昔話
とある昔のお話
少年は奴隷でした。来る日も来る日も主人の命令に従って、朝早くから夜遅くまで働かされても食事は一回だけ、自由な時間はとても少ないという大の大人でも逃げ出したくなるようなそんな生活を送っていました。
それでも少年は必死に文句を飲み込んで、奴隷仲間と一緒に互いを助け合いながら過ごしていました。
奴隷の仲間の中で特に仲の良い少女とは真夜中に2人きりで一緒に話をして、時には笑いあったり時には悲しい事を共有したりして互いに支えあっていました。それは決して幸せな生活ではありませんでしたが、少年はこの少女と一緒に居られるならそれでも良いと考え始めていました。
ある時、仲の良い少女が忽然と消えてしまいました。初めは、不思議に思っていたものの、奴隷の仕事の中にはお使いや主人の付き添いで長旅にでることもあったので、その類の仕事を行っているのだと深く考えませんでした。
帰ってきたときには土産話を少女から聞こうと楽しみし、そのうちに気にしなくなりました。
そして、少女がいなくなってから二か月ほど経った時、少女が帰ってきたと聞き、急いで少年は少女の下に向かいました。
今度はどんな事があったのだろう?楽しい事があったのなら良いのだけど、彼女ならばどんな事でもきっと楽しかったと言うに違いないと思うと少年は自然と笑みをこぼしていました。
そして、少年は遂に少女と会う事が出来ました。ですが、少女は楽しそうに少年に話しかけることも笑顔を向ける事もなくただ静かに横たわっていました。
不思議に思い近づくと、少女の体は青白く染まったかのような色をしており、触れると冷たくそれはまるで…
少年は、少女がどうなったのかを知ると、大声で嘆きながら主人に理由を問いました。主人はつまらない物を見るかのような目をしながら答えました。
「コレは、この国の重鎮様に差し上げたのだ。だが、あろうことか重鎮様に楯突きおった!奴隷のくせに私の顔に泥を塗りおって!貴様もコレのようになりたくなかったら、言われた通りに働け!」
と主人はもはや動くことのない少女を苛々しげに蹴りながら答えました。少年は咄嗟に少女を庇うとその行動が気に入らなかったのか今度は少年を蹴り始めました。
何度も何度も蹴られるたびに体が悲鳴を上げて気が遠く行ってしまう感覚に襲われながらも、少年は必死に少女を守りました。
何度目か分からないほど蹴られ後、主人は蹴り疲れたせいで肩で息をしながら、少年が体の痛みで自分ひとりでは立てなくなっている姿を見て満足した様子で
「ふん!ソレは始末しておけ!」
と言い残してその場から去っていきました。少年は歯を食いしばりながら主人の背中を見やり、色々な感情を心の奥に仕舞いこみながらも動かない少女を優しく抱きしめました。
暫くの間そのままでしたが、抱きしめながら泣いている少年をほっておくわけにもいかず、事情を聞きつけた他の奴隷仲間達が少年を手伝いながら少女を手厚く葬ってあげました。
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少年は主人のお供の人の中で仲の良い人に少女が連れて行かれた時の話を聞いてみることにしました。どうやら雑務の仕事以外にも性奴隷としてむりやり扱われそうになっていたとお供の人は教えてくれました。
「あの子はどんなに蹴られたり殴られても最後まで嫌がって拒んでいたよ。まるで、大事な人がいたみたいにね…。僕も助けてあげたかったけど、助ければ今度は僕が殺されてしまうんだ。…それがこの国の考えなんだよ」
お供の人は少年の頭を撫でながら何度も「ごめんね」と呟いており、その姿を見ると少年はなぜか悲しくて涙がこぼれてきました。
なぜ少女があんな仕打ちを受けないといけないのか?奴隷だって生きた人間だというのに!そんな少年の考えを読んだのかお供の人は厳しくも注意するかの様に話しかけます。
「この国の貴族やお偉い人間は奴隷を人として扱ってくれないんだ。いいかい?君もあの子みたいになりたくなかったら上に逆らったらいけないよ?…今回のことは、あの子の運がなかったと思って諦めるんだ。それがこの国で生きていくために必要なことなんだよ」
とすまなさそうな顔をしながらお供の人は去っていきました。残された少年1人、心の中で激怒しました。少女を売った主人に。嫌がる彼女を無理やり使役しようとした国の重鎮に。そして、それがさも当然のように考えるこの国のあり方に。
この時、少年はこの国に復讐することを密かに、けれども強い覚悟で決意しました。しかし今のままでは何も変えられません。なので少年は力を身に付けたいと考え、主人や他の人たちに見つからないように密かに訓練を重ねました。
夜中に1人寝る時間を削って、秘密裏に仲のいい兵士から貰った木刀を振るったり、町で偶然出会ったひねくれた賢者のもとにもこっそり訪ね、頭を下げて知識を教えて貰いに行きました。
決意してから6年の月日が流れた時、少年はふとしたことで知り合ったひねくれた賢者、腐敗した帝国の内政に反発したため追放となった元騎士達、主人の突然な思いつきの趣向に付き合わされ闘技場で闘いお互いを認め合った剣闘士達、そして長い間ともに助け合ってきた奴隷達を率いて帝国に反旗を翻しました。
その時の彼の年齢は、わずか14歳。
少年は最初に生まれ育った街を陥落させました。そして、多くの奴隷たちを解放し、帝国に反発している人々を味方に引き込み周辺の街や砦を陥落させていきました。
中には帝国への反乱に賛成し戦う前から仲間として加わった砦もありました。怒涛の快進撃を進めるにも関わらず周りが反発せず味方として加わっていくのには、その人のあらゆる人を引き付ける魅力が尋常ではなかった為でした。
そして、遂に現帝国の帝王より降伏が帝国全域に発表されその人は帝国を制圧しました。旗揚げした時から僅か3年というあまりに非凡の大業を成したことから人々は少年を新たな帝国の王として認め、新しい王様を祝福しました。
その後、賢者の力を借りて画期的な内政を行っていき周辺諸国が羨むほどの発展を遂げていきました。周辺諸国の中には、その見事な内戦手腕から自分の国もまとめてほしいと同盟を結んだり傘下に加わったりした国もあれば、発展を妬み攻め込んできた国もありました。
青年は、国に住む人たちの為に、未だ苦しむ世界中の奴隷や弱い人々の為に周辺諸国を併呑し、世界にむけて進撃を開始しました。発展を遂げた青年の国の国力、また国をまとめ、人を率いる王としての質に勝てる国はなく、その人が帝国で旗揚げした時から約8年で世界の大半を支配しました。
戦争だけでなく、内政にもその手腕を発揮し、100年分の文化の発展を遂げるほど世界を豊かにしていきました。
青年はその圧倒的な実力と偉業を成した事から人間だけでなく魔族や亜人、さらには神々もその偉業を認めるほどになり、尊敬と畏怖の念を込めて「聖覇王」と呼ばれました。
しかし、26歳の時に青年は急死しました。今もなおその原因は明らかになっておらず不明のままになっています。