聞き込み(勇者について)
白馬に乗った彩華は、国民に笑顔で手を振りかえしている。国民はその笑顔を見て更に歓声を大きくする。彩華の左隣にはイケメン男子の鈴木がいる。少し後ろには眼鏡をかけた奴と如何にもスポーツ少年と言った奴がいた…んだけど
「(あかん…、名前が出てこん…)」
確か、前もこんなことがあった気がする。昔から人の名前を覚えるのって苦労したんだよな。何回か会った事があるのならともかく、一度か二度くらいしかあった事ない人の名前を覚える事ができた試しがない。
『むっ?イサミはあの勇者達を知っているのか?』
「(うん。あいつらも俺と同じ世界から来た人間だよ)」
『(…ふむ?オークではないのだな)』
「(うん…。ほんとにね。何で俺だけ人間じゃないんだろう?しかもよりにもよってオークっていうね)」
ヤシロと他愛ない事を話しながら彩華を見る。
「(…?なんだ?なんか違和感が…?)」
「へー、勇者のリーダーらしい女の子、とっても可愛いわね。…イサミ~?何見惚れてるのよ~」
しばらく俺が彩華を見つめている事に気付いたのか、肩の上にいるエルミアがニヤニヤしながら俺の頬をつねってくる。別に見惚れていたわけじゃないんだが…。というか顔が見えちゃうからやめてください…。
そんなやり取りをしていると、肩の上にいるエルミアと身長の大きい俺が目立って見えたせいか、彩華がこちらに目を向けた。一応、ローブをしているので顔は見えていないはずだ。だが一瞬だけ目が合った気がしたので(正確には、俺が彩華の目を見ただけ)俺は少し慌てて顔をやや下の方に向ける。
彩華は少しの間、こちらを不思議そうに見ていたが俺達がいる所を通り過ぎると他の国民達に再び笑顔を振りまいていった。
俺は見知った勇者達が通り過ぎたと感じると顔をあげる。少し遠くの方に彩華の後姿が見えた。俺は気付かないうちに、その背中を見つめていた。
「(…あいつ)」
「あっ、また見つめてる!もう!イサミ!聞いてる?確かにあの娘は可愛かったかもしれないけど、そんなに見つめるほど好みだったの?」
その後もしばらく見つめていた。今の俺はどうしてもあいつの事が気になって仕方なかった。だってよ…
「(なんちゅう、悲しい目をしてんだよ…。あの彩華…)」
俺はあの目を知っている。小さい頃からあいつは辛い事があっても他人に迷惑を掛けたくなくて、何時も平気そうな顔をしていた。でも、本当はそんなに我慢強くなくて、誰もいないような場所であいつは1人で泣いていた。あの目はそんなときの目だった。
気がつけば勇者達が完全に姿が見えなくなり、城門前通りの人だかりも徐々に減り始めた。
エルミアを肩からおろすと、俺が反応しなかった事が気に食わなかったのか、エルミアが途轍もなく機嫌が悪くなっていた。なのでその後しばらく機嫌を取り戻すのに苦労することになった。まっ!機嫌の悪いエルミアも新鮮で可愛かったので俺としては何も問題なかったがな!キリッ!
「勇者について?」
「えぇ、何か知っていれば教えていただきませんか?」
「何だお前ら?他国の人か?」
「はい、そのようなところです」
勇者凱旋が終わった後、ルドルフさんに頼んで、通りで屋台を作っていた男性に聞き込みを行ってた。もちろん、聞き込みと同時に商品であるリンゴ飴を買って貰って店主とエルミアの機嫌を取るのも忘れない。
「毎度! そうだね~、勇者と言っても結構沢山いるからね」
「どんな情報でも構いません」
「なら勇者の中でも有名な人だけ教えようか。まずはタケナカ・ダイゴ様からかな」
「(タケナカ?…あ~、あのスポーツ少年の事かな?)」
「タケナカ様は勇者の中でも一際、体術が強いそうだ。なんでも、武器なしで装備を整えた騎士10人に勝ったほどだそうだ」
「武器なしで?騎士がどれほどか分かりませんが、かなりの実力者ですね」
素手だけで騎士10人KOとかどこのストリート拳闘士だ?
「次は、眼鏡をかけた勇者様であらゆる魔術を使いこなすと言われているササキ・ユウト様だな」
「(眼鏡?生徒会副会長のことか。…いい加減名前を覚えないとな)」
「ササキ様は、使いこなす事が難しいとされる高級クラスの水のマテリアと最高級クラスの土マテリアを1つ持っているそうだ。しかも、それぞれちゃんと適正持ちだ!」
「なっ!?最高級クラスの土のマテリアをもってるの!?それも、扱えるほどの適性持ちだなんて…」
さっきから、ルドルフさんやエルミアが驚きの声を上げている。勇者の説明をしている店主も、まるで自分の事の用に嬉しそうだ。正直、俺にはどれくらいすごいのか分からん。
「次は…スズキ・ケンジ様だ…」
「(あれ?あのさわやかイケメンの風紀委員長か?なんか店主の元気が無くなったな。)」
一瞬だが、店主が嫌そうな顔をした。
「スズキ様は剣術に優れており、騎士団長のアデス様に匹敵するのではないかとすら噂されている」
「なんと…、一流剣士として名高いアデス・アルキビーに匹敵するとは」
「(っく!あのイケメン野郎は顔だけでなく剣術もお手の物だというのか!?世の中理不尽だ!)」
そんな事を考えていると、店長は俺たちに顔を近づけてヒソヒソ声で話し出す。
「あと…、これはここだけの話にしておいてくれよ?聞くところによるとスズキ様はかなり女癖が悪いらしい。綺麗な女性がいると所構わず口説いているそうだ。これはあくまで噂だが、婚約者がいるはずの王女様まで口説いているそうだ」
「(鈴木の奴…、こっちでもいたるところで女を口説きまわっているのか?)」
「そんな噂を誰しもが耳にしているのに、何故か圧倒的に女性支持が高いんだ。…ッチ!」
「(あぁ、あんたの気持。よ~く、分かるよ。元の世界で同じ学校にいたら、モテない男同盟を紹介したかったぜ)」
「あ、あの、次の話に進みませんか?」
「あぁ、すまなかったね。これはお詫びだ」
ルドルフさんが機嫌が悪くなった店主に声を掛けると、店主が謝ってリンゴ飴の一つをくれた。受け取った飴をエルミアに渡すと、嬉しそうに食べている。…なごむわぁ。
「ゴホンッ!話がずれてしまったね。最後は、言わずもがな、我らがサイトウ・アヤカ様だ!」
「(おー、やっと出てきた)」
「むっ」
エルミアがちょっと面白くないと言った顔をしているが店長は構わず話し続ける。
「サイトウ様は剣術、魔術、体術において全ての面で勇者達のトップだ!特に剣術においては右に出る者は無いそうで、アデス様にも剣術試合で勝利している。」
「なっ!?アデスに勝ったのですか?召喚されてたったの半年程度で?」
さっきから出てくるアデスって人そんなに凄いのかね?俺の中だとあのイケメン野郎と同程度と聞いた時点であまり凄くなさそうに感じてるんだけど?
「そうなんだ!でも、実力はあるのに謙虚な方で、いつも俺達国民と真摯に付き合ってくださる。その性格に加えて誰しもが振り向く美しい美貌、勇者としての絶対的実力が伴って今ではこの国のアイドル的な存在になっているのさ!」
「(アイドルって…。こっちでも、日本にいた時とと変わらない位置づけだなぁ)」
「しかも、その人気あってか、この国の貴族や上級騎士からの求婚が絶えないそうだ。中には、この国の王子様や他国の王子様からも求婚されたらしい。まぁ、どれも断っているらしいがな!」
「(あいつ…、いろいろと大変そうだな。日本にいた時は高校生に求婚とか犯罪臭がして、滅多にないだろうけど。こっちでは普通なのかね?というか、店主のおっさん最後の方は嬉しそうに言ったな)」
この店主も彩華のファンの1人と見た。いや、今更か?
「ただ…」
「ただ?」
「アヤカ様は、こちらの世界に来ていらしてからずっと誰かを探していらっしゃるとのことだ。なんでも同じ世界から来た人らしいが、未だに見つかっていないそうだ」
「保護された人達以外に、召喚された異世界人がまだ他にいると?」
「さぁなぁ?王宮魔術師筆頭のアレイスタ・クロウリーが言うには、召喚された形跡はないと仰っているそうだが…。一応、まだ探しているらしい。冒険者ギルドにも頼んでいるってよ」
「(…ふむ)」
「…イサミ?」
それから俺たちは店主に礼を言って別れて、宿に戻った。宿に戻った時、俺はリレーアさんとリルリカちゃんにリンゴ飴をあげると喜んでくれた。
「あー、今日は色々疲れたわ。イサミ、ルドルフ。私は先に休んでるわね」
「分かりました。おやすみなさいませ」
「“おやすみ”」
その日は少し早目の夕食を食べてから各人の部屋で休むことになった。俺は部屋に戻ると道具袋の中を探る。道具袋はローブを貰った時にルドルフさんにもらった物で、中にはまだ特に何も入っていない。唯一、この世界に来た時のボロボロの学生服が入っていた。その学生服に手を伸ばし、あるものを探る。
「おっ?あったあった」
『イサミ、これはなんだ?』
「これか?これは学生手帳ってやつだ」
『なんだ?それは?』
「まぁ、元居た世界の人間の証的なもんだ」
俺は学生手帳を取り出して、部屋に備え置いてある机に座る。そして、かなりボロボロになった学生手帳を開いてメモのページに文字を書いていく。
内容は簡単に、でもあいつに俺が書いた事を気付かせる必要がある。
「まっ、こんなもんかな。あいつも心配性だよなぁ。まぁこれで、少しは安心するだろ。…ヤシロ」
『なんだ?イサミ』
「いまから、潜入的なものをしようと思うんだけど、夢幻ってそういう事って出来る?」
『むぅ?ようは見つからなければいいのか?なら全員に夢幻を掛ければ良い』
「ぜ、全員?マジか~、出来るかな?」
『不可能ではないな』
「ヤシロがそういうなら大丈夫かな?まぁ、どっちにしろ行くけど」
ローブを深くかぶりなおし、生徒手帳を懐に入れて宿をそっと出た。できれば今回の事はエルミア達には気付かれたくない。知れれば絶対に止められるのは間違いないからだ。
「さて、行きますか」
俺は、嗅覚を頼りに彩華がいるであろう王城へと歩き出した。




