追跡
暗闇の中を二つの影が進む。王都セルジュークを出てからここまでずっと走り続けてきたので、だいぶ息が上がってきている。それでも二人は足を止めない。
「お嬢様、こちらです」
ルドルフが声を抑えながらエルミアを導く。
「どう?まだ追える?」
「はい、まだ奴らの足跡に熱が残っています。“闇夜に我が瞳を通せ。《闇の瞳》”」
ルドルフが魔力を瞳に込めて魔法を発動する。“。闇の瞳”闇夜でも目が利くようになる魔法だ。また、しばらくの間だけだが、目標の残滓である足跡の熱などを特定して見えるようになる。
目標とすることが出来るのは、相手を性格にイメージできる場合だけであるが、ルドルフは赤ローブ達の姿を覚えているので問題ない。ルドルフが得意としている闇魔法の1つだ。
「もう少しで日が昇ります。そうなると追えなくなります。お辛いでしょうがもうしばらくご辛抱下さい」
「大丈夫よ、まだ行けるわ」
そして、また2人は走り始める。
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「…見つけました。お嬢様」
「はぁ、はぁ、あそこね…」
朝日が昇り始めようとした時になって、ようやく2人は黒ローブ達の姿を見つけることが出来た。黒ローブたちが居る場所は、かつての領主が別荘として使っていたであろう大きな屋敷だった。しかし、今は廃墟と成っているのか、かなりボロボロになっている。森の奥にあるので人目につきにくく、今や誰も住む者がいない屋敷はさぞ隠れ拠点として魅力的だろう。
エルミア達は屋敷の近くを見回っている2人組みに近づいていく。
「なぁ、いつまでここにいるんだ?」
「さぁな。なんでも近くの森に有名な魔物が出たとかで、沢山の冒険者が出回っているから今は表立って行動できないんだってよ。移動するとしたら夜の間だろうな」
聞きたい情報を運よく入手した2人は、その場から離れ屋敷が見える程度のところまで下がる。
「…どうする?このまま攻め込む?」
「いえ…、一度セルジュークに戻りましょう。ギルドに報告して準備を整えた後で攻め込むべきです」
「そんな!?リルリカちゃんの身に危険が迫ってるのかもしれないのよ!?」
「…お嬢様。今の私達は、この場所を特定する為に急いで来た為、最低限の装備しかありません。言い訳がましくなりますが、私が奴等に遅れを取ったのも準備が整っていない状態で戦闘したためです。お辛いでしょうが、今は一度戻り、体制を万全にしてから再びここに来ましょう」
「そう…ね……。ごめん、焦りすぎていたみたい。一度もど――」
「嫌ぁぁぁ!!」
エルミアの言葉を遮る声が辺りに響く。2人が木に身を隠しながら見ると、屋敷から服がボロボロの状態の女の子が走って逃げてきていた。後ろからは黒ローブたちが追いかけている。
逃げていた女の子が、木の枝に足を引っ掛けたのか分からないがその場に転んでしまう。そこを男達が複数で押さえつける。エルミアが咄嗟に飛び出そうとするが、ルドルフにそれを止められ、エルミアは悔しそうに見つめているしかなかった。
「いや!放して!嫌ぁあ!!」
「うるせぇ!だまれ!!」
男の一人が女の子のお腹を殴る。女の子が「うっ!?」と呻き声を出すがそんなことをお構いなしに今度は顔を平手打ちする。
「チッ、手間取らせやがって。さっさと連れて行け!」
男達が女の子を無理やり立たせて屋敷に連れて行く。途中、女の子が嫌がるように抵抗すると、また殴り、今度は髪をつかんで引きずるように屋敷の中へと消えていった。
「…っく!?」
「急ぎましょう…。やはり、被害にあっているのはリルリカちゃんだけではないようです」
「そうね…。絶対に助け出してみせるわ。リルリカちゃんも他の子も…」
エルミアは悔しそうに唇を噛みながらその場を後にした。
---イサミ---
俺は宿に戻る前に冒険者ギルドに寄っていた。あれから何かしら情報が入ったのか確認するためだ。…できれば良い情報があれば、リレーアさんを少しは元気付けられると思ったからだ。
冒険者ギルドの中はいつも通り色んな人でごっちゃがえしていた。そんな中、俺はクエストを受けたときの受付嬢を見かけたので、昨夜の事件について何か進展があったのかと尋ねる。
「あっ、ロメール!…っあ!?」
「(ロメール?)」
「ッゴ、ゴホン!何でもありません…。…はい。あれから冒険者ギルドでも重要クエストとして冒険者さんたちに紹介しているんですけど…。今ひとつクエストを受ける人があまりいないというのが現状です。情報の方もまだ何も…。あっ!?落ち込まないでください!大丈夫です!今は何も情報がなくても、そのうち何かしら入ってきますよ!」
昨日今日の話だから分かっていたけど、どうしても気落ちしてしまう。そんな俺を見て受付嬢が慌てているようだった。俺ってそんなにわかりやすいかな?すると、受付嬢がすっと俺に近づいてきて耳元で話しかける。…ちょっとドキッとしたのは内緒だ。あと、そんなに近づかないで、オークってばれるから…。
「…ちょっとここだけの話ですけど、どうも誘拐されたのが一人だけでは無いみたいなんです。なので今後、もっと捜索クエストが増える恐れがあるんですが、どうやら商人ギルドも動いているみたいなんです。なんでも子飼いの暗殺ギルドを動かして、今回の事件について情報を集めているみたいですよ。なぜ今回、いつも乗り気ではない商人ギルドが迅速に動いているのかは分かりませんが、きっと良い情報がこちらにも入ってきますよ!だから元気出してください!」
受付嬢がガッツポーズをしながら笑顔で応援してくれる。こんな時だからこそ、元気な笑顔を見ると俺も元気になってくるような気がした。
「(いい娘だなぁ…。よし!俺も頑張ろう!オークの俺にだって出来ることがあるはず…、ん?出来ること?っあ!?)」
俺は自分の嗅覚の事に気が付く。昨夜は色々なことがありすぎてすっかり忘れていたが、俺には犬並み?の嗅覚があるのだから、それで探索を手伝えるのではないか!
「(よっしゃ!善は急げだ!宿に戻ってからリルリカちゃんの匂いのする物を探して、俺も探索に行こう!)」
急にやる気を出した俺を見て、?マークを浮かべている受付嬢の手を取ってブンブンと振りながら礼を込めて頭を下げる。そしてすぐさま走って冒険者ギルドを後にした。
---受付嬢---
「あぁ、びっくりした…」
私がロメール…じゃない、イサミさんを元気付けようとしたら、急に何か思いついたように頷くと私の手をとってきて頭を下げてきたのだ。そして、慌てて出て行った。
「イサミさんって、オークよね?…オークがあんなに人間のようになるなんて…っは!?まさかコレもエリミアさんとの愛の成果なの!?
『ジュリエッタ(エルミア)!どうして僕の愛を受け入れてくれないんだ!』
『ダメよ…、ロメール(イサミ)。あなたはオークなのよ…』
『そんなのは関係ない!僕は君のためなら変わってみせる!』
『ロメール!!』
『ジュリエッタ!!』
な~~んて!!種族を越えた愛!!あぁ、なんて素晴らしいのかしら!!」
「キャ~~!!」と両手で顔を隠しながら、小さな声でイヤンイヤンと歓喜の声をあげていると、同僚の子が変なモノを見るような目をしながら話しかけてきた。
「こら!なにしてんのよ。ほら仕事しなさい」
「あら、いけない。いつもの癖がでちゃった」
「まったく…。あんたは良いかもしれないけど、その癖にはみんな困ってるんだからね!特に独り身の男共が…」
「え?なに?」
最後のほうが声が小さくてよく聞こえなかった。同僚の子は大きくため息をつく。
「はぁ…なんでもない。そういえば、さっき誘拐事件の捜索クエストを受けていった人がいたわよ」
「本当?良かったわ。少しでも早く、多くの人に協力して欲しいもの」
「そうね。確か、今から娘さんを誘拐された親の所に情報を聞きに行くと言っていたわ」
「実力は?」
同僚の子がクエスト依頼書を確認する。
「シルバーの上位者ね。もう少しでゴールドになれる実力者だから、多分街の外を探しに行くと思うわ」
「そう…。さっ、なら私達も出来ることをしましょうか」
「あんたが言うな!」
「えへへ、ごめん」
同僚の子が呆れながら持ち場のカウンターの方に向かった。私は、同僚の子が置いていったクエスト依頼書を見る。
「えっと…、ノアさんか。…そういえば、イサミさんの手、暖かかったなぁ」
イサミさんの手の温もりを思い出し、ちょっとだけドキドキしながら仕事に専念…出来ずに妄想してばかりいて、また同僚の子に怒られてしまった。




