出航
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案内された船内の部屋に荷物を置いた俺達は、特にすることも無くマロクを待つ為に船の甲板に出ていた。甲板には荷物を運んでいる男達が大勢いて、殆どが上半身裸でムッキムキな体つきをしており、大量の荷物を船内に運び込んでいた。
「“荷物が多いですね。あれ全て商売用の荷物ですか?”」
「えぇ恐らく。とは言え、中には移動中の食料品なども含まれているかと。」
「むっふっふ。イサミ、私がここは1つ勉学を教授してあげる!」
俺が船に運ばれる荷物についてルドルフさんに聞いていると横にいたエルミアが口元を“ω”の形をさせたドヤ顔で腕を組んでいた。
「……ッぐはぁ!?」
「え?イサミ?イサミぃ~!?」
あまりの可愛さに俺が鼻血を出してその場に跪くとエルミアが心配して背中を撫でてくれた。いかんいかん、あやうく大量出血で昇天するところだったぜ…。
「ほ、本当に大丈夫?」
「“大丈夫。それで?何を教えてくれるの?”」
「実は…、運び込まれている食料品の中身は果物が多いの。それは何でだと思う?」
あ~、確か船の上での栄養が何だとかでの話だったか?昔の人は長い船旅においてビタミンを取れなくて病気にかかっていたとか。現代でこそ冷凍保存技術が発達したから問題ないが、生の野菜等の長期保存が利かなかった大航海時代などは船乗りが常に悩まされた問題だったはず。
この世界での食料保存技術がどこまでのものなのかはよく知らないが、生の野菜よりも保存が利きやすい果物を多く積む事で病気にかからないようにしているのだろう。
「(多分それであってるんだろうけど…。)」
俺はチラリと隣を見る。そこには目をキラキラとさせて答えたそうな顔をしているエルミアがいた。
「……。“ごめん、わからないや。どうしてかな?”」
「ふふふ、流石のイサミでも知らなかったのね!えっとね?果物を沢山持っていくのは――」
「航海中に病気にかからないようにする為、やろ?船乗りの間では有名な話やね。」
エルミアが話している途中で、船に乗り込んできたマロクが答えた。否、答えてしまった。だと言うのにこの男は飄々と船の甲板に上がってきた。
「あ~、遅れてすんまへん。それで、荷物はどこに……あの?イサミはん?なんで無言で胸倉を掴んで――あああぁぁぁ!?」
馬鹿が1人海に落ちる音を聞きながら、俺はすぐさま慌てて文字を書き始める。そして、横で頬を膨らませているエルミアに見せる。
「む、むぅ~~っ!」
「“エルミア、病気ってどんな病気なの?”」
「え?えっと、確か…歯茎が腐ってきて、真っ黒な腐った血が流れてくるんだって。私はかかった事が無いから分からないけど、その病気にかかるとまず助からないんだって。」
「“へぇ~、エルミアは物知りなんだね!”」
「えへへ~、まぁ私も聞いただけなんだけどね!」
俺が知らない事を答える事ができた為か、エルミアはとても嬉しそうな笑顔になった。よし!エルミアが元気になってくれた。これで万事良し!
「…イサミ殿、マロク殿はどうするのです?」
知りません。あそこでしばらく反省すればいいと思います。
「なッ!?誰かが海に浮かんでいるぞ!?」
「なんだぁ?投身自殺かぁ?」
「いや、生きてるっぽいぞ?ピクピクッと動いてるし。」
---数刻後---
「よし!荷物は全部積み込んだな?」
「へい!ルーペントさん!」
「ご苦労だったな!わりぃが、馬鹿息子を呼んできてくれ。」
「へい!」
「おぉ~い!あんたら!」
荷物を運び終えたのか、出航の雰囲気になり始めている船の中でルーペントさんが俺たちを呼び寄せる。
「ルーペント、もう出航かしら?」
「おう!これからしばらく船の上…って、おいマロク?全身びしょ濡れじゃねぇか。」
「あ~…、気にしないでええよ…。」
先程上がってきたマロクが、元気の無い声で答えている。先程聞いた話によると、マロクも船に乗る為の試験を受けたらしい。まぁ内容は俺と違って、船の男達とダーツのようなものでの勝負だったようだが。結果はマロクの圧勝だったらしい。
そんなこともあってマロクの事を知っていたルーペントさんだが、全身びしょ濡れになっている理由が分からず?マークを浮かべている。
「そうか?まぁいいけどよ。もう少しで、俺の馬鹿息子がやって来る。今回の航海はそいつが担当するぜ。」
「息子?ルーペント、貴方に息子なんていたの?」
「んぁ?そういえば話してなかったか?そいつの名前は…。」
「わりぃ!待たせたな!」
ルーペントさんが名前を言おうとした時、聞き覚えのある声が港に方から聞こえてきた。
「ラザレス?なんで貴方がここに?」
「お?エルミア嬢ちゃんとルドルフさん。それと…。」
「イサミとマロクだ。ラザレス!この人たちをしっかりとリングネース島まで運んでやれよ!」
「わーってるよ!2人とも、俺はラザレスってんだ。と言ってもあんたは俺のことを知ってるよな?」
ラザレスが俺のことを見ながらそう言って来た。確か、フィーロの馬鹿をギルドに突き出した時に見た人だな。ドクロマークの眼帯をして、目に力がある人なので覚えている。だっていかにも彼こそが海ぞ…ゴホンッ!海の男だもんな!
「ワイは知ってるで?ニューポートタウン一番の冒険者、ラザレスはんやろ?しっかし、驚いたわ。まさか“豪腕”のルーペントはんの息子だなんてね!」
「本当にね。でも、貴方なら安心して航海を任せられるわ。頼むわねラザレス。」
「おう!任せておいてくれ!んじゃ、親父。行って来るぜ。」
「あぁ、この人たちは勿論だが、向こうの皆さんに迷惑かけんじゃねぇぞ!」
「へいへい!よぉ~し!お前らぁ!出航だぁ!!錨をあげろぉ!」
「「「おおおぉぉぉ~!」」」
ラザレスさんの出航の合図に男達は反応し、一斉に声を上げて行動を開始する。
「んじゃ、気をつけてな。」
「えぇ。ありがとうございました。ルーペント殿。」
ルーペントさんは背を向けて後ろ手を振りながら、そのまま港のほうに歩いていった。そして、港と船を繋ぐ橋が引き上げられると船に取り付けてある鐘が鳴り始める。
「出航~!」
「「「出航~!」」」
船のマストに備え付けれている帆が降ろされ、風を受けた事によって心地良い布の動く音が聞こえる。そして、少しずつ船が動き出した。
「面舵一杯!ヨ~ソロ~!」
「「「面舵一杯!ヨ~ソロ~!」」」
そしてラザレスさんの号令の下、船の舵が全力でに回されると船が右に傾きだし港の出入り口に向かって船が動いていく。
「(うおおおぉぉ!!すげぇ~!)」
俺は船員さん達の邪魔にならないよう気をつけながら船の前端部に移動する。そして手摺りから少しだけ身を乗り出して辺りの光景をみる。
澄んだ青空の下、横には白いカモメっぽい鳥が船に並んで飛んでおり、背後にはどんどん遠くなっている港町。斜め前には大きな灯台が聳え立っており、そして前方には…
「(うおおおお!!海平線しかみえねぇ!)」
目の前には海がこれでもかと言うぐらいに広がっており、これから見たことの無い土地に行くのだと思うと心が躍る。
「イサミ、あんまり身を乗り出すと危ないよ?」
「心配されずとも、これから嫌と言うほど目にしますので慌てずとも良いですよ。」
「ルドルフはんの言うとおりやで、これから長い事暇になるで~?」
声が聞こえたので背後を振り向けば、心配そうに此方を見上げるエルミア、苦笑しながら微笑んでいるルドルフさん、呆れたような溜息をつくマロクの三人が来ていた。
『イサミよ。この船には酒はあるのか?』
そして、ヤシロのいつも通りの声に俺は苦笑しながらこう思う。
「(あぁ、この世界に来て本当に良かった。)」
「イサミ?どうしたの?」
「“いや、なんでもないよ。”」
不思議そうな顔して首を傾げるエルミアを見ながら、俺は再び前を向く。
イサミ達を乗せる船はエルフが治める島、リングネース島に向かって穏やかに出航した。
船といえば冒険ですよね!今回の話でそんな気持ちが少しでも伝わって下されば幸いです!
(っ´∀`)っヘッヘッヘ




