露理魂
タイトルがアレで、ホントすみません
王都セルジュークにほのかに暖かい朝日が降り注ぐ。窓から見えるその光景を横目に、俺はローブを羽織る。…気を許すとあくびばかり出てくる。昨日は深夜まで起きていたので眠くて仕方がない。
ブロードソードを腰に差してから部屋を出る。下に降りると卵とハムを焼く良い匂いがする。
「あっ!イサミ~!おはよう!」
「おはようございます。イサミ殿」
「おはよう!イサミさん」
「あ、あの!おはよう、ございます。イサミさん…」
下の食堂のカウンターにはすでにエルミアとルドルフさんが座っていた。キッチンにはリレーアさんが料理しており、出来上がった料理をリルリカちゃんが運んでいた。
「“おはよう!みんな!”」
通話用のメモ帳に文字を書いて自分の意思を伝える。それをみて皆笑顔で頷く。良い人ばっかやなぁ~。というか、皆早起きだね。
エルミアが隣の席をバンバンと叩いて、早く座れと主張しているのでそこに座る。座るとリレーアさんとリルリカちゃんが料理を運んできてくれたので、俺は礼を言ってから食べ始める。うめぇ!このスクランブルエッグとろとろだぜ!
「お嬢様、今日はどうされますか?」
「う~ん、特に予定もないし。自由行動でいいんじゃない?」
2人が話しているのを聞きながら俺はリルリカちゃんが持ってきてくれた果物ジュースを飲む。今更だけど、この宿って俺達しかいないのだろうか?こんなに飯がうまいと言うのに。リレーアさんは見た目は、30後半と言った感じで妙齢の人妻独特の魅惑を醸し出しているうすい緑髪で胸の大きい美人さんだし(言葉づかいはおばちゃん臭いが…)。リルリカちゃんと言うマスコットキャラもいる。人気にこそなりそうなのに、なぜこんなに人がいないのだろう?
「自由行動ですか。ならば私は鍛冶屋の所に行ってこようと思います。一度本職の方に手入れをしてもらいたいので」
そういえば、ルドルフさんの剣は木を貫いたり盗賊や狼と連戦したりとかなり無茶したもんな。細い剣だからなおさら手入れがいるんだろうな。
「わかったわ。イサミは?どうする?」
俺?どうするかな~。そういえば結局、あの後、勇者の件があって魔法の試し打ちがまだだったな。
紙に魔法の試し打ちをしたいと書こうとペン(こっちの世界の鉛筆?)を持とうとすると
バンッ
と大きな音が宿の入り口からした。
「お~い!リレーアさぁ~ん?借金の取り立てですよぉ~?」
聞いていてムカついてくるような声を出しながらこちらに三人の男が入ってきた。三人とも時代錯誤のようなリーゼントをしていた。
「おいおい!ホントに客がいるんじゃん!と言う事は金が入ったってことだよなぁ!」
三人の中の1人がこちらにやってくる。リレーアさんが慌てて対応するように男に向かう。リルリカちゃんは怖がるように俺の傍に来てローブの端を掴んでいる。なんか俺を頼られているようでちょっと嬉しい…。
俺がくだらない事を考えている間に、リレーアさんと男達が言い争っている。
「ですから!先月の分はちゃんと支払ってでしょう!お客様に迷惑がかかるから帰ってちょうだい!」
「あぁん?借金してんのはそっちだぜ?借りたもんは返すのが常識って奴でしょうが?」
「ッ!?そんなこと言われても今は支払える分がないのよ!」
「はぁ~!?だから、前から言ってんだろうが。払えねぇんだったら体で払えってな!」
「そ、そちらの指定した日にちゃんと一定分返却しているでしょう!?」
「へっ…聞いてるぜぇ?返済日前に近所の奴らからちょっとずつお金を借りて回っているってなぁ?でも、もうそれも限界なんだろ?」
「なっ!?なんでそれを!」
「さぁ~?なんででしょう?そんなことより、どうするんだぁ?もう払うあてが無いんじゃないのかぃ?」
「そ、それは…」
リレーアさんが悔しそうに押し黙る。どうやら図星らしい。
「へっへっへ!心配すんなって。俺が1月分肩代わりしてやっても良いんだぜぇ?俺は優しいからなぁ?まぁ、ちゃんと対価は払ってもらうけどなぁ!」
男が笑いながらいやらしいでリレーアさんを舐めまわすように見る。見られる事が嫌だったのかリレーアさんは片手で胸の上を隠しながら一歩下がった。
「まぁ?アンタが嫌だっていうんだったら別に良いんだぜ?そんときはアンタの娘を売れば良いだけの話だしな」
男がリルリカちゃんを見る。リルリカちゃんは男の視線が怖かったのか「ヒッ」と言って俺のローブの中に潜り込んだ。その事を見ていた男が「あん?」と言いながら俺を見る。こええ!ヤンさんに睨まれるとかマジで勘弁!
「娘は関係ないでしょう!」
「関係あるんだよ。親の失態は娘が払わないとなぁ?ん?」
男は俺の横のエルミアに気付く。今までリレーアさんで上手く死角になって見えなかったらしい。今のエルミアはローブを被っていなかった。
「おいおい!!すげー美少女がいるじゃねぇか!ん…!?しかもエルフだぜ!?」
「何?貴方達は?」
さっきから喋っている男がエルミアに近づこうとする。そんな男たちに対して、ビックリするほど冷たい声を出すエルミアちゃん。そして、俺は見てしまった。ルドルフさんが静かにレイピアの柄に手を伸ばしている事に。お、落ち着いてルドルフさん!
「へへへ!なぁアンタ!何て名前だ?」
「貴方なんかに教える名前は無い」
「へっへっへ!気が強いねぇ!好きだぜ?そういう娘!」
言い寄ってきた男が、俺を肩で追い出してエルミアの隣の席に座ろうとしてきた。しかし肩がぶつかったと思ったら、なぜか男の方が力負けしたかのように後ろに下がってしまった。
「??」
「ッ!?なにすんだ!テメェ!!」
「イサミ?」
俺は何もしてないんだけど?と思いながら、足元にはリルリカちゃんがいるので危なくない所に連れて行こうと立ち上がる。立ち上がると男達は思ったよりも身長が大きくなくて、自然と俺が見下ろす形になった。(男達からはローブで顔が見えない太った巨漢にしか見えていません)
「!?やんのか!こら!!」
さっきからうるさい男の人が慌てたように叫ぶと、後ろの二人も慌てて剣の柄に手を伸ばす。
「(ひぃ!ヤンさん怖えぇ!こ、こういうときってどうすればいいんだ?死んだふり?いや?それって熊だよな?でも、実際に死んだふりって意味がないって聞いたしなぁ…。それとも…)」
俺があ~だこ~だと考えながら無言のまま突っ立っていると、何故か怖気ついたかのように男が一歩下がる。
「ッ!?きょ、今日は勘弁しといてやらぁ!おめぇら!いくぞ!」
「「へ、へい!」」
「(あれ?)」
男達が慌てたように出て行った。俺は訳が分からないまま呆然と男達が去っていった入り口を見ていた。まぁ良いか、と席に座ろうとすると視線を感じたのでそちらを見る。そこには、目を輝かせたリルリカちゃんとエルミアがいた。
「「イサミ(さん)、かっこいい!!」」
……誰かこの状況を説明してくれ。
男達が出て行った後、リレーアさんがお詫びと言ってジュースを出してくれた。
「見苦しいところを見せちゃったね」
リレーアさんが苦笑いをしながら台所に入っていく。
「リレーアさん、さっきの話は本当なの?」
「えぇ…、死んだ夫の弟さんが多額の借金を抱えて夜逃げしちゃったらしくてねぇ。夫の両親はもういないから、私達が借金を払わないといけなくなったの」
「なにそれ…。そんなの、リレーアさんが払わなくていいわよ!」
「そういうわけにもいかないのよ、エルミアちゃん」
リレーアさんが娘をあやすような優しく微笑む。そんな顔をされてこれ以上とやかく言えなくなり、エルミアは納得いかない顔をしながらジュースを飲んだ。
「“一応聞いておきたいんですが。借金はどれくらい?”」
「全部で30万アルムよ。10万アルムは返済したから、あと20万アルムね…」
「30万アルム!?」
エルミアが驚いたように言う。ルドルフさんも驚いているが、俺には多いのか普通なのか微妙に分からない額だな。この世界での貨幣価値が分からないからな。
「“あとどれくらいで返済できるの?”」
「そうね~、はやくても10年はかかるでしょうね」
じゅ、10年!?予想以上に多かった。
「イサミ、この国での成人男性の平均年収は約2万アルムいけば良い方よ」
「(なるほど、それぐらいなのか……借金多すぎだろ!?)」
俺が改めて借金の額に驚愕していると、リレーアさんが困ったような顔する。
「…私はどうなってもいいの。でも、娘だけは絶対に守ってみせるわ」
リレーアさんがさっきから俺の膝の上に座ってご機嫌のリルリカちゃんを見る。今はまだ大丈夫かもしれないが、数年後に借金が返せなくなったらさっきの男が言ったようにリルリカちゃんが連れていかれるのかもしれない。
「(リルリカちゃんがあんな男共に連れて行かれて好きにされる?)」
俺が見ていた事に気付いたのかリルリカちゃんが俺の方を向く。
「??」
どうしたの?と言いたいような顔で首を傾げている。薄い緑の髪を背中まで伸ばし、まだ幼い顔だが親のリレーアさんの美貌を引き継いでいる面影がある。その顔には数年後にはきっと美少女になる事が容易に想像できる。そんな可愛い子の首を傾げるその姿は見る人が見れば歓喜極まる姿だろう。
「(ちょ、ちょっと期待……違う違う!!そんな事は絶対に許さんぞ!!)」
俺が心配いらないよと言うようにリルリカちゃんの頭の撫でてあげると、とてもうれしそうな顔で微笑んでくれた。
「(守りたいこの笑顔!)」
『ふむ、これが露理魂と言うやつか…』
ヤシロがなにか言っているが俺には聞こえない!イエス!リルリカちゃん!ノー!男ども!綺麗なつぼみは俺が絶対に守ってみせるぜ!




