小さなビンにそっと砂を詰め、生涯の宝物とした。