誘拐後
生首をみたら私、絶対気絶できる自信あります!(`・ω・´)キリッ
リレーアさんの胸元に手を当てて意識を集中する。次第に手が光り始め、触れた箇所から傷がなくなるように消えていくのを確認しながら、俺は少しだけ周囲に注意を傾ける。
「(…あれは今朝の男か?ウグッ!?生首だ…)」
こみ上げる吐き気を我慢する。部屋中のおびただしい血の痕は、どうやらリレーアさんだけのモノではなかったらしい。いったい何が起きたというのだろうか?借金取りの男がリレーアさんを借金を理由に無理やり連れて行くにしても、その本人は死んでしまっているし、リレーアさんも重症だ。とすると、借金関係ではないのだろうか?
「(…そういえば、リルリカちゃんはどこだ?)」
リルリカちゃんの姿が見えないことに、俺は急に不安になった。確か、この時間だと食器の片づけでリレーアさんと二人でいたはず。それがリレーアさんは倒れていて、リルリカちゃんの姿が見えない。
「(おいおい…。もしかしてコレって…)」
”誘拐”。その二文字が頭をよぎる。しかも借金取りの男が殺され、母親であるリレーアさんは斬られている所をみると身代金が目的でもないだろう。となると、リルリカちゃん自身が目的か…。この世界での治安に対する考えはどれ位なのかは知らないが、まだ幼い女の子を強引に連れて行くところからして普通の奴ではないのは確かだな。
「くっそ!なんてこった!」
俺は悔しげに声をあげる。もう少しでリレーアさんの傷は治るが、この間にもリルリカちゃんに危機が迫っていると思うと…。
「ッ!?」
心が乱れたせいか、手の光りが若干弱くなってしまった。少し慌てながらも、再び治療だけに専念する。
治療が大体終わり、見た目では傷が残っていないリレーアさんの呼吸音を確認する。…先ほどより安定した呼吸音が聞こえてきたので、俺はひとまず安心する。そして、リレーアさんの服を着せ直すと立ち上がり、リレーアさんを持ち上げる。背後からはまだ戦いの音が聞こえてくる。エルミアは俺が治療を開始し始めたのを確認すると、すぐさまルドルフさんのところに応援に行っており、今は二人で戦っているようだ。
「よいしょっと…、リレーアさん思ったより軽いなぁ」
と軽口を言いながらも周囲の匂いを嗅ぐ。血生臭くて正直、鼻をつまみたくなる…が我慢だ。よし、今エルミアたちが戦っている奴ら以外に匂いは感じられない。近くのソファーにリレーアさんを寝かすと、ルドルフさんとエルミアのところに向かう。ちょうど戦闘が終わったのか、黒ローブの男が二人倒れており、残りは逃げたようだ。
「イサミ!リレーアさんは!?」
エルミアが少し慌てたような声で俺に尋ねてきた。俺は頷きながらソファーに眠るリレーアさんを指差す。
「よかったぁ。…でも、リルリカちゃんが攫われたみたいなの。急いで追いかけないと!」
「お嬢様…、申し訳ありません。私がついていながら…」
「ルドルフ!今は嘆いている暇はないの!説教は後でするわ!今はこの現状について考えないと!」
「…はっ!私はこれから近くの自警団に寄って、この状況について説明してきます!お嬢様は、ギルドに今回の一件を話し、捜索クエストを依頼してください!」
「分かった。イサミ。悪いけど、ここでリレーアさんを見ていてくれる?まだあいつらが来ないとも限らないし」
俺も一緒に行く!と言いたかったが、話せもしない俺が行っても邪魔なだけだろうと考え、頷いて了解の意を示す。
「ありがとう、イサミ!それじゃ行ってくる!」
「それでは!」
一度部屋に戻り、素早く装備を整えた2人は、ローブを深く被りながら真っ暗な闇の中を駆けていった。俺は二人が行った後、黒ローブの男達と借金取りの男の死体を一箇所に集める。その後で、黒ローブの男達の持ち物を確認する。こういうのは捜査の妨げになるとも思ったが、異世界での捜査力や信用度がどれほどのものか分からない。もしかすると、何も分からないままこちらには何も情報が来ないかもしれない。そう考えると、今は少しでも自分で掴める情報が欲しかった。
「なんだこりゃ」
黒ローブの男が持っていたのは、短剣に蛇が巻きついている姿が描かれた円形のエンブレムだった。同じような物を、もう一人の黒ローブの男も持っていた。おそらく組織に関わる物なのだろうが、俺には何を意味しているのか分からない。
「ヤシロ、分かる?」
『いや、初めて見るな』
「…ルノリックさんならわかるかな?」
商人ギルドマスターだって言っていたから、こういう事に関して何かしら情報を持ってるかもしれない。そうと決まれば、2つあったエンブレムの内1つを懐に隠し、もう1つを元の場所へと戻す。他にも手がかりが無いか探ってみたが、エンブレム以外にはこれといって有力な情報になりそうなものは無かった。
「…う、う~ん」
どうやら、リレーアさんの意識が戻ったようだ。容態を確認しようと近づくと、俺に気付いたリレーアさんがボーっとしていた顔から、ハッと何かに気がついたような顔をして辺りを見渡し声をあげる。
「リルリカ!リルリカ!!どこなの!?返事をして!」
ふらつく体を無理やり起こし、リルリカちゃんを探し始める。そして、俺に再び気がつくと俺に詰め寄ってきた。
「イサミさん!娘は!?リルリカはどこ!?」
俺はリレーアさんに知っていることを伝えはじめる。俺も先ほどここに来たばかりでリルリカちゃんの事はよく分かっていないが、エルミアとルドルフさんが言うには攫われてしまったこと。そして、今二人はそれぞれリルリカちゃんを助けるために動いていると言うことを伝える。そのことを聞くと、リレーアさんはワッと顔に両手を当てて泣き崩れてしまった。俺はエルミアたちが戻ってくるまで、落ち着くようにリレーアさんの背中を撫で続けた。
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程なくすると、自警団と思われる数人とルドルフさん、いつもとは違うギルドの受付嬢とエルミアが戻ってきた。
「イサミ、悪いけどリレーアさんを立たせてちょうだい…。辛いでしょうけど、今は時間が大事なの」
俺は頷いてからリレーアさんの背中をポンポンッと軽く叩いてあげると、彼女は弱々しく立ち上がり、自警団と受付嬢に事情を話す。何時ものように借金取りの男が来たこと。借金を返そうとしたら知らない赤いローブの男が現れたこと。そして、急に奇声染みた声をあげたと思うと斬りつけられて、それからは記憶が無いこと。斬られた傷についてはエルミアが高級の回復薬を使ったと言い訳をしていた。
「そこからは、私が…」
それからはルドルフさんが話を続ける。部屋にいたとき、突然大きな音がしたので見に行くと借金取りの男とリレーアさんが斬られていて、近くには剣を持った赤いローブの男が立っていた。そして、おそらくは薬でリルリカちゃんを眠らせ、攫おうとしていたので食い止めようとしたが、黒いローブの男達に阻まれて止められなかったと伝えた。
「リレーア殿…、申し訳ありません」
ルドルフがリレーアさんに頭を下げる。エルミアと俺も続いて頭を下げる。
「ッ!?何を言うんだい。エルミアちゃんたちは何も悪くなんて無いよ。それどころか命を助けてもらったんだから、私の方が謝りたいくらいだよ。…皆さん、お願いします。娘を、リルリカをどうか探してください」
最後はリレーアさんが頭を下げて言った。その姿を見てその場にいる誰もが思う。この人は我慢していると。すぐにでも探しに行きたいが、自分では邪魔でしかないこと知っている。だから、私達にお願いするしかないのだと。
自警団の一人と受付嬢が頷いて答える。
「事情は分かりました。我々、セルジューク自警団は全力をもって捜査いたします!まずは、関所の通行調査申請と借金取りの男の組織に問い詰めを始めましょう!」
言うや否や、自警団何人かはすぐに出て行った。おそらく関所と自警団本部に向かったのだろう。残りの人たちは、黒ローブと借金取りの男の持ち物を調べている。続いて、受付嬢が一歩前に進んでから話し始める。
「冒険者ギルドも捜査に協力します!早速、重要捜索クエストとして発行し、街の中及び、街の外を調査します。有力冒険者にも声をかけましょう。…と言っても、既に有力冒険者の一組がここにいますけどね。ね?エルフの二人組さん?」
その言葉に俺は?マークを浮かべる。何で、この受付嬢は2人が実力者って知ってるんだ?
「…私達を知っているの?」
「いえ、噂程度のことしか知りません。そこにいる大きな人についても知りませんが、高齢とうら若き女性のエルフ2人組みの冒険者といえば最近有名ですよ?特に高齢のエルフがゴールドクラスでも上位実力者とか…。あなたも確か、僅かな期間でシルバーまで上り詰めたそうですね?」
「……。(マジで?確かにルドルフさんとエルミアが強いことは知っていましたけども。ルドルフさんゴールドクラスですか?…ゴールドってどれくらいだっけ?たぶん結構上位の位だと思うけど…、今思ったら俺って本当に二人のことぜんぜん知らないのな…)」
ちょっと、ガクッと肩を落としたのを見ていたのかエルミアが心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫よ。シルバーくらいならイサミならすぐになれるから!…それよりも、私達はすぐに街の外に向かうわ。あいつらがまだ街中にいるとは考えにくいもの」
「そうですね…。上位実力者には外を、それ以外の方には念の為、街中を捜索してもらいます」
「そうね、そうしてもらえると助かるわ。イサミ、悪いけどもうしばらくの間ここにいて頂戴。私達はすぐにあいつらを追うから。…何も情報が掴めなかったら2日で一度戻るわ」
俺が頷いて答えると、すぐに2人は外に出て行ってしまった。受付嬢もペコリと頭を下げてから出て行き、自警団の人たちも死体を持って出て行った。残ったのは俺とリレーアさんだけで、数時間前までは皆でにぎやかに話していた広間が今では沈黙が支配していた。
エンブレムは小さい手形くらいの大きさです。




