突入
“渡辺詩乃” たしか、生徒会1年書記の子だったはずだ。こちらに来る前の掃除の時、水を入れ替えに一緒に行ってくれた程度しか接点はないけれど、この子は俺と同じ世界からやってきた生徒達の一人である事は覚えていた。
「(結構おとなしい感じの子だったはずだけど、なんでこんなとこにいるんだろう?)」
ここは冒険者ギルド。荒くれ共が命をかけて、魔物討伐がメインとなる殺伐とした場所である。まぁ、実際は昼間から酒を飲める居酒屋みたいな感じだが…。それならそれで、尚更なぜそんな場所に一人で来ているのだろうか?
「あなたは勇者メンバーの一人なの?どうしてこんなところに一人で?」
エルミアが俺の疑問を口にする。よっ!さすがエルミアちゃん!俺とエルミアちゃんは心と心が繋がってるんだなぁ!まさに以心伝心って奴だな!!
『いや、だれもが思う疑問だと思うが?』
「(シャラーップ!!黙りなさいヤシロ先生!)」
『しゃ、しゃらっぷ?』とヤシロが聞きなれない言葉について考えている間にも、エルミアたちと渡辺さんの話は進む。
「わ、私は勇者と呼ばれていますが、他の皆のように特別に強いわけでもないし、もともと運動神経が良くなくて今まで皆の足を引っ張ってしまいました。このままじゃ駄目だと思って、皆の役に立てるように、まずはわたし一人で冒険者ギルドで頑張ろうと思っていたんです。そして、こちらに寄ったときに…」
「私たちの会話が聞こえたと?」
「はい」
エルミアの言葉に渡辺さんが強く頷く。
「気持ちは嬉しいけど。今さっき自分で実力がないって言ってたじゃない。今回のクエストは、それなりに実力があるメンバーじゃないとダメなんだけど?」
エルミアが強い口調で渡辺さんを問い詰める。その言葉に渡辺さんが「ひぅ!?」とでも言いそうな顔で一歩下がるが、そこで踏みとどまって一歩前に進む。
「確かに、実力は低いですけど私は頑張りたいんです!何より、お世話になっているこの世界の攫われた人たちを助けたいんです!お願いします!私も連れて行ってください!」
言い終わるや否や渡辺さんは頭を下げる。その姿に周りからざわざわと声が囁きだす。勇者に頭を下げさせる冒険者なんて…といった感じだ。当のエルミアもさすがにバツが悪いと感じたのかすぐに頭を上げさせる。
「わ、分かったわよ。頭を上げなさい。メンバーを1人増やすわ。登録のほうはお願いね」
「分かりました。…大変でしょうが頑張って下さい」
受付嬢が最後の方はエルミアだけに聞こえるように囁く。実力がないこともそうだが、勇者を万が一、死なせてしまったら、当然そのメンバーもただではすまないと暗に言っているのだろう。
「はぁ、分かってるわよ。それじゃあ行きましょう。時間が惜しいわ。詳しい自己紹介は向こうに行きながらよ」
「「「はい!」」」
エルミアの言葉にルドルフさん、ノアさん、渡辺さんが応える。そして、四人は冒険者ギルドを去っていった。
「行ってしもうたなぁ。んで、どないしようか?イサミさん?」
マロクが両手を頭の後ろに回しながら今後のことを俺に尋ねる。
「(ふ、ふふふ…、ふふふふふ)」
俺は、心の中で冷笑を浮かべていた。何だコレは?俺が身を挺してリルリカちゃんの下着をクンカクンカしたり、ノアさんに殺されかけたり、ギルドに来て見れば俺はいらない子みたいに扱われたり(本当は心配されて置いて行かれただけなんだけど)、もう我慢ならんぞ!
「“マロク、君はここに残っててくれ”」
「うん?どないしたん?」
「“リルリカちゃんを助けに行く”」
「…やめときぃや。エルミアさんが言っておったやないか。危険やって…ってちょい待ちぃや!?」
マロクの言葉を半分無視して、冒険者ギルドから出る。後ろのほうからマロクが慌てて追いかけてきた。
「待ちぃな!イサミはんの気持ちは分からないでもあらへんけど、勝手に動くのはいかんて!危険や!」
「“分かってる。だから、俺だけで行くから、マロクはここに残ってくれ”」
「ああもう!イサミはん、どないしたん?」
俺は冒険者ギルドから出て、少し人通りが少ない道を歩いていた。周囲に人がいない事を確認すると、足を止めてバッと両手を挙げて心の中で叫ぶ。
「(こうなったら!俺が先にリルリカちゃんを助け出して、俺の行動に意味があったのだと証明してやるぅ~~!!)」
急に両手を上げだした俺にマロクは驚いているが、そんなことは知ったことかと言わんばかりに走り始める。
「ちょ!!?待ってぇ!?」
「(うおおおおおおぉぉぉ!!)」
目指すは、匂いの先にいるリルリカちゃんだ!待っててくれよ!今、俺が救い出す!エルミアたちよりも先に!
『…趣旨が変わっておらんか?』
---5時間後---
「この先よ。でも、一度ここで休息を取るわ」
エルミアの言葉に他のメンバーが頷く。エルミア達はここに来るまでろくに休まずに駆けてきたので、敵の拠点に入る前に休息を取ることにした。驚いたことに、渡辺はスピードは遅くなったり途中で何度かルドルフに背負ってもらったりしてもらっていたが、決して弱音を言わなかった。思った以上に覚悟はあるらしい。
「ここで、一度メンバーの装備や得意魔法属性を聞いておきましょう。私は、弓と短剣を使うわ。得意魔法属性は光と風」
「私はレイピアを愛用しております。得意魔法属性は闇です」
「俺は短剣と長剣を使ってる。魔法は土と風だ」
「わ、私は杖を使ってます。使える魔法は水です」
それぞれが愛用している武器を見せながら、説明する。
「そう。なら私とワタナベが後衛、ルドルフとノアが前衛ね。パーティの時はお互いにさん付けとかは無しにしましょう」
全員が頷いてからそれぞれが休息をとる。辺りは夕焼けによって明るくオレンジ色に染まっていた。
休憩してから体調や装備の準備が整ったのを確認すると、敵の拠点であろう古びた館に向かう。辺りにはまだ黒ローブの姿は見えない。どうやら、巡回等はしていないらしい。館前に到着すると、今朝と同様に館の前には複数の黒ローブが入り口を見張っていた。
「あそこよ。皆、準備は良い?」
「大丈夫です」
「ああ」
「は、はい」
エルミアは頷くと、すぅっと一呼吸する。
「ルドルフ!ノア!突撃しなさい!ワタナベ!私と共に援護するわよ!」
「承知!」
「分かった!」
「はい!」
エルミアの掛け声に応じて、ルドルフとノアがそれぞれの武器を手にしながら、館前の黒ローブに向かって突撃する。エルミアは弓を構え、渡辺は魔法の呪文を唱え始める。一方、黒ローブたちは突然に草林の中から現れた謎の四人に驚きつつも、二人は剣を手にルドルフとノアに立ち向かっていき、1人は味方を呼びに中に入っていこうとする。
「逃がさない!」
エルミアの言葉と共に、矢が発射される。矢は一寸も目標を違えずに味方を呼びに言った黒ローブの後ろ首に突き刺さる。
「な――」
「相手を前に余所見ですか?」
「――ぐふっ!?」
黒ローブの1人が思わず後ろを振り返ってしまう。その隙を逃すはずもなく、ルドルフがレイピアで黒ローブの心臓を一突きする。ノアと戦っていた黒ローブも、最初は善戦していたが、渡辺による“氷の槍”により剣を弾き飛ばされ、ノアによって首を刎ねられる。それまでの時間はたったの3分。あっと言う間の出来事だった。
「よし!皆、怪我はないわね?」
全員が頷くのを見てから、エルミアが手による仕草で屋敷の中に入るよう指示する。中は外から見た通りにボロボロだったが、人の生活に関わる道具が置いてあったり、人の手が加わったと見える箇所が複数見つける事が出来た。この事から、この場所が黒ローブ達の拠点と使っているのは間違いない。
「…どうします?」
渡辺が小さい声でエルミアに聞く。エルミアはしばらく悩んだ後で、
「取りあえず、二階から調べましょう。本当は散らばって探したいところだけど、何があるか分からないわ」
メンバーはその言葉に従って、入り口から真正面にある大きな階段を上る。館自体は三階建てだが、三階に上がる階段は屋根が崩れて上れない。そこに人の手は加わっていないので、恐らく三階は使っていないのだろう。
メンバーは二階にある部屋の一つ一つを空けて探す。大きな屋敷なので、部屋は多くあったがほとんどは空部屋だった。中に居たとしても、夜に見張っていたのか部屋の中で眠っている黒ローブが数人いただけ。眠っていた黒ローブたちはノアが短剣で静かに始末しておいた。
「どうやら、二階は外れみたいね。1階に向かいましょう」
「そのようですな…。では――」
「おい!見張りがやられているぞ!お前ら来い!!」
「…どうやら敵にばれてしまったようです」
一階の入り口に黒ローブたちが集まってきている。それを上からエルミアたちがこっそりと見ていた。
「まぁ、構わないわ。遅かれ早かれこうなっていたでしょうし。取りあえず、入り口の奴らを片付けましょう。その後で、入り口を閉じてから奥に進むわ。一階のどこか、あるいは地下に攫った人たちを閉じ込めているようだし」
「ですな」
「それじゃ、行くわよ。敵は全部で5人。大丈夫。無理な数じゃない。それじゃ少しの間、目をつぶっていなさい」
エルミアは弓を矢を番えずに構える。
「“光よ、我等の道を照らす道標となれ。光照の矢!”」
エルミアが呪文を唱えた後で何も番えていない弦を引くと、弦には光でできた矢が備えてあった。それを黒ローブたちがいるところに向かって放つ。カッ!と黒ローブたちの間の地面に、矢が音を立てて突き刺さる。咄嗟に音の正体を確かめようと見た瞬間、光の矢が凄まじい発光を起こす。
「ぐああぁぁ!!?」
「目が!?目がぁ!?」
まともに発光を見てしまった黒ローブたち五人は目をやられてしまう。そして発光が終わった後、すぐさまルドルフとノアたちに次々と命を絶たれてしまった。
「す、すごい」
特にすることが無かった渡辺はただ感心するしかなかった。メンバー1人も怪我することなく、圧倒的優位に闘いを進めることが出来ている。渡辺も戦い自体は初めてではないが、ここまで優位に戦うことが出来たのは初めてだ。
「なに、感心しているのよ。あなたもこのメンバーの1人なのよ?」
エルミアが少し飽きれたような感じで呟く。その言葉に渡辺は嬉しくなる。初めは私以外、ローブで顔が見えないメンバーで心配だったが、いざ実戦となると頼もしく、私もこのメンバーの一員だと思うと自信が付いてくるようだった。
「さ、ルドルフたちが待ってるわ。行くわよ」
「は、はい!」
渡辺は大きな声でエルミアに答えて後を追いかけていった。




