戦闘レベル測定試験---彩華---
「それでは早速、戦闘レベルを計測したいと思います」
エゴールさんと広場に戻ると、先ほどまでは無かった木で作られた人形が置いてあった。人形の傍に女の人が立っている。
「準備はできていますか?」
エゴールさんの言葉に女性が頷いた。その後、エゴールさんが「ご苦労様です」と言うと広場から退出していった。
「それでは試験を開始します。こちらにあるのは試験用人形のダミードールです。この人形は相手のレベルに合わせた強さになるようになっており、試験として良くつかわれるものです。まぁ、合わせられるレベルの上限はありますが」
木で作られたように見える人形は、丸太の体に頭と手足が付いただけの簡単な作りになっていて、胸の中心に丸いガラス玉のようなものが入っている。そのガラス玉の部分にエゴールさんが手を添えて、何か呪文のような言葉を呟く。すると人形がピクッと反応し、突然近くに置いてあった剣と盾を取るように動き出した。
「「う、動いた!?」」
「はい、では皆さんの相手はこのダミードールがします。ダミードールが襲ってくるので、上手く対応してください。まぁ、勝てなくても問題ないので気楽にやってください。それでは、え~っと…あなたから始めますか」
エゴールさんは鈴木君を指名する。
「僕ですか?分かりました」
鈴木君はやや緊張しながら、闘技場の真ん中へと進む。
「それでは、始めますよ?準備はいいですか?」
「はい!」
「よろしい。あっ、ダミードールは結構丈夫なんで、思いっきり叩いても大丈夫です。では…、はじめ!」
エゴールさんの掛け声と共に、鈴木君がダミードールに向かって駆け出す。ダミードールは人形らしいと言うか、全く動揺せずに盾を構える。
「はぁっ!」
鈴木君がやや大振りに剣を上から振り下ろす。ダミードールはそれを左手で構えた盾で受ける。ガンッ!と大きい音が響く。すこし強く振り下ろしたせいか、盾に受けられその反動で鈴木君の体勢が崩れる。その隙をついてダミードールが剣を横なぎに鈴木君に向かって振るう。
「ッ!?」
鈴木君は体勢を崩しつつも、何とか咄嗟に後ろへ下がる事で剣を避ける事ができた。しかし、その後もダミードールが追い打ちをかけるように、前に進みながら剣を振るい続けられる。何度か剣と剣がぶつかる。初めはダミードールが優勢に見えたけど、力では鈴木君の方が上のようで、少しずつ鈴木君も押し返すようになってきた。
「っ!?ここだ!」
ダミードールが鈴木君の力に押し負けてやや下がるように体勢を崩す。そこを鈴木君は見逃さず、剣を右下から左上に向かって振り上げる。ダミードールは体勢を崩したせいで盾を構えられず、ガンッと音を立てて剣に殴られていた。
「そこまで!」
エゴールさんが決着の合図を出す。合図ともにダミードールは直立不動の状態になる。
「はぁっ、はぁっ」
「お疲れ様でした。初めてでダミードールに勝つとはお見事ですね」
エゴールさんは肩で息をした鈴木君に声を掛けながらタオルっぽい布と水の入ったコップを手渡す。鈴木君はコップを受け取りながら、私たちに向かって笑顔で右手を突き出し親指を立てる。それを見た皆が「おぉ~!」と言いながら拍手を送る。私も拍手で鈴木君の勝利を祝う。その間、鈴木君は広場から私たちの反対の場所に行くように指示されていた。
「では、次に移ります。では、あなた」
「おっ!俺か?よっしゃ!」
次は竹中君だ。小手を装着しつつダミードールの前に立つ。
「準備は良いですか?」
「おう!」
「では…、はじめ!」
エゴールさんの掛け声が響き渡る。竹中君はダミードールと距離を保ちつつ相手の出方を窺っているようだ。しばらく、両者が睨みあっていたが、先に仕掛けたのはダミードールだった。剣を横に構えて突きの姿勢で竹中君に向かう。
「ッ!?」
竹中君は少し慌てつつも、ダミードールに備える。ダミードールが剣を持った手を伸ばし、竹中君に向かって剣を突き出す。それに対して竹中君は体を横へ向けたまま迎え撃った。
「うおおぉ!」
剣が竹中君に届く寸前で、小手を付けた左手で剣を横から叩く。そして、剣先が横にずれた逆の方に体を寄せて突きをかわし、右手でダミードールの頭を狙う。
「もらったぁ!」
ガンッ!と大きい音が響く。決着がついたかと思われたが、竹中君の拳はダニードールの頭に届く事は無く、ドールが持つ盾によって防がれてしまった。
「やっば!?」
会心の一撃に全てを込めたせいか、竹中君は体勢を崩してしまった。そんな彼に向かってダニードールの剣が腹に向かって横なぎに振るわれた。流石に対応できないようで、竹中君が慌てている。
「あぶないっ!!」
咄嗟に私は叫んでしまった。だが、それは杞憂に終わる。なぜなら…
「…あれ?」
痛みが来ると思い、ギュッと目を瞑っていていた竹中君が不思議そうな声をだす。目をあけて見ると、剣が体に当たる寸前で止められている。
「そこまで!」
エゴールさんが試合終了を宣言する。そして、鈴木君同様にタオルと水を差しだす。
「発想は良かったですが、そのあとの事を考えていませんでしたね」
「ちくしょ~!俺の負けかぁ~」
竹中君は悔しそうに鈴木君の元に向かう。
「このようにダミードールは相手に傷を負わす事が無いので安心してください」
エゴールさんの言葉に私たちは安堵する。私たちの大半は運動が得意とは言えない。だから怪我をしないか心配だったけど、それが無いと分かると安心した。
「では、次はあなたにお願いします」
「は、はい」
佐々木君が心配そうな声で歩き出す。怪我がないと分かってもこのような事は得意ではない佐々木君にとっては心配で仕方が無いのだろう。そんな彼が心配になって私は声を上げる。
「佐々木君!がんばってね!」
「会長…。はい!」
少しは元気を取り戻せたようで、佐々木君がダミードールの前にしっかりと立った。佐々木君の武器は短剣だ。
「それでは、よろしいですか?」
「はい」
「では…、はじめ!」
ダミードールが剣を構えて佐々木君に向かう。佐々木君は右手に持った短剣を横に構えた。ダミードールが剣を上から振り下ろす。それを右手で持つ短剣で受けるが、振動が強すぎたのか佐々木君が辛そうな顔をする。だが何とか耐える事が出来たようで、ダミードールが一度剣を戻そうとする。その隙を狙って佐々木君が前に出た。
「この間合いならその剣も存分に使いこなせないでしょう?」
佐々木君が言うように、短剣にとってちょうどいい間合いは、普通の剣にとってはやりづらい間合いだ。現にダミードールは碌に剣を振るう事が出来ず守りに入っている。おそらく、鈴木君や竹中君の戦いを見て剣の間合いを学んだのだろう。
「でも…」
ふと、私は声に出してしまう。確かに戦いは優位に進められているが、佐々木君には決め手がない。佐々木君もそれを分かっているのか、焦った顔をしながら短剣を振るう。初めは優位だったのに疲れのせいかだんだんダミードールが優位になってきた。
「っく!?」
佐々木君が疲れのせいか分からないが、ふとしたことで躓いてしまった。その隙を逃さないダミードールではなく、倒れてしまった佐々木君に向かって剣を向けて止まった。
「そこまで!」
倒れた佐々木君に手を伸ばしてタオルと水を渡す。
「戦いを良く見ていますね。後は決め手を覚えれば問題ありません」
「はい…」
佐々木君はやや落ち込み気味で鈴木君達の元に向かう。その後もまずは男子が先に進め、女子に順番が回ってきた。そして、最後に私がダミードールと試合をすることになった。ここまでダミードールに勝つ事が出来たのは鈴木君だけだ。
「準備はよろしいですか?」
ダミードールの前に立つとエゴールさんが聞いてくる。私は頷いて答える。
「それでは…、はじめ!」
私は手に持った木刀を強く握りしめた。




