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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編小説

PMCごっこ

作者: きらと

 イラク戦争で一躍脚光を浴びるようになった民間軍事会社(PMC)。創作世界では話題性から取り扱われる機会も増えた。

 流行に便乗して登場したのが、PMCの一員として世界を危機から救うゲーム「マーセナリー・テラ・ワロス」で、発表されるやいなやユーザー登録100万を超えた体感型ゲームだ。

 このゲームは嫌になるぐらいリアルと言うのが謳い文句で、戦車や戦闘機をPMCが保有する事はなかった。そのためPMCの装備は拳銃、小銃、機関銃レベルまでの小火器に限定されており、欲しければ戦場で手に入れるかレンタルをするしかなかった。ユーザー間の取引は推奨されており武器商人をする物もいた。

 ゲーム内で使うお金は弾や武器に変わるため、戦車や戦闘機のレンタルは難しい。そう言うことで、バランスはとれており難易度が高い。

 しかし服装やキャラクターは千差万別で、極端なプレイヤーだとバニーガールが釘バットでテロリストを倒すと言うプレイスタイルもできた。

 対して、ミリタリー好きな田中武志(たなか・たけし)はデジタルパターンの迷彩服、は高くて買えないのでジーパンにパーカー。武器は初期装備のベレッタM92F、M9銃剣。これに手榴弾と、地味なミッションを繰り返してポイントを貯めて買ったM4A1がある。

「今日は『長崎チャイナタウン』の解禁日だ。レアアイテム目指して頑張ろう!」

 高校の授業が終わり急いで帰宅すると、新しくアップデートされたステージへ勇んで仲間と共に向かった。

「長崎チャイナタウン」は市街地を舞台にしたステージで非戦闘員のNPCも多数出てくる。ミッションのクリア条件は武装テロリスト(MOB)の掃討。一般人(NPC)の被害を出せばマイナス評価になるので要注意だ。

 長崎港に停泊する大型船「ツルッパゲネフ」がこのステージでの拠点となる。船内には銃や鉄パイプなどをカスタマイズ出来る武器工房、アイテムを預ける倉庫、体力回復の医務室、消耗品を買いそろえる売店などがあった。

 出撃ティームを構成する仲間はクラスメートの浦山椎名(うらやま・しいな)雲弧草井(うんこ・くさい)新居戸田尾(にいと・だお)

「土日だし思いっきり遊べるね」

 そう言う浦山のキャラクターは金髪美女でムチムチしている。ネカマと言う訳ではなく、理想の女性像を実体化しただけだ。カウボーイハットにノースリーブのタンクトップ、ホットパンツ。戦闘を舐めてるのかと言う服装だが機動性は高い。武器はベネリM4散弾銃を愛用している。

「新しいステージだし、すっげえ楽しみ」

 雲弧は何を勘違いしているのかナチスドイツ親衛隊の黒い制服に制帽。武器はMG42機関銃と黄金のルガー。

 マイクロバスでチャナタウンに向かった。ヘリコプターや装甲車はレンタル料金が高くて稼ぎに合わない。課金すれば幾らでも使えるが、リアル高校生では財布に響く。

「行くぞ」

 モスドナルドバーガーの店先からティームはダイヤモンドの隊形で前進する。銃を持った田中達の姿は、現実世界でなら浮くがここはゲーム。飯屋の呼び込みをするNPCを避けながら先に進む。

 カランと空き缶が路地から転がり出て来た。視線を向けると何やら怪しげな男達。

(薬物の取引でもしてるって感じか)

 こちらの視線に気付いて怒鳴り声をあげるとゴミ箱を蹴ってきた。

「何だこいつ!」

 運弧は機関銃の銃身でゴミ箱を払い避けながら怒鳴った。次の瞬間、銃撃が路地から浴びせられた。

 早速、イベント開始だ。敵の装備はAK-74、分かりやすい敵兵だ。先頭を進んでいた浦山が路地に向けて散弾銃をぶっぱなした。プルルンと揺れる胸が作り物だとわかっていても、視線を向けてしまうのは思春期男子の悲しい性だ。

 MOBはオーバーキルで即死。後ろにあったモン・コロネル・ヴェアトリスと書かれた揚げ物屋の看板が粉微塵になった。血飛沫を撒き散らして倒れた敵は数秒後に消える所がまだゲームだ。ドロップはなし。

 銃声が合図になったのだろう。リンクしたMOBが次々と集まってくる。路地は理想的な場所と言えた。大量に敵を集めて狩るのは効率に良いが、調子に乗って油断したりすればティームが壊滅する。

「あははは」

 爆笑しながら銃を射ちまくる。弾は重量制限ぎりぎりまで持ってきている。そこはゲームだけあってショートカットに入れて置くと自動装填される。この狩り方は、PCの処理能力が遅いとタイムラグで自分が死ぬ事もある。その為、最低表示に制限するプレイヤーが多い。

 ある程度、切りが良ければ休憩となる。足下に溜まった敵からのドロップアイテムが戦果の証だ。

「しょぼいな」

 ドロップアイテムを漁りながら新居戸が言った。レア装備はたまにしか出てこないからレアと言う。転売すればかなりの収入になる。

 しばらく進むと、イベントフラグを踏んでいたらしい。隣接する公園から木の葉が舞いあげられて大型ヘリコプターが飛び出す映像が流れた。

「あれは、ハインドか!?」

 空に爆音を響かせながら現れたのはロシア製ガンシップ。翼下にぶら下げたロケット弾を花火みたいに打ち込んできた。演出だったのかバグか、弾は外れて近くの大型店に命中した。爆発炎上する建物がリアルだ。

「おいおい、対空ミサイルなんて準備なんかしてないぞ!」

 慌てて街中を走った。「まさか自分達の街でぶっ放しはしない」と考えたのだが、せっかく飛ばしたハインドが大人しくしてる訳はなかった。

 舗装された地面を抉る機関砲の弾がアスファルトを掘り起こして撒き散らす。

 それだけではない。MOBもNPCもプレイヤーも見境なく射ってくる。

「無茶苦茶やりやがって!」

 NPCが死ぬ度にマイナスポイント加算の報告(ログ)が流れた。

 銃を一発撃つ間に機首下部の機関砲が倍返しをしてくる。回復アイテムを使っても、弾の雨でライフゲージは削り取られる。

「どこかに何か無いか!」

 クリアするためのアイテムか何かがあるはずだ。そうでなければゲームは進まない。

 普通に考えて携帯式対空ミサイル(P-SAM)が転がっている訳もない。

「あれか!」

 RPGを担いだ敵兵の姿が見えた。ヒントが掴めると楽しくなって来た。

「新居戸、あれ拾ってくる」

「了解」

 新居戸は構えていたH&KMP5短機関銃を下ろすと、発煙弾を装填してM79グレネードランチャーを射った。煙幕に紛れて敵に近付くと射殺した。ドロップしたRPGを確認する。弾が6発、鞄に入っていたのでそれもいただく。

 RPGを構えてハインドを狙った。

「吹っ飛びやがれ!」

 ボシュッ、音をたててロケット弾がハインドの機首に直撃した。粉砕されるコクピット。これが正解だったらしい。墜落したハインドが爆発して、経験値と賞金が振り込まれた。

「よし、次だ次」

 チャイナタウンの中心にチャイナ・タワーが立っている。最上階にテロリストの親玉と言うバックストーリーがあるレイドボスのチャイナ・マフィア長老が居る。獲得するご褒美を考えれば、他のティームより先に倒したい。一度倒されれば沸くまで時間がかかるからだ。

 気合いを入れて行くぞ、と言う瞬間。

『武志、ご飯よ!』

 現実(リアル)で母親の呼ぶ声が聞こえてきた。

「悪い。ちょっと晩飯に呼ばれた」

 田中家では食事は家族揃って取る。期限を損ねてはゲームも禁止されてしまう。離席を告げてログオフをするしかなかった。


     †


「ただいま」

 夕飯を済ませログインして挨拶すると、死屍累々。仲間は死んでいた。

「おかえり。PKにやられた」

「マジか!?」

 PKとはNPCではなくプレイヤーが他のプレイヤーを襲って殺すプレイヤー・キラーの事で、ドロップアイテム等を奪っていく。ゲームでは対人戦も仕様として存在するためにPKされる事もあった。

 多くのPKは廃人と呼ばれる高レベル者で、高価な装備を身に付けている為、太刀打ち出来ない。

 初心者プレイヤーを狙うPKは多い。デスペナルティーで経験値を失った上に装備まで奪われる状況は精神的にきつく、中にはゲームを引退する者もいた。

「とりあえず帰るぞ。ティーム勧誘して」

 ティームに勧誘して貰い生きてる田中が権限を引き継いだ。死者だけで帰還するとデスペナルティーで経験値が丸々減るからだ。

 田中は帰還を選択しマイクロバスを呼ぶ。

 生存者が居る状態で拠点に戻ると、死者は医務室送りになって失われた経験値の半分ほどが戻って来る。

「今日は場所変えるか?」

「そうだな。テハンでも行くか?」

 次に選んだステージは長崎チャイナタウンより東に存在する大阪(テハン)

 関連クエストは、大阪が大阪民国を名乗り独立宣言をしたと言うことで、48時間以内に大統領を逮捕または殺害すると言うクエストがある。48時間を超えると南部半島国防軍が軍事介入しクエストの攻略は失敗となる。

「枠空いてると良いけどな」

 敵である大阪民国戦闘警察はH&K UMP短機関銃やH&K G36突撃銃と言ったレアアイテムを装備している。もちろんその分だけ手強いが価値はある。適正レベルのプレイヤーには人気のステージだ。

 死んだまま、経験値を失ったままでは終われない。それが仲間達の共通認識だった。

 掲示板を確認すると「テハンレイドPT募集」の書き込みがあった。

「レイドが募集してるぞ。行くか?」

 大規模な討伐レイドの場合は複数のティームが組んでPMCが作られる。多い時は300人位が集まり、CEO指示で各ティームが役割を与えられて動く。

「良いね。行きたい!」

 皆やる気になったので参加の申し込みをした。

 集合場所は南港。無人の荒野にプレイヤーによる露店商が並んでいて、集合場所によく使われている。出発前の消耗品を買い揃えたり、掘り出し物が見つかったりする場合もある。長崎空港から伊丹空港に飛んだ。

 CEOは他のレイド討伐主催の経験も多いベテランだった。

「こんにちはー」

「よろしくお願いします」

 田中達は歩兵として組み込まれ、打ち合わせは20分ほどで終わった。

 大阪民国国営鉄道の環状線は大阪都をぐるりと一周する。大統領府の置かれる大阪城には「大統領府前」駅で降りれば良い。

『メリーさん、メリーさん、こちら犬のウンコ1。駅前に到着した』

 現実での大阪城公園駅で貨車から降ろされる74式戦車の姿があった。駅は非戦闘地域となっているが、レイドの妨害がしたいPKの襲撃を田中達は警戒した。

『羊飼い了解。ブラボー青大将が犬のウンコ1を支援する。よろしくやってくれ』

 犬のウンコは74式戦車装備の戦車小隊、ブラボー青大将はガンシップとして対地装備をしたUH-1ヘリコプターだ。

「戦車か、良いな……」

 乗り物は公式ホームページのショップで課金する事で購入できる。戦闘で損傷を受けても、装備と違い失う事はない。値段も2,000~3,000円と高くはない。金をかければその分だけ良い装備が揃えられ、地道にドロップを狙うより早い。そう言う点は現実とリンクしていた。

 今回、組まれたPMCは大阪城に攻め込む。城の構造上、前進経路は三の丸公園、二の丸公園、大手門を通り本丸となる。戦車小隊を先頭に、歩兵とLAV-25が追従して進む。

『早速お出ましだ。T-72が3両、随伴歩兵はBMP-1に乗っている』

 斥候に出した味方からチャットが届いた。

「韓国がモデルなのにロシア製の装備か」

「敵って分かりやすいからだろ」

 敵の接近を待ち伏せすべく、様子を伺った。敵が公園から出てきた。

 攻撃開始の合図が出た。

 74式戦車の105mm戦車砲から発射された徹甲弾はT-72戦車を撃破した。米ソ冷戦時代は自衛隊の仮想敵だった相手だ。現実に代わってゲームで真価が発揮された。

 BMP-1装甲車は後退し兵員を下車させた。敵随伴歩兵は、公園内に引っ込み籠城する構えだった。

『よし、どんどん行け!』

 74式戦車は残ったBMP-1装甲車を撃破し、歩兵を掃討すべく前進開始した。田中達も駆け足で着いていく。戦車砲相手だと装甲車も分が悪い。爆発炎上する残骸の脇を通り過ぎると、繁みの中からロケット弾の攻撃があった。離帯を吹き飛ばされ停車する74式戦車。

「あそこだ!」

 RPGの射手は、移動不能にされた74式戦車、随伴していた歩兵と上空に居たガンシップの弾幕に捉えられオーバーキルで倒された。

「やりすぎだ」

 ガンシップは天守閣に機首を向けた。先行して空中偵察と言った感じだ。──と、視界が暗転し部屋に戻っていた。

「あれ」

 ゲームと切断された事を認識して、慌ててログインしようとするが入れない。

「くそ、マジでふざけんな!」

 公式サイトを覗いて見ると全サーバーメンテナンスとなっていた。

「鯖落ちか?」

 RMTリアルマネートレードを行う業者が、BOTの利用や中華と呼ばれる外国人を雇い不正を行う事がある。運営は会社とユーザーの利益を守るため、不正利用者を強制退会させて対応していた。だが業者は逆恨みし、サーバー攻撃を仕掛けてくる事が度々あった。

不意に思いついて書いてみた。

続きが思いつけば加筆するかもしれかせん。

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[一言] >大阪民国ステージ 装甲赤バスや装甲地下鉄に乗って攻撃してくる大阪市交通局武装職員とか、水上バスと水陸両用バスに乗って、奪取された関空に逆上陸を試みる大阪民国海兵隊(サンタマリア号からの艦砲…
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