謎の集団の手がかり
王都であった誘拐事件の内容を覚えてます?( ̄Д ̄;)ワ、ワスレタゼ…。
目の前に現れた男はとても肥え太った体格の男だった。疲れているのか額にはやけに光って見える脂汗が滲み浮かんでいて、オーク顔負けともいえるぐらい醜い顔をしている。
「おい!聞こえていないのか!貴様、私の楽しみを邪魔しておいて何も無かったでは只では済まさんぞ!」
何も反応しない俺にイラついたのか、声を荒上げて話しかけるがそのたびに息を付いて疲れている。だ、大丈夫か?
「はぁはぁ、貴様。余程死にたいと見える。おい!ベルトラン!この馬鹿をつまみ出せ!」
男は恐らく先程の老人執事の名前を呼んだが、何も反応が無い。だが、しばらくすると扉が音を立てて開いた。
「おい!ベルトラン!何だこの馬鹿はさっさと――」
「悪いんやけど、そのベルトランって言うご老人ならしばらく起きないよ。」
「なっ!?誰だ!お前は!」
扉の向こうから入ってきたのはマロクだった。その手には気絶しているであろうご老人の姿が見えた。マロクは老人を引き摺って扉のすぐ傍に置いた。
「お、おい!お前!こやつを捕らえろ!」
突然現れたマロクに慌て始めた男は、俺に向かってマロクを捉えるように指示を出すが、当然ながら俺はそれに従う事は無い。その事に気づいた男は本格的に慌て始めて、逃げ出そうとするがマロクが出口である扉の前に立ちふさがる。
「い、一体何のつもりだ!貴様達、私が誰と知っているのか!?」
「イサミはん、この男がブレトンで間違いないで。話に聞いていた特徴のまんまや。」
俺は頷くと、自身に掛かっていた夢幻を解除する。その場にいた2人には、俺の姿は霧が晴れていくように、兵士の姿から長身で鬼の様な仮面をした太った大男に変わったように見えていた。
「「なっ!?」」
夢幻を解除した事に、ブレトンだけでなくマロクも驚いていた。あ、やべ。人前で解くのは不味かったか。…まぁいいか。
「だ、誰か!誰かいないのか!!私を助け――」
「おっと、それ以上騒いだら……殺すで?」
この場に味方が1人もいない事に気づいたブレトンは咄嗟に大声を出そうとしたが、すぐにマロクが投げた小ぶりなナイフが顔横を掠め過ぎると静かになった。俺も静かになった。って、違う違う。
「“貴方に聞きたい事がある。”」
「な、なんだ!?金か!?金なら幾らでもくれてやる!だから今すぐに出て行ってくれ!」
「“ここにエルフの娘が捕らえられたと聞いた。それは本当か?”」
「一体何の話だ!エルフの娘なんぞ知らん!」
俺はマロクの方を見る。
「本当かいな?もし、嘘やったら死ぬよりも恐ろしい目にあわせるで?」
「ほ、本当だ!確かにエルフの娘を欲しがっていたが、まだ手に入れていない!手に入れていれば直ぐにでもこんな街を出て行っている!」
「へぇ~、ところで失うなら何処からが良い?小指?薬指?」
「待て!待ってくれ!本当なんだ!信じてくれ!」
マロクが次々とブレトンを脅しに掛かっているのを横目に、俺は天蓋つきのベッドの中を見た。
「ッ!?」
「な、何をする!?――グワッ!?」
俺は直ぐに横にいたブレトンの頭を掴むと床に向かって叩き付けた。
「む、むぐ!?むぐぐ!!」
「イサミはん?どないしたん?」
「……。」
掴んでいた頭を持ち上げてもう一度床に叩きつけると、その場に放置してベッドの中に入る。
「んん?…うわぁ、いい趣味をしてるわ。ほんとに…。」
マロクが中を見ると、溜息をつきながら呆れた声を出している。そんな声を聞きながら、俺は中にいた女の子を抱きかかえる。
ベッドの中は血塗れになっていた。それは全て抱えている女の子の血であり、見れば女の子の歯であろう物体も転がっていた。そんな、惨状の中に所々を殴られた後がある小さな女の子が横たわっていたのである。
俺は抱きかかえた女の子に手を伸ばそうとすると、ある物に目が付いた。
「(これは…。)」
それは良く目にしているものだった。なにせ、自分の首にもしている物なのだから。
“隷属の首輪”
たしか、エルミア達と出会ったばかりの時に聞いた名前はそれだった気がする。とにかくその首輪が女の子の首に嵌っていた。
「(奴隷か…。俺自身、エルミアの奴隷だけどこんな酷い目にあったことが無いから忘れていたが、やっぱりこんな事にあっている子も居るんだな。)」
『…何時の時代も奴隷という考えは無くならないものなのだな。あやつが聞けばさぞ嘆くであろう…。』
静かに呟くヤシロの言葉には多くの感情が込められている気がしたが、聞いてはいけない気がしたので何も聞かなかった。…ともかく、この子の傷を治すのが先決だ。
俺は苦しそうに呼吸している女の子の肌に触れると治療を開始する。俺の手が若干光り始めると、触れた場所から徐々に体全体に淡い光が伝っていき、光が過ぎていくと傷が無かったように綺麗に治っていた。
抜けた歯や傷が完全に治り、呼吸も落ち着いたものになって安らかに眠っているのを確認すると、ゆっくりとベッドに降ろす。
「…さてっと、ブレトンさん。あんた、ええ趣味してはんなぁ?」
「わ、私の奴隷に何をしようとも私の勝手だろう!大金はたいて買ったのだ!文句を言われる謂れはない!」
「まぁそうかもしれんけどぉ?それでイサミはんが納得してくれるかな?」
「ぐ、ぐむ…。」
俺を見て醜かった顔が怯えてさらに酷い事になっているブレトンに近づくと
「“あの子以外にもこんな事をしていたのか?”」
「……っぐ。」
「“どうなんだ?”」
「そ、そうだ!それが何が悪いというのだ!大体、貴様ら――グバァッ!?」
頭を掴んでから床に叩きつける。そして手を離してから文字を書いて見せる。
「“その子達はどうした?”」
「…ッあぐ!?き、貴様らぁ!!こんな事をして――分かった!話す!話すから手を離せぇ!!」
ブレトンの頭を掴んでいた手を放すと、続きを促すように顎を動かす。
「…あ、あの奴隷どもなら、ルーラー・サプライン教団の奴らに引き渡した。」
ルーラー・サプライン教団?なんだそりゃ?と首を傾げていると、ブレトンが震えながら机を指差す。
「あの机の引き出しに入っているエンブレムが証拠だ!疑うなら調べるがいい!」
俺は机の傍に寄ると、引き出しを開ける。中には短剣に蛇が巻きついている姿が描かれた円形のエンブレムが入っていた。あれ?これどっかで見たことあるぞ?
「…ッ!?」
俺は慌てて腰に結んであった小物入れの袋を取り出す。そして、中に入っていた物を取り出した。それは先程、机の中にあった物と同じものだった。
「(これは、リルリカちゃんを攫った奴らが持っていた物と同じじゃないか!)」
王都で会った誘拐犯達が持っていたエンブレムと同じ物だったそれを握り締めながら、俺はブレトンに近づいて問いただす。
「“おい。そのルーラー・サプライン教団について教えろ。目的は何だ?”」
「知らん!名前しか知らん!」
俺はマロクの方を見るとマロクが頷いて応えた。
「それじゃ、指一本切り落とそうかなぁ。…どれからにしようか?」
「(いや、そこまでしろとは言ってないけど…。)」
「ま、待て!待ってくれ!本当に知らないんだ!」
「ちゃう、ちゃう。知らないなら切るだけ、知ってたら切らないであげるだけ、それだけやて。…で本当に知らない?」
「ひっ!?分かった!教える!教えるから待ってくれぇ!!」
何故だろう。マロクの後ろにニヤついた悪魔の姿が見える気がする。と言うか、全部冗談だよな?…だよな!?
ともかく、マロクがナイフを構えて脅した事でブレトンが話し始めた。
「わ、私も細かい事までは教えてもらっていないが、なんでも壊れた人間を欲しがっているらしいのだ!」
「なんやて?壊れた人間?」
「そうだ!人間以外にも獣人なども欲しがっているらしいがな。ともかく、心が壊れた奴らを欲しがっている狂った奴らだ!」
「(心が壊れた人間…。)」
俺は後ろにいる女の子をチラリと見る。確かにこのままいけば精神が崩壊し壊れるのは間違いない。そして、この男は何度もそうやって何人も壊してきたのだろう。
「そんなもん、集めてどないすんねん。」
「知らん!何も知らん!本当にこれ以上は知らない!」
確か…、前に洞窟で会った赤ローブは壊れた人から生命力を抽出して“神水”なる物を作っていると言っていたな。…なるほど。壊れた奴隷達はそんな物を作る為に連れて行かれた訳か。ブレトンはその事までは知らないみたいだが…。
「“エルフの娘は?”」
「エルフの娘なんていない!そもそも、エルフの娘を欲しがっていたのは奴らの方だ!私は奴らの要望に応えてやっただけだ!」
「(ふむ…。ルーラー・サプライン教団がエルフを欲しがっているか…。何者か知らないが、油断なら無いな。)」
どうやらこれ以上問いただしても意味が無いか?と思い出した頃、扉がノックされた。
「ブレトンの旦那、門の兵士達の姿が見えないんだが、何か知っているか?」
「ッ!?おい!助けろ!賊がいるんだ!!」
どうやら門の近くにいるはずの兵士がいない事に、不審に思って此方に来た者が居るようだ。そしてその声にすぐさま反応したのはブレトンだった。
「なにッ!」
声に反応した外にいた男が、中に入ろうと扉をぶち破ろうと何度か体当たりをしてくる。扉がミシミシッといっている中、マロクは扉に近づくと。
「はい、残念。」
体当たりにあわせて扉を開くと、扉にぶつかる筈の力を止める事が出来ずに男は体制を崩して中に倒れ込んだ。そして、首元に手を回すと首を絞める。男は苦しそうにもがいていたが、しばらくすると頭を落とした。登場してすぐに退場とは…こやつできる!
「ひっ!?ひいぃぃ!!」
ブレトンは腰を抜かしたように地面を這いずりながら俺たちから遠ざかろうとする。その時、
「…う~ん?」
「(ん?)」
ブレトンの悲鳴に目を覚ましたのだろう。眠そうに目を擦りながら女の子が起き上がった。そして、運悪く女の子の近くにはブレトンがいた。
「お、お前は!なぜ傷が!?ま、まぁ良い!お前!私を守れ!命令だ!」
未だ何がなにやらと言った顔の女の子に、ブレトンは近くにおいてあったペーパーナイフを渡すと背後に隠れてしまった。いや、無駄な贅肉の巨体では隠れきれて無いけど。
本来なら笑ってしまうようなその光景だが、女の子は苦しそうな顔をしながらナイフを構える。恐らく、命令に従わないと苦しむのだろう。
「いいな!私を守らないとお前は死ぬからな!絶対に私を守れ!」
「は、はい。ご主人様…。」
震えながら、ナイフを構えてこちらを見る女の子は見ていてとても痛々しい姿だ。
『どうするのだ?このままでは、あの娘が邪魔してくるぞ?無駄に止めようものなら命令を守れなかったとして命を落とす事になる。』
「(ヤシロ、俺にしか出来ない方法があるだろう?それに夢幻の可能性を広げてみたいしな。)」
『イサミニしか出来ない方法?それに可能性とな?ふふふ、イサミはやはり面白いな。』
「(さて、まずはマロクをこの場から移動させないとな。)」
これから起きる事を見られるとまた面倒になりそうなので、何とかマロクを移動させたい。そこで俺はある事を思い出して、マロクに見える様に右手の人差し指と親指を立てるとダイヤルを回すような仕草をする。
俺の仕草を確認したマロクは、途端にマロクからフクロウの雰囲気に変わり、気絶した男から離れて俺の近くで跪いた。
「御館様。ご命令ください。」
「“この屋敷内を探し回って本当にエルフの娘が居ないかを確認しろ。それともし他に酷い状態の奴隷がいるなら連れてきてくれ。”」
「見つけた場合は保護すれば良い、と言うことで?」
「“そうだ。できるか?”」
「容易きことです。…では。」
静かに呟くと、その場から影が消えるように姿を消した。お、おおぅ。自分で言っておいてなんだけど、本当に出来るのな。すげぇな。
ともかく、これでエルフや他の奴隷が居ないかの確認や、邪魔者を消す事に成功したので、俺は未だに震えて此方を見ている女の子に近づいていく。
「こ、来ないでください!」
悲鳴染みたその声に応えずに俺は歩みを止めずに近づいていく。
「いや、いやああぁぁ!!」
女の子は目を閉じて叫びながらとナイフを俺に向けながら走ってくる。そのナイフを俺は左腕で受け止めた。
「ッグ!!」
左腕に激痛が走る。俺の血が女の子の顔を汚してしまうが、かまわずに俺は進む。そして、ナイフを受けていない右手で怯えて此方を見ていたブレトンの頭を掴んだ。
震える少女に近づく、鬼の面をした巨体の男。…犯罪臭しかしない。
( ̄ω ̄;)イサミ、ヤッチマッタナ。
イサミ「ちょっ!?」




