初めての獲物
キンッ!ガキンッ!!
剣と剣が打ち合う音が聞こえる。あぁこれは夢だな。なんて言うか、今の自分は夢の中の自分なんだとなんとなく理解できる。現に、俺の考えは関係なしに勝手に動いている。夢の中の俺は戦っているみたいで、互いに剣で戦っている。不意に夢の中の俺がふっと軽く息を吐くと、流れるような動きで相手の剣を弾き、隙だらけになった相手の上半身に向かって回し蹴りを喰らわせる。うん、現実の俺にこんな動きは無理だ。
夢の俺は回し蹴りで飛んでいった男の傍に近づくと喉元に剣を突きつけ
「俺の勝ちだな」(うわぁ、こんなセリフいってみてぇ)
そう言って、すぐに剣を引いて目の前に倒れている剣士に俺は微笑みながら手を差し伸べた。…なにこの青春野郎は?
「ッチ!相変わらずお前は強すぎる。」(いえいえ、それほどでも。)
悔しそうな顔をしつつも、相手を認めている感じを漂いさせながら素直に夢の俺の手を握り立ち上がる。
「~ッツ!ちぃ、思ったよりひどかったか。」(ありゃりゃ?怪我したのか?)
剣士が片腕を支える。どうやら俺が剣士に向かって回し蹴りを放ったときに腕で防御したようで、その時に怪我を負ったようだ。
「見せてみろ」(勝手に口が動くのって気持ち悪いぜよ。)
俺は剣士の腕をみて怪我がある場所の上に手のひらを添える。
「………」(お?おぉ?)
俺は手のひらに集中しているようだ。その感覚が伝わってくる。イメージで言うと、怪我をしているところを怪我をする前の元の状態に戻すようなイメージだ。恐らく治療させている事が分かるが…、不思議な感覚だ。これが回復魔法というものなんだろうか?そう考えているうちに俺は治療が終わったのか手をさげる。
「どうだ?」(え?マジで治ったのか?)
「おう!ばっちしだ!相変わらず、すげぇ力だな」(え?マジで?スゲー!)
腕が治ったせいで元気いっぱいに剣士は答える。そして再び剣を構える。
「さぁ、治ったんならもう一戦だ」(怪我が治った途端にまた勝負とか、子供か!)
「望むところだ!!」(俺ぇー!多分、俺!何で熱血しちゃってんの!?俺ってこんなキャラじゃないだろう!?)
そういって、互いに剣を構える。一応、俺は剣道をしていたが実際に真剣を握った事はない…はずなんだが今握っている剣はなぜかそこまで初めてといった感覚じゃなかった。むしろ、何度も握ってきた感じがする。そんな不思議な現象に混乱していると目の前が暗くなってきた。体は剣士と闘い始めようとしているというのに意識の方が眠ってしまいそうという感覚を感じ、遂には目の前が真っ暗になった。
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「グガァッ!!?」
目が覚めた時、感じたのは腹の激痛と喉の焼けるような痛みだった。痛みで声を発しようにも喉が焼けてまともな声が出ない。さっきまでのは夢だったのか。だとしたら覚めなくてもよかったのに…。と、やや現実逃避しようと思っても、苦痛で否が応でも現実に引き戻される。
「ガッ!!?グッ!!」
喉と腹の痛みは尚も続いている。痛みのせいか、せっかく目が覚めたのにまた目の前が霞んできた。意識が朦朧とする中、ふと俺は夢の中のことを思い出す。
「ググゥ!?(そ、そういえば、夢の、中の、俺は回復、魔法を使っていたよ、な!あの感覚を、思い出せ!!)」
俺は右の手のひらを腹に、左の手のひらを喉に当てる。動くと体がさらに悲鳴をあげるが、我慢して夢で見た感覚を試してみる。なぜかその時は出来るような気がした。夢の中と同じように、怪我をしているところを怪我をする前に戻すように、痛みが消えるようにイメージする。そして、
「カァッ!?カフッ!ハァ!ハァ!」
その考えは当たっていた。徐々に喉と腹の痛みが消えていく。何か暖かいものに包み込まれて、まるで怪我そのものが無くなっていくような感じだ。
「ハァ!ハァ!…ま、マジか」
痛みが消え、俺は荒い息をつきながらそっと手で怪我をしたところに触れて血が止まっている事を確認する。手のひらは俺の血で真っ赤だったがそれは先ほどまで出ていた血であり、新しく血が付くことは無かった。そんな手のひらをジッと見つめる。
「フゥ、フゥ…。これは…、さっきのは夢じゃなかった…のか?」
俺には幾ら考えても分からない。だが、先程見たものが夢だったとしても、なんとか助かったことだけは分かる。俺は、両手を伸ばし大の字になって上を見上げる。
「助かった…。はぁ~、初戦は俺の負けか。しかもウサギ相手に負けって…」
ゴブリンから逃げたことは初戦に数えない。あれは戦闘って言えないし。いや、ウサギとの戦闘も戦闘とはいえないぐらいみっともないけどさ。
「敗因は…慢心かなぁ」
ウサギなら勝てる。そんな甘い考えがこんな事態を引き起こした。ゴブリンの件で甘さを捨てなければと身をもって知ったはずなのに、この体たらく…。あ、なんか泣きたくなってきた。
「ふぅ~」
息を吐きながら、考える。ここは異世界だ。甘く見るな。そう自分に言い聞かせる。そして、
「(こんな逃げ出したくなる世界だけど、絶対にかわいい女の子はいるはずだ!それこそエルフ娘や犬耳娘がいるはず!なのに、こんなとこでウサギに負けたからって逃げて良いのか!?答えは…否だ!!)」
自分がオークになったことは今は捨て置いて、自分が可愛い女の子に囲まれている姿を想像する。そして「よしっ!」と掛け声と共に立ち上がり匂いを頼りに先ほどのウサギを追う。先ほどの回復魔法やら森から出る方法、衣食住について考えなければならない事がたくさんある。だが、今は!
「今度こそ油断せずにぜってぇしとめる!」
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「(いたっ!)」
ウサギは先ほどの事なんて忘れたのか、黙々と草を食べている。そんな姿を見ながら俺は静かに後ろから近づく。さすがに後10歩ほどのところでピクッと耳が動いてこちらに気がついたが、これぐらい近づけば十分だ。
「うおおおおぉぉ!!」
持っていた木の棒を振り上げてウサギに向かって走る。
「―――!!」
ウサギはまたしても超音波のような物を発する。ガツンッと頭を殴られるような錯覚がして、次第に貧血のような感覚に陥る。しかし今度は完全に眩暈を感じる前に、木の棒をウサギに向けて振り下ろした。
「~~~~!?」
攻撃の為の超音波と違い悲鳴に近い音を発しながらウサギはたまらず後方に飛ぶ。俺は、もう一度、木の棒を振りおろす。それに対してウサギは今度は横に飛んで避けた後で、素早い動きで俺に角を向けて跳躍してきた。それを見た俺は、
「ッ!?死に目に会うのは一度だけで十分だ!」
と言いつつ横に飛ぶ。ウサギは避けられた事に苛立っているのか。素早い動きで何度も突進してくる。俺は何度も避ける。何度か腕に擦れて制服が破け、血が出ているが気にせずに避け続ける。その間もどうすればこの状況を打開できるか必死に考える。
「(っち!早すぎるだろ!避けるだけで手一杯だ!…ッ!?)」
ドンッと背中に何か当たる。見ると背後に大木があった。避けることを気にしすぎて背中にぶつかるまで気が付かなかったようだ。
「ッ!!ここだ!」
と叫んで何度目か分からないウサギの突進を背後に大木を背にして避ける。すると、ウサギは突進力が強すぎたためか大木の前で止まれず、角を大木に突き刺してしまった。ウサギは身動きが取れなくなって必死に体を動かすが深く突き刺さった角は抜けない。その姿を俺は見つめがら、右手に力を入れる。
「…悪いな」
俺は、今から殺そうとしているウサギに向かって謝罪しつつ右手に持つ木の棒を何度も振り下ろした。
生き物に鈍器を振り落とす嫌な音が何度も耳に入る。傍から見ると見ていて吐き気が出てくる光景だろう。思わず目を、耳を閉じたくなるが俺が生きる為に殺しているのだ。決して現実から目や耳を背けてはいけないと心の中で強く思う。
「はぁ!はぁ!はぁ!」
ウサギの血が付いた木の棒を持ちながら俺はウサギを見る。ウサギは何度か痙攣した後、遂に動かなくなった。
「う、うおおおおおおお!!」
俺は、初めて獲物を手に入れたと言う歓喜の声を上げた。ウサギだけど!一回殺されかけたけど!!それでも初めての獲物を手に入れた事に感激し腹の底から声を出し喜んだ。
「おおおおぉぉ!ん?」
後ろのほうでガサガサと音がしたので振り返ってみると、喜んでいる俺の声に反応したのか、あるいは血のにおいを嗅ぎつけたのかゴブリンが草むらから現れた。どことなくだが初めにあったゴブリンに似ている気がする。ゴブリンは俺を見つけると獲物を見るような目で俺と俺の獲物を見る。
「お前か…」
初めの時は恐ろしかったが、今はウサギを殺した興奮のためか敵としてしか見えなかった。当然ゴブリンは殺気を俺に向けてきて、少し逃げたくなる。だが初めよりはまだ冷静でいられる。人間一度を経験すると慣れてしまう生き物と聞いていたがホントだったんだな。
「(ウサギの次の相手は人間型か…。見逃してくれるわけも無いよな)」
冷静に判断して、獲物を持ちながら体力が切れかかっている体で逃げ切れるとは思えない。得物を置いていけば逃げられるかも知れないがそれは絶対に嫌だ。なので、ここで仕留める。気がつくと、冷静に相手を観察してどうやって倒すか考えている自分がいた。
「我ながら成長したもんだ」
ゴブリンはこちらを見ながら笑みを浮かべている。その笑みの理由は逃げ回っていた獲物が他の獲物を捕まえて持っている、正に鴨がネギを背負っているようにしか見えていないからだろう。俺から見ても油断している事が分かった。
そんな姿を見て、俺は自分でも驚くぐらい思わず冷たい笑みを浮かべていた。目の前にいるのはつい先程までの俺だ。だが、前の俺と違って今の俺は油断する恐ろしさを知っている。そして、なによりも相手を殺す覚悟だってできている。
「ギャギャギャーー!!」
俺は脅すように棍棒を振り上げる。そして此方に向かって突進してくる。…なんて単調なんだろう。俺は避けて逃げるだろうと思い込んでいるかのように真っ直ぐに棍棒を振り下ろしてきた。速度も素人の俺でも分かる遅さだ。
「………」
冷静に棍棒の落ちる軌道を見極め、振り下ろしてきた棍棒を体を少しずらして難無く避けると、手にしている木の棒を驚いている俺の喉元の向かって力の限り突き上げる。弱点は知らないが喉元はどの生物だって弱点だろ。
「ッカヘッ!?」
声にならない悲鳴を上げながら地面に倒れ、喉を抑えながらのたうちまわっている。
「…俺が言えた義理じゃないけどさ…お前の敗因は油断だ」
ゴブリンが手放して落ちていた棍棒を取り上げるとようやく初めて俺に対して怯えた目で見つめた。そんな光景を俺は目に焼き付けながら俺の頭に力一杯に棍棒を振り落とした。
---数時間後---
俺は、池の近くまで戻ってきていた。今回、手に入れた戦利品を確認する。ウサギ、棍棒、少し刃毀れした小ぶりなナイフ、火打石、皮の胸当て。…正直、この皮の胸当てが少し臭いが我慢だ。
ゴブリンを倒した事により火打石とナイフが手に入ったのは本当に運が良かった。早速、枯れ葉を集めて火打石を使って火をおこす。やった事はなかったが、思ったよりうまく火を熾すことに成功した。その事にほっとしながら俺は種火が消えないように小さな枯れ枝をくべて、火が少し大きい程度の焚き火の前に座る。周りはすでに真っ暗になっており、火を見ていると心が落ち着いてくる。
「さてと…。あんまりしたくないけど…」
しばらくの間、焚き火を見ていたが、腹が減ってきたので行動を起こすことにする。俺はウサギを取り出して、ナイフを構える。今から行うのは、肉の解体だ。ウサギを解体なんてしたことないし、正直グロイことはしたくないが、これも生きる為だと半ば諦めて、ナイフをウサギに当てる。
「………オエエエェェェェ!!」
か、覚悟していたとはいえ、解体途中で何度か吐きそうになった。幸い腹の中には何もなかったので吐く事はなかったけどさ。
何度も挫折しかけたが何とか皮と肉を切り分た。内臓に当たる部位は取り出し、穴を掘って埋めた。食べれる部位があるかもしれないが俺には食べる気になれなかった。皮は池の近くに軽く穴を掘って水を貯めたところで良く洗って岩の上に置いて乾燥させる。肉はできるだけ血を抜いてからを枝にさして焼く。初めは血生臭かったが次第にいい匂いがしてきて色的にも大丈夫と思えたので、ウサギの肉を口にする。
「はむっ…。もぐもぐ、ごくんっ。…うまい!」
味付けも何もあったもんじゃなかったが、腹がすいた状況ではとてもおいしく感じられた。
食事を終えて、残りの焼いた肉を大きな葉に包んでおく。焼いておけば明日ぐらいはもつだろう。そうしてから、多くの枝を火を絶やさないようにくべた後、寝ているときに何も来ないように祈りながら、俺は眠りについた。
サバイバル技術があると便利ですよね。キャンプくらいでしか使いませんが。