勇とイサミ
祝!一周年!!これからもよろしくお願いします!!
リルリカちゃん誘拐事件が解決した夜には、宿で祝宴が開催された。宿周辺の人たちもリルリカちゃんが無事帰ってきたことを喜んでいてそれぞれが料理などを持ち寄って豪華な祝宴になった。どうやらリルリカちゃんはご近所さんから人気があるようだ。まぁ中にはリレーアさんに緊張した姿で話しかけている20代の若者や30代の男性もいたが。
俺は上手い料理を食べながらリレーアさんに上手い酒とか無いかと伝えると、奥から秘蔵酒っぽいものを持ってきてくれて「イサミさん。はい、どうぞ。」とわざわざお酌してくれた。いや俺が飲みたいわけじゃないんだけどな。正直、お酒の味もいまいち分からないし…。でも、笑顔でお酌してくれるリレーアさんの顔を見ると断りづらいので一気に飲み干すと体の奥から火照るような感覚を味わう。
『あー!?イサミ!!我も!我も飲みたい!!』
「(我慢してよ。)」
猛るヤシロを抑えながら俺は後で1人で酒を飲みたいと伝えると喜んでお酒をくれた。良いのかな?結構高そうな酒だけど。そんな目でリレーアさんを見つめると照れたような口調で
「いいのよ。イサミさんには本当に助けてもらってばかりだし、お酒一本ぐらいあげるよ。」
言い終えるとそそくさと開いてる食器を持ってキッチンの方に向かっていった。その後姿を見ていると何故か何人かの男性に睨まれたので、俺は視線を外して料理を堪能する事にした。
「(ううむ、この野菜炒めは上手いな。見たことがない野菜もあるけど味は良いし、食感も良い。おっ、こっちはロールキャベツかな?キャベツでは無いかもしれないけど色形がそっくりだ。)」
ロールキャベツを箸で掴んで口に入れる。少し熱かったがそのまま噛むとキャベツが茹でられて柔らかくなった食感と共に中からじゅわっと濃厚な肉汁が口いっぱいに広がる。
「(うまい!!)」
そのまま連続してロールキャベツを堪能した後、次の料理に目をつける。
「(こ、これは…チキン南蛮!?ははは、まさか…マジか!?)」
その料理は表面はカリッと焼かれていてそこから蒸された鶏肉の上に卵とマヨネーズを混ぜて作られたソースがかかっている料理だった。俺は震える箸先で料理を掴みゆっくりと口に入れる。
「ッ!?」
このほのかに甘酸っぱく味付けされた鶏肉とベストマッチしているこのソース…間違いない!これは!?マヨネーズだ!?
「~~~~~~~ッ!?」
ゆっくりと味を堪能しながら噛み締める。俺は今猛烈に感動している。この世界から来て幾何日、初めは碌に食べるものが無くて命がけで手に入れた肉も上手いには上手いが少し物足りない感があった。その後もエルミア達と出会ってからも食生活がかなり向上したとは言え、現代日本を生きてきた俺にはすこし不満だった。だが、その不満を一気に解消してくれるほどの感動を俺はいま感じている。
俺が1人、ジーンと感動しながら涙を流しているときに、横から声がかかる。
「あっ、どうですか?その料理、私達の世界でチキン南蛮って言うんですよ。」
渡辺さんが俺の横の席に座って俺に料理について説明してくれる。俺はすぐにでもこの料理を作ったのは渡辺さんか?と聞くと
「あっ、違いますよ。その料理は多分リレーアさんが作った料理です。と言ってもこの料理は最近まで知られていない料理だったんですけどね。」
「“どういうこと?”」
「えっと、私達が違う世界から来たのは知ってます?あっ、知ってるんですね。なら話が早いんですが、私達のリーダーともいえる斉藤 彩華さんがこの料理を城下の人たちに広めたんですよ。特にこのマヨネーズは皆さんに衝撃的だったみたいですね。」
「(彩華!!グッジョブ!!お前、マジで最高だ!!)」
渡辺さんもチキン南蛮を口にして、「おいしぃ~!」と言っている。しかし、料理を彩華が広めているとはね。料理方法やマヨネーズの作成方法などは上手くすればかなりの財産を生み出す事が出来るだろうに…、それをしないあたり甘いというか本当に財産とかにあまり興味がないと言うか…、まぁ今回は非常に助かったけど。
「(彩華、小さい頃から料理得意だったなぁ~。)」と考えながら他の料理も堪能していると「そういえば…」と何かを思い出したように横の渡辺が呟いた。
「そういえば…、彩華さんって人を探していたんですよ。確か名前が山県って人らしいです。」
思わずビクッと反応してしまう。別に無理して隠しているわけでもないけど何だか悪巧みがばれた時みたいな感覚になる。俺は努めて平然を装いながら、へぇ~と言う感じに頭を頷いていると「アッ!!」と急に叫びながらダンッと両手をテーブルに置いて立ち上がる。周りにいた人たちが全員こっちに見ると急に自分が音を立てたのが恥ずかしくなったのか「…す、すいません。なんでもありません。」といいながら席に座ったので雰囲気は元に戻り皆、料理や酒、笑い話に興じ始めた。
「は、恥ずかしかったです。ッ!?じゃなくて!そう!確か山県 勇さんって言う人らしいんです。イサミさんの名前と同じなんですよ!」
眼鏡をクイッと上げながら俺に顔を近づける。ち、近いよ、渡辺さん…。
「コレって偶然なんでしょうか?それとも――」
「何話しているの?」
急に横からエルミアがちょっと怒ったような声で話しかけてきた。見ればちょっと顔が赤く酒臭い。どうやら少し酔っているようだ。
「私のイサミと何を話していたの?」
「え!?わ、私のイサミ…ですか?それって…」
「私の奴隷なんだから、別に良いでしょ?イサミ、ちょっと席あけて。」
普段と違ってやや強引に俺がいた席に座り、俺は横の席に移って座る。間に座ったエルミアは少し機嫌が悪いのかムスッとした顔をしている。
「どど奴隷!?」
「そう、イサミは私の奴隷なの。普通のオークが街中にいるはずがないでしょ?」
「あっ、そうなんです!オークなのに名前もち。それに彩華さんが探している人と同じ名前なんですよ!」
「アヤカ?あぁ、あの綺麗な子ね。何?あの子は人を探しているの?」
「はい。」と答えながら渡辺は果実ジュースを飲む。お酒は飲まないようだ。あっ!お酒ははた…!ゲフンゲフン!!ここは異世界だから!セーフだから!!見逃して!!!
「私達と同じ場所にいた人なんですけど、この世界に来たときにはいなかったんです。だから、彩華さんは必死に探して回っているんです。」
「…たしか、貴方達勇者が召喚されたのって…」
「はい…、半年以上前の事です。だから、ほとんどの皆諦めていたんですけど、彩華さんだけは諦めずに…。」
「今も探している…と。たとえ無事この世界に来ていたとしても貴方達のように保護も無い、身を守るすべも知らない者が半年も無事で居られるとは思えないわね。」
「えぇ、だから皆もそう言って彩華さんを説得しようとしたんですけど、聞いてくれなくて…。日に日に元気が無くなる彩華さんは正直見ていられませんでした。でも…」
「でも?」
渡辺がふぅっと一息つく。そして、少し周りを気にしながら話を再開する。
「あの…、コレはあまり広まっていない情報なんですけど、どうやら彩華さんの部屋にその勇さんから手紙での連絡が届いたらしいんです。」
「勇者である貴方達に?少し信じられないわね。」
「そうなんですけど、それが手紙で来たものが私達の世界の生徒手帳でして、信憑性が高いんです。それからの彩華さんの元気よさと言ったら私達ですら自分の目を疑ったぐらいです。」
「ふーん、それでそのイサミって人は生きているって事になったのね?だから、もしかしたら私のイサミがその人かもしれないと?…ワタナベはイサミがオークって知ってるでしょ?」
「は、はい。でも、もしかしたらって思って…」
エルミアが持っていた酒を飲む干す。そして酒を飲んだはずなのに何時の間にか酔いが覚めた目で俺を見る。そして、改めてワタナベの方に向きなおす。
「仮に…仮にイサミがその人だったらどうするの?」
「えっと、別にどうもしないですけど…、彩華さんに伝えたいんです。無事だって。」
「…きっとイサミは危険な目にあうわ。」
「えぇ!?どうしてですか!?そんなつもりは…」
「貴方達がそのつもりが無くても、周りの連中は違うわ。勇者達の中でもリーダー的人物であり民衆から絶対的な信頼がある勇者アヤカが探している人物よ?絶対にイサミを人質にして脅してくる者が出てくる。或いはそれを警戒して王城の奴らがイサミを消しに来るかもしれない。人なら少し問題になるけど、オークを始末するだけなら誰も疑問を持たないからね。」
渡辺さんが驚いたような顔をしている。まぁ俺もなんとなく想像していたことだ。あの優秀な彩華が必死に探している人物。まぁ幼馴染だから心配なんだろうけど、エルミアの言うようにその気持ちを利用して悪巧みを考える奴らはいるだろうな。「すみません。」と渡辺さんが謝るとエルミアが頷いてから俺の方を向く。
「イサミ、貴方は異世界から来たの?」
俺に尋ねるエルミアの目は、違うと言って欲しいようなそんな目をしていた。なぜそんな目をするのか俺には分からない。でも今のエルミアに「そうだ」ともし言ってしまえば悲しませてしまうかもしれない。それなら…と別にばれなくても問題ない俺は首を横に振って違うと二人に伝える。首の隷属の首輪が締まらないところを見ると主が必要だと思う事意外で嘘を言っても問題ないようだ。
「そう。」
「そ、そうですか。すみません、せっかくの宴会なのに暗い話をしてしまって、…私席を外しますね。」
どこか気まずい雰囲気になったので渡辺が席を外してくれた。周りが騒がしい中2人で静かに飲み物を器に注いで飲み続ける。何杯か飲んでテーブルに備えてあった果実ジュースがなくなったとき
「イサミ。イサミは私の…奴隷…だから…勝手に何処かに行ったらダメだよ?」
最初は小さく、だが最後の方はハッキリとした声で俺を見ながら言う。先程の話でどこか不安になったりしたのだろうか?
俺だってこんな美少女から離れたりしたくないし!むしろ近づいていきたいし!!ハハハ!!…はぁ、やっぱりエルミアも薄々感じているのだろうな。俺がただのオークでない事を、そしてそれは渡辺の言う勇と同一人物であるのではないかと言う事を、口では否定していたけど心の中ではそうかもしれないと思っているんだろう。
俺はエルミアに本当のことを言っていない事に申し訳ないと思うが、必ずしも本当のことを言う事が良い事ではないと考えながら頷いて了承を示す。
フゥッと一息ついてから「うん。」と言ってから席を立ち上がり部屋に戻っていった。周りを見れば宴会も終盤と言った感じで酔いつぶれた男性を担いだ女性が別れの挨拶を良いながら帰っていく人もいれば、床にぶっ倒れて眠っているものもいる。ノアさんは一部屋を借りて既に休んでいて、マロクは早い段階で「報告があるから」と帰っていった。渡辺さんは何時の間にか帰ったようだ。
後片付けをしているリレーアさんに手伝おうかと伝えると断られたので、素直に部屋に戻る事にした。リルリカちゃんやルドルフさんは床に眠っている人たちに毛布を掛けている姿を見ながら階段を上って部屋に入った。




