その6
世界樹を救う方法。それは俺の再生の力を使って世界樹を救うと言うものだった。しかし、世界樹はとてもつもなく大きいし、そもそも樹を治すことなんてしたこと無い。なので出
来るかどうか分からないと言うのが実状だ。
「…ごめんね。あんな勝手にイサミの力で救えるなんて言ってしまって」
「“気にしなくても良いよ。エルフの皆を守る為だから。それに、まだできないと決まったわけじゃないし”」
気にしていないと伝えても、どこか悪い事をしたかのような表情を浮かべている。
「(どうしたんだろうか?そんなに気にする事かな?)」
『…恐らくだが、このエルフの娘は再生の力が目的でイサミをここに連れてきた事を悪いと思っているのではないか?』
そうなのだろうか?ヤシロの言う事が本当なら、それこそ気にしないで良いと言うのに。
「“エルミア、君は俺にとってこの世界を教えてくれた恩人なんだ。だから気にしなくて良い”」
「イサミ…。うん!ありがとう!」
うんうん。笑顔のエルミアちゃんが一番です。ところで、後ろのサーシャさんが怖いのでそろそろこの席から離れたいです。
ラタトスクの条件を全て突っ放した翌日、俺とエルミアはとある席にてお茶を飲んでいた。いやぁ、初めてこんな高そうなテーブルで、高級感たっぷりのティーカップでお茶を飲み
ましたよ。誤って落とさないよう、常に気をつけながら飲んでいるので味なんて良くわからない。
マロクの奴はどこかに行ったきりだし、ルドルフさんはなにやら仕事があるとかでこの場にはいない。なので、俺とエルミアとでお茶をしようという事になったのだ。その際、護衛
という事でサーシャさんがついてきたのだが…、なぜか四六時中俺のことを睨んでくるんですよ。それもエルミアには見えない巧妙な位置から。
これはあれですね。流石の俺でも分かる。
「(嫉妬してるんだろうなぁ。エルミアと仲良くする事に)」
身内びいきならぬ、仲間びいきを抜きにしても、エルミアはかなりの美少女である。そんな彼女と話していて、他の男から嫉妬されるという展開は軽く予想できると言うもの。そん
な男達にフフン!と自慢してやるのをひっそりと夢見ていたのだが、まさか女性から嫉妬されるなんて思ってもみなかったわ。
このままでは非常に気まずい。仕方ないので、彼女が関わってこれる話題を振るとする事にした。
「“サーシャさんとエルミアはどういう関係なのかな?”」
「うん?サーシャとの関係?」
急に話が変わったことにエルミアは不思議そうな顔をする。そんなエルミアを見てサーシャさんが「はぁ!可愛い!」と目をハート型にしている。あれ?なんか俺と同じの類な気が
してきたぞ?
「サーシャは私の幼馴染なの。本当に小さい頃から一緒で、昔からサーシャは私の騎士になります!って言っていたわ」
「はい!私はエルミア様の矛であり盾であります!エルミア様の為ならば何でもする所存です!」
エルミアは昔を思い出してクスクスと可愛らしく笑って、サーシャさんは力強く胸に手を当てて応えた。その際、サーシャさんの大きな胸が揺れるのをしっかりと見逃さずに脳内保
存、余裕でした。
「まったく、力を入れすぎよサーシャ?そう言うところは昔から変わらないわよね」
「し、仕方ないのです!私にはこれしか無いので!」
「そんな事無いのに…。サーシャは昔から剣の腕が高かったの。それこそ大人の戦士でも勝てない程に」
「ルドルフ叔父様には未だ勝てませんが…」
「それは仕方ないわよ」とエルミアは笑う。ううむ、美人な2人をこうやって見ていると非常に絵になるな。
「昔、「この剣で何でもどんな事でもやって見せます!」と言うものだから、冗談で私が「じゃあその剣を使って、高い木に生っている実を採ってきて」って言うと、急に剣で木を切り
倒そうとするもんだから当時は思わず笑ってしまったものよ」
「“それは可愛らしいね”」
小さいサーシャさんが剣で必死に木に向かって振るう姿を考えると、ほっこりと暖かい気持ちになる。だが、目の前のサーシャさんから「あぁ?」というドスのきいた視線を向けら
れるとすぐにズーンと一気に冷めた。
「最初は頑張っていたんだけど、次第に無理だと感じたのか剣をしまって戻ってきたのよ」
まぁそりゃそうだろう。しかし、普通なら登って採れば良いのに本当に剣だけで何とかしようとする辺り、サーシャさんのキャラが伺えるな。
「そして、一度屋敷に戻ったかと思うと大きな斧を持ってきて本当に木を切り倒したのは驚きだったわ」
「(えぇ!?結局、切り倒したのかよ!?)」
「す、すみません、当時は子供だったので…。命じられたと言うのに、己の剣だけで切り倒すことができず…お恥ずかしい限りです」
ま、まぁ、子供だったからね。登って採ると考えずに己の得意分野な事だけで解決するという、安易な考えしか思い浮かばないのは仕方ないね!本当に切り倒すとは思わなかったが
…。
「ですが今ならば!この剣1つで容易く切り倒せる自信があります!」
「(…駄目だ。この子、残念な子や。早く何とかしないと…)」
俺があまりの事に白目をむいていると、エルミアが少し怒った口調でサーシャに話しかけた。
「サーシャ、何言ってるの」
流石に思うところがあったのか、エルミアが止める声を出した。おぉ、言ってやれエルミアちゃん!
「切り倒したら駄目でしょ?切り倒したせいであの時、大人たちにこっ酷く怒られたのを忘れたの?切るのなら枝だけにしておきなさい」
「ハッ!?す、すみません!エルミア様!」
「(…なんか俺が期待してたのと違う。あれ?エルミアちゃんも残念な子に思えてきたのだけど気のせいか?)」
チラリと前を見る。そこには優雅にお茶を飲んでいる、正にお姫様の風貌を漂わせるエルミアがいる。その隣には柔らかな微笑みを浮かべてエルミアのティーカップにお茶を注ぐサ
ーシャの姿がある。正直、俺が場違いと思えるほど上品な空気だ。
「(うん。気のせいだな。エルミアちゃんが残念な子であるはずがない!)」
うんうん、と1人納得していると、屋敷の方からメイドさんがやって来た。うひょう!エルフのメイドさんだぁ!素晴らしいです!
「御寛ぎの中、失礼いたします。エルミア様、ラタトスク殿がお話をしたいと屋敷に参られております」
エルミアはラタトスクの名を聞くとピクッと長い耳を動かした。サーシャも微妙な顔をしている。まぁ昨日の事があればなぁ。
「…話すことは無いと伝えて頂戴」
「しかし…、バムタール殿もご一緒されています。このまま帰すのは失礼にあたるかと…」
「っち。面倒ね」
エルミアが思わず舌打ちするほどの人物とは一体?バムタール殿…、たしか昨日の話し合いで聞いた覚えが…あったような気がするがいまいち思い出せない。そんな俺の感情を察し
たのか、エルミアが説明してくれた。
「ウンベルト・エルフ・バムタール。エルフ8豪族の1人で、私の従兄弟よ」
「“エルフ8豪族?”」
「この国において地方で力を持った家の事をそう呼ぶの。人間で言う貴族みたいなもので、豪族は人名の他に氏の名を持っているわ」
「“その氏の名がウンベルト?”」
「えぇそうよ。ちなみに私はアイナリンド。サーシャはベレーバムの名を持っているの」
という事はエルミアは当然だが、ルドルフさんもそれなりにお偉いお人?…マジか、でもなんとなく納得できるかな。一国のお姫様を護衛するぐらいの人なのだから、偉かったとし
てもなんら不思議ではない。
「(まぁ、それ以前にそんな高貴な2人だけで旅に出てる時点でかなり可笑しいのだけれど…)」
今更なので、何も言うまい。
「どういたしましょうか?エルミア様」
「どうもしないわ。今は忙しいと言ってお帰り願って。と言っても貴女じゃ難しいでしょうから、サーシャお願いできる?」
「はっ!すぐに追い返してきます!」
エルミアに命じられた事が嬉しいのだろう。サーシャが意気揚々と、その場から離れようとすると
「そんな寂しい事を言われるとは心外ですね」
屋敷の方から声が聞こえてきたので顔を向けるとそこには眼鏡をクイッとあげる仕草をしているラタトスクと1人のエルフの青年が立っていた。
「…誰が勝手に入って良いと言ったかしらね?」
エルミアは額に怒りのマークを浮かべながら、ゆっくりと紅茶の入ったティーカップを置いた。サーシャも「ガルル…」と敵に向けるような視線を2人に向けている。
「これは失礼。お忙しいかもしれないと思い、此方から話を伺いに参ろうと参上したのですが…。どうやらエルミア様はそこまでお忙しくない御様子。いやぁ、良かった、良かった」
「エルミア様、貴女様のような高貴なお方の近くに、そのような下賤な者を置くのは如何かと思います」
ラタトスクは嫌味を言いながら、そしてエルフの青年は俺を睨みつけながら近づいてくる。そして、我がもの顔でテーブルの席に腰を下ろした。
その事に、スッとサーシャが腰の剣に手を伸ばした。だが、エルミアは手を上げてサーシャを静止させると、冷たい笑みを浮かべた。
「勝手に人の屋敷に入ってくるどころか、この席に腰を下ろすなんて…。御2人方は礼儀の教育を受けなかったようですね?嘆かわしい事です」
「いえいえ。理由も無く相手を追い返そうとする、礼儀知らずなお方よりはマシだと思いますがね?」
2人は互いに笑みを浮かべているが、俺から見れば恐ろしい以外の何者でもない。だが俺が恐怖で顔を青ざめていると言うのに、エルフの青年は特に気にしていないようだ。
「ところで何故お前はそのような仮面をつけている?エルミア様の前で失礼だぞ!」
無断でやって来たお前が言うか!?と言うか今それどころじゃないだろう!?と思っているとエルミアが弁護してくれた。
「私は気にしていないわ。バムタール、貴方の方こそ自分の行動が失礼だと思わないわけ?」
「エルミア様、私は8豪族ウンベルトの嫡男の1人。それに対してこの者は只の奴隷。身分が違います」
「はぁ?なんで身分の話になるわけ?それ以前の問題だって言ってるのよ!それにイサミは幻獣ディアリームの角を見つけてくれた恩人よ!」
どこか話が通じてない感がするエルフの青年にエルミアが切れ気味になっていると、ラタトスクが「まぁまぁ」と宥めてきた。
「両者共に落ち着いて下さい。実は今日ここに訪れたのは、彼について知りたい為です」
「…どういう事?」
「話を聞くところによると、彼が幻獣ディアリームの角を見つけたようですが…。一体、どのようにして見つけたのかを知りたいと思いまして」
ラタトスクは眼鏡をクイッと上げると俺に視線を向ける。
「かのアイテムは滅多に手に入らない希少なアイテム。そんな物を何処で見つけたのですか?」
「……」
そんなに珍しいアイテムなのか…。森で狩りをしていたらゲットしましたなんて…言って良いのだろうか?
返答に悩んでいるとエルミアが俺の代わりに答えてくれた。
「入手経路について貴方に答える必要があるとは思えないわ。大事なのは幻獣ディアリームの角を手に入れたという事、そうでしょう?」
エルミアはそれ以上何も答えるつもりは無いと言った視線をラタトスクに向ける。
先程から2人が睨み合いながら話をしている中でも、エルフの青年は俺を睨んでいるし、サーシャはエルミアを見て「あぁ、お怒りのエルミア様。なんて凛々しい…」と目を輝かせ
て呟いている。なんだろうか、この滅茶苦茶な現場は?すぐにでも逃げ出したくなってきた。
「ふむ、では質問を変えましょう。彼は一体何者なのでしょうか?」
どこか他人事のようにこの光景を眺めていた俺の耳に入ってきた言葉は、ラタトスクが俺の正体についての疑問だった。
「幻獣ディアリームの角を手に入れる事が出来る程の人物でありながら、奴隷という身分。しかも常に仮面をつけていると言う事は、素顔を見られると不味いという事。余程醜い顔を
しているのか、或いは病気で顔が崩れているのか…いや、もしやすると、大罪人という線もありますね」
「ッ!?イサミが罪人の訳が無いでしょう!」
「では、素顔を見せて頂いても?」
ラタトスクは顎を少し上げ、鬼のような仮面をつけている俺を見ながら眼鏡をクイッと上げる。口元は少し上がっており、こちらの弱点をうまくつけたと思っていそうな顔をしてい
る。
「(困った…)」
実際、この仮面は俺にとって弱点のようなものだ。仮面は取れる事が無いし、なにより取る事ができたとしても素顔を見られて俺の正体がばれると不味い事が容
易に想像できる。
「“この仮面はとある理由があって外せないのです。どうかご容赦を”」
「ほう?理由ですか?奴隷のくせに、エルフの王族の前ですら外せない理由とは…是非知りたいものです」
ぐむむっ!この野郎。顔を少し上げてこちらを見下ろすように問いかけてくる。どうしよう、なんかムカついてきた、金剛をかけた拳で殴って良いかな?良いよな?良し!
思わずテーブルの下で腕に金剛をかけようとした瞬間、エルミアが声を上げた。
「ラタトスク、黙りなさい。これ以上、イサミに失礼な事を言えば今すぐに追い出すわよ?只でさえ、貴方達は無断でここに来たという失礼な行動をしているのだから」
エルミアがスッと腕を上げると、サーシャが再び腰の剣に手を伸ばした。そこで俺の鼻に複数の女性エルフの匂いが入り込んできた。静かに周りをよく見ると、周囲の木々の上から
女性エルフ達が矢を番えてラタトスク達を狙っているのが分かった。一体、何時の間に居たのだろうか?
冷めた表情で2人を見るエルミアに対して、ラタトスクは両手を上げて「これはこれは、失礼いたしました」と答えた。すると、エルミアは手を下げたので周囲から刺々しい雰囲気
が消えさった。
「エルミア様!ラタトスク殿を武力で脅すなど、どういうおつもりか!ラタトスク殿は私達エルフ族の事を思って――」
「貴方は黙っていなさい!」
エルミアの一喝によってバムタールは何も言えなくなった。それを見ていたラタトスクが仕方ないと肩を竦めると
「…私も気が逸りすぎたようです。ではこれにて」
ラタトスクが立ち上がると、バムタールも渋々と言った感じに立ち上がりその場を後にした。その2人の後ろ姿を、エルミアはフンッ!と腕を組んで睨みつけていた。




