初依頼達成
「うわ…、グロイな」
異世界にきてから何度かゴブリンの死体とか見たけど、今回は体中穴だらけで真っ赤な血だまりが出来ていてい正直あまり長い間見ていたくないものだった。
「早いとこ、片づけよう。“ペオルの裂け目”」
目の前に、岩でできた扉が出現し、重々しく開く。これで二度目だが、前回と同様に底がみえない谷のように扉の向こうは真っ暗だ。俺は扉の中へ、沢山のマンドラゴラとマンドラゴルを入れる。マンドラゴルの体は大きいので、入れるのに時間がかかってしまった。
「ふぅ…、疲れた。あっ!?今どれくらいの時間が経ったんだろう?」
エルミアと三時間後に合流する事を思い出す。戦闘があったせいで時間がどれくらい経ったのか分からない。
「早い所さっきの場所に戻って吐草を取ってこないと」
剣を鞘に納め、ペオルの裂け目が消えるのを確認すると、マンドラゴルが最初に居た場所へと向かった。
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「おっ?あったあった!」
目的の場所に辿り着くと、倒れた腐りかけの木の陰に吐草が沢山咲いているのを見つけた。近くによった事で、匂いを意識してしまって涙が出てきそうだ。出来る限り意識しないように、吐草を摘んで腰の袋に入れていく。全部で9個あった。
「よっしゃ、これでノルマは達成できるな。早いとこ合流地点に戻るか」
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最初に吐草を手に入れた合流地点に着くと、そこには既にエルミアが戻ってきていた。
「あっ!イサミ、どうだった?私は2個しか見つけられなかったんだけど…」
「“あったよ。9個”」
「9個も!?凄い!よくそんなに見つけられたね!」
「“鼻がいいから”」
「鼻?あぁ、匂いで探したってこと?へぇ~、吐草ってそんなに匂うんだ」
エルミアが吐草に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。俺はその姿に、よせっ!?と言おうとしたが、エルミアは別に平気そうだった。
「別にそんなに匂いしないけどなぁ。ちょっと酸っぱいような匂いがするぐらいかな?」
マジか…。俺だけなのか?この吐草が嘔吐物の匂いに感じるのは。
俺は鼻が良い事が、必ずしも良い事ではない事を思い知ったのであった。
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王都に戻った頃にはすっかり夕方になってしまった。あまり遅くなるとルドルフさんが心配するかもとエルミアが言ったので、少し早足でギルドに向かっていたのだが、途中で何度か武装した冒険者のグループとすれ違った。冒険者グループ自体は珍しくないが、武装した冒険者グループと何度もすれ違うのは珍しい。
「??やけに武装した冒険者たちが多いわね?何かあったのかも」
エルミアの言葉に頷きながらも足を止めることなく歩いていく。ギルド本部がある場所に着くと、ギルドの近くには仲間を待っていると見受けられる冒険者たちが沢山いた。俺とエルミアは、冒険者たちの間を通り過ぎてギルドに入る。中は外以上に人で一杯だった。
「は~~い!マンドラゴル討伐依頼受注の方はこちらでーす。押さないでくださいね~」
「(ん?マンドラゴル?)」
カウンターで幾人の受付嬢が沢山の冒険者たちと依頼手続きを行っていた。中には俺の冒険者登録を行ってくれた可愛い受付嬢もいた。
「は~い、次の人…、あっ!?イサミさん達じゃありませんか!無事だったんですね!」
俺たちに気付いた受付嬢がこちらに向かって手を振ってくれた。待っていた人が譲るように席をどいてくれたので、俺とエルミアは軽く一礼してから受付嬢の元に向かった。カウンターに着くと受付嬢がこれ以上ないくらいの屈託のない笑顔を向けてくれた。
「よかった~。お二人が依頼場所に向かった後で、マンドラゴルの出現情報がきまして、お二人が無事かどうか心配だったんです」
「え?マンドラゴルがいたの?」
「(あっ、マンドラゴル、俺が倒したんだけど)」
「そうなんですよ!どうやら森に生息するマンドラゴラを食べにやってきたみたいですね」
「そうなんだ。残念だけど、私たちは出会ってないわ。でも、準備もしていないし、下手に会わなくて良かったと考えるべきね」
「ですね!怪我が無い事が一番です!…そういえばもう帰還されたと言う事は依頼の物が手に入ったのですか?」
「えぇ。イサミ、吐草10個取り出して?」
俺は頷くと腰の袋から吐草10個を取り出す。
「えっと…、はい確かに!これで依頼達成です!ご苦労様でした!依頼書とギルドカードを出してくれますか?」
俺とエルミアはギルドカードと依頼書を受付嬢に手渡す。受付嬢はカードと依頼書を受け取ると、依頼書にでっかい判子をバンッ!と押してから2枚のギルドカードと一緒に水晶玉に入れた。依頼書は水晶玉に入ると、光の粒子に変わって二つのギルドカードに吸い込まれていった。
「(うーん、相変わらず此処だけゲームッぽいよなぁ)」
「はい!これで完了です!はい、イサミさん!それと、えっと…エルミアさん!」
受付嬢はギルドカードを見てエルミアの名前を知ったみたいだ。まぁ、それぐらいどうと言う事ではない。実際エルミアは気にしていないようだ。
「今日はこの後はどうなされますか?」
「もう良い時間だから帰るわ」
「そうですか…。では、帰る前にお酒一杯どうですか?今回はイサミさんの初依頼達成を記念して、一杯だけ無料で差し上げますよ?」
「へぇ、けっこう太っ腹ね。イサミどうする?」
「“断る理由がないし、貰うよ”」
「そうね。それじゃ、一杯だけ貰える?」
「はい!あっ!もちろんエルミアさんも無料ですよ!太っ腹でしょう?でも、私の体はスマートですからね♪」
最後は片眼を閉じて、俺に向かってウィンクしてきた。やばい!超可愛い!やっぱり美人さんが言うとなんでも様になるんだなぁと思いながら、席を探しているとエルミアに足を踏まれた。
「あっ、ごめん」
エルミアがまるで心に思っていない様な声で謝ってきた。あれ?エルミアちゃん、怒ってない?
顔が見えないからわからなかった。
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受付嬢たちが忙しそうにしているカウンターから少し離れた場所で、貰った酒を飲んでいると、
『イサミ!我にも飲ませろ!』
と、ヤシロが勝手に契約具現して服の中から出てきたので、焦りながらエルミアに見えないように酒の入った器をローブの中に入れる。見えないが器に何かが入って動く感触がする。またヤシロが頭を突っ込んで飲んでいるんだろう。
酒を奪われて暇になったので、受付嬢達のいるカウンターの方を見る。今も沢山の冒険者たちが依頼手続きをしていた。俺は気になっていた事を、横でちびちびと酒を飲んでいるエルミアに聞く。
「“なんであんなにマンドラゴル討伐が人気なの?”」
「マンドラゴルが気になるの?そうね~、マンドラゴルは頭に花が咲いているんだけど、その花が上位薬の材料になって高く売れるの。でも、マンドラゴル単体はシルバークラスの腕がないと難しくて、沢山の冒険者が犠牲になる事が多いわ」
「“なら、あの人達は全員シルバークラスなの?”」
「多分、違うわ。マンドラゴルは確かに強いけど、ちゃんと準備して集団で相手すればブロンズでも倒せる相手なの。それに…」
「“それに?”」
「マンドラゴルが人気な一番の理由は、マンドラゴルには沢山のマンドラゴラが寄ってくるの。普段は地中に潜ってて簡単に見つからないし、見つけてもゴールドクラスの冒険者じゃないと危険で採取出来ないんだけど、マンドラゴルに寄ってくるマンドラゴラは自分から這い出てくるの。一番の脅威である悲鳴を上げたりしないから、確保するのも容易い。だからそれを目当てにマンドラゴル討伐を受けてるんでしょうね。マンドラゴラもマンドラゴルの花と同じくらい貴重で高く売れるから」
なるほどね。あの冒険者たちはマンドラゴルよりも、それに寄って来るマンドラゴラに夢中って事だ。マンドラゴル討伐依頼を受けて、マンドラゴルを討伐或いは探している最中で、あわよくばマンドラゴラを手に入れる事がが出来ればと考えての事だろう。それにマンドラゴラばかりを採取している間に、他の冒険者チームが目的のマンドラゴルを倒してくれる可能性もある。自分から契約を反故にしたらともかく、他人が契約を達成した為に契約が完遂できなかった場合は、契約違約金が取られないのかもしれない。だからこそ、低レベルの冒険者でも沢山のお金を稼ぐチャンスなのだろう。
ずる賢いのかもしれないが、下手をすると命を落とす事になるかもしれないのだ。それぐらいの知恵を働かせないと冒険者は出来ないのだろう。そう考えると結構、理に合っているなと冒険者たちに感心していると、ギルドの扉の方から大きな声がした。
「お願いです!マンドラゴルの花を取ってきてください!」
頑張って大きな声を出していたのは、慣れない場所に来たせいか少し震えているリルリカちゃんだった。




