交渉---彩華---
勇者が召喚されて王様に会った後の話です。
---半年前---
カウロ王からこの世界に召喚された事を聞かされ、今後はこの国の為に活躍してほしいと言われた。戸惑う私たちに気を使ったのか、「今日はもう下がるがよい。お主たちも今は時間が必要であろう」と、全員1人1人に部屋を手配してくれた。荷物と言っても何もなかったので、私たちはすぐに一つの部屋に集まっていた。1人部屋にしては大きいが、皆が集まると少し狭く感じる。
「おい…、なんなんだ?ここは?」
「まぁ、学校じゃないのは確かだね」
竹中君が皆が思っていた事を口にし、佐々木君がそれに答える。
「たしか、ここに来る前は俺達、教室で掃除してたはずだよな?」
「あぁ。確かあの時、外に何か違和感を感じてから見てみると飛行機が迫ってくるのが見えた。皆が慌て始めたら急に視界が変になった」
鈴木君の言葉に皆が頷く。私も頷く。
「えぇ、視界から色が抜けたと思ったら、…空間が歪む?と言ったらいいのか分からないけど、そこから綺麗なお姉さんが現れたのよね?確か…、私の世界に転生してもらうって言ってたけど…」
「じゃ、じゃあ…ここは本当に異世界なの?」
私の言葉に誰かが不安の声を上げる。すると、皆が「嘘…」「おいおい…」「マジかよ…」とそれぞれが思いを口にする。正直、私もいまだに信じられない。だが先ほどまでのカウロ王や、王宮魔術師筆頭と言っていたアレイさん達が演技をしていたとは思えなかった。
「彩華さん、どうする?」
「どうするって?」
鈴木さんが私に何かを尋ねてくる。
「この後の事だよ。異世界かどうかは分からないけど、ここが俺たちが知らない場所である以上、今後どう対応してくるかが大事になってくると思うんだ」
「会長、鈴木君の言うとおりだと思います。ここに残ってカウロ王の言うように勇者とやらになるのか、或いは交渉して自由にしてもらうのか……私は、会長の判断に従います」
「だな。俺も会長さんに従うぜ」
三人の言葉に「俺も」「私も」と皆が同意を示す。
「そ、そんな!私にそんな事言われても…。だって、ここが本当に異世界ならどんな危険があるか分からないんだよ!?それなのに私の考え一つで皆を危険に回すような事…」
「彩華さん。皆がバラバラに考えて行動するよりは君の考えに従って動いた方が良いと思うんだ。大丈夫、きっとなんとかなるよ」
「鈴木君!もっと真剣に考えて!もしかすると、元の世界に帰れないかもしれないんだよ!」
「僕は何時だって真剣だよ。面白半分で自分の考えを他人に決めさせたりしないさ。彩華さんは信用できる人と言う事を僕は知っている。だから僕は、君の意見なら喜んで従うよ」
「鈴木君…」
鈴木君が真っ直ぐ私を見ながら答えてくれた。その真剣な態度に、私は少しだけ冷静になる。
「(…そうよね。皆、不安な環境だからこそ道標のようなものが欲しいのかも。私が、その道標だと言うのなら私が不安がってたらダメ…だよね)」
後ろの方で、「鈴木さん…あからさま過ぎだろ…」「でも、あれ絶対気付いてないですよね」と少し呆れたような嬉しそうな竹中君と佐々木君の声が聞こえたが、私にはよくわからなかった。
「(本当にここが異世界ならこのまま城に残って世界について知るべきよね。だけど、勇者として活躍してほしいという事は何かしら危険な事をしなければならない可能性が高い。だからと言って、このまま何も持たずに異世界に放り出されたら生きていけるのか分からない)」
冷静に色々考えることで少しだけ余裕が出たせいだろうか?ふと勇のことを思い出す。
先が見えず不安になっている今、勇が近くにいてくれたら…。
「(勇、どこにいるのよ…)」
勇の事を考えながらふと、窓の外を見上げる。外は日本にいた頃と同じように青空が広がっていた。その光景を見ていると、異世界に来る前の教室でのやり取りを思い出す。
突然、世界から色が抜け、何もないところから美人なお姉さんが現れた。そして異世界に行ってもらうと言われたあの時、私は非現実すぎて困惑していた。
何か得体の知れないものを感じ、不安になった私は、なぜか勇に近づいていた。なぜかは分からない。いつもは頼りにならないどうしようもない男のはずなのに、本当に困った時はいつも助けてくれた勇に知らず知らずのうちに頼ってしまったのかもしれない。
他の皆も私のように慌てたり呆然としていると言うのに、勇はどこか嬉しそうにしていた。そして私が不安になっていた事に気付いたのか、「大丈夫だ」と言って落ち着かせるかのように私の頭を撫でてくれた。
「~~ッ!?」
今思うと、とても恥ずかしくなってきた。皆の前で頭を撫でられるなんて、なんか子供っぽいじゃない!…でも、勇が撫でてくれた感触はとても気持ちよくて…不安だった心もだんだん落ち着いてきた。そういえば、昔も私が泣いていた時に、撫でて慰めてくれてたっけ…。
だけど、美人なお姉さんが異世界に行くと言ったときに、急に勇は教室から出て行ってしまった。私はあまりに急なことだったから止める事が出来なかった。そのあと、目の前が暗くなって気がついたらこの世界にいた。だから、勇がこっちに来ているのかは分からない。
「(勇もこの世界来てる場合の事を考えると、私たちが一定の場所にいた方が合流しやすいかもしれない…。それに王城ならいろんな情報が入ってきやすいかも)」
「会長?どうしましょうか?」
私が考えていると佐々木君が聞いてきたので、私は自分の考えを皆に伝えることにした。
「私は…ここに残るべきだと思う」
「…やはり、そうなりますか」
「うん…。ここが本当に異世界なら、今の私たちに何が出来るか分からない。だけど、ここに残れば少しはカテロさんが導いてくれると思うの」
「そうですね…。ですが、それはカテロ王の言いなりになるのと同じなのでは?」
「そうね。だから、そこだけを交渉しようと思う。私たちがどれだけ役に立てるか分からないけど、私たちの力をカテロさんに力を貸す代わりに最低限の生活の保障と、力を貸すかどうかはその都度、私たちが判断する事。…かなり生意気な交渉になるけど、勝手にこちらに連れてきたんだからこれぐらい飲んでもらわないとね」
「確かに…。では、今からにでもカテロ王に交渉しに行きますか?」
「ううん。今日は色々な事があったから、もう休んだ方が良いと思う。だから交渉は明日にしようと思うんだけど、皆もそれでいいかな?」
私が部屋にいる全員に聞くと、皆頷いてくれた。私は少しだけ安心する。後は、明日になんとか交渉を上手く成立させることだけだ。
翌日、私たちは交渉する為にカテロ王と謁見した。
「ふむ、皆集まってどうしたのだ?もう覚悟が決まったのか?」
「カテロさん…、いえ!王様!どうか、私たちの意見を聞いてくれませんか?」
私は少し大きな声を出しながら皆の代表として一歩前に進み出る。
「カテロ王でよい。意見とな?申してみよ」
「ありがとうございます。意見と言うのは…」
私たちは昨日話して決めた事をカテロ王に話す。私が話し終えると王様は少し考えるような仕草を取る。周りの文官?らしい人たちが「なんて生意気な…」「ですが、それも仕方ないのでは?」と言った事を話しあっている。
周りが話立てて少しうるさくなってきた時に、カテロ王は右手をあげて周りを静かにする。
「ふむ、そなたは確かアヤカと言う者であったか?そちが勇者達の代表なのか?」
「はい!」
私の言葉に後ろにいる鈴木君達も頷く。
「…分かった。もともと、こちらもそなたたちを優遇するつもりであった。無理やり召喚したのだからな」
「でしたら!?」
「まぁ、待て。最低限の生活の保障に関しては問題ないが力を貸すごとに意見を求めると言うのはなかなかにややこしい。もし、こちらが頼み込んでもそなたたちが一度も首を縦に振らなければこちらは損しかでない」
「そ、そんなことはありません!」
「そなたはそうかもしれん。だが後ろの者達全員がそうである保証がないな」
「で、でどうすればいいんですか?」
「うむ、こちらも二つ条件を出させてもらう。一つは普段はそちたちの意見をそ尊重するが、王命の場合は何があろうと勇者達の誰かが絶対に引き受ける事。そして、もう一つは勇者全員にこちらが紹介する学び舎に行ってもらう。ここでこの世界の事、戦闘についてなどを学んでもらう」
私たちは、愕然とする。二つ目の条件はむしろこちらが望む事なので助かる。だが、一つ目の条件は王命を使われた時は、必ず誰かが従う必要があると言う事。王命と言う程なのだから、とても重要な事を任されるに違いない。そして、勇者に重要な事と言えば、命にかかわる事である事は全員が容易に想像できた。
「ふ、ふざけんなよ!こっちは勝手に呼び出されたってのに命を掛けろってか!?」
「ッ!?落ち着け竹中!」
竹中君がカテロ王に向かって大声をだす。横の佐々木君が慌てて竹中君を抑える。
「確かに無理やり召喚したのは謝ろう。故に最低限の生活は保障しよう。むしろ、貴族並みの生活を約束してやるのだから感謝してほしいものだがな。それに、不満なら断ってもいいのだぞ?こちらとしては勇者を得られないのは痛手だが元々いなかったものと考えればいいのだからな」
「「………」」
カテロ王の言葉に私たちは沈黙する。周りの大人たちは当然だという顔をしている。私たちは改めて感じる。
「(本当にここは異世界なんだ。私たちはこれからどうなるの…?)」
結局、私たちは言い返す事が出来ず、カテロ王が言った条件を飲んだ。
交渉なんて、謀略とかに慣れてる王様に高校生が勝てるわけがないと思います!あと、交渉という割には内容が簡単じゃね?と思ったかもですが、高校生ができることなんてこれぐらいと思ったり…




