仲直り
「「……。」」
互いに無言のままギルドに向かって歩き続ける。
「(う、ううむ、気まずい。)」
どうしたものかと顎を指で?きながら悩んでいると
「……何も聞かないんだね。」
エルミアが小さな声で呟いてきた。俺は顔だけを動かして見れば、エルミアは顔を下に向けて歩いている。
「やっぱり…、もう私の事なんてどうでもいいんだ。」
弱々しい声で、囁きながら涙目で俺を見上げてきた。普段ならその姿に慌てる俺だが、今だけは冷静に
「……。」←無言で肩に担いだフィーロを指差してから片手でメモ帳を取り出して見せて首を横に振る。
「…あっ!?~~~~ッ!?そ、そうだよね!今、聞こうにも聞けないよね!あ、あはは…。」
恥ずかしさに顔を真っ赤にさせながら乾いた笑い声を上げてから、またしても俯いてしまった。まぁ今度は恥ずかしさのあまり顔を上げられないだけだろうから、さっきより雰囲気はマシになったか。
---冒険者ギルド---
「まさか、そんなことが!?」
「えぇ。イサミ、あの布を見せてやって。」
俺は頷いて懐から布を取り出してギルド員に渡す。渡した後、指を嗅いで見ると少し匂いが残っていて思わず顔を顰めてしまう。
「し、しばらくお待ちを。」
ギルド員は布を持って奥に入っていく。恐らく布に染み付いている薬品について調べるのだろう。
俺は肩に担いでいたフィーロをその場に投げ落とす。その際に、フィーロは「ぐえっ!?」と声を上げ、遠目から見ていた冒険者達が何事かと近づいてくる。
宴会をしていたのか、かなりの数の冒険者がギルドに残っている。そんな中、水を差すような事が起きそうとしている俺を多くの冒険者が睨みつけてきたが、横にいるエルミアを見ると驚愕の顔に変わる。
「お、おいおい!何があったんだよ?」
冒険者達の中で特に実力がありそうな眼帯の男が驚いた顔をしながら近づいてきた。
「ラザレス。宴会している所で申し訳ないけど、この男を縛るものを持ってないかしら?」
「いやいや!?待てよ!こいつはフィーロだろ?今朝まで一緒に戦った仲間だろうが!それを何怪我させて――」
「コイツが私を無理やり襲おうとしたんだから当然よ!もし、イサミがいなかったらどうなっていたか…。」
「なんだと!?マジかよ…。」
ラザレスと言う眼帯の男は俺をチラリと見た後、フィーロを見て大きく溜息をつく。
「…本当なんだな?」
「私が嘘をつくとでも?」
「……おい!キース!確か縄を持っていたよな!」
「キースの野郎なら、さっき慌てて走って出て行ったぞ?」
「あぁ?仕方ねぇな。だれか持って無いか?」
ラザレスの声に、1人の冒険者が応えてフィーロを縛り上げる。縛り終えた丁度その時、
「お待たせしました。確かにハルシが含まれています。申し訳ありませんが、事の真偽を確かめる為にエルミアさんとフィーロさんに真偽の天秤を使用してもらいます。」
「(はい出ましたよ、また訳の分からない単語が。)」
べ、べりーふぁす?なんじゃそりゃ?と考えている間にエルミアは頷いて了承を示し、無理やり起こされたフィーロにも強制的に受けさせる事になった。
ギルド員が奥から大事そうに持ってきたのは少し大きめの天秤。そして、2人のギルドカードを受け取ると、最初にエルミアのギルドカードを片方の皿に乗せ、もう片方には何も乗っていない。なぜか、ギルドカードを乗せたと言うのにつりあっている。
「それでは質問します。エルミアさん、貴女は襲われたと言いますが、嘘は言っていませんね?」
「はい。」
エルミアが自信満々と言った感じに応えるのを見てからギルド員は天秤をじっと見ていたが、しばらくするとギルドカードを取り出してエルミアに返す。そして、今度はフィーロのギルドカードを乗せる。
「質問します。フィーロさん、貴方はエルミアさんを無理やり襲い、攫おうとしましたか?」
「ち、違う!そんなことしていない!」
カタンッ!
フィーロが応えた途端、ギルドカードが乗った方の皿が傾きテーブルにぶつかる。
「ほ、本当かよ…。」
「フィーロ、テメェ…。」
途端に、固唾を呑んで見守っていた周囲の冒険者たちがざわめき出し、フィーロは顔を青くしている。
「…どうやら、本当のようですね。残念な事ですが…。」
ギルド員は大きな溜息をつきながらテーブルの下から大きな判子を取り出してから1つの書類にバンッと押す。そして、その書類と共にギルドカードを水晶に入れる。
「あ、ああぁ…。」
フィーロが震えながら、書類が光の粒になってギルドカードに吸い込まれていく光景を見ている。
ギルド員はギルドカードを取り出すと
「フィーロさん。ギルドにおいて人身誘拐は一級犯罪とされています。よって、貴方の冒険者ランクは取り消し、これからは犯罪奴隷となります。」
「ま、待ってくれ!ちょっと下心が出ただけなんだ!だから――」
「連れて行ってください。」
ギルド員の指示に、ギルドの守衛達がフィーロを捕まえるとギルドの奥へと連れて行った。その後は、宴会をしていた冒険者達も白けた様に次々と解散していった。
「なんだか、すまねぇなエルミア嬢ちゃん。」
「…もう慣れたわ。残念ながらね。」
「あいつの事は、俺に任せておいてくれ。馬鹿なことをしたとは言え、共に戦った仲だ。何とか更生して見せるさ。」
「好きにしなさい…。」
どこか諦めているような声で応えるエルミアの後を俺は慌ててついて行き、ギルドを後にした。
---宿---
部屋に戻ってみたが、ルドルフさんもマロクもまだ戻っていなかった。なので、これはいい機会だと思いエルミアの部屋を訪ねた。
扉をノックしてから部屋に入る。エルミアはベッドに腰掛けていたので、俺は部屋に備え付けてあった椅子に座る。
「(ここはあれだよな。どうして俺を避けているのか聞いて謝るべきだよな。。)」
『イサミ、男女の仲が上手くいかない時は、どちらかが折れる事で仲直りしやすいものだ。今回の場合はエルフの娘が意固地になっているのだけだろうから、男であるイサミが謝って切っ掛けを作ってやれ。』
「(…うん、そうだな。よし!)」
ヤシロの言葉が背中を押す形になり、俺はメモ帳を取り出すと
「“エルミア、ごめ――”」
「イサミ!ごめんなさい!」
「(先に言われた!?)」
書こうとしていた事を先に言われて、思わず大きく口を開けて驚愕の顔を浮かべるがエルミアは頭を下げていたので気づく事はなかった。
そこからはエルミアの謝罪が続いた。イサミに確認もしないで自分勝手に悪い態度をとってしまってごめんとか、自分勝手なのは承知の上だけど嫌いにならないで欲しいとかそういった事だった。
謝罪の言葉を言い終わると同時にエルミアは立ち上がってから深く頭を下げてきた。よく見れば少し震えている。きっとかなりの勇気を出しているんだろう。
仲違いしていた相手に謝罪するというのは難しいものなのは喧嘩した事がある人間なら知っている事だ。それが本当は嫌いでなかった相手なら尚更だ。相手に拒絶されるかもしれないと考えると怖くなるから…。
「(…そっか。ちゃんと俺はエルミアにとって仲が良い相手であって欲しい者になれていたんだな。)」
”エルミアに俺は必要とされている”そう考えると心の内が温かくなり、嬉しさで震えそうになった。と、エルミアにここまでしてもらって何もしないのは駄目だな。
俺はすぐに立ち上がり、エルミアの肩に優しく触れて頭を上げさせる。頭を上げたエルミアは少し涙目で俺を見つめる。
「“大丈夫。俺がエルミアを嫌いになる事なんて無いし、今までの事も気にして無いよ。”」
「…本当?」
俺は力強く頷く。そして気づくとエルミアの頭を優しく撫でていた。
「……ルドルフの言ってた通りだった。」
「…??」
「ううん!なんでもない!ありがとうイサミ!」
「(あぁ、やっと聞けた。やっぱり何時もの元気な声のエルミアが一番可愛いよ…。)」
俺はとても穏やかな気分で、感極まった感じに腰元に抱きついてきたエルミアの背中を優しく撫で続けた。
やっと仲直りできた!いやホントによかった!
謝ると言うのは難しいもんですね。( ̄д ̄)ホンマニネ




