勇者凱旋
宿に戻ると辺りは真っ暗になっていた。中に入ると食堂の方にルドルフさんが先に戻っていた。俺とエルミアは一度部屋に装備品や荷物を置いてから、食堂でルドルフさんから今日の報告を聞く。
「一番近い港町からエルフの島へと出る船便は、早くて二週間後とのことです」
エルフの島か…エルフの森ではないんだなぁ。と考えていると横からリレーアさんとリルリカちゃんが料理を運んできてくれた。
リルリカちゃんが俺に果物を絞った飲み物が入ったグラスを渡した後、しばらく俺に何か期待するような目で見つめてきた。なので紙にお礼を書いて見せると、ちょっと嬉しそうな顔をするがすぐにどこか残念そうな顔をしてリレーアさんの元に戻っていった。…何だったんだ?
「ありがとう、リレーアさん。しかし、二週間かぁ……。ここから港町まで約4日かかるとしてそれを差し引いても10日ほど、王都にいる事になるわね」
「その通りです。……それと今回、船便を調べている時に耳にしたのですが、どうやら明日、勇者たちが王都に帰還するそうです」
ルドルフさんの言葉に俺はビクッと反応してしまった。
俺達はあの綺麗な女神様にこちらの世界に召喚された身だ。…俺はなぜかオークになって森を彷徨っていたがあれは俺が遅れて無理やりこちらに来たせいだろう。
だが問題なく召喚された彩華達はこちらの世界では…、間違いなく特別扱いされているはずだ。そう、例えば勇者…とかな。
「あぁ…、だいたい半年前に召喚された黒髪の勇者たちね?たしかフーム渓谷のキメラ討伐だっけ?」
「(黒髪か、やっぱり…ん?半年前?)」
「はい。その付近に生息しているキメラが時折近くの街道で旅人や行商人を襲うので、かなり危険視されていたようです。そこで今回、カテロ王から勇者に討伐依頼をしたようです。そして無事、討伐し終わったとの事です」
「キメラか…。個体差にもよるけど討伐推奨レベルはたしか50よね?召喚されてからたった半年でそこまで成長できるなんて…さすがは勇者と言うべきかしら」
「(おいおい、平均レベル50以上かよ!?というか、半年?どういうことだ?俺はここに来てから一カ月も経っていないぞ?)」
色々、納得いかない事が一気に知ることになった。だがまずは勇者について知る必要があると考え、俺は紙に勇者について教えてほしいとエミリアとルドルフに伝える。
「勇者について?ん~…、私も詳しい事までは知らないの。ルドルフは何か知ってる?」
「私もこの国の勇者を見た事がありませんので、詳しい事までは…。しかし、明日になれば実際に勇者の姿を見る事が出来ます。流石にオークであるイサミ殿が聞いて回るのは問題ですが、私たちならば詳しい事を聞く事が出来ると思います」
「そうね。この国は別に勇者の事を隠しているわけでもないから、エルフである私たちが聞いても問題ないと思う。イサミ、それでいいかな?」
俺は頷いて2人の提案に同意した。
---翌日---
翌日、まだ早朝だと言うのに王都城門前の通りは凄い人だかりが出来ていた。噂の勇者を一目見ようと集まっている人がほとんどのようだ。中には「勇者様~!」と宗教…いやアイドル染みた奴もいれば、今回集まった人達に対して商品を売ろうと屋台を作っている人もいて、ちょっとした祭りのようになっていた。
「凄い人ね~。勇者が討伐依頼を終えて帰ってくるだけでこんなに人が集まるなんて」
「それだけ勇者には期待が寄せられているという証拠でしょう。勇者が来る前までは、魔族国に押され気味でしたからな」
「(あー…、やっぱり魔族国なんてあるんだ)」
「でもこの国の勇者ってまだ実際に戦争には出ていないんでしょう?」
「それでも、「自分の国には勇者がいる」と言うだけで民や兵士たちの士気は高まりますからな」
俺達三人は人だかりから少し離れたところでこの光景を見ていた。先程、城門を警備していた兵士の一人にルドルフさんが何時頃に勇者が来るのかを聞くと、「多分、昼前じゃないかな?」と、とても疲れた顔をしながら答えてくれた。恐らく何度も聞かれてうんざりしているのだろう。しかもこんなに人がいれば警備も大変なのだろう。少しだけ兵士さんに同情する。
「イサミ、これほどの人がいるから、いつも以上に顔を見られないように注意してね?」
「……。(コクッ)」
「…ところで、イサミはどうして勇者が気になるの?」
っうげ!?そういえば、俺ってエルミア達に異世界から来たんだってこと言ってなかったな。ん~、なんて言い訳しよう?別に隠す必要はないかもしれないけど面倒なことになるかもしれないし。うーむ…。
「“勇者と言うものを初めて聞いたから、気になった”」
「そうなの?まぁ確かにイサミはオークだもんね。勇者なんてあまり聞いたことないかもね。会ったりしたりしていたら、すぐに殺されてるかもしれないし」
そ、そうだったぁ!?と俺は気がついた。もしかしたら勇者とは彩華らの事で、会う事が出来るのでは?と考えていたが、今考えると俺はオークである。もし、急に目の前にオークが現れて「あっ、久しぶり!覚えてる?あなたの友達ですよ~」なんて言われたら怪しい奴以外の何者でもない。通報レベルであり、間違いなく彩華本人に討伐される。
「勇者達が来るまで時間がありますが、どうされますか?」
「そうね…。来るまで屋台でも見て回りましょう?イサミ~、そんなとこでボーっとしてないで、行こう?」
俺が少しの間放心していると、エルミア達が屋台めぐりに行こうとしていた。なので慌てて2人の後を追う。時間を潰している間、勇者達に会った時の事を考えていたのだが、結局良い考えが浮かばなかった。
---数時間後---
「勇者様達が帰られたぞ~~!!」
何件か屋台めぐりをした後で、門前通りにある喫茶店のような店で果実を搾った飲み物を飲んで休んでいると、城門の方から大きな声が聞こえてきた。元々、朝から沢山人がいたのに、昼前になると城門前から王城までの通りが人で埋もれていた。
「勇者様が通られる!道をあけよ!」
城門の奥から騎士っぽい人が大きな声をあげている。通りにあふれている国民たちに、道をあけるように注意しているようだ。国民たちも言う事を聞いて道をあけていく。すると城門の方から、馬に乗った人達が入ってきたのが見えた瞬間、ワッ!と凄い歓声が上がった。
「勇者様だー!」
「勇者様~~~!」
「我らの勇者様!万歳~!!」
「どうやら勇者達がきたようですね」
ルドルフさんの言うように勇者が来たのだろう。俺は席から立ち上がって通りの方に向かう。エルミア達も後ろについてきている。通りに着くと耳を塞ぎたくなるぐらいの歓声が上がっていた。そんな中、俺は何とか見える位置に無理やり移動する。
「(え~っと…、おっ!ここからなら見えるな)」
何とか、見える位置に移動出来た。場所的には勇者が来る少し前ぐらいだ。
「イサミ~…、見えないんだけど~…」
伸張の小さいエルミアが悔しげに俺を見上げる姿を見て、俺は少し笑いそうになった。確かに俺とルドルフさんは身長が大きい方なのでここからでも見えるが、身長の小さいエルミアには見えないようだ。もう少し前の方に行ければいいが、これ以上は進めそうにない。
「(どうすっかな。…そうだ!エルミアぐらいなら担いでも大丈夫だろう)」
我ながら女性に向かってこの対応はどうなんだと思う。しかし、少しでも見ようと背伸びをしている今のエルミアを見ていると、小さい妹のように見えてならなかったのだ。彼女には申し訳ないかもしれないが、行動に移すとしよう。
「わっ!?」
俺が後ろからエルミアを抱きかかえて左肩に乗せ、左手で支える。一瞬、ルドルフさんに鋭い目で見られたが俺の意図を察したのか、苦笑してこちらを見ている。
「ちょっ!?ちょっと、イサミ!?いくら見えないからってこんな事しなくてもいい!というか子供扱いしないで!」
肩の上でエルミアが騒いでいたが、周りから親と子を見るような温かい目で(傍から見るとローブで顔が見えない三人組みだが)見られている事に気付いて、騒いでいる事が恥ずかしくなったのか静かになった。
そんな事もあったが、しばらく大人しく待っていると、この世界で初めて俺が知っている顔を見る事が出来た。
「(あっ…、彩華だ)」
そこには、白馬に乗りながら笑顔で国民に手を振りかえしている斎藤彩華の姿があった。




