オーク
オークとは世界でも女性に嫌われている魔物ランキング上位三位には入るであろう魔物です。
この世界に来て初めてみた同種は嫌がる女性を無理やり押さえつけながら楽しそうに笑う。
「デフュフュ!!逃ゲヨウトシテモ…無駄ダ!」
喋った!!喋ったよ!!奥さん!!!…いや、今はそんな冗談はよそに置いておいて…。オークが片言ではあるが、喋りながら女性を押さえつけてながらも女性の体をまさぐっていた。その光景は、まさに女性が痴漢…いや強姦されようとする光景だった。
(って!見とれている場合じゃない!はやく助けないと!!)
俺は腰にあるブロードソードを抜きながら、オークに向かって走り出す。どうやらオークはこちらに気付いたらしく、何だ?と言う顔をしていたが、俺が剣を抜くのを見て敵だと認識したのだろう。すぐに立ち上がり、持っていた短めのボロボロの槍を構えた。
(槍かッ!間合いだと槍が有利。なんとか近づいて、接近戦に持ち込まないと!)
初めての槍との闘いだ。今までは、弱ったゴブリンや大きな蛙が相手だったが、今回はオークとは言え、武器を持つ弱っていない魔物が相手だ。始めてのタイプと戦う事に、やや不安を感じてしまう。狼のように夢幻を使えば問題なく楽勝なのだろうが、傍にはマロクが居るために使えないのが痛い。
「ナニ者ダ!?シンニュウシャカ!?答エロ!」
質問しながら槍を突き出してきたので、一度足を止めて一歩斜め後ろに下がって避ける。もし、味方だったらどうするんだ?もしかすると、今の動きはオークの知力の低さを現しているのかもしれない。質問しながらも、自分で質問内容をぶち壊すような行動を取る。…そう考えると少し悲しくなってきた。今の俺って、このオークと同じ種族なんだよなぁ…。
そんな俺の感情をよそに、オークはこちらに向かって再度声を発してきた。
「モウイチド聞ク!オマエタチハ誰ダ!?」
また質問しながら槍を繰り出してきた。咄嗟に剣の横腹で槍の先を受け流しつつ、オークに近寄り剣を振り上げるように斬りかかる。その行為に驚いたオークは、咄嗟に槍を手放して腕を前に交差して俺の剣を防ごうとするが、俺の剣によって片腕が斬り飛ばされる。「ギャーー!?」と嫌な悲鳴をあげながらも、キッと俺に睨むと俺に向かって体当たりをしてきた。
「うぐっ!?」
体当たり自体は何も痛くは無かったが、ぶつけられた反動は思いのほか強く、俺は後ろに吹き飛んでしまう。その間に、無事な方の片腕で槍を持ちなおし、俺に向かって突き出そうとする。俺はすぐに起き上がり、槍を剣で弾きながら体制を立て直そうとする。すると、突然オークが俺の顔を凝視するような顔をしたかと思うと、急にニヤリと笑みを浮かべた。…なんだ?
「オマエ、ヨソノ仲間ダナ?ソウナラバソウ言エバイイノダ。女ノ臭イヲ嗅ギツケテキタノカ?」
「……」
先程、転がった拍子にローブが外れてしまったのだが、そのせいで俺の素顔を見たオークが、どうやら他の仲間がここに来たと思っているようだ。いや、確かに同族だろうけど…あの顔を見てると、俺もあんな顔なんだよな~って思うから嫌になってくる。
「女ナラ、ココニハ沢山イルゾ!オマエニモワケテヤル!」
(マジで!?いや待て!!もしかすると、不細工なオークの女性と言う線も考えられる!あぁ!!どうすれば…)
「ココノ人間ハ、何処カラカ沢山ノ獣人や人間ノ女ヲ連レテクル。ドレモ好キニ犯シテモ良イト言ッタ!俺達幸セ!!気ニ入ラナイ男モ食ベラレル!ココ楽園!デフュフュ!!」
「…あ?」
一瞬でピンク色の思考が消え去った。何かこいつはとんでもない事を言った気がする。何処からか獣人や人間の女性や男性を連れてくる?それを犯したり食べたりするだと?
…ドクンッ
心の中で何か嫌なものが蠢いた様な感じがした。なんだ?なぜこんなにもオークの言葉が気に入らないんだ?とにかく心の中から嫌な感情が湧き上がってくるのを俺は抑えながら努めて冷静にオークに問いかける。
「おい…。今、何て言った?」
「デフュフュ?オマエ何言ッテル?言葉ガ喋レナイノカ?デフュフュ!!オマエバカダナ!」
「くそっ!同種でも言葉が通じないのかよ!待ってろ!」
出来るだけ心を抑えながら、素早く文字を書いてオーク野郎に見せ付ける。すると?マークを浮かべて首を傾げている。っち!文字が分からないのか!?
「何ヲシテイル?バカノ考エルコトハ分カラナイ。デモ、女ヲヤロウト思ッタガヤメダ!ソウイエバ、オマエニハ腕ヲ斬ラレタンダカラナ!」
今更になって自分の腕が斬られたことを思い出したらしく、俺に向かって再度敵意を向けてくる。だが、そんなことは今はどうでも良い。さっきからオークは攫った人達をまるで物みたいに扱っているような口ぶりだ。何様だ?こいつ。
「オマエヲ殺シテ仲間ニ知ラセル。俺、侵入者ヲ殺シタ英雄ダ。女ヲ沢山犯セル!楽シミ!!」
「そうかよ…。せいぜい楽しみにしとけ」
オークが片腕で槍を構えて突っ込んでくる。先ほどと違い、片腕しかないので力が半減しているらしく、簡単に受け流すことが出来る。そもそも槍なのに遠くから一方的に攻撃するのではなく、自分から突っ込んできてくれているので、対槍戦の初心者とはいえ対応する事ができた。何よりも先ほどから感じていたがオークは動きがトロい。
体を一歩横にずらしてオークの突き出しを避けると、剣で槍の矛先を切り落とし、そのまま驚いている表情をしたオークのでっぷりとした腹に向かって剣を横なぎに斬りつける。
「グギャーー!?ハ、腹ガァ!?」
「………」
「マ、待テ!女ナラヤル!!ダカラ……グフッ!?」
腹を抱えて倒れたオークに近づきながら、持っていた剣を逆手に持ち直すと、今も女性達を物扱いしているバカの喉に向かってこれ以上喋れないように突き刺した。
一度二度痙攣した後、オークは完全に絶命した。その事を確認すると、先ほど倒れていた女性の方に向かう。女性の傍には既にマロクが付き添っていて、どうやら手当てをしているようだった。
「お疲れさん、イサミはん」
マロクが俺に向かって何時もの口調で労わりの声をかけてくれた。それはオークに苦戦した為か、或いは同種を殺すという行為に対しての労わりなのかは俺にはわからない。だが、出来れば前者だと良いなと思う。あんな奴らと俺が一緒だと思われたくない。
「あ、ありがとうございます!助かり…ヒィ!?オークが!!」
女性が近づいてくる俺に気付くと礼を述べようとしたが、俺の顔を見るとすぐに怯えるような顔をしてマロクの後ろに隠れてしまった。まぁ…無理も無い。
「オークが!!た、助けて下さい!!」
「あ~、大丈夫やから。このオークはオークやけどオークらしくないっちゅうか。なんて言えばいいんやろ?」
マロクが困ったような顔で俺を見る。俺に聞かれても困るわ!
「“ともかく落ち着いて下さい。そして、出来ればここの情報について教えて下さい”」
「ほら、オークなんに文字を理解してるしな!落ち着いてや」
「………」
女性は恐る恐るといった感じに、マロクに背中から少しだけ顔を出す。あっ、なんか可愛い。あ!?クマの耳みたいのが頭についてる!!動いた!!やべぇ!!ケモナーの血が疼く!!モフモフしたい!!!
「ヒィ!?やっぱり怖いです!」
「イサミはん。目が血走ってるで…」
(しまったぁ!!)
ちょっとした問答があったりしたが、俺とマロクは熊耳の女性からここまでの経緯について、簡単だが知ることが出来た。彼女は獣人の国に住んでいた事。そこから連れ去られてここに来たこと。そして、熊耳の女性や他の女性たちがオークたちの巣に放り出されて…そこからの事は聞かないことにした。熊耳の女性が話しづらそうだったし何より、さきほどのオークの言動から考えて何をされたのかは想像に難くない。
「さっき隙をみて逃げ出したんです。…私、みんなを置いて一人でここに…。私、私、皆に申し訳なくて…。でも怖くて…逃げたくて…私…」
そこからは声に出さずに辛そうに嗚咽をあげる。俺は思わず、怖がるの承知で熊耳の女性に近づいてから慰めるように肩に手を置く。そのときに軽くだが俺は治療を試みる。女性は最初は驚いていたが、少しだけ元気な顔で「本当に…オークらしくありませんね」と言った。
「“安心して。俺が絶対に皆を助けるから”」
「え?」
「せやな。ここまで来て、ほなサイナラじゃ、師匠に怒られてしまうわ」
俺とマロクがお互いに見ると頷きあう。そして、熊耳の女性が出てきた扉に向かう。
「あ、あの!!私も行きます!!」
「あかん!危険や」
「良いんです!私だけ逃げるなんて出来ません!案内ぐらいしか出来ませんけど!私にも手伝わせて下さい!お願いします!」
熊耳の女性は強い意志を込めた瞳で俺とマロクを見つめてくる。これでは、ここで返しても勝手についてくるだろうと考え、俺は同行を許可した。マロクも「しゃーないなぁ。てか、あの女性なんや急に元気になってない?気のせい?」と言っていた。…多分、先程治療したせいだと思うが、気にしないでおこう。
「では案内します!こっちです!!」
俺とマロクは熊耳の女性の案内に従って洞窟の中を進んでいった。




