回復魔法
「むっ!?これは一体!?」
フクロウが短剣を鞘に収めてからすぐ後に近くから聞きなれた声が聞こえた。
「“ルドルフさん”」
「きゃっ!?だ、誰ですか!?」
「イ、イサミ殿!?なぜここに!?…いや!今はそれよりもイサミ殿がいるのであれば話は早い!イサミ殿!リルリカさんをお願いします!」
ルドルフさんと渡辺は俺がここにいる事に驚いていたがそれ以上に急を要する事があったのか慌てながらもルドルフさんの背中に背負っていた人をゆっくりと地面に降ろす。ルドルフさんが被っていたローブに包まれているため分からなかったが、どうやらルドルフさんたちはリルリカちゃんを救い出す事に成功したらしい。「(…くそぅ。俺が先に救い出せなかったか…まぁ助け出せたならそれでいいか。)」と思いながらルドルフさんがローブを捲るのを見ていた。
「ッ!?」
「うっわ…、これがあの子かいな…。」
ローブを捲られリルリカちゃんが顔を現すと、思わず俺は息を呑んでしまう。そこには元気一杯だった少女の姿は無く、今にも死に絶えそうな弱々しい老婆のような姿になったリルリカちゃんがいた。
「面目ない…。リルリカ殿は敵の策略によってこんな姿になってしまったのです。命を助けるだけで精一杯でして…赤ローブ達を捕らえる事も出来ず、この姿になるまで何もしてやれませんでした。」
悔しそうに呟くルドルフさんを横目に俺は出来るだけ冷静を保ちつつリルリカちゃんに近づく。少し前の俺ならリルリカちゃんのこんな姿を見たら冷静ではいられなかっただろうが、リルリカちゃんの今の状態とよく似た状態だった人達を俺はこの洞窟に来たばかりのときに見ている。俺は、ふとマロクを見るとマロクも俺の考えを見抜いたのか同意するように頷く。方法は分からないが、恐らくリルリカちゃんは最初に見た人たちと同じような手口でこんな状態にさせられたのだろう。リルリカちゃんの今の姿を見ていると、俺はリルリカちゃん以上に枯れ果てた彼らの姿を思い出す。
しゃがみこんでリルリカちゃんの胸の辺りに手を当てる。弱々しくではあるがちゃんと上下していて呼吸している。本当によかったと思いながらも、こんな状態なリルリカちゃんを俺は治せるのだろうか?と激しく不安になってきた。そもそもこの状態は一体なんなんだ?
「(ヤシロ…、リルリカちゃんの状態がわかる?)」
『うむ…、恐らくこの少女は無理やり生命力を吸い取られたのであろう。』
「(生命力?)」
『あぁ、全ての生き物に必ず存在する力の事だ。その力があるからこそ、生き物は活動する事ができ、思案や成長をしていく事ができるのだ。…この少女はその力を無理やり奪われた為にこのような姿になったのだろう。』
「(生命力を奪うなんて可能なのか?)」
『…残念ながら可能だ。この世界では禁忌に当たるがそれでも確かに方法はある。』
「(くっそ!ならリルリカちゃんはその禁忌って奴でこんな姿にさせられたんだな!あんな可愛らしい姿をこんな姿にしやがって!天が許しても露理魂紳士であるこの俺が絶対に許さん!)」
『お、おう。』
思わず地面を力任せに叩きつけたくなるが、リルリカちゃんに刺激を与えてはならないので我慢する。
『ま、まぁ落ち着けイサミ。確かに生命力を奪う方法は存在する。だが、逆に生命力を分け与える方法もあるのだ。』
「(マジで!その方法は!?)」
『何時もイサミがやっている事だ。気付いていなかっただろうが、生命力を分け与える方法とは回復魔法の事だ。そしてお前はその回復魔法を使えるだろう?』
「そうでした!?」
「え!?ど、どうしたんですか?」
おっとっと、危ない危ない。ここには一応勇者の渡辺がいるんだった。気をつけないとな。
「イサミ殿…、どうですか?」
ルドルフが心配そうな顔で見てくる。なので、俺もたずねる事にする。
「(ヤシロ先生、どうですか?)」
『誰が先生だ誰が。本来なら回復魔法が使う事が出来ても難しいだろうが、イサミなら問題あるまい。すぐに再生に取り掛かるが良い。』
「(合点承知の助!)」
『(…本来なら、これほど生命力を奪われたなら助かる見込みは無い。だが、イサミの回復魔法は有り得ない量の生命力を放出して対象を治癒している。あ奴の時にも感じた事だが、これは本当に回復魔法なのか?そもそもこれほどの生命力は一体何処から出てきているのだ?)』
俺はヤシロ先生にOKを貰ったので、すぐに再生を試みる。その際に、懐に入っていた袋から1つの小さな薄い緑色をした石が転がり落ちリルリカちゃんの上に落ちたのだが俺は気付く事が無く、目を瞑って再生を試みる。イメージは元気に走り回るリルリカちゃんの姿だ。うむ!素晴らしい!にへへへ…。
俺が妄想…もとい、再生を行っている途中に後ろから驚いたような声が聞こえる。
「な、なんなんや…。イサミはん!一体何をしとるんや!?」
「み、見て下さい!リルリカちゃんの体がどんどん若返るかのように!?」
「お2人とも、静かに!イサミ殿の邪魔をしてはいけません。」
手のひらが熱くなり、少し眉が動いてしまうが再生を続ける。後ろの声からして上手くいっているようだ。そして、段々手のひらの熱さも収まり始めたとき
「(ウオォーーン!)」
「(な、なんだ!?)」
突然、狼の遠吠えが頭の中を過ぎ去っていった。急な出来事に思わず目を開けて辺りを見渡すが誰も狼の声が聞こえていないようだ。なんだったんだろう?と思いながらもリルリカちゃんを見ると、弱々しかった老婆のような姿だったリルリカちゃんが連れ去られる前と寸分変わらぬ可愛らしい姿に戻っていた。
「(ッホ…。よかった無事みたい…っだ!?)…ブッ!?」
突然、鼻から血を出しながら俺が倒れたので後ろにいた三人が慌てて俺に近づいてくる。
「イサミ殿!?やはり無理をしたせいで!?」
「イサミはん!」
「イサミさん!…あれ?イサミ?うーん、何処かで聞いたような?」
渡辺だけはその場で足を止めて、あれ?前も思ったけど何処かで聞いたような?と顎に手を当てて?マークを浮かべている。
「しっかりして下さい!イサミ殿!」
「イサミはん!イサ…あっ、…ルドルフはん、心配いらんわこれ。」
「は?何を言って…。」
ルドルフがマロクを指差している先を見る。そこには右手をグッとさせながらニヘラと笑っている醜いオークがいた。そして、先ほどまで鼻血を抑えていた左手によって血文字が
「“少女、裸体、最高!”」
と書かれてあった。
---------
ガシッ!ゲシッ!!
「ふぅ、マロク殿、ワタナベ殿ここはお任せします。私はお嬢様とノア殿をお助けせねばいけませんので!」
「あ、あの良いんですか?」
「はぁ、はぁ、ま、待って!ルドルフはん!お嬢様ってエルミア嬢ちゃんの事やろ?それならさっきノアはんと一緒にここを戻ったところで休ませてるで!ワイが案内するわ!」
「おぉ!ご無事でしたか!!良かった…、本当に良かった!」
「ほな、行こか!ルドルフはん、リルリカちゃんを頼むわ!」
「任されました。では行きましょう!」
「はいな!」
「は、はいぃ…良いのかなぁ?」
---------
「(うーん…。あいたた、なんだろう?顔が踏まれたみたいに痛いな。)」
なぜか痛い顔面を擦りながら体を起こす。どうやらあの奇跡の場面を見てしまった為に気絶していたようだ。周りを見渡すがだれもいない。うーん、何処に行ったのだろうか?
「…匂いの先は…みんなあっちに行ったのか。起こしてくれれば良いのにぃ。」
マロクがついてるから一応大丈夫だろうけど、広場に置いてきた大蛇にルドルフたちを襲わないように念じておく。
「さて…と…。」
俺は皆がいる広場につながる道とは逆方向に体を向ける。この先には赤ローブと呼ばれる奴らのリーダー格がいる。今回はルドルフさん達の尽力もあって運よくリルリカちゃんを助ける事が出きたが、リルリカちゃん以外の同じような境遇に合った人たちは助ける事が出来なかった。…俺だって誰でも全員助けられるほど自分が優秀だって思っていないさ。助けられなかったのは自分のせいだと思うのは只の驕りだということも分かっている。それでも奴らを許すつもりはないし、このまま逃がすつもりは無い。
「絶対に逃がさねぇよ…。」
俺はこの先に待っているであろう今回の騒動の主犯達に向かって一人呟いた。




