小瓶の中身
俺たちに声を掛けてきたのは、王都に向かう途中で一緒の馬車に乗っていた、ややぽっちゃり体型の優しい笑みを浮かべる商人のルノリックさんと、その弟子で、髪が茶色でどこか軽そうな見た目だが、実際は結構話せるタイプの青年マロクであった。
「お久しぶりです。なにやら騒いでいたようですが、どうされました?」
どうやら、偶然通りかかった所を俺達が騒いでいたのでこちらに気付いたようだ。
「あっ、…いえ、なんでもないわ。ちょっと話声が大きかっただけよ」
「そうですか?それにしては、やけに騒いでいたような…」
エルミアは咄嗟にルノリックを誤魔化そうとする。流石に、腕から花が咲いて小瓶が出てきたと言っても信じてもらえないと思ったのか、或いは下手に喋ると厄介なことになるかもしれないと思ったのかもしれない。見た事もない魔法を発見したとなると大変なことになるだろうし…。
ルノリックさんとエルミアが話している間にマロクが俺とリルリカちゃんの所にやってきた。
「久しぶりやん!元気にしてたか?」
俺は頷いて答える。マロクは「さよか!」と言ってリルリカちゃんの方に向く。
「おりょ?嬢ちゃん、何持ってんのや?」
「え?これですか?イサミさんが出した物です」
マロクがリルリカちゃんが持っている小瓶に興味を持ったようで、「見てもええか?」と聞いていた。リルリカちゃんも、俺とマロクが知り合いと言う事を知った為か、特に断る事もなく小瓶を手渡した。
「あんがとな。ん~、これは液体やな。色は透明度の高い薄い緑色の液体かぁ。開けてもええか?いい?あんがとな!」
やや強引な気もするが、リルリカちゃんが頷いてくれたので、マロクが小瓶のコルク栓をポンッ!と開けて中の液体の匂いを確かめる。…もし、嫌がるリルリカちゃんを無視して開けたらぶっ飛ばしていたけどな!
「うーん、ハーブみたいな薬品特有の匂いやね。でも、なんか薬品の匂いにしては良い匂いやな~」
「マロク?何をしているのですか?」
「師匠、これを見てくださいな」
マロクが何やら確かめている事に興味を持ったルノリックさんがこちらにやってきたので、マロクが小瓶を手渡す。
「これは?」
「このお嬢ちゃんが持っていた物ですわ。なんか珍しいもん持っているさかい、見せてもらってたんです」
「なるほど」
ルノリックさんがリルリカちゃんに「よろしいですかな?」と一声かけてから、マロクから小瓶を受け取る。ルノリックさんが小瓶の中身を見るとやや驚いたような顔をする。
「これは…一見何かの薬の様ですが、見た事もない薬ですね…」
マロクが「でしょ?」と言って師匠と一緒に小瓶を眺める。
「非常に興味深い品ですな。失礼ですが、譲っていただけませんか?」
ルノリックさんがリルリカちゃんに言う。すると、焦ったように俺を見上げてきた。
「これは、イサミさんが出された物ですから。私の物じゃ…」
「“いや、好きにしていいよ。この人に売っても良いし、或いはさっき言っていた医者に売っても良いよ?”」
「!?イサミさん!!」
「…なにやら、事情が御有りの様ですな。いや、先の言葉は忘れてください。先客がいるのでしたら、そちらを優先して下さい」
リルリカちゃんはルノリックさんから小瓶を受け取ると、本当にいいの?と言うように俺を見上げてきたので、俺は頷いて応える。すると、「本当にありがとう!イサミさん!」と言って駈けて行った。恐らく、医者の場所へと向かったのだろう。
「むぅ、こう言っては女々しいですが、やはりあの薬は気になりますな。私たちも後を追ってもよろしいですかな?どのような効能があるのか非常に興味がありますし、ちょうどお医者様に売られるのであればご意見を聞けるかもしれませんから」
「別に良いんじゃない?さっき(豊穣の恵み)の事も気になるけど、薬やリルリカちゃんの事が気になるわ。私たちも行きましょ?」
俺もそこまで言うつもりはないので頷いて答えると、ルノリックさんとは「ありがとうございます」と言ってリルリカちゃんの後を追う。
「(あの薬、高く売れれば良いんだけど)」
『(問題ないと思うわよ?むしろ、違う意味で問題が起きるかもしれないけど)』
「???」
この時、俺はマリンが言った言葉意味が分からなかったが、すぐ後に理解することになった。




