歓迎会
「ヒィッ!?」
俺がローブを脱ぐと、リルリカちゃんが悲鳴上げた。リレーアさんもひきつった顔をしている。当然か。オークと言えば女性が嫌いな魔物ランキング上位3位には入るしな。ち、ちくしょーーーー!!
「ちょっと!エルミアちゃん!?どうしてオークなんて連れているの!?」
「大丈夫よ。確かにオークは危ない存在かもしれないけど、イサミは問題ないから」
「いやいや!?そんなわけないでしょう!?」
「ほら、大丈夫だって」
エルミアが俺の腹を触る。ック!?でっぷりと出た腹を触られると、改めてオークになったんだなぁと思いながらも、エルミアちゃんの手が俺の腹に~~!!と感激してる俺もいた。
「なっ!?危ないわ!?エルミアちゃん!?」
「大丈夫だって。それに言葉は喋れないけど意味はしっかりと理解はしてるのよ?」
「…ほ、本当かい?ルドルフさん?」
「えぇ、私も初めは驚きましたがイサミ殿は知性が高く、間違いなく我らの言葉を理解しているようです」
「そんなことが…」
どうしても信じられないと言った顔でこちらを見る。このままでは現状に変化が出ないので俺からアプローチを掛けるか。
「えっと、よろしく。リレーアさん」
握手するように手を伸ばす。言葉は通じなくても、握手で挨拶するのは異世界でも通じるはずだ。……だよな?
しばらく俺の手を見つめていたリレーアさんだったが、覚悟を決めたのかやや恐る恐ると言った感じで握手をしてくれた。俺はちょっと嬉しくなってほんの少し手に力を入れて上下に振る。
「ええっと…、本当に言葉を理解しているのか分からないけど、握手を知ってるってことは大丈夫なの…かね?」
「お、お母さん。私、怖い…」
「流石にリルリカちゃんには難しいかな?」
「お嬢様、誰でも難しいかと」
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しばらくの間、俺について問答を繰り返していたがエルミアの信頼もあり、リレーアさんは俺が泊まる事を了承してくれた。なんだかんだいい人で助かった。普通の人なら何が何でも追い出すだろうに。
「まぁ問題さえ起こさなければ追い出すことはしないよ」
こちらの考えを見越してか半ば諦めた感じの笑みを浮かべながら答えてくれた。
「助かるわ。リレーアさん」
「いいのよ。エルミアちゃんは数少ないお得意様だしね」
部屋に荷物を置いた後、俺とエルミアは一緒に街を周っていた。食事が出来るまでもう少し時間がかかるとの事なので、その間に俺とエルミアで少しだけ街を見て回ろうと言う事になった。
ちなみに提案したのはエルミアだ。俺は反対する理由もなく、むしろ賛成だったのでよかった。ルドルフさんは部屋で荷物の整理と、武器の調子を確認したいとの事で留守番となった。
夕方の町並みはとても綺麗な物だった。中世の建物が並んでいる中、多くの人が歩いている。すこし歩いていると、食べ物ばかり売っている露店通りに着いた。何人かの女性が買い物かごを持って何を買うか悩みながら歩いている。そして、少しでも興味を引かれるように、元気な声で露店の人たちが勧誘をしている。
「(すげーな。地元にあったさびれた商店街と違って、こっちは沢山のお店と活気がある。こういうところって見て回るだけでも楽しいよなー)」
「イサミ、ここは主に果物や肉といった食べ物が主に販売されている通りよ。おいしそうかもしれないけど、夕食があるからつまみ食いしたらダメよ?」
俺を子供的な扱いをするエルミアの説明を聞きながら奥に進む。一通り見て回ってると、そろそろいい時間になっていたので宿に戻ることになった。宿に戻る道を歩いていると、少し先にリルリカちゃんがいた。手には果物が入った買い物かごを持っている。
「あら?あれってリルリカちゃんじゃない?お使いかしら?偉いわねぇ」
確かに。リルリカちゃんは恐らく小学生4、5年生くらいの女の子だ。そんな子が1人でお使いなんてえらいもんだ。
俺とエルミアが感心していると、リルリカちゃんに近づいてくる男の子集団がいた。
「おまえ!またおつかいか~?」
「っへ!とうちゃんがいないところは大変だな~?」
「何買ったんだよ?見せてみろって!」
男の子の一人がリルリカちゃんから買い物かごを取り上げる。
「あっ!返してよ~!」
「へ~んだ!返してほしかったら、取り返せばいいだろ?」
リルリカちゃんが必死に買い物かごを取り戻そうと手を伸ばすが、男の子はギリギリ手が届かないところまで持ち上げる。そして、手が届きそうになると他の男の子に渡して邪魔をする。
「(うわぁ…、なんてありきたりな…)」
「なっ!?あの子たちリルリカちゃんに何してんのよ!」
エルミアがリルリカちゃんの元に走っていこうとしたが、それを俺は止めた。
「イサミ?どうしたの?リルリカちゃんを助けないと…」
「……」
俺は親指をつきたてて大丈夫だとジェスチャーすると、リルリカちゃんのところに行く。恐らくだが、男の子たちはリルリカちゃんの気を惹きたいからあんな事をしているんだろう。俺にもそんな時期があったもんだ…あれ?あったっけ?ま、まぁいいや!とにかく、穏便に解決しなければ。
「か、返してよ~!」
「へん!チービ!」
「返すわけ…って、あれ?」
買い物かごを持っていた男の子から、ヒョイと買い物かごを取り上げる。男の子たちは急に現れたローブで顔がよく見えない長身の大人に驚いているようだ。リルリカちゃんだけは俺の事が分かったのか、口の中でヒッと悲鳴を上げている。みれば少し涙目になっている。一瞬俺のせいか?と思ったがどうやらあれは俺のせいだけではないようだ。
「………」
俺は無言のまま買い物かごをリルリカちゃんに渡す。そして、「え?」と呆気にとられた顔をしながら受け取るリルリカちゃんの頭を撫でた。最初はビクッと驚いていたが、次第に落ち着いてきたのか不思議そうにこちらを見上げてきた。
周りの男の子たちは何が起こっているのか分からないといった感じで戸惑っていたが、俺が顔を向けると(ローブで顔は見えないけど)慌てて逃げだした。自分から逃げ出したのだから、少しは自分達が悪い事をしている自覚があったのだろう。
男の子達が逃げた後、リルリカちゃんの頭から手を離した。「あっ…」と言う声が聞こえた気がする。
「イサミ~!カッコよかったよ~!!」
エルミアがこちらに向かって走ってきた。そして、俺を褒め散らす。いやぁそんなに褒められるとは思わなかったが、エルミアちゃんってホントに俺に甘いんだなぁ…
「あ、あの!」
しばらく、エルミアの俺を褒めトークを聞いているとリルリカちゃんが話しかけてきた。
「あの…ありがとう…ございます」
少し照れたようにお礼を述べる。うんうん、素直で良い子やね~。
「リルリカちゃん?あんな奴らにはちゃんとビシッと言わないと図に乗るわよ?次に会った時には迷惑です!!ってはっきり言ってやりなさい!」
「は、はい!!」
エルミアがリルリカちゃんに助言しているが、男の子たちの気持が分かる俺としては微妙な気持ちになった。すまん、名前も知らない男の子たち…。今、男の子たちの一つの初恋が散ったのだと感じたのであった。
「さ、宿に帰りましょ?」
エルミアが宿に戻る道を歩き出す。俺も続こうとすると、ローブの一部が引っ掛かったような感触が伝わる。なんだ?と見るとリルリカちゃんがローブの一部を掴んでいた。
「あっ!……ごめんなさい」
無意識に掴んでいたんだろうか?すぐにローブから手を離すが名残惜しそうに見つめている。恐らくさっきまでの事が怖かった為に、何かに頼りたくなったのだろう。まだまだ小さい子なんだから当然の事だ。こういうときは大人?の俺がちゃんと引っ張ってあげないと。
「……」
俺は無言でリルリカちゃんに手を伸ばす。すると最初は驚いた顔をしていたが、すぐに嬉しそうに手をつないできた。うっ!?可愛い!?お、落ち着け!俺は露理魂じゃない!じゃないはずだ!!
「~~♪」
嬉しそうなリルリカちゃんをよそに、俺は必死に自分の煩悩を振り払っていた。
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「イサミさん!うちのリルリカを助けてくれたんだって?本当にありがとうね!!」
帰ってから部屋で寛いでいると、料理の準備が出来たと言われた。なので二階の部屋から一階に降りると、急にリレーアさんから感謝を述べられた。そのあとは、とても豪勢な料理がテーブルに並んでくる。見た感じ、俺達以外に泊まっている客はいないようだ。これなら素顔を出しても問題ない。リルーアさんには悪いが、他の客がいなくてよかった。
「それじゃあ…イサミ!改めてよろしくね!!乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
その夜、俺とエルミア、ルドルフさん、そしてリレーアさんとリルリカちゃんの5人で豪勢な料理を食べた。久しぶりのしっかりとした料理の味に、感動しながら俺は料理を食べまくった。初めてちょっとだけ酒を飲んだが結構うまかった。だが、すぐに頭がふらつき気分が悪くなったので飲むのをやめた。
しばらく、飲み食いしていると
『イサミ!!我にも酒を飲ましてくれ!酒をくれ!』
とヤシロがこれまでにないくらいの大きな声で訴えてきた。
「(お、落ち着けヤシロ。どうやって酒をあげればいいんだ?)」
『む?そういえば……むむむ、ならばこうすればよい!!"契約具現"!』
「え?んなっ!?」
ヤシロが何か発動するとローブの下でもぞもぞと何か動く感じがした。いやん♪そこは……じゃねぇ!!こんな豚がもだえるシーンなんて誰も望んでないわ!!と考えているとローブの下から銀色の小さな蛇がヒョコッと現れた。
『これで飲めるだろう?』
「~~ッ!?!!?」
「イサミ?どうしたの?」
咄嗟にヤシロらしい蛇をローブ中に入れて、なんでもないとエルミアに伝える。エルミアも特に気にしなかったのか、すぐにリレーアさんとリルリカちゃんに俺と出会ったときの話をしている。ルドルフさんもその話を聞いているようで、ヤシロの事は気付かなかったようだ。
「(ヤシロなのか?)」
『そうだ。さぁ!イサミ、酒をくれ!』
「(いや、まってくれ。さすがにここじゃまずいって!後で部屋で飲ましてあげるから今は我慢して!)」
『え~~』
やや暴れ気味のヤシロを何とか抑えつつ歓迎会が無事終了した。それぞれが部屋に戻る時、こっそりテーブルの上に残っていたワインの一本を持って部屋に戻った。




