(3)
その後、時間も程よい事から今日の遊びはお開きとなった。
それぞれ散り散りに帰って行くなか、ヴラドは再び本を調べていた。
力いっぱいページを開こうとしたり、蝋なら溶けるかもと擦ってみたり。
しかし無理をしてしまったのか、先ほど切った手がチクリと痛んだ。
見れば止まっていたはずの血が再び流れようとしている。
失敗したなぁと本を諦めようとした、その時……。
――本の表紙に付いた血が、本に吸い込まれるように消え……、
ほんの一瞬、本が熱を帯びた気がした。
――描かれている模様が怪しく光る……!
本を持つ手に微かな温もりを感じ、ヴラドは訝しむように本を見た。
相変わらず開かないページ。しかし、その表紙には変化が起こっていた。
変な模様でしかなかった表紙の模様がスルスルと動いている。
やがてそれは一つのタイトルを紡いだ。
――この時、ほんの少しでも知識が備わっていれば、模様が水銀によって描かれていた事に気付けたかもしれない。
突然の変化に驚き、本を手放してしまったが、それ以上の変化がないとわかってか、再びヴラドは本を手にする。
表紙を撫で、そこにある文字を読んだ。
「ヘルメスの…しょ?」
あるいはそれが、最初の扉の鍵であったか。
ただ一度本が脈打ったかと思うと、突如本が゛展開゛した。
「……の血液を……取。データベー……への登録開……資格保……とみなします」
パラパラと勝手にページが捲れていく。ノイズ混じりの電子音声は本の中から聞こえた。
「……登録……了。資格者の適合率か……低階位サーバー1:ジル・ド・レェの書庫に接続。起動を完了します」