魔物の群れ---エルミア視点---
「場所は!?」
「ここから東にある森の中だ!急いで来てくれ!」
「よし。悪いがお前はこのまま西に向かって救援を呼んでくれ。確か、2つの班がいるはずだ。もしかすると、魔物が全て東に集まっているかもしれんからな。」
「わかった!ラザレスさん、頼んだぜ!」
報告に来た男はそのまま入り口を出て西に向かって走っていった。
「まったく!どうなっていやがる!?」
「ラザレス殿。今は迅速に行動あるのみでしょう。」
「…そうだな。恐らく、既に戦闘が始まっているだろうから急がないとな。エッダ神父!」
「はい、なんでしょうか?」
「すまないが、ここに負傷者を運んでもいいだろうか?全員が無傷でいられる訳がないからな。」
「そういうことですか。えぇ、構いません。僅かですが手当ての準備をしておきます。」
「感謝する!よし!行くぞ!」
ラザレスを先頭に教会から東に向かって走り出す。遠目に森がみえており、僅かだが人間が持つ松明の明かりが見える。戦闘中なのか、明かりが忙しなく動いている。
「嬢ちゃん!見えるか!?」
「えぇ。このまま真っ直ぐ行ったところに5人ほどいる。」
「流石だな!悪いが俺は先行するぜ!構わないか?」
「分かった。後から追いつくわ。」
ラザレスは私の言葉に頷くと、懐からマテリアを加工した装飾品を取り出して強く握り締めた。
「“風よ!我が身に纏いつけ!《速度上昇!》”」
ラザレスの体に風が優しく纏いつくと、僅かにラザレスの体が淡く緑色を発し始める。そして、今までの速度から倍以上の速度で走り始めた。
「(魔法で速度を上げたか。単調だけど、得られる効果は高い。良いマテリアを持ってるわね。)」
あっという間に森のところまで走っていくラザレスを見ていると、ふと付近から違和感を感じた。
「お嬢様、武器を構えてください。」
「えぇ。来るわね。」
私とルドルフは足を止めて武器を構える。フィーロは私達が急に止まった事に最初は戸惑った顔をしていたが、すぐに剣に手を置いて周囲を注意を払い始める。
ルドルフは持っていた松明を前方に向かって投げると、光に誘い込まれるかのように何かが松明に近寄ってきた。
「そこね!」
私は気配を感じた場所に向かって矢を放つ。
「~~~ッ!!」
先程まで何もいなかった場所から半透明の魚の骨が出てきて私が放った矢が突き刺さる。肉や血が無いため骨のそのまま突き刺さり、超音波のような悲鳴をあげながら砕け散った。
「あれは骸骨魚か!!」
フィーロが剣を抜いて、矢が刺さって砕け散ったボーンフィッシュの所に向かう。え?何してんの!?あの人間!?
「なにしてるの!危険よ!下がりなさい!」
「心配要らない!俺はシルバークラスの冒険者だ!これぐらい倒せる!」
「違う!周りを見なさい!」
そこで、フィーロはようやく周囲を見渡した。一見、何もいないように見える。だが、まるで魚が水から飛び出るかのように、何も無かった空中から大量のボーンフィッシュがフィーロの周りに現れた。
「なっ!?」
「ボーンフィッシュは灯りに反応して現れる魔物よ!灯りで現れる魚の影を見なさい!」
ボーンフィッシュは灯りに反応して現れる。灯りによって作られる光の中に魚のような影が地上に現れて、灯りに向かって走ってくる。目の前には何もいなくても影だけが走ってくるので、大半は気づかずに接近を許してしまい噛みつかれてしまうと言う危険な魔物だ。
当然、対処法はある。灯りに反応している以上、灯りを消すか投げ捨てて離れれば襲われる可能性はかなり低くなる。また、影に潜んでいる間は、僅かだけどズズズッと這いずるかのような音がするから、実力がある者なら気づく事ができる。
「チッ!思ったよりも多くてビックリしたが、これぐらいなら問題ない――」
「ルドルフ!」
「はっ!」
急に大量の魔物に囲まれた事で、慌て始めたフィーロは灯りを手放さずに立ち尽くしている。そんなフィーロに向かってボーンフィッシュの群れが一斉に襲い掛かり始めた。
「伏せていなさい!“闇に潜むは我が心の獣。《闇の鉤爪》!”」
ルドルフが声を出してレイピアを一閃すると黒い3つの刃が魚の群れに向かって飛んでいく。
フィーロが小さい悲鳴をあげて伏せると先程までフィーロがいた場所を刃が過ぎ去っていき、魚の群れを切り刻んでいく。…私が言うのもなんだけど、ルドルフも結構あの男に対して容赦ないわね。下手したら死んでたわよ?今の。
ともかく、ルドルフの一撃でフィーロに群がろうとしていた多くのボーンフィッシュを撃破することができた。残りは数えられるぐらいだけしかいない。私は、残った敵に目掛けて矢を放ち、確実に倒していった。
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「ラザレス!こっちは大丈夫?」
「おぉ!やっときたか!」
あの後、ボーンフィッシュの群れを倒した私達はそのまま森の中に入っていった。中では多くの負傷者が木にもたれ掛かっている。
「こっちは、結構やばいな。幸い死人はまだ出ていないが、ひとまずここから撤退するしかない。」
「分かったわ。ところで、相手は?」
「骸骨魚や屍喰らい、それと骸骨兵だ。特に予想以上にスケルトンが多い。聖水が欠けている現状では、倒すのに苦労してしまっている。」
「なるほど。なら一度教会に行って負傷者の保護と聖水の補給が必要ね?」
「あぁ、幸い教会が開放されている今、奴らを討伐するは不可能じゃない。来たばっかりで悪いが、あんたらには殿をお願いしたい!」
「わかったわ。」
「承知しました。」
ラザレスは人差し指と親指で輪を作ると口にくわえて甲高い指笛を鳴らす。すると、指笛の音を聞いた戦闘中の冒険者が此方に向かって走ってきた。背後には魔物たちが迫っているが、今回の魔物は足が遅いものばかりで追いつかれる事は無い。
「てめぇら!行くぞ!」
負傷者を肩に貸しながらラザレスが大声を上げる。予め話が伝わっていたのだろう。冒険者達は我先にと教会に向かって走っていく。
「お嬢様、ここは私が。」
「心配要らないわ。聖水は塗ってあるから私も戦える。」
弓を取り出して矢を備えて引き絞る。弦を引く時の音を聞きながら私は狙いを定める。狙いは先頭を進むグールの頭だ。それ以外は当てたところで意味が無い。
「ッ!」
狙いを定めて矢を放つ。放たれた矢は私の狙った場所に一寸狂うことなく突き刺さった。矢が刺さったグールは矢の衝撃で後方に倒れて、そのまま起き上がる事は無かった。その事に満足している時間はなく、すぐに次の矢を構えて次の敵に狙いを定める。
「行きます!」
「俺も行くぜ!」
ルドルフがレイピアを構えながら走り始めると、その後ろをフィーロが付き従う。正直、邪魔だ!と言いたかったけど、あんな人間でも時間稼ぎぐらいはできるでしょうと思い、特に何も言わなかった。
腐った不快な匂いを口から漂わせているグールの顎を、ルドルフは走っていた勢いのまま左足を軸に右足で円を描くように蹴り上げる。
蹴りを食らったグールの歯は簡単に砕け散りながら、空中に浮かび上がったところを、ルドルフのレイピアが喉を貫く。そして、そのまま横に薙ぎ払うかのように投げ捨てる。投げ捨てられたグールは喉元を押さえながら痙攣してしばらくすると動かなくなった。
「フッ!ハッ!」
その後もルドルフは軽く息をはきながら、力を込めて一撃で敵を屠っていく。レイピアに塗ってある聖水の力もあるだろうけど、それ以上に敵の急所を的確に攻めているルドルフは流石ね。
「うおおおお!!」
フィーロが声をあげながら剣を振り下ろす。狙いはボーンフィッシュのようで、淡く青く光る魚の一匹を両断する。だが、周りにはまだまだ沢山の魚達が群がっている。
助けるべきか悩んでいると、
「“火よ。礫と成りて敵を燃やせ。《火の玉》”」
剣を構えて呪文を唱えると、剣先から火の玉が出現した。そして、剣先をある一点に向けると、火の玉が発射される。
放たれた火の玉はグールの一匹に当たり、グールを燃やし始める。その光に引き寄せられるかのようにボーンフィッシュはグールに向かって群がり始めた。
「へっ!所詮、魚なんて俺の敵じゃねぇ!」
フィーロはグールの肉を貪っているボーンフィッシュを一匹ずつ仕留めていっている。
「…使えないと思っていたけど、少しはやるわね。」
フィーロは問題ないと考え、私は敵に視線を戻して再び矢を構えた。その時、
「ッ!お嬢様!スケルトンです!」
ルドルフの声が聞こえたと同時に、森の奥から剣と盾を構えた骸骨兵がやって来た。骸骨魚や屍喰らいとは違い、ワンランク上の魔物だ。決して油断できない。
私は背後を見る。教会に走っていった冒険者達はあらかた遠くまで行っている。ここで、無理して少数で戦う必要ないから、ここは撤退が最善か。
「ルドルフ、フィーロ!撤退するわ!急いで!」
「御意!」
「わかった!」
ルドルフは戦っていたグールを倒すと、すぐさまレイピアを仕舞って此方に走ってくる。フィーロも同じだ。
2人が私の元に来たところで、矢をスケルトン目掛けて放つが、矢は盾によって防がれてしまう。その事に舌打ちしながら急いで、教会に向かって走り始めた。
補足
骸骨魚
:青く淡い光を放つ骨だけの魚。一匹だけで現れる事は無く、群れで行動する。夜中に何処からとも無く、空中から水から出てくるように現れては、獲物に大量の数で噛み付き肉を喰らう。光におびき寄せられる性質を持っている。
一匹一匹は弱いが、大量の群れで現れるため、討伐目安ランクはブロンズ以上となっている。
屍喰らい
:死んだ者の腐った肉を喰らう魔物で、ハイエナの位置的な存在。姿は人間のような形をしているが、目は赤く髪はない。また、性別の特徴も持ち合わせていない事から、発生原因が良く分かっていない。
獣のように四足で移動し、歯は鋭く尖っている。聖水によって正しく埋葬されなかった者の肉を喰らうため、冒険者だけでなく、誰からも嫌われている魔物。討伐目安ランクはブロンズ以上。
骸骨兵
:無念の内に死した戦士の魂が骨に乗り移って動いているとされている魔物。だが実際には上位魔物や悪意ある人間によって無理やり作られる事が多い。
戦士の魂が乗り移っていると言われるだけがあり、戦闘レベルは獣や下位魔物以上となる。生前の記憶が僅かに残っているのか、スケルトン同士でコンビネーションを取る事もあり、複数現れた際は注意が必要。
一撃で大ダメージを与えない限り元に戻ってしまうので倒す事が出来ないのだが、骨だけなので斬撃による与えられるダメージ量は少なく、魔法(一部除いて)もまた効きにくい。しかし、打撃系の攻撃や聖水を使う事で大ダメージを与える事は可能。討伐目安ランクはシルバー以上。




