その2
「ほら、あれがアイナリンド城よ」
街が存在している森の奥を進んでしばらくすると、エルミアが進む先を指差した。その先に視線を向けるとエルフたちの城、アイナリンド城と思われる建物が見える。その城は世界樹と一体化している建築物であり、どのようにしたらこのように造る事が出来るのか不思議に思う程に調和がとれている。恐らくは途方も無い年月をかけて今の状態へと成ったのだろう。その見事な城に俺は口を閉じるのを忘れて見上げていた。
しばらくボーっとしていたが、エルミア達に引っ張られる形で歩き出す。王城へとつながっている一際立派な橋を渡っていると、橋の向こう側である城門付近に居た守衛のエルフの1人が此方の一行に気付いたようだ。そして先頭を歩くのがエルミアとルドルフさんだと分かったのか、慌てて城の中に入って行った。
「…来るかしらね?」
「…恐らく」
前を歩くエルミアとルドルフが何か話しているが、聞いた言葉だけでは内容を理解できずに俺とマロクの2人で?マークを浮かべていると
「…エ…ミ……う…様ーーー!!」
何処からか、声が聞こえてきた。なんだ?と俺は声の発生主を探そうと周囲を見渡そうとした瞬間、正面の大きな城門である扉が盛大な音を立てて一気に開かれた。そして…
「エルミアお嬢様ぁーーーー!!!」
ドドドッ!と音を立てながら扉の奥から1つの影が飛び出してきた。その影は凄まじいスピードで此方に駆けてきて、目前まで来るとエルミアに向かってその勢いのまま飛び込んできた。だが、ぶつかる直前にルドルフさんが体術っぽい方法で見事にその人物を上空に放り投げた。
影の人物は急に放り投げられたと言うのに、慌てることなく空中で姿勢を整えて見事に着地する。その瞬間、花のような可憐な匂いがした。着地した影は、先程までの勢いは無いが、それでもかなりの強さでエルミアに抱きついた。そこでようやく俺は影の正体を確認した。
「エルミアお嬢様ぁ!お会いしたかったです!!」
「あ、あはは、相変わらずね。サーシャ」
サーシャと呼ばれた人物は、褐色の肌をしたエルフ。いわゆるダークエルフの若い女性だった。とても艶やかな青紫色の長い髪をポニーテールで纏めている。そしてチラリと見えた横顔からして、かなりの美人さんであることが窺える。
「(こ、これはヤバイ!)」
動きやすさを重視してなのか、体を覆う鎧は比較的少なく、要所のみを守れる形になっている。それに合わせてなのか服も同様だ。つまり何が言いたいのかと言うと…
「(めっちゃ露出が多いです!ありがとうございます!)」
とある某ゲーのビキニアーマーとまではいかなくとも、かなりの露出度である。よって女性慣れしていない俺にとっては、チラチラと見える健康的で綺麗な肌は正直…、目のほよ…んんッ!目の毒だ。
俺が意識して視線を違うところに向けている間にも、サーシャさんはエルミアに抱きついている。そんなサーシャさんの背中をエルミアは嬉しそうに撫でていた。子供体型のエルミアに対してサーシャさんは大人の体型なので、傍から見ると子供が大人を慰めているかのように見えてしょうがない。
「サーシャ、久しぶりに貴女に会えたのは本当に嬉しいわ。だけどそろそろ行かないと…」
「は、はい!申し訳ありません!」
エルミアの言葉に反応して、サーシャさんはバッと体を起こしてから騎士の敬礼のような仕草をする。そこでようやく彼女は俺とマロクの存在に気がついたようだ。すぐさま腰の剣に手を伸ばして鋭い視線を向ける。
「何者だ!貴様ら!」
「やめなさい、サーシャ」
「あいたっ!うぅ、おじい様ぁ。何するんですかぁ~」
すぐにでも剣を抜かんとする雰囲気など関係ないと言わんばかりに、ルドルフさんがサーシャさんの頭を軽く殴った。…おじい様?
「イサミ殿、マロク殿。紹介します。こやつは私の孫娘、名をサーシャと言います」
「…ベレーバム・エルフ・サーシャと申します」
殴られた頭を擦りながら、涙目で渋々といった感じに彼女は自身の名前を答えた。確かに以前教えてもらったルドルフさんの名前はベレーバムも含まれたものだった。しかし、彼女はダークエルフでルドルフさんは普通のエルフだ。もしかすると、娘さんか息子さんのどちらかがダークエルフと結ばれたのだろうか?
「おじい様、この者達は何者ですか?…そっちのほうは人間のようですが?」
「そちらの人間の方がマロク殿。そしてこちらの大きい方がイサミ殿です。…そのように相手に向かって指を差すのではありません。失礼ですよ?」
「人間風情に失礼も何も――」
「…サーシャ?」
「は、はい、おじい様。申し訳ありませんでした…」
今の会話でルドルフさんとサーシャの力関係が分かった気がする。と言っても祖父と孫娘と言う時点である程度は分かると言うものだが。
「しかしイサミと言ったか?お前、なぜ素顔を隠しているのだ?見せられない理由でもあるのか?答えろ!さもなくば――」
「サーシャ、イサミは私の大事な…えっと、その…奴隷、そう奴隷なの!だから勝手に苛めたりしたら駄目よ?」
「はい!分かりました!お嬢様がそう言うなら!」
「(うわぁ、なんか見えない尻尾が見えそう)」
エルミアの言葉に即座に反応して嬉しそうにするその姿に、もし彼女に尻尾があればブンブンッと振られているのでは?と思ってしまった。
「ところでサーシャ、おかあ…いえ、リリアーナ様は元気にされている?」
「あ…。えっと、その…」
今まで嬉しそうに答えていたサーシャさんが急に言いよどむ。どう答えていいのか迷っているようだ。
「…相変わらず、あの男の言う事を信じているようです。もう何度も御忠告しているのですが、残念ながら私達の言葉を聞き入れて貰えず…」
「そう…分かった。ごめんね、サーシャ。苦労をかけたわ」
「いえ!滅相もありません!こうしてエルミアお嬢様が戻られたのですから!」
サーシャの言葉にエルミアは力強く頷く。横から見たエルミアの顔は、今まで見たことが無いぐらいの覚悟を決めたかのような顔をしていた。
---アイナリンド城内---
王城の中はとても幻想的な光景が広がっていた。正に建物と世界樹が一体化した美しい造りになっており、どこかの高名な美術品の絵に描かれた世界のようだ。
そんな城の中を、衛兵の案内を受けて進んでいく。城の中を存分に見て楽しみたい気分であったが、先程から斜め後ろより感じる鋭い視線によって楽しい気分どころではなかった。
「お嬢様の奴隷…、つまりお嬢様のモノ。羨ましい、羨ましい、羨ましい…」
チラリとではなく、完全に此方を睨んでいる。仇を見るかのようなサーシャさんに対してどう接すればいいのだろうか?
「(どうしよう。初めて美少女に見られて困ってるよ。いや、見られていると言うより睨まれている訳だけど…)」
どうしようかと考えているうちに、どうやら目的の場所にたどり着いてしまった。世界樹の中に存在する王城の中でも、一際美しい細工がされた大きな扉の前で一行の歩みが止まる。
「イサミ、マロク。2人は後ろのほうにいて。ルドルフ、幻獣ディアリームの角は大丈夫?」
「はい、問題ありません」
「そう、それじゃ…行こう」
エルミアが扉の方に向き直ると、衛兵の2人が大きな扉を開いた。そして扉が開き終わると、同時に衛兵の1人が高らかに声を上げる。
「エルグニス国王女!アイナリンド・エルフ・エルミア様!御到着!」
「(……はい?王女?)」




