突入3
「リルリカちゃんはどこ!?」
エルミアの声が洞窟に響き渡る。
「そんな大きな声を出さなくても聞こえていますよ。あなた達のお探しの子はこの奥に…」
赤ローブが体を回転させて奥を案内するかのような姿勢をする…が、すぐに体の向きを元に戻すして片手を上げた。するとそれを見た後ろの黒ローブたちが一斉に剣を抜き放つ。それを見てエルミア達もそれぞれ武器を構えて臨戦態勢をとった。
「まぁ、会わせる訳ありませんがね。しかし、ここまで追いかけてくるとは…いやぁお見事お見事!」
パチパチと赤ローブが1人拍手する中、黒ローブたちが剣を構えながらエルミアたちを包囲するようにジリジリと迫る。
「この居場所もすでにギルドに伝えているわ。すぐにでも腕に覚えのある冒険者達がやってくる。もう貴方達に勝ち目はない。大人しく投降し、攫った人たちを解放しなさい!」
「おやおや、流石ですな。まさかあの少女1人の為にこのような危険が付いて回ってくるとは…。ですが、ここで貴方達を倒してしまえばまだまだ十分に逃げられると思いませんか?ギルドに伝えてあると言ってもそんなに直ぐには来れないでしょう?現に貴方達は少数だけでこちらにやってきている」
赤ローブの言葉にエルミアは心の中で舌打つ。確かに冒険者達がやってくるのはどれだけ早くとも明日の朝まで掛かる。もし私たちが倒されてしまうと、リルリカちゃんや攫われた人達はもう見つけることは出来ない可能性が高い。しかし…
「だから何?私たちを倒せるつもりみたいだけど、その考えは甘いということを教えてあげましょうか?ルドルフ!」
「はっ!」
私の言葉に、ルドルフが応じてレイピアを顔の前で構える。すると、レイピアに黒い渦のようなものが纏わりはじめる。
「“闇に潜むは我が心の獣。《闇の鉤爪》!”」
ルドルフが魔法発動言語と共に、レイピアを赤ローブに向かってその場で一閃すると、レイピアに纏っていた渦が三本の黒い波状となってが放たれる。赤ローブがその魔法を見ると、すぐ近くにいた黒ローブの1人を掴み、自分の前に向かって投げ飛ばした。
「し、司教さま!?ギャーーッ!!」
投げ飛ばされた黒ローブは三本の黒い刃によって三つに切り裂かれる。それでも刃は止まらずに赤ローブに向かう。「ッ!?これはこれは厄介ですねぇ!」とつぶやきながら剣を取り出しながら急いで横に移動するが三本のうち一本が赤ローブに当たった。
「グゥッ!?…前に会ったときも厄介なご老人だと思いましたが、ここまでとは」
「「「司教様!?」」」
剣で受け止めることは出来たので、致命傷は避けることが出来たようだが、赤ローブの肩は切り裂かれ、多くの血が出ていた。それを見た黒ローブたちが慌て始める。
「今よ!ワタナベ!!」
「は、はい!」
黒ローブ達の注意が赤ローブに向かった瞬間、エルミアと渡辺の遠距離攻撃が黒ローブたちを襲う。ルドルフも近くにいた黒ローブ達に向かって斬りかかる。
「グアッ!?」
「お、応戦しろ!!相手はたったの三人だ!司教様を守れ!」
黒ローブたちは慌てながらも、再び数に物を言わせた包囲網を形成しながら迫るが、ルドルフによって包囲網の一角が崩され、その場からエルミアと渡辺が抜け出すことに成功した。そして再びルドルフが先頭に立ち、エルミアと渡辺が援護する形で戦闘が開始される。形勢はややエルミア達が有利であった。
「司教様!お怪我のほうは!」
「問題ない。それよりも例のモノを」
「はっ!」
「お前達は準備が出来るまで体を張って時間を稼ぎなさい」
「承知しました!」
黒ローブ達とエルミアたちが戦っている中、1人が奥に向かって走っていく。それをエルミアは気付くが、黒ローブたちが邪魔をして止めることが出来ない。
「ふぅ、やってくれましたね。それでは今度はこちらから行くとしましょうか。“火よ。礫と成りて敵を燃やせ。《火の玉》”」
「エルミアさん!魔法がきます!」
「えぇ!でもあの程度の魔法なら…。――なっ!?」
赤ローブが剣を地面へ刺して、両手を挙げて呪文を唱える。唱える魔法はレア度2クラスの魔法だ。だが、その魔法によって出現した火の玉は1つではなく次々に出現し数えられないほどの火の玉が出現していた。
「さぁ、これを受け止められますか?行け!!」
赤ローブが両手を振り下げると、数え切れないほどの火の玉がエルミアたちに向かっていく。いくらレア度が低い魔法とはいえ、これほどの魔法をまともに喰らえばただではすまない。
「お二人とも此方へ!!」
「えぇ!」
「は、はい!!」
エルミア達はルドルフが切り開いた道を進み、もと来た扉へと向かう。三人が扉を抜けると、急いで扉を閉めた。
「み、“水よ我が触れしものに纏わり凍てつかせ!《氷の塊》!”」
渡辺が閉めた扉を魔法によって凍らせる。そして三人で扉を押さえる。
「うわああああ!?」
「ま、まだ俺達が…!!」
扉の向こうから黒ローブ達の悲鳴が聞こえる。だがそれも一瞬で、悲鳴のすぐ後に、扉越しに途轍もない力の衝撃と豪雨に打たれたような衝撃音が響き渡る。
「っく!仲間ごとあんな無茶苦茶な魔法を打ってくるなんて!」
今なお続く衝撃に耐えながらエルミアが呟く。通常、魔法にはある程度決まった形が存在している。火の玉なら1つの火の玉を、氷の槍なら一本の氷の槍を出現させると言ったものだ。魔法によっては、先ほどルドルフが使った闇の鉤爪のように、複数で通常の魔法もあるが、火の玉等は基本的に1つだ。もちろん魔法に通常以上に魔力をかける事によって、魔法そのものの出現数を増やすことは可能なのだが…、それでもせいぜい2~3くらいが限界だと言われている。先ほど赤ローブが使った魔法は、レア度は低く魔法量が低いとはいっても、その出現数が異常であった。
「大丈夫か!!」
後ろからノアが走ってきた。どうやら無事に此方にくることが出来たようだ。それと同時に火の玉の攻撃がやんだ。扉は氷が解け黒く焦げていた。
「あ、あんなのに勝てるんでしょうか?」
「ワタナベ、心配しなくてもあんな無茶な魔法は連発なんて出来ないわ。ノア!来てすぐで悪いけどルドルフと一緒に突撃できる?」
「あぁ!大丈夫だ!」
「よし!なら行くわよ!」
ルドルフが焦げた扉を押す。すると、扉は限界が来ていたのか押した同時に、崩れ倒れてしまった。
「おやおや、うまく逃げましたね。まったく忌々しい事で。それに何やらお1人増えていますね。これは急がないといけないですかねぇ?」
赤ローブが溜息をつきながらこちらを見る。エルミアたちの足下には黒焦げた死体が何体か転がっており、人肉が焦げる嫌な匂いが辺りを漂う。そんな中でも、残った黒ローブたちは剣を構えて勇ましくエルミアたちに向かってくるが、先ほどと違い前衛のノアが加わることで戦闘は一方的に進み、苦戦することなく黒ローブたちを全員倒すことが出来た。
「さぁ!後はあなただけよ!!」
「っち!これはまずいですねぇ……ん?フフフ、来ましたね」
赤ローブが何かに気付いたように背後の洞窟のを見る。奥から何か重いモノが歩くような音が聞こえてくる。どうやら、こちらに大きな何かが向かってきているようだった。
「みんな!気をつけて!何か来る!」
「「「はい!」」」
それぞれが得物を構えて、来るものを待ち構える。ゆっくりと何かがこちらに来るたびに、歩く音が大きくなる。そして遂に、たいまつの明かりによってその正体が徐々に現れてきた。
「ゴ、ゴーレム!?でも何あの体!?――ッ!!」
奥から現れたモノは、全身が岩で出来た巨大な体を持つ人形だった。だが通常のゴーレムと違い、全身に魔法のような模様が描かれており、巨体の中心には大きなガラスの球体が埋め込まれていた。そしてガラスの球体には、やや発光した半透明の緑色の液体が詰まっており、その中には何も着ていない状態のリルリカちゃんが入っていた。




