町に向けて出発
「イサミ!朝だよ、起きて~!」
扉越しにエルミアの声を聞きながら目を覚ます。窓から外を見るとまだ朝日が昇って間もないくらいだ。起きるの早いなぁ。
俺はローブを羽織ってから扉を開けた。扉の外にはエルミアが待っていた。
「おはよう、イサミ。よく眠れた?」
「(あぁ、久しぶりのベットは良く眠れたよ。虫がいるのか体中かゆいけど)」
元気である事をエルミアに見せるようなポーズをする。言葉が通じない以上、ボディランゲージで伝えるしかないのがもどかしい。
「その調子だと良く眠れたようだね。下で、ルドルフが待っているから、行こう」
「(あいよ~)」
意思を伝えることに成功し俺はそのままエルミアに従って下に降りる。1階はちょっとした広間になっており、ここで朝食を取ることが出来るようだ。そんなに多くないテーブルの1つに、ルドルフさんが座って待っていた。テーブルの上には出来たてのスクランブルエッグ、パン、サラダ、そしてミルクが置いてあり、おいしそうな匂いがする。うおぉ!久しぶりの人が作ったまともな料理だ!
「おはようございます。イサミ殿。」
「おはようッス。ルドルフさん。」
ルドルフさんと挨拶を交わした後、席に着く。そして、三人で朝食を取りはじめる。最初は奴隷である俺も一緒に食べてもいいのか疑問であったが、「食べないの?」と聞かれたので、感謝しながら料理を口に運んだ。
正直、思ったよりも味が薄いと思いながらもガツガツと食べている途中、二人にお金を払っていない事に気付いた。俺は懐から銀貨のうち一枚取り出して、差し出すように二人の前に置いた。
「(そういえば、払ってなかったよね?)」
「おや、イサミ殿はアルムを持っていたのですか?」
「イ、イサミ?どこから持ってきたの?ま、まさか盗って来たんじゃ…?」
エルミアが顔を青くしてわなわな震えている。違うって。
「お嬢様、イサミ殿はそのような事はしないと思います」
「う、うん。そう…よね?だけど、このアルムは一体どこから持ってきたの?」
「おそらく、魔物からのドロップしたのでは?イサミ殿は以前は神隠しの森に住んでいらしたのですし」
「あぁ、それなら納得できる」
まぁ住んでると言えるほど長くいなかったけど。しかし、魔物からのドロップってやっぱりこの世界じゃ普通なんだな。深いところまで考えたら負けな気がする。
「しかし、確かに昨日アルムについて簡単に教えたけど、もう貨幣価値感を理解しているなんて…」
「イサミ殿はひょっとすると、私達が思っている以上に知性が高いのやも知れませんね」
「流石は私のイサミね!!」
エルミア達は一日で覚えた事を褒めてくれた。というか、貨幣の使用方法、価値観なんて日本にいたんだから知ってて当たり前なんだが…。まぁ、褒められるのはいい気分だから言わないけど。いや、言いたくても言えないの間違いか…。
結局、エルミア達はアルムを受け取らなかった。曰く、自分のモノの世話をするのは当たり前だそうだ。モノ扱いされるのは釈然としなかったが、その時のエルミアちゃんの天使の微笑みに免じて我慢した。可愛いは正義!
「イサミ!今日からはこれに乗って移動するのよ」
「(へ~、初めて馬車を生で見たな。馬でけぇ)」
俺は今日から乗るという馬車の前にいた。馬は俺の元いた世界とあまり変わらなかった。しかし、馬車の形は馬車と言うより荷台と言った方が正しい気がする。だけどまぁ楽に移動できるなら、外面なんて些細な問題だ。
「ん~!ん~~!!」
「ほら、静かにしてくださいね。これから約2日はかかるんですから」
ルドルフさんが口に猿轡をされたキースを無理やり馬車に乗せる。ここから王都まで約2日かかるらしい。この世界ではそれが近いのか遠いのか分からないが、俺からすれば遠いと感じてしまう。やっぱり、遠距離を高速で移動できる車や電車って偉大だったんだなぁ。
「さぁ、行くよ。忘れもんはないかい?」
馬車を運転する村人さんが出発を告げたので、馬車へと乗り込んだ。俺たち三人とキースの他に、やや太り気味の人のよさそうなおじさん、ローブを被って顔がよく見えない人が一人、青年が1人の計7人が馬車に乗るようだ。思ったより多い。
「少し狭いけど我慢してくれ」
運転手さんが謝罪をする。仕方ないので出来るだけつめて座ることになった。エルミアを一番奥に座らせ、隣に俺が座る。うっは!いい匂いがします!
エルミアの向かいにはルドルフさんが、隣にキースが座っている。他の人たちも続々と座っていった。
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「でかい方ですねぇ」
馬車が出発してからしばらくした後、隣のおじさんが俺に話しかけてきた。確かにこの中でも1つ抜きんでて身長が高いので、それを話題の種に話をしようと思ったのだろう。どうやら、かなりフレンドリーの方のようだ。だが、今の俺にとっては厄介な事この上なかった。
「………」
「あっ、ご迷惑でしたか?スイマセン…」
話しかけても無言だったのが怒っているように見えたのだろう。頭を下げて謝ってきた。俺は慌てて違う違うと体で表現する。
「すいません、この者は口がきけないのです。話は通じるのですが……」
「あ、そうでしたか。知らずとはいえ申し訳ない」
ルドルフさんがカバーしてくれたおかげで何とか誤解を解けた。
「私はルノリックと言います。商人を営んでおります。そしてこっちが…」
「マロクと言います。よろしくたのんますわ」
おじさんと向かいにいた青年が自己紹介する。どうやら二人は一緒に旅をしているらしい。
「ご親切にどうもありがとうございます。私はルドルフと申します」
「私はエルミア。よろしく。そして、こっちがイサミよ!」
「……」
2人の自己紹介に続いて俺も手を振って挨拶を交わす。
「この男の事はほっておいてください。犯罪者ですので」
「は、犯罪者ですか?もしかして三人方は自警団関係の方ですか?」
「いえ、私たちは王都の冒険者ギルドに所属している者です。この男は私たちを騙して危険な目にあわしたので、こうして捕えてギルド本部に突き出そうかと思っています」
ルドルフが簡単に今まで起こった事を話した。もちろん、俺がオークであるのと2人がエルフ族である事は伏せてだが。
「それはそれは…。大変な目に合われましたね」
「えぇ、今が無事で何よりです」
「本当ですな…。さて、ところであなたも王都に向かっておられるのですか?」
「…あぁ、そうだ」
ルノリックさんがローブを被った残りの一人に話しかける。
「当たり障りなければ、貴方について教えていただいても?」
「別に…俺も冒険者で、仕事が終わったから帰るところだ」
「ほう…、どうような仕事があったのですかな?」
「そこまでは教えるつもりはない」
「そうですか…。では、せめてお名前だけでも教えてくれませんか?」
「……ノアだ」
名前を言うと、もう話す事はないと言った雰囲気を出す。流石のルノリックさんも話しかける事はなかった。
それから他愛もない話をしながら旅を進めて一日が経ち、次の日の昼ごろにそれが起きた。
「た、大変だ!!盗賊団がこっちに向かってきてる!」
運転手の村人さんが大声で叫んだ。




