(2)
使われなくなって久しい廃屋を友人と探検ゴッコ。身を隠す場所も多く見受けられた場所でそのままかくれんぼを思いつくのは、いたって道理だったのだろう。
皆が散り散りに隠れると、鬼になってしまったヴラドはあらゆる場所を探した。
――探してしまった。
ある部屋の床に、その階段はひっそりと隠されていた。月日によって扉と思われる部分が風化していなければ、見つけることは至難であっただろう。
たまたま見つけた面白そうな場所。好奇心を抑えることもなく少年だったヴラドは足を踏み入れた。
そこで見つけた、一冊の分厚い本。
薄暗い中、当然中身に惹かれたわけでなく、不自然なまでに自然な形で残っていた唯一の本だったという理由で、彼はそれを手にした。
不思議な模様をした表紙も相まって、子ども心は不思議なお宝を見つけた気持ちだったのだろう。
タイトルはない。
早速見てみようと外に持ち出し開けようとするが……ページ全てが蝋で一つに固められているかのように開くことができなかった。
「も~何やってんだよ。足痺れちゃったじゃないか~」
気付けば隠れていたはずの友人の何人かが姿を表している。
隠れるのに足が痺れるのもバカなやつだと思ったが、今は本だ。
「これ見つけたんだけどさ、開かないんだよ」
そう言ってヴラドは友人達に本を見せる。冒険の匂いを感じたのか、友人達はすぐに興味を持った。
しかし、一人が放った言葉によって、その興味はすぐに失われた。
「これ……置物じゃないの?うちにも似たようなインテリアあるよ?」
すると、一様に納得したかのように興味をなくした。
ただ一人、ヴラドを除いて。
「ほら、返すよっと」
そう言って一人が本を投げる。乱暴に投げられた本はヴラドの頭上を越えていった。
「わっ!ちょっ……とぉ!」
空を仰ぎ見る形のまま慌てて振り返る。しかし足元を全く確認せず走ろうとしたヴラドは、その足下に忍んでいた大きめの石に気付けず、盛大に転んでしまった。
「ヴラド!?ごめん、大丈夫?」
本を投げた友人が慌てて近寄る。少し手を切ってしまったが、それほどの大怪我でもない。大丈夫だよと言って立ち上がるヴラドに本を拾ってきた友人はもう一度ごめんよ、と謝罪した。
幼く柔らかな手に、赤い紅い血が一筋流れていた。