その10
「あっ!昨日の戦士様だ!」
「うわぁ~。近くで見ると本当に大きいね!」
聞こえてくる言葉は賞賛の声ばかりで、俺はすごく気分がよかった。その証拠に、普段なら「あらあら、調子に乗ってんなぁ。イサミはん」と失礼な事を言うマロクを殴ったり投げ飛ばしたりしていないのだから。
俺は今、かなり大きめな樹木で出来た広場を歩いていた。今日も今日とて、マロクの付き添いでこの国を見て回る事になったのだが…、
「へぇ…、あれが異国の戦士か。随分大きな身体をしている」
「昨日の試合をみていたけど、大きいだけでなく、身体機能もかなりのものだった。どれだけ修練を積んだんだろうな?」
街を警護しているエルフの兵士さんは俺を尊敬するような眼差しを
「ねぇねぇ!握手して!」
「どこからやってきたの~?」
子供達は珍しいモノを見つけたかように目を輝かせながら俺に近づいてくる。子供達は俺に近づいた事によって顔に付いている鬼の様な仮面に怯えたりしたが、すぐに俺が慌てて手を振りながら敵意はないんだとジャスチャーするとそれが可笑しかったのか、笑いながら俺に話しかけてきた。
「(あぁ!そこら中に天使達がいる!素晴らしい!素晴らしいぞ!)」
流石はエルフと言うべきなのか。寄ってきている子供達すべてが容姿に優れている。この子達が日本でキッズアイドルにデビューしようものなら、すぐさま日本一いや、世界で一番のトップアイドルグループになれるだろう。
そんな子供達が無邪気に俺に笑いかけて「遊ぼう!」とか、「もっと一緒に居たい!」とか言ってくれるのだから紳士である俺は…俺はぁ!!
「(うおおおお!!!)」
「きゃぁ~♪」
近くにいた子供の1人の両脇に手を入れると勢い良く持ち上げる。そして、なんどか上下に持ち上げてみせる。所謂、高い高~いと言う奴だ。
いきなり持ち上げられた子供は、最初こそ驚いていたが、次第に楽しそうな声を上げ始める。その笑顔がとても輝いて見えて、俺としても嬉しくなってくる。そんな時、ズボンをチョンチョンと掴んでくる感触があった。
「ずるい!私も!」
「次、私!私!」
持ち上げられる光景を見ていた子供達が、我先にと俺にお願いしてくる。俺は1人ずつ順番に持ち上げていくと、皆が笑顔で俺に擦り寄ってくるではないか。ハハハ!楽しい!楽しすぎるぞぉ!
「おぉ~い、ワイの用事の事忘れてないぃ?…あかん、聞こえて無いな、コレ…」
---数時間後---
結局、あの後にボール遊びや、鬼ごっこを楽しみまくった。本当に幸せな時間だったが、親のエルフが迎えに来たので遊びを中止したのだが…
「イヤッ!もっと遊びたい!」
「ねぇ?もっと遊ぼうよ!」
と子供特有の我侭を言い、親を困らせてしまっていた。親には悪いが、子供の我侭に俺は嬉しかった。だが、遊び疲れたのか子供達の1人が眠そうに目を擦りながら欠伸をしていた。それに俺はハッとしてすぐに文字を書き始める。
「“また明日遊ぼう。だから今日はもう帰りなさい”」
と俺が文字を見せると、子供達は可愛らしく頬を膨らませて怒った顔をした。だが、皆疲れていたのだろう。次第に一人ひとりが親に連れられて帰って行った。
眠そうな顔をしながらも俺に向かって手を振って「また明日ね~!」と言う姿は正に天使そのもの!鼻血を出さなかった事に俺は自分を褒めたい。
「ふわぁ~、あ?終わった?まったく、イサミはんのせいで今日一日潰れてしまったやんかぁ」
マロクの眠そうな顔などみても全然嬉しくない。むしろ、現実に引き戻されたような気がしてしまい思わず大きな溜息が出る。だが、確かに今日は俺のせいで時間が潰れてしまったのは事実。素直に謝るべきだろう。
「“すまない、マロク。今からでも目的の場所に向かうか?”」
「せやね。まだ店はやってるやろうし」
ベンチに座っていたマロクは、グッと背を伸ばした後、立ち上がった。そして、目的の店を目指して歩き出す。
「今日こそはドワーフ達が作った品をみられるとええんやけどなぁ!」
横で歩くマロクは両手を頭の後ろに回して呟いている。今日の目的の場所は武器関連の店なので、その品の中にドワーフ達が作った品が有ることを期待しているのだろう。だが、俺には腑に落ちないところがある。
「“なぁ、マロク。ここはエルフの国なんだよな?”」
「ん?どうしたん?今更やろ?」
「“いや、エルフの国にどうしてドワーフの品があるんだ?”」
「へ?あ、あぁ!イサミはんは知らんのやったな。えっとな…」
マロクの説明によると、この島はもともとはドワーフとエルフが住んでいた。だが、2つの種族は何処か馬が合わず何時も喧嘩をしていたらしい。そして遂に、この島の覇権を争って大きな戦争が起きたのだが、エルフの勝利で終わったそうだ。
「覇権争いに敗れたドワーフ達は表舞台から姿を消したんよ。文字通りドワーフの姿がまったく見えなくなったので、当時の人間国ではドワーフ達はエルフ達の手によって全滅させられたのかと思っていたんやけど…」
「“けど?”」
「それまではドワーフ達の貿易品であった精巧な武器が今度はエルフ達が持ってきたんよ。それも一時的ではなく、今も続いている。噂では、この島のどこかにドワーフ達はエルフの手によって支配されているのではないかと言わとるねん」
「“なるほど”」
この世界でもドワーフとエルフは犬猿の仲らしい。まぁ樹を守るエルフと、樹を切り火を熾して物を作るドワーフとでは相容れないのは仕方ないと言うもの。この世界でもそれが理由なのかな?
「あ!ここやここや!」
少し考えていると、目的の場所に着いたらしい。目の前には武器が描かれた看板を吊るしている店があった。
さっそく店の中に入ると、中はそれなりの数の人がいた。エルフの国では女性の兵士が多いのか、男よりも多くの女性の方が武器を見たり実際に持って感触を確かめたりしていた。
そんな中をスルスルとマロクは抜けていき、さっそく店主さんに話を聞いている。何を話しているのか気になるところだが、体が大きいせいでマロクのように移動できず、仕方なく入り口付近で武器を眺める事にした。
まず最初に目に入った武器は弓だった。流石はエルフの国と言うべきか、見事な細工がされてある弓でありそれなりに大きい。恐らく、長距離用のロングボウだろう。
実際に手に持ってみると非常に軽い。この大きさでこの軽さ、もしかするとすぐに折れるのではないか?と心配になったが、実際に弦を引こうとすると思った以上に固い。少し力をいれて弦を引くと弦が引っ張られる音を出しながらも、弓の両端は折れることなく曲がり弦を支えている。
「あれ?あのでかい人って昨日の…」
弓を引いている姿に目が入ったのか、エルフの何人かが俺の事について話し始める。それに少し恥ずかしくなって、すぐに弓を元の場所に戻した。
少しコソコソとその場から移動して次の武器を手にする。こちらも見事な細工がされた短剣だった。
「(これも短剣にしては軽いなぁ)」
鞘から抜いて刀身を確認する。刃は両刃で刀身に何か文字のような物が彫られており、とても美しい。長さは全長30センチぐらいだろうか?戦闘するのには不向きでも何かを剥ぎ取る時や、護身用には丁度良さそうだ。
その時、チラッとこの短剣の料金を確認する。そして顔色を青くしながら慎重に鞘に戻し、ゆっくりと傷つかないように元の場所に戻した。
「残念!この店でドワーフの武器は扱って無いみたいやわ。やけど、エルフの作った武器も負けてないなぁ。どれも見事な品や」
身の丈に合わない短剣を置いたところで、マロクが店主との話が終わったのか戻ってきた。
「“これからどうするんだ?何か買うのか?”」
「いや、特に欲しい物は今はないからええわ。次の店に行こか」
俺も手持ちが少ないのでこの店で買えそうな物がない。なので特に反対することなく、2人で店を出た。すると、店の外で待っていたのか1人のエルフが近づいてきた。
「イサミ様ですね?サーシャ様がお呼びです」
俺はマロクと互いに顔を見合わせた後、なぜ呼んでいるのか尋ねた。
「屋敷にてエルミア様が話をしたいとの事です。なのですぐに屋敷に来るようにとサーシャ様が仰られています」
エルミアが?なんだろう?と思いながらも、その場でマロクと別れてエルミアとサーシャが待つ屋敷まで向かう事になった。




