奈落の底にいたものは
地下水ってかなり冷たいらしいです。
「うわあああああぁぁぁ!!!」
どれくらい落ちたんだろう?足を踏み外してからかなりの間、落下し続けている。もはや、底が無いのではないか?と思えるぐらいだ。
「ッ!?」
永遠とも感じれるくらい長い間落下しているときに、ほんのわずかだが耳に水が流れる音が聞こえた。叫び声を止めてもう一度耳を澄ます。落下中なのであまり意味がないかもしれないが、鼻でも水のにおいがどこからしたのかを探す。
物凄い強さの風の音が耳の中を劈く中、…若干、本当に若干だが、水が流れ落ちているのような音がした。またかなり遠いが下の方から水のにおいがする。
予想していた通りに地上から流れ出た水がこの地下に溜まって地下水が出来ているのかもしれない。そうだとすると、まだ助かる可能性があった。だが、先程よりも僅かだが水の匂いが強くはっきりしているところを見ると、もう暫くで俺はこのまま水面に叩きつけられる事を意味している。
「(どうすれば!?)」
このまま水に落下すれば重力エネルギーによる荷重で、いくら水と言えどただでは済まない。何とかして、落下速度を緩める必要がある。
「こんなの漫画の世界だけだと思ってたけど、やるしかねぇ!」
俺は急いで上着を脱いで簡易的なパラシュートを作ろうとする。落下中で脱ぎにくい事この上なく、何とか脱げても手から物凄い勢いで手からで離れていこうとするので、全身の力を使って上着を掴む。腕が悲鳴をあげ、指先が痛く痺れてきた。
「~~~ッ!!イテェ!!はぁ、はぁ、転生してたった一週間でこんな体験をするとか、マジで洒落にならないっての!!」
愚痴を叩きながらなんとか空中で姿勢を保つことに成功する。雀の涙程度かもしれないが、徐々に落下速度が低下してきたと感じてきたときに、鼻に強い水のにおいを感じる事が出来た。もう少しで水に突っ込むことになりそうなので、覚悟を決める。
「ッ!!」
ザッパアアァァァーーーーーーーーーン!!!
大きな音を立てて水に突っ込む。水に突っ込むとき足に物凄い痛みを生じたが、そんな事などお構い無しに水は濁流の如く強い流れで、どんどん奥の方へと流されていく。
全身の痛みを我慢しながら必死に水面から顔を出して、空気を吸う。そしてどこか掴まれる場所を探した。しかし、水の流れで磨かれているせいか、岩を掴もうとしても掴む事が出来なかった。そうこうしている内に更に流されていった。
---??分後---
「…ガハッ!!おえっ!!」
肺に入り込んだ水を必死に吐き出す。どれだけ流されたんだろうか。必死に気を保ち続けようとしたが、もう少しで限界というところで、水の流れが弱まり、砂浜?に流れ着いた。辺り一面は暗闇だったが、淡く輝く石が砂浜に幾つか転がっていた。
「はぁ、はぁ……っく!火をおこさないと!」
この冷えた体のままでは、体調を崩してしまう。何とか、死守した火打ち石を使い、火を熾そうとするが、そこで燃やせるものがない事に気付く。腹を満たそうにも食料類は全部流れてしまった。どうするか必死に考えていると、限界まで体を酷使したせいか、意思とは関係なく勝手に膝をついてしまった。体全体が痛い。特に両足の痛みは尋常でなく、これは折れているのかもしれない。
「やばいな……」
痛む足に回復の力を発動させて、どうにか体に起き上がらせて砂浜の奥に進む。休みたい。だがこのまま倒れてしまっては、本当に二度と起き上がれない気がしてならない。足元にある淡く光る石を持ちながら進む。20分ほど歩いて、目が霞んできたときに目の前に大きなやや水色が混じったような黒い色の壁が出てきた。
「…ここまでか。あぁ、つまらない転生ライフだったぜ…」
俺は壁に背を持たれながら呟く。異世界に来れたと思ったときは歓喜したもんだが、雑魚であるゴブリンが怖くて逃げ出したり、ウサギに殺されかけた。その後も、毎夜怖くてまともに眠れないサバイバル生活を送らされるわ。挙句の果てにはこんな地獄の底ぐらいまで落ちる目に合うなんて…とんだ災難だ。
今、こうして考えると本当についてないな。と右手を顔に当てて失笑する。その時、ふと左手が壁に触れた。
「……??なんだこの壁、暖かいぞ?」
壁に触れるとやや暖かい。背を持たれながら座りこむと、暖かさが切っ掛けに今まで無視してきた疲労が一気に駆け上がってきて、強烈な睡魔が襲ってきた。
「彩華の奴、元気に…してる…かな…?」
なぜここであいつの顔が思い出すのか分からなかったが、考えるよりも先に睡魔に負けてしまい、俺はそこで意識が途切れた。
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『…きよ。起…よ。小さき者よ』
「……?……んん??」
何かに起こされた気がして瞳を擦りながら目を覚ます。かなり眠っていたのか体の調子がすこぶる良い。…いや、やっぱり痛いがそれでも大分マシになった。体を動かして調子を確かめながら、周囲を確認する。特に何かいた痕跡らしきものはない。
「気のせいか?」
『気がついたか。小さき者よ』
「後ろッ!?」
何もおらず安心していた時に、後ろから声が聞こえてきて驚く。武器である棍棒は流されてしまったので腰にさしていた刃毀れしたナイフを構える…だが、あまりの事にナイフを落としてしまった。
「なっ!?」
壁と思っていたそこにはギョロリと闇夜に光る大きな瞳をこちらに向けた途轍もなく巨大な大蛇だった。
大蛇って怖いですよね。足元に小さな蛇がいるだけでもゾクッってするのにとても巨大な大蛇が目の前にいたら気絶する自信があります。