ピンチ
今回はエルミアの視点です。表現が下手ですが前回同様、気分が悪くなるシーンがあります。苦手な方はご注意を。
---エルミア---
「ノア!しっかりして!ノア!!」
赤ローブによって落とされ、その先に待っていたのは水が溜まっている場所だった。2人で水に落ちた後、何とか意識を失ったノアを岸のほうまで連れて行った。岸に上がってしばらく声をかけるが、ノアは気を失ったままだ。よほど、ゴーレムの一撃が堪えたらしい。ノアに薬を飲ませるため、急いでローブを脱がした。
「え?ノア…。あなた…」
ローブを脱がすと、そこには美しい純白の長髪で狼の耳を持った美しい女性の顔があった。
(…色々気になることがあるけど…今は)
エルミアは懐から薬を取り出す。意識を取り戻すための気付け薬だ。それをノアの口元に持っていく。
「ノア、辛いと思うけど我慢してね」
薬の蓋を取ってから瓶を傾ける。中の液体がノアの口に入るのを確認してから、そっと口を閉ざさせると、ゴクッと音がした。
「~ッ!?ガハッ!?ゴホッ!!」
カッと目を見開いて、ノアは意識を取り戻した。私は辛そうにむせているノアの背中を擦る。
「ガハッ!…エ、エルミア。ここは?」
今の状況が分かっていないノアが質問してくる。だが、私も分からないので首を振って答えを返した。
ノアは「そうか…」と言って倒れていた上半身を起こして座る形を取る。そしてそこで、自分がローブを被っていないことに気付く。
「ロ、ローブが!?エルミア!これは…その…!」
「良いわよ、話さなくても。確かに驚いたけど、別に怒るようなことでもないし…。隠していたって事は、何か話せない事情があるんでしょう?」
「…そうして貰えると助かる」
そう言って、ノアは濡れているにも構わずにローブを被りなおす。風引くわよ?と言いそうになったけど、私も被ったままだから言わないことにした。懐に気付け薬を入れながら別の薬を取り出し、ノアに投げ渡す。
「体の方はどう?意識を戻す薬を使っただけだから、応急薬も飲んでおきなさい」
「すまない…。思ったよりもダメージが大きい。体が思うように動かない…」
ノアが指を動かして、体の調子を確認しながら辛そうに答えた。応急薬もあくまで痛み止めと血止め、増血剤などが含まれているだけで、体に受けたダメージが急に回復するわけではない。仕方が無いので、ノアの近くに寄って肩を貸して立ち上がらせる。
周りには一本の松明があって、その横にこれ見よがしに木製の扉がある。本来ならノアの回復が待つまでここに待機すべきかもしれないけど、上にはルドルフとワタナベが今もサクリファイス・ゴーレムと戦っているはずだ。リルリカちゃんを助けるためにも、今は一刻の時間すら惜しい。私は覚悟を決めて、ノアと一緒に扉を開ける。すると扉の置くから嫌な臭いが襲ってきた。そして私とノアは自分の目を疑う光景を目にする。
「ディフュフュ!!」
「オイ!モット俺ヲ楽シマセロ!!」
「アー?コノ女、モウ動カナイゾ?オイ!連レテ行ケ!動カナイナラ邪魔ダ!!他ノ女ヲ連レテ来イ!!」
そこには言葉にしたくない光景が広がっていた。そこらじゅうで女達が悲鳴を上げ、オークが歓声を上げながら腰を動かしている。中には、男達もいたが道具で拷問されていたり、動かなくなるまで殴り殺されている。中にはオークに食われる者もいて、その光景を見させられている近くの女性が泣きながら必死に男に向かって手を伸ばしたり、ただその光景に悲鳴をあげている者がいた。そんな女達の反応をオークは楽しんでいるようだった。
「「貴様らぁ!」」
余りの光景に、思わず私とノアは一緒に叫びながら武器を取り出す。ノアは長剣を手に持ち、私は短剣を構える。その姿に気付いたオーク達が、槍や棍棒といった武器を持ってこちらに向かってくる。
オークが棍棒を振り下ろしてきた。私は体を横に向けて棍棒を避け、隙だらけのオークに向かって短剣を突き刺した。しかし、それだけでは致命傷には至らない。なので突き刺さったまま、短剣を横に振りぬき、傷が深手になって膝をついたオークに、上へ向かって顎に短剣を突き刺す。
「ウオオオォォ!」
今度は横から槍を持ったオークが、短剣を突き刺しているオークごと私を刺しに来た。すばやく短剣を抜き、体を伏せて槍を避ける。槍は先程倒したオークに突き刺さり、すぐに抜けなくなってしまったらしく、その隙に短剣で喉を切り裂いた。
「クッ!」
横を見るとノアさんがオーク相手に苦戦しているのが見えた。体が回復しきっていないせいで、オークを倒す決定打を打てないのかもしれない。すぐさまフォローに回り、何体かオークを倒す事が出来たが、ノアが苦戦している事と、連戦の疲労もあって、すぐに沢山のオークに周りを囲まれてしまった。
「デフュフュ!諦メロ!オ前タチノ負ケダ!男ナラ食料カ玩具ニ。女ナラ俺達ノモノニシテヤル!」
オークどもの中から、ひときわ体の大きなオークが気味悪く笑いながら出てきた。恐らくここのオーク共のリーダーだろう。
(なんて醜い。イサミと同じなんてとても思えない。しかし…、この状況をどうするか…)
短剣を構えなおしながら、この状況を打破できる作戦を考える。光魔法による目くらましを使って、一度退却し、ルドルフ達と合流してからこのオークどもを…
「ハァッ…ハァッ…クソッ!!」
ダメね。ノアの体力の消耗が激しすぎる。これでは一時的にこの場を逃げられても、ルドルフたちと合流する前にオークどもに追いつかれてしまう。これは…本気でヤバイ…
「デフュフュ!!今ダ!押サエツケロ!!」
「ッ!?しまった!!」
私がノアの事を気にしているせいで、オーク達の行動に反応が遅れてしまった。後ろからオークがそれぞれ2人掛かりで押さえつけてきて、私達は捕まってしまった。
「は、離して!!ノア!大丈夫!?」
「……」
「ノア!?しっかりしなさい!!」
恐らくダメージに加えて無理な行動が重なったせいだろう。ノアは気を失っているようだった。
「アン?ソイツハ死ンダノカ?」
「やめなさい!!ノアに近づかないで!」
リーダー格のオークがノアに近づき、ローブを捲ろうとするのを見て、思わず私は叫んでしまった。その事がリーダー格のオークを怒らせたらしく、「ナンダト?テメェ顔ヲ見セロ!!」と怒気を含んだ声を発しながら、私のローブを引っ手繰った。私の素顔がさらされると周りから歓声が上がりだす。
「エルフダ!!エルフノ女ダ!!」
「エルフノ女!!スゲー!!」
「ヨ、ヨコセ!!俺ニヨコセ!!!」
オーク共が我先にと手を伸ばそうとする。だが、リーダー格のオークが最初に私を押さえつけていたオーク二匹を殴り飛ばすと私を押さえつけてきた。
「黙レ!!コノ女ハオレガ最初ニ貰ウ!!エルフノ女!!デフュフュ!!最高ダ!!」
「(ヒッ!?)」
オークが私を無理やり仰向けにさせると、着ていたローブを破り去る。そのせいで胸元が露になり、舐めるような視線が幾つも突き刺さる。
「や、やめて!!離して!!」
「デフュフュ!!!叫ンデモ無駄ダ!!助ケナンテ来ナイ!!コレカラ俺ノ物ニナルンダ。大人シクシロ!!!」
「うっ!?」
リーダー格のオークに頬を殴られる。痛み以上に、このオークが言っていることが私の頭を支配し始める。“助けは来ない”その事が私を恐怖させた。そして、一度生まれた恐怖は心を徐々に侵食し始める。
(こ、怖い!やめてお願い!!離して!!)
恐怖で心のなかで弱音を吐いてしまう。その事がオークに伝わったのか、気味悪く笑いながら私の胸元に手を伸ばしてくる。
(嫌!来ないで!!)
ニヤ付いたオークの目と目があう。
(怖い!気味が悪い!!私を見るな!!!)
思わず目を閉じた。オークたちと目が合わないように、これからおきるであろう事から目を背けるように。
(誰か!誰か助けて!! お母様!ルドルフ!サーシャ! )
オークが手を伸ばす数秒の間、私は心の中でルドルフと故郷の友人を思い浮かべて、何度も必死に助けを求める。だが決してその考えが届かないことは私自身が一番分かっていた。…分かっているが、それでも止める事が出来なかった。そして最後の最後に、私は心の中である人物に助けを求めた。一緒に居ると楽しかった、最近出会ったその人を。
(イサミ…ッ!!)
「デフュフュ!!コノエルフノ娘ハ俺モノ――」
「グオオオォォ!!」
「――ヒデブッ!!!???」
「…え?」
リーダー格のオークが話している途中、大きな叫び声が聞こえたかと思うと、一瞬のうちに轟音と共に体の上からオークがいなくなった。一体何が?と思う前に、誰かに持ち上げられるような感覚がした。どうやら先程のオークとは違う誰かに、片腕で抱えるように持ち上げられたようだ。その腕はとても頼もしくて、そして温かい。
私は何が起こっているのか確かめる為に、そっと目を開く。
「…ッ!?イ、イサミ…?」
目の前には隷属の首輪をしたオーク、イサミがいた。
付けたし:最後のほうのエルミアはイサミに片手でお姫様抱っこされてる形で抱えられています。




