同志
夢の中の自分が、何時もの現実の自分とは限らない。例えば、現実では出来なさそうな事を夢の中では平然と行う自分。現実では平凡な人間でも、夢の中では誰もが憧れる英雄になっている自分。形はどうであれ、それは自分では無い自分を描く事が多いだろう。
“夢はその人の幻想を描く。”
それはとても甘美で溺れたくなるような理想的な幻想。だからこそ、そんな夢を現実で実現できるように目標とする人が多い。
だが、時に夢そのものが現実なのではないか?と錯覚したことは無いだろうか?例で言えば、1人の人間が蝶になる夢を見た。そして目が覚めた時、はたして自分は蝶になった夢をみていたのか、それとも今の自分は蝶が見ている夢なのか?と夢と現実の区別が分からなくなったと言う有名な言葉がある。
「は、離せぇ!」
「今からあんたには永遠に夢を見続けてもらう。」
「なっ!?なんだその声は!?き、貴様一体!?」
俺が行おうとしているのは、現実では予想できないような夢の中のブレトンの像、それを夢幻にてブレトンの記憶に上書きする。現実の記憶は無間暴食で食い尽くすので、ブレトン自身がこれは夢だと気づく事は無い。
「(言うなれば今のブレトンと言う存在を抹消して、新しいブレトンを作り出す。)」
『ほぉ?それは興味深い試みであるな。だが、イサミよ。こやつの記憶を全て喰らい尽くすとなると心そのものが無くなってしまうのである。』
「(タルカスの言う事はもっともだ。だけど俺には再生の力があるだろ?心全てを喰らい尽し何もかもが無くなった時、再生の力で復元する。その際に、)」
『我が夢幻を組み込んで、別の人格を作り出すと?…本当にそんな事が可能なのか?』
正直、これは人体実験に近い試みだ。成功するかわからないし、失敗すれば間違いなく死ぬだろう。間違いなく日本ならば人権云々と言われる行為だが、こいつは何人も心を破壊し、怪しげな教団に差し出してきた。そんな奴に容赦する気は無い。
俺はブレトンを掴んでいる手に夢幻と無間暴食の力を込めていく。手から黒い渦のようなものが現れたことに恐怖していたブレトンだが、無間暴食がブレトンの頭の中に入った次の瞬間、激痛にあったかのように大きな悲鳴を上げ始める。
「やめろ!やめ――あ、あがあああぁぁぁ!?」
「まずは全ての記憶を食い尽くす。はかなく夢が覚めるかのように全てな。」
そして記憶を完全に喰い終えると同時に、すぐに再生と夢幻を両方使って新しい心を作成していく。夢の中では、奴隷に暴力を振るい満足していた自分、だが現実の自分は表上では夢と同じでも、本当は心優しい人物。そんな夢、それこそが本当の自分だと思い込ませて、新たな記憶として植え込んでいく。
「良い夢を。」
---奴隷少女---
「(何?何が起きてるの?)」
先程まで、ぶくぶく太った主人の男に散々に殴られたと思っていた。だが目が覚めると、どこにも怪我は無く、むしろ元気になっていたのに驚いていたら今度は急に守れと言われた。
目の前には恐ろしい程の巨体をした男の人が立っていて、顔には鬼の面。それだけで腰が抜けそうな怖さだった。そして、そんな男の人にナイフを刺した時、私は絶対に死んだと思った。
「(なのに…。)」
男に人は何もせずにそのまま、主人の頭を掴んでいった。私など眼中に無いように。
本来なら主人を守らないと首輪が締まるはず。だけど、今こうして私が男の人を刺しているので、首輪が私が主人を守ろうとしていると認識しているせいか首が絞まらない。
もし、そうだとすればこの男の人は私を助けようとしてくれている?そう考えて期待の視線を向けたのだが、それはすぐに恐怖の色に染まる。
頭を掴んでいる男の人の右手から黒い渦、いやまるで生きた蛇のようなものが出てきた。そして文字通り、主人の目の前に近づくと大きく口をあける。その事に主人は恐怖で必死に逃げようとしているが頭を掴んでいる腕はビクともしていない。
「やめろ!やめ――」
そして口を大きく開けた蛇はそのまま主人の頭の中に突っ込んでいった。一瞬、途轍もなく酷い光景になるのかと思って、目を瞑った。だが、目をあけて見ると何処にも怪我はしておらず、さっきの光景は気のせいだったのかな?と思った途端、主人が大声をあげた。
「あ、あがあああぁぁぁ!?」
痛みのせいか、体中を痙攣させて滅茶苦茶な動きをしている。だが、最初は暴れまわっていた動きも次第に無くなっていき、最後には白目を向いて口から泡を吹いて動かなくなった。
昔、今亡き母が聞かせてくれた話の中に、悪い子には悪魔が魂を奪いにやって来るという話があったが、まさに今見えている光景がそれだと思った。白目をむいて動かない主人の頭をを今も掴んでいる男の口元には笑みが浮かんでおり、何かを呟いていた。そこで私は恐怖のあまり意識を失った。
---イサミ---
「(これがこうなって、こうしてこうやって…よし、完成だ。)」
俺はブレトンの頭掴んでいた手を離す。支えられていた力を失ってブレトンの体は音を立ててその場に倒れた。だが、すぐに俺は肩を叩いて起こす。
「おい、起きろ。」
「………。」
しばらく、肩を叩いていたが何も反応が無い。只の屍のようだ。
『やはり駄目だったか?』
『無理ないことである。こやつの心が中途半端な形になったせいで恐らく動く事の無い人間になってしまったのである。』
「ぐむぅ。」
駄目か?と思い仮面に手を当てて天井を見上げた時、
「ん、んん…。」
「おっ?」
『なぬ?』
『おぉ!?動いたのである!』
ブレトンが小さな声を上げて体を起こした。
「わ、私は一体…」
わけが分からないと言った顔をしながら周囲を見渡している。そして、目の前にいた俺に気がつくと
「おぉ!露理魂紳士ではないか!どうしてここに?」
『『な、なにぃー!?』』
---フクロウ---
「(この部屋で最後だな。)」
それなりにでかい屋敷内を隅々まで調べまわり、この部屋で最後の調査となる。当然隠し部屋などが無いかも調べているが、この短時間では限界があるので程ほどで切り上げている。
入った部屋の中は物置と言った感じで特に何も無い。その事を確認すると部屋を出てイサミがいた部屋へと急ぐ。
途中、同じ部屋に監禁に近い形で何人か少女の奴隷が閉じ込められていたが、特に怪我をした様子は無く今のところ酷い状態であった奴隷はいなかったので何もせずに今に至る。
「(命令では“酷い状態の奴隷を連れてこい”であり、解放ではない。今助ければ足を引っ張るだけだ。それにエルフの娘もいなかった。誰も連れてこなくてもこれで命令を達した事になるだろう。)」
廊下の角を曲がる時、メイドらしき女性がひとり歩いてきたので、すぐさま見つからない様に隠れる。そして、メイドが通り過ぎると身を現して急ぎイサミの元に向かう。
なぜこのような俺をあの場から排除したかったのかが気になる。人の目を気にする時のイサミは何時もとんでもない事を仕出かすからな。
「(あの不思議な力。必ずその全貌を見極めてやる。その為には、奴に命じられた事を全てやり遂げて信頼関係を築いておかねば。)」
どのような傷をもたちまちに治してしまう能力。全てを飲み込んでしまいそうな黒い渦状の蛇を召喚し操る力。それに先程の、姿をまるで本物のように変えることの出来る力。ひとつひとつが持つ者が持てば、世界を狂わせる事ができる力だ。それをイサミは全て持ち合わせており、他にも更に持っていそうな…いや、間違いなく持っているのだろう。
もう本当にアイツは一体、何者なんだ!と言いたくなるぐらい訳が分からないオークだ。世界中を探してもあんなオークは何処にもいないだろう。いや、居ても貰っては困る。
「(何よりもあの白い蛇や黒い蛇が気になる。)」
イサミの力が欲しいわけではない。それよりも見たことの無い力をもっと見たいという欲求の方が強い。そしてその欲求がもっとも刺激されたのがあの蛇達だ。ほんの一瞬の会合だったというのに、未だに思い出しただけでも恐怖で体が震える。
「(ルドルフ様の言っていた事は本当だったな。…あの人の人を見る目にはまだまだ敵いそうに無いな。)」
心の中で溜息をつきながら歩みを進める。だが、最初こそ力を見たいだけの欲求だったが、今はそれだけで無いと感じている自分がいる。
あのイサミと過ごす時間はどれも退屈せず、面白い事ばかりだ。少し前までの命じられて政敵を殺し、同じ同業者から狙われると言った殺伐とした日々とは違う。
「(さてさて、今回はどんな面白い事を見せてくれるのか…。)」
目当ての扉の前にたどり着くと、一瞬、扉に耳を当てて中の様子を窺う。……?何故か談笑が聞こえてくる?
一体どういうことだ?と思いながら扉を開ける。
「御館様。命じられた事をすべてこなしてきまし…た……。」
「“いいや!こっちの服の方が可愛い!”」
「分かっていないですな!同志よ!こちらの方が可愛いのだ!」
「あ、あの…。」
目の前には怪我をして倒れていた女の子が困り果てた顔をして立っており、その近くには女の子用であろう服を持った二人の男が互いの意見をぶつけてにらみ合っていた。
そしてその2人の男は俺に気づくと
「“どっちが似合うと思う?”」「どっちが似合うと思う?」
と同時に意見を求めてきたので俺は…
「一体全体どういうこっちゃああぁぁぁぁ!!!イサミはんぅぅぅぅ!?!?」
…楽しいは楽しいのだが突っ込みに疲れてきたな…。
(|||ノ`□´)ノイエス!ロリータ!ノータアアァァァッチィィ!!




