天網恢恢疎にして漏らさず
俺たちはリルリカちゃんの後を追っていた。リルリカちゃんは嬉しいのか少しスキップ交じりに走っていて、俺達が後ろから追いかけている事に気付いていないようだ。そんなリルリカちゃんに気付かれないように、やや距離を取って隠れつつも見逃さないように追いかけていた。
「“なんで隠れながら追いかけているの?”」
「分かってないなぁ、イサミさん。こう言うのはバレない様に追いかけるのが筋っちゅうやつなんよ?と言うか、イサミさんって文字で話すんやな。まぁ口で話せないんなら当然かぁ」
「最近、文字を教えたのよ」
「ほう…、エルミアさんは教え方がお上手のようですね。最近、教えたにしては上手く理解して使いこなせている様子。それに文字もとても丁寧で綺麗な字ですし、イサミさんは予想以上に賢いようですな」
ルノリックさんが俺の文字を褒めてくれたので、俺とエルミアは2人同時に頭を書きながら「いやぁ、それほどでも」と照れながら答えた。その間にも、リルリカちゃんは迷路の様な道を進んでいく。
「…ふむ?この辺りはスラム街の様ですな。このような所に医者がいるのでしょうか?」
今いる場所は、小奇麗で活気があった人通りの多い大きな道とは違い、建物のせいで日の光があまり入らず薄く暗く、所々にゴミが落ちていたり、人が地面に座って寝ていたりしているスラム街の一角だった。
「こんなとこでも、まだマシな部類の所ですけどねぇ。とは言え、あんなに小さな女の子が1人でいるのは感心できへんな」
「リルリカちゃん、こんな所に来てたりしてたのね。思ったより勇気があるのか、それとも単に何も知らないで此処に来ているのかは分からないわね。…後で、注意しておかないと」
しばらく進むと、リルリカちゃんが少しボロくなった二階建ての家に入って行った。
「ここかぁ」
「ふむ、ここの医者はちゃんと医療ギルドに登録はちゃんと登録しているのでしょうか?登録していれば多少の援助金を受け取る事が出来るはずなのですが。」
医療ギルドなんてあるのかぁと思っていると、俺以外の皆が窓の近くによって中を確認しようとしていた。驚いた事にマロクだけでなく、エルミアやルノリックさんもなんかノリノリで、バレない様に窓の近くに寄っていた。
「(こ奴ら…、俺も混ぜてくれぇ~!)」
俺も他の皆の様に窓によって中を確かめることにした。
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「先生!薬を持ってきました!」
中ではリルリカちゃんが嬉しそうに薬を持ち上げていた。
「ん?薬を持ってきただと?」
奥から頬がこけて、髪がぼさぼさの眼鏡をかけた男が出てきた。
「あ~、なんだ、お前か」
「はい!この前、薬の材料を持ってくれば高く買ってくれると言ってくれましたよね!材料じゃないけど薬を持ってきました。高く、買ってくれますか?」
よっぽど嬉しいのか、リルリカちゃんの声がいつもより大きい。それを五月蠅いとでも言いたげな顔で、男はリルリカちゃんを見ていた。
「あぁ、この前のあれか。そんなもん冗談だったんだがな。まさか、本当に持ってくるなんてな」
やや、小さな声で男は呟く。リルリカちゃんは聞こえなかったのか、頭に?マークを浮かべて首をかしげていた。
「まぁいいや、どれ見せてみろ。本当に薬なら買い取ってやる」
「はい!お願いします!」
男はリルリカちゃんから小瓶を受け取ると、珍しい物を見るような目で見る。
「こりゃあ、どこから盗ってきたんだ?」
「盗ってきてません!貰ったんです」
「ふーん、まぁ良いや。待ってろ」
男は近くにある机の中からスポイトと小さな白い紙を取り出すと、薬を一滴だけ紙に垂らした。すると、紙が白からだんだんと薄い青色に変わっていった。
「!?こ、これは!」
男が驚いたような声をあげる。横にいたルノリックさんもそれが見えていたのか、驚いたように少し目を見開いていた。
「せ、先生?どうですか?」
「あ、ああ。これは大したことはないな。3000アルム(銀貨小3枚)で良いだろう。ほら、受け取ったらとっとと出て行け!俺は、忙しいんだ!」
「え!そんな!?もう少し、高くなりませんか!?お母さんを助けたいんです!」
「知るか!こんなどこから持ってきたのか分からない物を買って貰うだけでも有り難いと思えガキが!ほら出て行け!」
「そ、そんな…」
予想していたよりも少なかったのか、リルリカちゃんはがっくりと肩を落とす。…そんなに、残念なのだろうか?
「“薬ってどれくらいの値段なの?”」
俺は、エルミアにこの世界での薬の値段について聞いてみる。
「そうね…。品質や使用用途によって値段が変わってくるけど、普通の風邪薬だけでも1万アルム(銀貨大1枚)はするわね。あの薬がどれくらいの物なのかは分からないけど、あきらかに安すぎるわ」
風邪薬で銀貨大一枚分!?高すぎだろ!?車や電車もそうだったけど、今こうやって思い返すと本当に現代日本って凄かったんだな。
「えぇ、それにあれは……失礼」
いきなりルノリックさんが立ち上がり家の扉をあける。そんな急の行動に驚いてしまい、一瞬動きが止まってしまったが、やや遅れて俺とエルミア、マロクが続いて中へと入る。
「失礼しますよ」
「あぁ?誰だ?お前らは?」
眼鏡をかけた男は、いきなり侵入してきた俺達に訝しげな視線を投げる。リルリカちゃんは俺たちに気付くとどうしてここに?と言った感じの顔で驚いていた。
「私どもはそこにいらっしゃるお嬢さんのお知り合いです」
「あ?知り合い?…で?そのお知り合いが此処に何の用だ?」
「失礼ですが、先ほどまでのお話を聞かせていただきました。お嬢さん、よろしければ私にその薬を売ってくれませんか?」
「え?」
いきなり話を振られてリルリカちゃんはあたふたしている。こういう姿を見ているとやっぱりまだ子供なんだなぁと感じる。
「あぁ!?待て待て!この薬は俺が買い取ったんだ!もう俺のもんだ!」
「もちろん、あなたがその薬の価値を理解して正当な値段で買い取った物であれば、私も文句を言うつもりはありませんでしたが…。あなたはこのお嬢さんを騙して買い取ろうとしていたでしょう?」
「あぁ!?何言ってやがる!」
「その薬は…ただの薬ではないでしょう?先ほどの鑑定紙を見ていたので分かりますよ」
「お、お前!?鑑定紙を知っているのか!?」
「えぇ、少し医療学をかじっているので」
何やら良く分からない事を話している。俺は言葉が右から左に流れて行っている会話をよそに、辺りを眺める。かなり色々な物が散乱している部屋だ。片づけが苦手なタイプの人なんだろう。あぁ、なんか俺の部屋みたいだなぁ。
「…それは英雄級の薬ですね?」
「「英雄級!?」」
俺がボーッと部屋を見ていると、急にマロクとエルミアが声をあげた。リルリカちゃんも俺と同じように、何が何やらと言う顔をしている。良かった俺と同じような子がいて。(自分の頭が小学生レベルと言う事に気付いていません)
「英雄級の薬なんすか!?師匠!?」
「えぇ、先ほどの鑑定紙の色が白から薄い青色に変わった事が何よりの証拠です」
「英雄級の薬が3000アルムって…」
「っく!?」
眼鏡をかけた男が悔しそうな声をあげる。
「あなたが持っているその薬は本来なら100万アルム(金貨10枚)以上で売買されるものです。…なぜそんな物をイサミさん…いえ、彼女が持っていたのかは分かりませんが、決して3000アルムで買い取れるような品物ではありません」
100万アルム!?どんだけだ~!!と思っていると、一瞬、ルノリックさんが俺の事を見たので、俺は視線が合わないようスッと横を見た。いや、確かにそんな高級な物をなんで俺が持っているのか不思議に思うよなぁ。
「気になる事がありますが、今は置いておきましょう…。すみませんが、あなたのステータスカードを見せていただけますか?医療ギルドに登録しているんですよね?」
「そ、それは…」
男が答えづらそうな声を出す。
「…お見せできないと言う事は登録はしていないと言う事でしょうか?」
「………」
ルノリックさんの質問に男はただ黙っている。
「登録もせずに医者を名乗り、薬の無許可売買はギルドで厳しく規制している事はご存知ですよね?」
「あ、あぁ…」
「まぁ、今回はあなたが自分で医者と名乗っていない以上、あなたが価値も分からずに薬を買おうとしただけのただの一般市民、として見逃すことが出来ますよ。どうします?」
「……っく!?」
本当に悔しそうに、男は手に持っていた薬をルノリックさんに手渡す。
「結構。まぁ、以降は気をつける事ですな。…医療ギルドに登録する事が大変なのは察しますが、無許可で医者を名乗るのは危険だと言う事を知っておきなさい。特に、医者と偽り薬を無許可で売買など以ての外です」
「……」
男は最後までずっと黙ったままだった。
今更ですが、この世界でのレア度についてご説明します。
レア度 最高10神話級 濃紫
9伝説級 薄紫
8国宝級 濃青
7英雄級 薄青
6最高級 濃赤
5高級 薄赤
4良品質級 濃黄
3やや良質級 薄黄
2普通 緑
1やや粗悪品 薄黒
0粗悪品 濃黒
色は今回出てきた鑑定紙で識別する色です。
わかりづらくてごめんなさい<(_ _)>




