侵入!ブレトン屋敷!
「(とりあえずこれで良しっと…。)」
掴んでいた兵士の頭を放すとフゥッと一息入れる。先程、吹き飛んで意識を失った四人の兵士の記憶から俺やマロク、そして偽彩華の記憶をプチ無間暴食で喰い終えた。これでこいつ等が目覚めてもすぐにバレる心配は無いだろう。
未だ気を失っている兵士達を適当にすぐには見つからない位置に移動させてから納屋の扉を開く。外には両手を後ろに組んでこちらを見ているマロクがいた。
「“待たせた。”」
「ん、ええよ。それで、これからどうするんや?」
とりあえず正面入り口は突破できたので、次の目標はブレトンのいる部屋を見つける事と、屋敷内に居ると言っていた執事等に見つからないように移動する事だろう。執事などの人間は俺の鼻があるから何とか鉢合わせしないように出来ると思うが、ブレトンの部屋をどう見つけるか…。
「“まずはブレトンの居る部屋を探したい。だが、方法はまだ考えていない。”」
「え~…。そこが一番重要や無い?まぁ、確かに難しい問題ではあるけども。」
やかましいわ!と心の中で叫びながらとりあえず、屋敷の玄関扉まで移動する。近くで見上げると改めて思うが、でかい。俺が日本にいたときの実家の何倍あるだろうか…。掃除が大変そうだな。
「(掃除…、それだ!)」
「お?なんや閃いた?」
「“中の人間に掃除をしたいと言ってそれとなく主人の部屋を聞くのはどうだろうか?”」
「…今、深夜やけど?」
「ぐむぅ…。」
思わず声を出してしまった。そうだった、今は深夜だったな。となると…
「“ならば、先程気絶させた兵士に化けて主人の場所を聞くのはどうだ?”」
「う~ん、普段なら無理と言いたいところやけど、イサミはんの変装技術は馬鹿に出来んからな。一考の余地有りやな。」
そうと決まれば早速、俺は物陰に隠れてから先程気絶させた兵士の1人の姿をイメージして自身に夢幻をかける。
「“どうだ?”」
「…相変わらず不気味なほど完璧やな。一瞬、身構えてしまったわ。ところで、イサミはん。」
「“なんだ?”」
「どうやって、ブレトンの場所を聞くんや?イサミはん話せんやろ?」
「(しまったぁぁ!?そうだった!そういえば俺って会話できないんだった!)」
思わず、頭を抱えてその場に蹲ると正面にいたマロクがしょうがないと言った感じに息を吐くと喉元に手を当てた。
「あ~、あ~、どうやイサミはん?」
「!?(さっきの兵士の声だ!?)」
確かにマロクの口調なのに声が先程の兵士そのものだ。俺が驚いた顔でマロクを見つめていると
「これで、会話も出来るやろ。イサミはんが相手の注意をひきつけながらワイが物陰から会話をする。これでいけるんちゃう?」
「“完璧だ!よしコレでカツる!”」
「カツる?…ともかく、急ぐで。兵士が目を覚ます前に行かないと。」
マロクが玄関の扉をノックしようと近づく。だが、ノックする前に不思議そうな顔でこちらを見た。
「ん?なんや言いたそうな顔しとるな?」
「“マロクのその声の技術。凄いけど凄すぎてキモイな!”」
「なぬ!?イサミはんだけには言われたくないんやけど!?あんたの変装技術の方がキモイわ!!」
『なんだと!我の夢幻をキモイだと!?イサミ!この不届き者を成敗いたせ!』
「“はっはっは!これで二対一だ!俺達の勝ちだ!”」
「は?二対一?何を言うてんねん!」
「“ふ、秘密だ。”」
「ぐ、ぐぬぬ。なんや負けた気分になってきたわ。でもイサミはんやて――」
「誰ですが?玄関で騒いでいる人は。」
「「ッ!?」」
扉の向こうから老人の声が聞こえてきたので思わず、2人して扉を見る。そして、扉がゆっくりと開くと中から執事服を着た老人男性が出てきた。
咄嗟に、マロクを見るが既にそこには姿がなかった。その事に、安堵しつつも相手が自身をジロジロと睨んでくるので、夢幻が上手く言っているのか不安になってきた。
「貴方ですか。何の御用ですか?」
どうやら夢幻は上手く作用しているようで、相手は若干めんどくさそうな感じを漂わせながら話しかけてきた。
「…イサミはん。上手く、口を動かしてや。」
とても小さな声でマロクの声が聞こえてきたので、俺は頷いて応えた。
「はい。どうやら、主人ブレトン様にと手紙が届きまして…。」
「…こんな時間にですか?」
「どうやら、緊急の御用との事で…先程手渡しで渡されました。申し訳ないが、ブレトン様の所まで案内してもらえませんか?」
「……お客人はどちらに?」
「先程、すぐにお発ちになりました。何でもまだ用事があるとのことで。」
「………分かりました。その手紙を頂けますか?私が主人に届けますので。」
「(おいぃ!?めっちゃ疑った目でこちらを見てるよ!?それにどうすんだ?手紙なんて持って無いぞ?)」
冷や汗を流しながら俺が困ったように立ち尽くしていると、マロクの声が聞こえてきたので、慌てて合わせて口を動かす。
「実はこの手紙を直接渡して欲しいと言われまして…。」
「…私が信用できないと?」
「そうではありませんが…。お願いします、私も困っているのです。先程申したように、緊急の内容らしく、早急かつ確実に渡して欲しいと念を押されまして…。」
そこからはしばらく沈黙が流れる。俺は緊張しながらも精一杯、相手の目線から逃れないように頑張った。そうして冷や汗の1つが顎を伝って地面に落ちそうになった時…
「……良いでしょう。案内します。こちらへ…。」
先に折れたのは老人執事のほうだった。老人は先導して先を歩いていくので、俺は慌てて後について行く。マロクは大丈夫なのか?とも思ったが、時折話しかけてくる老人に対応していたのでちゃんとついて来ていると分かると安心した。
「こちらです。しばし、お待ちを。」
もう何度も、曲がったり、階段を登ったりして流石に道がなからなくなってきた時、ようやく目的の場所にたどり着いた。
「―や―て!い――!!」
「ッ!?」
扉の前に立った瞬間、中から女性の悲鳴のような物が聞こえた。だが老人は気にした様子もせずに扉をノックすると、中から「…何だ?」と若干苛立った声が聞こえてきた。
「ご主人様。お楽しみのところ申し訳ありません。緊急の知らせが参っております。」
「緊急?なんだそれは?」
「私にも分かりかねます。門番の兵士が手紙を受け取ったらしく、直接手渡したいとの事でここまで案内いたしました。」
「…そうか、分かった。入れ。」
「失礼します。」と老人が丁寧に音をあまり立てないように扉を開く。そして、視線だけで「さっさと入れ」と言ってきたので俺はそそくさと中に入る。
中は巨大な寝室となっているらしく、部屋の中央には巨大な天蓋付きベッドがあるが此方からは中はよく見えない。俺が入ってきたのを感じたのか、中でのっそりと大きな人影が動くと此方に向かって歩いてきた。
そして背後で扉が閉まる音がすると同時に、ベッドの中にいた男が出てきて此方に視線を向けた。
「それで?一体、何の手紙を持ってきたんだ?」




