腕相撲
ちょいと長めです。m(-_-)mモウシワケナイ
「おはようイサミ!良い朝だね!」
朝一番で俺の部屋にエルミアが元気な声を出しながら入ってきた。いや飛び込んできた。
「“おはようエルミア。”」
「おはようさん…、エルミア嬢…。」
「…どうしたの?2人ともなんだかとても眠そうな顔してるわよ?」
文字でこそいつも通りの返事をしたが、殆ど目が閉じかかっている俺と目を擦りながら返事をしているマロクを見てエルミアは不思議そうな顔をしている。
「まぁいっか。今日はリングネース島に向かう船に乗るんだからしっかり目を覚ましておいてね!」
そう言うや否や部屋を飛び出して「下で待ってるからね~!」と言いながら階段を下りていった。俺はあくびをしながらローブを被り腰に剣、背中に槍を備え付けると部屋を出る。
マロクは手持ちのリュックに色々と荷物を積み込んでいたがすぐに終わり、俺の後に続いている。
昨夜はあれからブレトンと長々と話をしてから屋敷を後にした。別れ際に深い握手を交わして「それでは同志よ。また会えることを楽しみにしているぞ。」と言っているブレトンを本当に不思議そうな顔で奴隷であった少女や目が覚めた執事の老人、兵士たちが見守っていたり、酷く疲れた目をしたマロクが居たが、それは些細な事だろう。
「些細でない…。些細でないから…、滅茶苦茶やから…。」
「(ん?何か言ったか?)」
階段を降りている途中で、後ろでぼそぼそとマロクが何か呟いていたが、声が小さすぎて聞こえなかった。まぁ、大したことではないのだろうから気にしなくて良いか。
「あっ!こっちこっち!」
階段を降りると宿の受付の所に居たエルミアが俺たちに気づいて手を振っている。その姿を見ていると本当にエルミアが元気になってくれて良かったと思う。…と言うか
「(無邪気に笑顔で手を振るエルミア…。くぅ~~ッ!かわゆい!かわゆすぎる!)」
『イサミ、無言で僅かに体を震わせていると変に思われるぞ?』
ヤシロの言葉にハッとして、「ンンッ!」と声をだして身を正してからエルミア達に近づく。
「おはようございます。イサミ殿、マロク殿。」
「ルドルフはん、おはようさ~ん。」
「“おはようございます。”」
「今日はこれから港に向かい、エルフの島、リングネース島行きの船に乗ります。しばらくは船の上での生活になりますので必要なものは今の内に準備して置いて下さい。」
「“私は大丈夫です。”」
「わいも別に…あっ!ごめん、ちょっと商会ギルドに行って来るわ。手紙を出さないといかんのやった。」
突然思い出したかのようにマロクは顔の前で手を合わせて謝罪する。まぁ特に急ぎでは無いそうなので問題ないとルドルフさんは言うと地図を広げてマロクに見せる。
「それでは場所をお教えしますので、用事が済みましたらそちらに来て下さい。」
「はいな。…ふむふむ、ここやね?了解!終わったらすぐに向かうから、皆は先に向かっててや!」
「それじゃ!」とマロクは宿から出ると駆け足で目的地に向かっていった。
「では、私達も港に向かうとしましょう。途中、市場などがありますから見て回るのも良いかもしれません。」
そうして、俺とエルミア、ルドルフの三人は宿を後にした。
---市場---
「いらっしゃい、いらっしゃい!今日の朝に取れたばかりの新鮮な魚だよ!」
「王国から取り寄せた香辛料はどうだい!旦那やお子さんを喜ばしてあげる事間違いなしだよ!」
「…さっき切り取ったばかりの肉だよ…。ひひひ、1つどうだい?」
市場に来ると王都に負けないぐらいの活気のある声が飛び交っていた。人の数も多く、もしかすると王都よりも多いのではないか?と思えるぐらいだ。
「“朝からこんなにいるんですね。”」
「えぇ、特にこの港街は朝に新鮮な魚を取り寄せる事が多いですからね。自然とその時間に人が集まってくるのです。」
どおりで魚を売っている店が多いと思った訳だ。どの店も他の店に負けないよう声を上げてアピールしたり値段を下げて勝負しているのが見える。どの世界でも商売における競争は凄まじいもんだ。
「綺麗な首飾りはどうだい?気になる彼女に上げて一気に良い仲になる事だって夢じゃないよ!」
「あ…。」
人が多い中を進んでいると、ふとエルミアが立ち止まった。どうしたのだろうとエルミアが見ている先を見ると綺麗な首飾りを置いている店があった。
「おっ?どうだい!そこのお三方!見ていくだけ見ていってよ!」
俺たちに気づいた商人が手招きしているが、エルミアは迷っている様子だ。そんなエルミアの背中を少しだけ押してやる。
「イサミ?」
「“少しぐらい見てもいいんじゃない?良いですよね?ルドルフさん。”」
「はい、大丈夫ですよ。」
「じゃ、じゃあちょっとだけ…。」
店に近づくと色とりどりの宝石や貝殻を使った首飾りが飾られており、どれも高そうだ。
「うわぁ~、綺麗~。」
ローブ姿なので顔は見えないが、きっと目を輝かせて見ているのだろう。しゃがみこんで首飾りを見ているエルミアの声には歓喜の色が含まれていた。
「いらっしゃい!それなりの値段はするけどどれも良い品だよ!」
俺はチラリとエルミアが特に物欲しそうに見ている首飾りの値段を見る。
「(|銀貨大1枚と銀貨小4枚《14000アルム》か…、たっか!高すぎだろ!)」
14000円ならば、少し高いが買えないほどじゃないと思ったかもしれないが、アルムとなるとこの世界では大金だ。たしか王都で受けていたゴブリン討伐の報酬額が本来は銅貨大5枚(500アルム)であり、単純計算ならば命懸けのゴブリン討伐を28回こなさないといけない計算になる。
「(お、恐ろしい。なんて高い品物なんだ…。)」
俺1人で品物の値段に恐怖している時、商人が俺にこっそり近づいてと言い放つ。
「どうだい?見たところそこのローブの小さい子は女の子なんだろ?どういう関係かは知らないけど、ここは1つ男を見せたらどうかね?」
ぐ、ぐむむ。この商人、なんてやり手なんだ!俺はチラリとエルミアを見ると未だに首飾りを眺めている。確かに、ここは買ってあげると言えれば喜んで貰えそうなものなのだが…。
「……。」
俺は無言のまま、こっそりと手持ちの金の入った小袋の中身を確認する。
持ち金、なんと!14500アルム!
…一応買えるな。でも、殆どの手持ちがなくなる訳で。買ってあげて喜ばせたのは良いものの、すぐに金が無いから貸して下さいとか、ダサい!かっこ悪すぎる!
イサミが1人で財布の中をグムム!と唸りながら睨みあっている姿をルドルフは微笑ましいものを見るような笑顔を浮かべながら見守っていた。そんな時、満足したのかエルミアは立ち上がった。
「…欲しいけど、高すぎるわね。残念だけど諦めるわ。」
「おや、残念。またのお越しをお待ちしております。」
「えぇ。…っと、2人とも待たせてごめん。」
「いえ、構いません。さて行きましょう。」
そうして、エルミアとルドルフは先に行ってしまう。
「(ぐ、ぐむむむむむむむむ!!ッ!!そうだ!)」
「おや?どうしたんだい?」
「“すみません。コレを頂く事は出来ますか?”」
---ニューポートタウンの港---
「(おおおお!!これがリングネース島に行く船かぁ!でっけぇぇ!!)」
目の前には威厳すら感じる程の巨大な帆船が海に浮かんでいた。多くの人が船に荷物を運び込む作業をしており、俺は邪魔にならないよう気をつけながら目の前の帆船に感動していた。
「イサミ~、こっちだよ~!」
俺は目新しい光景に顔をキョロキョロと動かしながらルドルフとエルミアの後を追う。向かった先はこの辺りの船の管理をしている拠点であり、中は外と変わらないぐらいの騒々しさだった。そんな中、ルドルフは目当ての人物を見つけたのか少し早歩きになって中を進んでいく。
「ルーペント殿!」
「あぁ?おっ!ルドルフさんじゃねぇか!それにエルミア嬢ちゃんも!」
「お久しぶりね、ルーペント。」
「はっはっは!相変わらずちびっこいなぁ!ちゃんと飯食ってんのか~?」
ルドルフが話しかけた人物は60代前半と言った男性で海の男達に負けないぐらいの日焼けした強靭な肉体と形相をしている人だった。そんな男性がルドルフとエルミアを見た途端、笑顔になって2人を迎えていた。だが、2人の背後にいた俺を見ると顔が変わった。
「んで、後ろの大きいお前さんがルドルフさんが言っていた男か?…1人足りないみたいだが?」
「もう1人は用事があるとの事で今はいないのです。」
「そういうことか、まぁいい。ところでお前さん。」
ルーペントさんは怒ったような顔をしながらズイッと体を俺の方に寄せてくると
「俺達はこの2人を信用しているが、お前さんの事は信用してねぇ。正直言って、よく知りもしねぇお前さんを俺達の船に乗せたくないんだよ。」
「ちょっ!?ルーペント!?」
「エルミア嬢ちゃんは黙ってな!これは俺達の問題なんだ。」
気がつけばルーペントだけでなく、屈強な男達に俺は周囲を囲まれていた。どう見ても逃げられない感じだ。…超怖いんですけど…。
「“どうすれば信用してもらえるんです?”」
「…ふむ、本当に言葉を話せないんだな。まぁ、鼻から全て信用して無いわけでもねぇさ。それじゃあルドルフさんを信用して無いって事になるからな。だからお前さんの正体についてもさほど興味ねぇ。あるのは…言葉だけでなく、本当の実力がある男かって事だけさ!おい!」
「「へいっ!」」
ルーペントの言葉に2人の男が答えて奥から大きな樽を運んできた。そして俺とルーペントさんの間にドスンッ!と大きな音を立てて落とすと
「海の上では力が無い者は生きていけないばかりか、他の者の足を引っ張る事がある。だから、力が無い奴を船に乗せる気は無い。そう言う訳だからお前さん、俺と勝負して力を証明しな!なに、心配いらねぇ!負けてもある程度の力があるって分かれば認めてやるよ!」
そうして、ルーペントさんは腕をまくると音を立てて樽の上に肘を付いた。
「(こ、これは?)」
俺が説明を求めてルドルフさんを見ると、分かったかのように頷いてくれた。
「腕相撲ですよ。彼ら流の実力試験というやつです。」
「(あぁ、やっぱり。)」
見ればフンッと大きく鼻息を吐いて目を輝かせて俺を待っているルーペントさんや、周囲の男達が「うひょ~!久しぶりの“豪腕”のルーペントさんの勝負だ!あいつも運がねぇぜ!」とか「前の奴はひっくり返されて建物の外まで吹っ飛ばされたんだよな!」とか物騒な事を言っている。
「(どうしよう。コレ絶対アカンやつや…。)」
周囲の空気とルーペントさんの威厳に早くも戦意を喪失しそうになっていると後ろからエルミアの元気な声が聞こえてきた。
「大丈夫!イサミなら絶対勝てるから!がんばってぇ~!」
「“やりましょう。私が勝っても恨まないでくださいね?”」
「おっ!気合ばっちりじゃねぇか!良いぜ!そういう奴は嫌いじゃない!」
俺はルーペントさんと同じく腕をまくってから樽に肘を置きルーペントさんの手を取る。その時点でルーペントさんはかなりの力を俺の手に込めてきている。だから、俺も負けじと力を込める。
「…ふ、ふっふっふ!この感触、お前さん、かなりの実力があるな?本来ならコレだけで認めてもいいが、久しぶりの腕が鳴る相手だ!存分に楽しませてもらうぜ!」
「……。(悪いな、ルーペントさん。俺にも負けられない理由があるんでな。ここは勝たせてもらう!そしてエルミアにナデナデしてもらうんだ!うへ、うへへへへへぇ!!)」
「お、おい!この2人、勝負の前から既に闘っているぜ!」
「あ、あぁ。あのルーペントさんがこんなに楽しそうな顔をするのを見るのは本当に久しぶりだ。これは…歴史に残る闘いになりそうだ。」
「俺、なんだか2人の視線で火花が散っているみたいに見えるぜ…。」
イサミとルーペントが互いに笑みを浮かべながら視線をぶつけ合っている姿に、周囲の男達は唾を飲み込んで見守る。そんな中をルドルフが二人に近づき
「審判は私が務めさせて頂きます。それでは、勝負…」
2人の合わせた手の上にルドルフが手を手刀の形で近づけてから
「開始!」
「うおおおお!!!」
「ッ!!(うおおお!!)」
ルドルフが声と共に手を振り上げた瞬間、2人の力が一気に込められた。それと同時に周囲の男達が大きな歓声を上げて二人を応援し始める。
大きな喧騒の中、2人で作られた拳はどちらにも動くことなく正にその場で静止しているかのように動かない。いや、正確には僅かずつイサミが勝っている状態だ。
「あ、あいつ!ルーペントさんに勝ってる!?」
「そんな馬鹿な!?」
互いの力が込められた拳には大量の汗が浮き出ているが、そんなことを気にする者はここにはおらず、ただただ二人の力によって支えとなっている樽が悲鳴を上げているだけである。
「や、やるな!お前さん、これ程の実力者とはな!」
「ッ!!(なんだ、このおっさん!マジで力つえぇ!)」
この世界に来て、いやヤシロ達に力を借りてから自身の体はかなり強化されている事は流石に気がついていた。だからこそ、最初こそ雰囲気に呑まれて戦意損失していたが、本当は実力では人間であるルーペントさんに負ける事は無いだろうと高をくくっていた。
だが、実際は互いにつりあう程の実力を持っており、この人は今更ながら只者では無い事を知った。現に、始めこそ僅かに押していた拳が少しずつ押され始めていた。
「だが、俺も“豪腕”と呼ばれた男!そう簡単に負けはしねぇぜ!行くぜ!うおおおお!!」
「ッ!?」
ルーペントさんは大声と共に腕を一気に押しに掛かった。形勢は一気に逆転し、俺は負ける一歩手前まで押されてしまった。互いに大量の汗を搔きながら俺は苦しそうな顔を、ルーペントさんは勝ち誇った顔をしている。
「(こ、このままじゃ負け――)」
「頑張って~!イサミ~!」
「ッ!?うおおおおお!!」
「なに!?ぬおおぉぉ!?」
背後でエルミアの声が聞こえると俺は正体がばれるのも気にせずに一気に大声と共に力を込めてルーペントさんの手を押し返す。
俺の力に押し返されたルーペントさんは反対側の樽に手の甲をぶつけるが、それだけでは止まらず樽をぶち壊し、ルーペントさんを吹き飛ばしてしまった。吹き飛んだルーペントさんは反対側に会った机にぶつかって破壊し、その場に倒れこんだ。
「……。」
「……。」
長い間の沈黙。誰も喋らず、聞こえるのは体で息をするイサミの息遣いだけだった。だが、それも1人の言葉によって打ち消される。
「アイタタッ…。参ったな、こりゃ俺の負けだ。」
「勝者!イサミ殿!」
「「「う、うおおおおおぉぉぉ!!」」」
「マジかよ!あいつ、ルーペントさんに勝ちやがった!?」
「信じらんねぇ?!これは夢か!?アイタッ!?夢じゃねぇ!?」
建物全体を揺るがす程の喧騒があたりに響き渡る。そんな中、俺は吹き飛んだルーペントさんに慌てて近づくと起き上がるのを手伝う。見れば反対側をエルミアが支えてくれていた。
「お~、すまねぇな2人とも。ふむぅ、俺も歳をとったことか?いや、言い訳はよくねぇな。見事だった、お前さんの実力を正式に認めるぜ!」
ルーペントさんは俺に向かってウィンクを決めるとすぐに痛みによって顔をしかめる。どうやら腰を強く打ったせいで痛いようだ。
俺はエルミアを見る。すると、俺の意を察したのかエルミアは頷いて応えてくれた。その事に感謝しつつ俺はルーペントさんの腰に手を当てて治療を開始する。
「お、おい?こりゃぁ、一体?」
「ルーペント、イサミには特別な力があるの。心配要らないわ。」
いきなり何かを始めた俺に慌て始めるルーペントさんだったが、エルミアの説得により静かになる。そして、俺はすぐに治療を終えると手を腰から離す。
「ん?痛みが消えた?いや、それどころか前からあった腰痛すら消えている?こりゃぁ…。」
「ルーペント、このことは秘密にして頂戴。」
「…わかった。確かにこの事が知れれば大事になるかもな。それにコイツはもう俺達の仲間だ!仲間を売ったりする奴はここにはいねぇよ!なぁ!皆!」
「「「勿論でさぁ!ルーペントさん!」」」
ルーペントさんの掛け声にワイワイと話していた男達が声を揃えて返事をした。その姿はまるで軍隊のようだと思ったが口にしないでおこう。
「…お前さんの正体についても深く聞かねぇよ。何者だろうが俺達はもう仲間だからな!」
俺の肩に手を置いて話すルーペントさんの言葉に俺は胸が暖かくなった気分になり、自然と頭を下げていた。そんな俺の背中を笑いながらバシバシッと叩きながらルーペントさんは男達に「オラッ!見世物は終わりだ!とっとと、仕事に戻れ!」と声を荒上げていた。
ちなみに腕相撲の時に発したイサミのオーク声はこちら
「ッ!?ブルゥアアァァ!!」
(o・ω・o)マァドウデモイイカ…ン?ハッ!(゜◇゜;)!!!
(|||ノ`□´)ノ「ブルゥアアァァイズ!ホワイトドラ―――」
イサミ「やめろ!?」




