初めての乗馬
「2人とも見事な腕前だ」
ノアさんがルドルフさんとエルミアを褒めている。当然だな、てか二人ともこんなに強かったんだな。ノアさんも強かったし、盗賊団は相手が悪かったとしか言いようがないな。
「敵が大したことがなかっただけよ」
「ノア殿も大した腕前です」
エルミア達が謙遜しつつもどこか嬉しそうに答える。俺、今回何もしてないなぁ。
「お、終わったのかい?」
運転手の村人さんが恐る恐るという感じで近づいてきた。他の人たちも、近づいてくる。あれ?男は?
「……!……!?」
皆の前で話すわけにもいかないので何とか手振りでこちらの意思を伝えようとする。
「どう?イサミ!私も強いでしょう?」
フフン!と言った感じで俺に話しかけてくる。あぁ、可愛いなぁもう!…じゃなくて!!どうやら、俺のジェスチャーの内容はエルミアには伝わっていないようだ。仕方ないので、俺は馬車に近づく。
「イサミ?もぅ、無視しないでよ~!」
若干、無視に近い形で放っておかれたのに不満だったのか、少し怒りつつも俺についてくる。あぁ、怒るエルミアちゃんも可愛いなぁ…。ッハ!?最近俺エルミアちゃんに毒されてね!?
エルミア可愛さ中毒に恐れつつも、馬車の中を覗き込むと…案の定、そこは無人だった。
「あちゃぁ~…」
「イサミ~?ん?あ~!あいつがいなくなってる!!」
---キース---
「ハァハァ、(ざまぁみろ!!)」
俺は荒い息をつきつつも全力で逃げていた。盗賊団が倒されて馬車の中の奴らが確認しに行った時に全力で逃げ出した。馬鹿な奴らだ。一人くらい残っていればいいものを。まぁおかげで助かったわけだが。
「ハァハァ、(ック!猿轡のせいで呼吸もままならないし、縄のせいで早く走れない)」
思えばなぜこんなことになったのか…。最初はうまくいっていた。少しお子様体型だが、かなり美形のエルフを騙して神隠しの森と言う格好の場所に誘い込む事が出来た。あとは、仲間が薬を使って捕えて、奴らが勝手に楽しんだ後で奴隷商人に売るだけのはずだった。非常に珍しいエルフだ。俺だって今回初めてお目にかかった程だ。さぞ高額で取引ができる筈だった。
これまで何度か馬鹿な女冒険者相手だと、今までうまくいっていたから今回も上手くいくと思っていた。実力がありそうな爺エルフがいたが、うまく毒を盛れば問題ないと思っていた。しかし、現に蓋を開けてみると…縄に捕らわれ、必死に逃げている今につながる。
「ん~!(ちくしょう!どうしてこうなった!?)」
言い訳がましいかも知れないが、元々俺はこの仕事が嫌いだった。奴隷になった奴らには悪いとは思ったが、生きていくには金が必要だ。だからいつもへらへら笑って、気に入らない奴らと手を組んできたんだ。そうしてようやく、しばらくは自由気ままに生きられるぐらいの金を貯める事が出来たのだ。なので、今回でこんな仕事も終わりにするつもりだった。だってのに…。
「(あいつらには顔を知られてる…。今ギルドに戻っても金を引き出すどころか、逆に俺自身が捕まる可能が高い…)」
今までやってきた事が今回の事で全て水の泡になってしまった。せっかくあれだけ貯めた金も、もう使えない。
「ん~!!ん~!!(ちくしょう!!ちくしょ~!!)」
俺は怨嗟の声を出しながら、とにかくあいつらから全力で逃げた。
---イサミ---
「(ん~、向こうかぁ~…)
俺は嗅覚を使ってキースの居場所を特定していた。ここから大体3、4kmと言ったところか。あの状態でよく走れるなぁ。
「すいません…。つい目を離してしまって…」
「いえ、気になさらないでください」
ルドルフさんが謝るルノリックさんを窘めている。盗賊団が来たんだし、あんな状態じゃ外が気になってしまうのも仕方ないというものだろう。
「しかし、どうするんだ?」
ノアさんが訊ねる。エルミアは考えるような格好を取りながら静かに佇んでいる。ここからでは、ローブのせいで顔が見えないが渋い顔していそうだ。犯人がいないとギルドに報告しても信憑性に欠けてしまうからだろう。…どうやって証明するのか知らないけど。
「……」
すぐにでも、逃げたキースがどこにいるのか教えたい。だけど、皆の前で教えてなぜ分かったのか?と問い詰められるのも大変なので止めておいた。
「…仕方ない。私たちはここに残ってあいつを探しましょう」
本当に仕方ないと言った感じの溜息をつきながら考えを述べる。
「そうですね。幸い、盗賊団が乗ってきた馬がございます。移動に関しては問題ないかと」
「えぇ。 運転手さん、悪いけど私たちはここで残るわ。これ、料金ね」
「いいよいいよ!助けてもらったしな。料金なんてもらえないって!」
エルミアが移動料金を支払おうとすると運転手さんが遠慮していた。
「私たちにも何かお手伝いできればいいのですが…」
「気持ちだけで十分よ。まだ王都まで距離があるから気をつけてね」
「私も手伝お――」
「ノアさんはこの人たちと一緒に行って頂戴。さっきの事もあるし、護衛してあげて」
「…そうか、わかった。すまないな」
「いいのよ」
エルミアと皆が話しを進める。なんか、俺と話すときと若干口調が違うな。なんと言うか言葉の壁があると言うか…。
「イサミはん、イサミはん」
「……?」
横を見るとマロクが俺に話しかけていた。どうしたのかと思いつつも、マロクは俺より身長が低いので下から顔が見えないように注意する。
「なぁ、あのエルミアって子。顔は見えないけどえぇ声してるなぁ。戦闘もできるみたいだし、リーダーシップもある。なぁなぁ、あの子絶対可愛いやろ?」
「……」
「隠してないで教えたってよ~。わいの美少女センサーが反応してるからな~」
「……」
こいつ、やるな。確かに今のエルミアはローブのせいで顔が見えないはずなのに美少女だと思うとは…。口調としても学校にいた時の友人と話している感じで悪い気はしない。
今も尚、「どうなん?可愛いんやろ?」と聞いてくるので、俺は頷いてマロクの質問に答えた。
「やっぱり?いやぁ、イサミさんが羨ましいわぁ」
俺は右手を腰のあたりまで上げ、握りこぶしを作ってから力強く親指をビシッ!と立てて、どうだ、羨ましいだろう!と伝えた。
「おりょ?イサミはんって、思ったより話せる人みたいやね!どうやらここで別れるみたいやけど元気でな!」
「……♪」
俺とマロクは力強く握手をした。そう、まるで何かの同志のように…。
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死んだ盗賊たちから取れるものを取った。と言っても大した物は持っていなかったが。盗賊たちの遺体は、運転手の人が後で王都で組合に伝えて処分するらしい。なので、今はそのままだ。
その後、エルミアとルドルフさん、そして俺以外の人たちは馬車に乗り込んだ。
「それでは、エルミアさん、ルドルフさん、イサミさん、お元気で!」
「えぇ!皆も気をつけてね!」
しばらくの間手を振って見送った後、ルドルフさんが連れてきた数匹の馬を見る。
「さてと、2人とも!行こう!」
エルミアが颯爽と馬に乗る。おぉ、乗り慣れてんな。俺は初めてなのに…。
「さぁ、どうぞ。イサミ殿」
「あ、はい」
俺は、ルドルフさんに手を貸してもらって馬に乗る。おぉ!すげぇ!視線が高くなった!それに馬に乗るのってなんだか楽しいな!
「よし!なら、あっちから探しましょ!」
エルミアが馬を駈けさせる。ルドルフさんもそれに続く。しかし…
「ま、待ってぇ~!!どうやって走らせればいいの!?あぁそっちじゃない!?こっちだって~~!!」
俺は馬を操縦する事が出来なかった。




