忍び寄るもの
エルミアがオークに捕まるより少し前の話になります。
引き続き、気分が悪くなる表現が…何度もすいません。m(_ _)m
暗闇が支配する洞窟の中を三人は歩いていく。途中、別れ道があったりしたが、クマ耳の女性が言うにはその先は行き止まりらしい。この暗闇で方向もあやふやになるような状況で、これだけ複雑な道を間違えずに進むのは非常に困難だろう。もしクマ耳の女性がいなかったらと思うとゾッとする。
「こないに複雑だと進むのに時間が掛かるところやったな。…っと、そこがオークどもがいる場所かいな?」
クマ耳の少女が曲がり道を進んだ先で足を止めた。先には大きめな扉があり、それ以外に進む道は見当たらない。
「はい…。私はここから逃げてきました。ここの他にも沢山の人達がつかまっていると思うんですが…。ここ以外の場所は…」
「知らない…と。まぁ十分やで。嬢ちゃんは俺とここにいてや。さぁ!頑張って!イサミはん!!」
(お前は戦わないんかい!!)
心の中で強く突っ込んだが、確かにマロクに無理して貰うよりは良いかもしれない。中に入って夢幻を使えば良いだけだし。
俺は頷いてから扉に手をかける。ゆっくりと押し開けて中に入ると、中には何か檻のようなものが沢山あった。ほとんどが空のようだったが、檻の中でうつむいている人達が何人か居た。俺は紙に文字を書いてから、コンコンッと檻を叩いてこちらに注意を向けさせる。
「“大丈夫ですか?助けに来ました”」
「……??」
恐らく文字は見えているだろうが、何を言っているのか分からないといった顔をしている。こちらに顔を向けたのは、恐らく俺と同い年ぐらいの獣人の青年だ。ひどく怯えて疲れたような顔をしている。よく見れば、体中殴られた痣だらけで片腕が無かった。それだけでも心情的に辛いものであったが、一番酷いと思えたのは、青年がずっと酷くおぼろげな目をしている事であった。
(ッ…ダメか?)
『あれは…心が死んでいるな。あのような目は何度見ても嫌なものだ…』
心が死んでいる。そんな状況の人をみるのは初めてだ。生きているのに死んでいるとは、正にこのことだろう。ボーっとしている顔を見ていると、よく出来た人形を見ているような気持ちになる。
(今すぐ助けたいが、奴らはどこだ?複数いると思っていたんだが)
まずは、この場の安全を確保するためにオークどもを探す。捕まっている人たちを助けるのはその後だ。
未だに鼻は酷い悪臭のせいで使い物にならない。なので視力と聴力を頼りにオークを探すことになる。ここは死角が多い。突然現れることに気をつけながら、剣を構えて少しずつ進む。檻の間を進む間も、膝をかかえてうつむいている人たちが目に入る。それを見るたびに、何か心の奥で知らない何かが蠢くような嫌な気分になる。
(くそっ!なんだよこりゃあ…。まるで奴隷みたいじゃねぇか!人を奴隷扱いしやがって!!絶対にこの人たちを捕まえた奴らを罰を加えてやる!!)
自分でも驚くぐらいに苛立っていると、1つの扉が目に入る。ここに入ってきた扉とは違い、一人くぐれる程度の普通の扉だ。俺は扉に近づいてからノブに手を置いて扉に耳をあてる。
「…フュ!……フレ!……!!」
「……ッ!!……誰か…けて!!」
中から複数のオークの声と女性の声が聞こえてきた。俺はすぐさま扉を開けて中に入る。そこには1人の女性に二匹のオークが襲っている姿が目に入った。
その光景を見た瞬間、ドクンッと心臓が大きく高鳴る。
「て、てめぇらぁ!!」
俺は剣を構えて駆け出す。オークは行為に夢中だった為か、俺に対して対応が遅れていた。まともな体勢を整える前に、右手に持った剣で一匹の首を刎ね、もう一匹は金剛をかけた左手でぶん殴った。首を刎ねられたオークは当然死亡し、殴られて壁にめりこんだオークも一撃で死亡した。
「おい!大丈夫か!?ッ!?」
オレは目にしてしまう。襲われていた女性は、多分20歳そこそこの若い綺麗な顔のネコ耳をした女性だった。服は破かれ、体はあらゆる所を晒したままになっている。健康な男性なら、見れば誰しもが興奮するところも…だ。ネコ耳の女性は何が起こったのか分からないという表情で、目に涙を浮かべた顔でこちらを見つめてくる。その表情はどこか男をそそるものだ。
そんなネコ耳の女性を見ると、またしてもドクンッと心臓が大きく高鳴った。
(~ッ!?何だ!?何だこの感情は!?)
オレも男だ。女性の裸体をみれば興奮だってする。だが、この感情は何かヤバイ気がしてナラナイ。
今ナラ犯シテモ誰ニモバレナイ
オレは一瞬生まれた感情を、首を振って否定する。
(何考えてんだ!俺はこの人たちを助けに来たんだぞ!それだと本末転倒だし、何よりここにいたオークどもと変わらないだろうが!!)
また変な感情が生まれる前に、俺は震えている女性に近づいて手を差し伸べる。
「“助けに来ました。大丈夫ですか?”」
「…え?あ、ありがとう…ございます」
酷く震えた声で答えてくれた。それも当然だろう。今さっきまでオークどもに襲われていたのだから。俺は自分の正体がばれない様にローブを深く被りなおしてから、ネコ耳の女性を連れて部屋を出た。
その後、周囲を探索したが、先程のオーク達以外は見つける事が無かった。とりあえず、この場はひとまず安全だと考え、金剛をかけた腕で檻の南京錠を壊して閉じ込められていた人たちを助け出した。壊れた檻から自分で出てくる人もいれば、完全に唖然としたままで動かない人もいた。俺は動かない人たちを担いで檻から出し、マロクとクマ耳の女性達と合流する。
「皆ッ!私だけ逃げてごめん!!…ごめんね!!」
クマ耳の女性が、先ほどまでオークに襲われていたネコ耳の女性に抱きついて涙を流していた。抱きつかれたネコ耳の女性も「ううん、いいよ。あなたも無事でよかった!本当に!」と言いながら目から涙を流して抱き返していた。
「さすがイサミはんやね!これで全部かな?」
マロクが捕まっていた人たちに聞くと、先にクマ耳の女性が言っていたように、まだ捕まっている人たちがいるということが分かった。先ほどもう1つの扉を見つけたので、恐らくその先にいるのだろう。
俺はそこに向かうために足を進める。
「少し待ち~や。ここはひとまずこの人たちを逃がすべきやない?」
「“それはマロクに任せる。俺はすぐに助けに向かう”」
「だ~!もうイサミはん!慌てすぎや!そない急がなくても…」
「あのッ!!」
女性の声が聞こえたので俺とマロクが振り返る。そこには助けた人たちの中で、意識がハッキリとしている人たちが立っていた。先頭にはクマ耳の女性と、先ほど助けたネコ耳女性が立っている。
「今から他の人たちを助けに行くん…ですよね?捕まった人たちをお願いします!」
ネコ耳の女性が頭を下げると、他の人たちも頭を下げた。その光景を見たマロクが、大きく溜息をついた。そして、俺を見てから口を開く。
「イサミはん。俺達はここで待機してるわ。他の人たちを助けられたらここに戻ってきてや!大丈夫!危ないと思ったら逃がすさかい!」
「“あぁ。すぐに戻ってくる”」
俺は再び扉を開けて急ぎ足でその場を後にした。
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「ーーッ。ハァ~ハァ~ッ!!」
扉の奥へと入り、扉を閉めて1人になってから息を整える。さっきはやばかった。ここに捕まっている女性達は、みんな服がボロボロでやばい事になっている。それを見るたびに、心の奥で邪な考えがよぎる。先ほども、自分の感情を我慢するだけで精一杯だった。だから急いで1人で来たのだ。
「クソッ!なんだってんだ!?」
この洞窟に来てから…いや、オークにあってから何か変だ。俺は先ほど湧き上がった気持ちを思い出す。
“今ナラ犯シテモ誰ニモバレナイ”
(何だあの気持ちは…。こんな気持ち、生まれて初めての感情だ)
初めての感情を生んだ自分自身が怖くなる。さっきは我慢できた。だが、次も我慢できるだろうか?
(ここの空気が悪いのかもしれない…。早く捕まっている人たちを助けて、ここから出ないと!)
俺は洞窟の更に進んで行く。まっすぐ一本道の先に、新たな扉を見つけたので音を立てないよう押した。扉は重く、少しずつ開いていく。その重さと開きにくさに苛々しながらも、扉を開くと…先ほど見た光景が再び広がっていた。いや、先ほどよりも酷い。もっとオークも人も多い。オークの歓声も、女性たちの悲鳴も多い。俺は、俺は…
(な、なんなんだよココは!?なんだってんだよ!!)
ドクンッ
ココナラ俺ノ好キニシテモ…
黙れ!黙れ黙れ!!
自分ノ気持チニ正直ニナレ!
黙れってんだ!!
俺は思わず頭に手を当てて膝を付いてしまう。そんな時、反対側のほうでオークどもが集まっているのが目に入る。そして、一際大きな歓声を上げた。
「エルフダ!!エルフノ女ダ!!」
「エルフノ女!!スゲー!!」
「ヨ、ヨコセ!!俺ニヨコセ!!!」
(エルフ?)
よく見ると、オーク共が我先にと捕まえている女性に手を伸ばそうとしている。だが、一際大きなオークが女性を押さえつけていたオーク二匹を殴り飛ばすと、喜びに満ちた表情で女性を押さえつけて叫ぶ。
「黙レ!!コレハオレガ最初ニ貰ウ!!エルフノ女!!デフュフュ!!最高ダ!!」
大きなオークが叫んだことで周りのオークが一歩下がった。そこでようやく、捕まっていた女性が目に入る。
「ッ!!??エルミア!!??」
捕まっていたエルフはエルミアだった。俺はすぐに飛び出して助けに行こうとする。だが再び俺の中で邪な考えが生まれる。
アノオークヲ殺シテ、エルミアヲ奪エバ、エルミアヲ好キニ出来ル
違う!エルミアを助けるだけだ!!
今、エルミアヲ奪ワナイト、違ウ誰カニ奪ワレテシマウゾ?ソレハ分カッテイルノダロウ?
そ、それは…
今の俺は誰からも嫌われている醜いオーク。そして、エルミアは誰もが振り返るような美少女でエルフだ。エルミアも俺のことはペットとして考えているみたいだし、将来はきっとイケメンな美男子エルフと結婚するのだろう。そこに俺が割り込める隙間なんてない。それに今回の事で本気でオークを嫌うだろう。もしかすると俺も嫌われて話しかけてくれなくなるかもしれない。
ダロウ?ナラバ今ノ内ニ奪ッテシマエバ、永遠ニ俺タチノモノダ。
エルミアが俺のモノに…?
ソウダ。アノ美シイエルフノ少女ガ、オマエノモノニナルノダ
あのエルミアが…俺の…
心の中が真っ黒に染まっていくような気がする。もう戻れなくなるような、でもそれが普通だと思えるような…。最後の理性ともいえるものが、必死に俺を止めさせていることが分かる。それだけはダメだ。エルミアが悲しむだけだ。と、必死の心の中で叫んでいる気がする。そんな自分の気持ちが他人事のように感じ始めたとき、オークが肌蹴たエルミアの胸元に手を伸ばす光景が目に入った。
ホラ、オマエガ奪ワナイト、エルミアガ違ウ奴ニ奪ワレテシマウゾ?
その言葉によって俺は完全に…別の俺になった。
「グオオオォォ!!」
一瞬の間に移動し、俺は俺のモノに手を出す邪魔者を吹き飛ばしていた。




