連れて行かれる者たち
話の舞台は、イサミが王都に到着する少し前ぐらいです。
所々で火の手が上がっている。無事な家は一つもなく、赤く炎に包まれていた。
「おらっ!さっさと歩け!」
「……ッ」
やや怒気を含んだ大きな声で、黒色のローブを被った男が叫ぶ。その声にビクッと怯えながら、数人が同じ歩調で歩いている。手足には鎖が繋がられていて、歩くたびにジャラッジャラッと音をたてている。
「もう少し静かにしなさい。問題ないとは思いますがあまり騒ぎたてるのは得策ではないですからね」
「へ、へい…。すいやせん…」
先ほど叫んでいた男が、後ろから現れた暗い赤色のローブを被った男に向かって頭を下げながら謝罪する。どちらが主従なのかがはっきりと分かる姿だった。現れた男は先ほどの叫んでいた男とは違い、ボロイローブではなく、綺麗な絹を使って作られた赤いローブを羽織っている。
「…司教様。村の制圧が終わりました。この村で生きている者は、この者達だけでございます」
先程とは違う別の黒いローブの男が現れ、赤ローブの男に報告する。その言葉に、手足を鎖で繋がれていた何人かが反応した。
「お、おい!俺達をどうするつもりだ!皆は…皆はどうしたんだ!?」
「黙ってろ!」
「ッグ!?」
1人の男が赤ローブに向かって声を発すると、黒ローブの1人が男を殴り飛ばした。男が倒れると、同じ様に鎖に繋がれた者達が心配そうに「だ、大丈夫?」と声をかけている。どうやら、男も含めて此処にいる者は、全員10代から20代前半ぐらいの若い者達ばかりのようだ。
「あ、あなた達は人間族ね!?こんな事をしてタダで済むと思っているの!?」
今度は女性が叫ぶ。その女性には犬の様な耳と尻尾が生えている。見れば、先ほど殴られた男にも動物の様な耳が生えていた。
「…答える必要はありません。連れて行きなさい!」
赤ローブが黒ローブの男達に、彼らを連れて行くように指示する。初め何人かは抵抗していたが、1人の男が徹底的に殴られた後、剣で胸を突きぬかれる姿を見ると大人しくなった。
「ふん、手間をかけさせる。まぁいいでしょう。これで仕事は達成ですね」
獣人達が牢屋の様な馬車に入っていく姿を見ながら、赤ローブは1人愚痴をこぼす。全員が収容されるのを見届けた後、一度、村であった場所へと目を向ける。そこには、先ほど収容していた獣人以外の屍が幾つも横たわっていた。中には生まれたばかりであろう姿も見える。だが、そんな光景を見ても赤ローブは何も感じることなく、仕事が成功しているかどうかを確認した。しばらく、見ていたが動くものはなく、赤ローブは問題無しと判断して、黒ローブの一人が準備していた馬に乗りこむ。
「た、助けて…」
出発しようとした瞬間、赤ローブの耳に僅かだが確実に声が聞こえた。声がした方を見ると、10歳いくかいかないかぐらいの少年が、焼けて崩れ落ちた家の下敷きになっていた。赤ローブは「ふむ…」と呟くと少年の近くに向かった。
「た、助けてください。あ、熱くて苦しい…」
「君。今年で幾つになる?」
必死に助けを悲願する少年の言葉を無視して、赤ローブは無機質な声で少年に質問する。
「きゅ、9歳です」
「そうか」
「助けて…」と今もなお、少年は懇願するが、そんな少年の思いをあざ笑うかのように赤ローブは笑みを浮かべると、馬を逆に向けて移動し始めた。
「!? ま、まって!」
少年は右手をのばす。助けを求めて。
「おい、あれを処分しておきなさい」
赤ローブは近くにいた黒ローブに指示を出す。黒ローブはニィと残虐な笑みを浮かべると、持っていた弓の準備をし始める。そして、弓を構えて矢を放つ。「や、やめ…!?」と声が聞こえたがすぐに何も聞こえなくなり、黒ローブが「処分しました」と報告に来た。そして、馬を進め始める。
「まったく、ちゃんと仕事をしなさい!漏れがありましたよ?」
「へ、へい。申し訳ありません!」
「おかげで、私が慈悲をくれてやることになったではないですか。私の慈悲は高いのですよ?」
「へへっ!司教様はお優しすぎますぜ!」
「そうでしょう?ふっふっふ!まぁ、あとで慈悲料として娘の何人からいただくとするかな?」
「へい!あの中でも器量良しを選別しておきます!…その、その後で構わないんで、俺達も美味しい思いがしたいんですが良いですかい?」
黒ローブが厭らしい笑みを浮かべながら、赤ローブに窺いたてる。赤ローブは一瞬、黒ローブを睨みつけると
「何を言っているのです?私は慈悲料を頂くだけ。お前達が貰えるわけがないであろう?」
「そ、そんな…」
「……だが、慈悲とは相手に与えるだけのモノだけではなく、時には相手から頂くモノでもあります。私が知らない間に彼女達から慈悲を頂いても、それは罰にはならないでしょう?」
「へ?…、そ、そうですな!さっスがは司教様ですぜ!あっしらも、あの娘共に慈悲を頂きますわ!」
「はて?何を言っているのか私には分かりませんね」
「いやぁ、すいません!あっしどもは頭が悪いので!はっはっは!」
赤ローブと黒ローブが笑う。他の黒ローブ達も話を聞いていたのか、今から品定めしようと牢屋をのぞきこんだりしている。
「ところで、次はどこに行くんですか?」
「資格がある者以外は奴隷商に売り飛ばすとして、資格がある者達はあの場所へと連れて行きます。その後は…、大司教様から何人か人間を連れてこいとのお達しがありましたね」
「今度は人間ですかい。となると、ここから近い王都セルジュークで?」
「そうなりますね。警備など賄賂を渡せばなんとでもなるし、人口も多いから一人二人いなくなってもそこまで騒ぎ立てる事もないでしょう」
「ですね!それじゃ、次は王都セルジュークに向かいます。…おっ?仲間の迎えが来ました。」
「うむ、それでは今日は休むとしましょう…。先ほどの件、お忘れなく?」
「へい!しっかりと選んでおきやす!」
その後、何人かの若い女性の悲鳴が虚しく響き渡った。その声に反応して助けに行く者はただ一人としていなかった。




