手紙
彩華から別れ去った俺はもう一度、噴水前にやって来た。
「(はぁ~、疲れた。…いい加減邪魔だな。取るか。)」
腰掛けた俺はそのまま大きく溜息をついた。周りを見渡すが先程までいた市民達が嘘のように1人もいない。これなら仮面も必要ないと考え、手を顔に近づける。
「……?んんっ!?取れない!!??」
まるで顔にペッタリとくっついたかのように仮面は剥がれず、いくら力を込めようとも顔が引っ張られて痛くなるだけだった。
「(イタタタ!な、なんで取れない!?もしかして呪いのアイテムか!?)」
俺は慌ててステータスカードに記載されている自身の状態を確認する。
状態:呪い
「(あ~そうだった!?前から呪いの状態だからこのアイテムが呪いのアイテムかわからねぇ!?)」
1人頭を抱えて叫びたくなったが、さすがに周りに人がいないとは言え自重した。
「(ど、どど、どないしよう?そうだ!渡辺さんに相談しよう!そうと決まればすぐに探して…)」
「い、勇さん?どうしたんですか?そんなところで頭を抱えて。」
俺は声が聞こえるとバッと頭を上げて声の主をみる。そこには不思議そうに俺を見る渡辺さんがいた。な、なんてベストタイミングなんだ!!
「(助けてくれ~~!渡辺さぁ~~~~ん!!)」
「え?ええ!?きゃあぁ!?」
俺は自分でもビックリするぐらいの勢いで立ち上がると両手を上げて渡辺さんに向かった。そんな俺にビックリした渡辺さんは何も出来ずに俺に抱きしめられてしまう。
「(うおおおぉぉ~~ん!)」
「ち、ちょっと、一体どうしたんです?」
何が起きているのか分からずに一方的に、抱きしめられたまま渡辺が困惑して固まっている時、公園の一角から慌てて遠ざかっていく足音がしたのだが、2人とも気付く事がなかった。
---10分後---
「なるほど、仮面が取れなくて困っていたんですね。」
俺は頷いて答える。渡辺さんには、オークである事がばれそうになって仮面を付けたのは良いのだが、なぜか取れなくなってしまったと説明した。…流石に彩華と会ったなんて言えなかったので所々省いたけど。
俺の簡単な説明を聞いた渡辺さんは納得したような顔をしながらも少し呆れたように溜息をついた。
「まぁ、焦るのはわかりますが…、だ、抱きしめる必要はなかったのでは?」
「“なんと言いますか、感動のあまりに起きたその場のノリ?みたいな?”」
今度は大きく溜息をつかれてしまった。いやね?俺だって何してんだと後から思ったんだけども、あの時のジャストタイミングに現れた渡辺さんを見るとついつい…ね?
「しかし、呪いの仮面ですか…困りましたね。呪いなんてアイテム初めて見ました。」
「…そうなの?」
思わず小声で聞いてしまう。周りにはチラホラと人が見え始めてきたとは言え、近くにはいないのであまり気にしなくても思うのだが自然と声が小さくなった。
「えぇ少なくとも“私は”ですが。なので解除方法も当然…」
「知らないと。」
「…はい。」
えぇ?マジで?もしかして俺はこのまま一生仮面を付けたまま?嘘だろう?オークだけでなくて仮面とも一生付き合うことになるなんて。俺ってなんか呪われてるんじゃ…、あっ、前から状態は“呪い”だっけ?
「あの、私の知り合いにも聞いてみますから落ち込まないでください。」
「“大丈夫か?怪しまれたりするのでは?”」
「恐らく…大丈夫です。勇さんとの繋がりが気づかれない様に行動しますので安心して下さい。」
「“分かった。お願いするよ、渡辺さん。”」
俺がお願いの文章を書いて見せると嬉しそうな顔を見せて「はいっ!任せてください!」と元気な声で答えてくれた。いい人だなぁ。
「ところで、勇さん。これが今回お渡ししたかった物です。」
渡辺さんは肩から下げていた道具袋から複数の白い紙を取り出した。俺はその紙を受け取ってから裏を返したりして何の紙か確認するが、どう見てもただの白い紙にしか見えない。
「“これは?”」
「それは手紙鳥です。見ていてくださいね。」
そういうと一枚を手にとってからそこに文字を書きはじめた。さらさらっと適当に書き終えた後、手紙に向かって僅かな魔力を流し始めてから、
「“お届け物”」
渡辺さんが呪文を唱えると手の上にあった紙が独りでに折りたたまれていき、鳥のような形になったかと思うと、まるで生きているかのように羽ばたいて宙に浮いた。そして、驚いている俺の掌の上に飛び移ってきた。
「勇さん、呪文を教えますので唱えて下さい。呪文は“受け取り”です。」
「あ、ああ。“受け取り”」
俺が呪文を唱えると紙で出来た鳥がピクンと硬直した後、またしても独りでに紙が開いていき、最後には折り目1つ無い最初に見た紙の状態に戻った。…すげー、ファンタジーだ。
「ふふ、驚かれるのもしょうがないですよね。これこそ、魔法の世界って感じますから。それで、この紙の使い方ですが…」
渡辺さんが説明するにはこれを使用には送る相手を思いながら魔力を流す。そして先程の呪文を唱えるだけで良いらしい。
なんていうかめっちゃ簡単だな。これがあれば一方的にラブレターとか送れそうだと思ったが、渡辺さん曰く、この魔法は送り主、送り先の互いが知っているもの同士でないと発動できない。なにより、この紙自体はとても高価で数多くそろえるのは難しいとの事。世の中甘くないなぁ。
「これで何かあれば私に連絡して下さい。私のほうからも定時的に連絡しますので。」
「“分かった。助かるよ、渡辺さん”」
「いえ、気にしないでください。それよりも決して、彩華さんを悲しませるような事だけはしないでくださいね。…気をつけて。」
「“ああ。”(さっきまで会っていましたなんて言えない…。しかも、叱り付けていましたなんて絶対言えない!)」
とりあえず俺はいそいそと立ち上がり、隣で座っている渡辺さんに一度頭を下げてからその場を後にした。
「えぇ、本当に…気をつけて行って来てください。」
勇の後姿を見送っている渡辺の眼鏡が不自然にキラリと光るとニィと渡辺の唇が片方へ歪んでつりあがり、恐ろしい笑みを浮かべていたのだが、声が小さいためか勇が渡辺の笑みに気づくことは無かった。




